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桜井静香の奇妙(?)な1日 後編

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桜井静香の奇妙(?)な1日 後編

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「うわあ、すごい光景ですね……」
 パートナーたちと共に空き部屋に足を踏み入れたシャーロット・スターリングは目を見開いた。部屋の中では先ほど入れられた分を合わせて42匹もの猫が所狭しと歩き回り、部屋の中央では如月日奈々が大勢の猫に囲まれて頬を緩ませており、またそのパートナーの冬蔦千百合がそんな日奈々を後ろから抱き締め、これまた頬を緩めている。
「こ、これはまさに触り放題……」
「ですねぇ……」
 メイベルもこの光景には目を見張るばかりである。
 そんな彼女たちに気がついたのか、日奈々はシャーロットを手招きする。この輪の中に入って猫に囲まれないか? 日奈々の光を宿さない目はそう言っており、またそれから逃げる意思などメイベルたちには無かった……。

「すご〜い! もうこんなに集まったんだね!」
「推定40匹ですか。これではさすがにミルクで餌付けは無理そうですね……」
 リーズ・ディライドと小尾田真奈もこの光景に驚くメンバーの1人であった。真奈としては大勢の猫たちにミルクを与えようと用意だけはしてきたのだが、これほど数が多くては、うまく与えることができない。
 ただ単に与えるだけならまだしも、真奈は子猫用に温めた牛乳、成猫用に乳糖を取り除いた温めたミルクと2種類用意してきた。だがこの有様では、たとえ真奈が気をつけていても猫の方が遠慮せずにどちらのミルクにも口をつけてしまうだろう。
「仕方ありません。もふもふさせてもらうだけにしておきましょう……」
 結局真奈は、寄ってきた猫をなでるだけにとどめておいた。
 一方のリーズは逆にこの状態に喜んでいた。何しろ人懐っこい猫である。多少のアクションを起こすだけで我先にと寄ってくるのだ。これを活かさない手は無い。
「ほらほら〜、みんなよっといで〜」
 いつの間に持っていたのか、リーズは猫じゃらしを軽く振る。するとその動きに反応した何匹もの猫が彼女に殺到してきた。
 そこまではよかったのだが、集まってきた猫たちが何をするのかといえば、ある猫は猫じゃらしにパンチを繰り出し、ある猫はリーズの足に体を擦りつけ、またある猫は、
「んにぃぃっ!? す、スカートに爪立てちゃダメだってばぁ〜!」
 リーズの腰から揺れ動く蒼空学園制服のスカートに反応し、爪を引っ掛けるのであった。
「まったく、あんなに暴れたらいつか猫を踏みつけるぞ……。本当に『猫踏んじゃった』など洒落にもならん……」
 部屋の隅にてあぐらをかいて座り込み、仲瀬磁楠はリーズたちの動きを見守っていた。もちろん猫に囲まれて、である。
(まったく、こいつらめ、こちらがいくら睨みつけようとも物怖じせずに寄ってくるとは……)
 普段から無愛想で通っているという自覚のある磁楠は、猫に囲まれるというのをよしとせず、近づいてくる猫を片っ端から睨みつけ遠ざけようとしたのだが、そもそもが飼い猫である以上、多少の脅しに屈するようにはできていなかった。
 しかもある1匹は、まさにこの世も恐れぬ所業に出ていた。あぐらをかいた磁楠の足のところに体を滑り込ませていたのである。
(こいつは確か、さっき木の上から降ろしてやった奴ではないか。本当に物好きな奴め……)
 苦笑いを浮かべる彼に、あぐらの中にいる猫はその顔を見上げる。
「……煮干しでも食うか……?」
 どこから調達してきたのか、磁楠はその猫に煮干しを与えてみることにした。
(ちょ、こ、れ、うぁ……! イカン、腹痛い……! オレを殺す気か! オレを笑い死にさせる気か!?)
 そんな磁楠の様子を、心の中で大爆笑しながら眺めるのは、パートナーの七枷陣である。おそらく彼の頭の中では、広範囲にわたって草が生えていただろう。誰かが芝刈り機でも用意しなければ10レス程度は生やし続けるに違いない。
(これは、珍しいものを見させてもろうたで……)
 あの無愛想で皮肉屋な英霊が、猫に囲まれて苦笑いである。陣としては格好のお笑い材料であった。
 そこで彼はこっそり携帯を操作し、その様子をカメラに収め、知り合い――【S×S×Lab】の友人たちに一斉送信した。もちろん、同じくメンバーである磁楠は除いて、である。
(ブラックメ〜ル♪ 送〜信っと。明日にでも生暖かい目で皆にニヨニヨされろや、クソ英霊!)
 飛ばされたメールは、陣と同じく部屋の中にいるリーズ、真奈、メイベルにも届けられた。
 この後彼らがどうなったかは、彼らにしかわからない……。