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桜井静香の奇妙(?)な1日 後編

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桜井静香の奇妙(?)な1日 後編

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第12章 猫、さらに寄りつく

 真が腰にぶら下げた「仕置きの鞭」による猫じゃらしで8匹の猫を誘導し、彼と静香、そして弓子の3人は廊下へと出た。一旦猫たちを空き部屋に入れるためである。
 その道中にて静香たちは藤井 つばめ(ふじい・つばめ)と出会うこととなった。
「こんにちは校長先生。先日はどうも」
「えっと、つばめさんだったっけ。こんにちは。こないだはお茶菓子、ありがとうございました」
 2日前は百合園女学院にバイト先から茶菓子を持ってきた縁で静香や弓子と知り合い、今日は猫探しの依頼つながりで、こうして再び出会えたというわけである。
 つばめもまた猫好きの性格をしており、少々の用意をしてこの捕獲依頼に臨んだのであった。
「ただ、猫がいすぎてパニックになってるのかと思ったんですが、意外とそうでもないようですね」
「もうすでにいくらかは空き部屋に入れられてるからね。僕らも今からまたそこに行くつもりだし」
「なるほど。……あ、それで8匹も猫を引き連れているというわけですか」
 近くから聞こえる鳴き声の方に目をやると、真や弓子の足元で猫たちが体を擦り付けていたりしていた。
「鞭を利用した猫じゃらし、ですか……。いい手ではありますけど、もっといい手があったりします。試させてもらえませんか?」
「ん、どんな手があるの?」
 猫じゃらしで猫を誘導している真が興味を持つ。
 するとつばめは背負っていたリュックサックの中から、何やら大型の実を取り出した。
「ん? つばめさん、それは?」
「猫が好きそうなものといえば、やっぱりマタタビでしょう? ペットショップには地球でもよく見られる小粒のマタタビが置かれてあったりしますけど、たまたま『パラミタマタタビ』が手に入りましてね。それで持ってきました。というわけで、はい」
 つばめが取り出した「パラミタマタタビ」は、手の中に収まる程度の通常のマタタビとは違い、例えるならラグビーボール並みの大きさをしていた。そしてその「威力」も比例して大きくなるわけである。
 その高威力のマタタビを彼女は静香と弓子にそれぞれ手渡した。
 すると足元にいた8匹の猫たち、及びまたどこかに隠れていたのか、別の所からさらに追加で4匹の猫が殺到してきた。
「ち、ちょっとこの状況って、また!?」
「猫殺到、2度目って、全然進歩無いですね私たち!?」
 幸いにして粉末を全身に振りかけられたわけではないため、飛びかかられる恐れは無かったが、それでも2人、そして同じくマタタビを持っていたツバメの足元に猫が集中する。
(本当ならマタタビの香水でも用意しようと思いましたけど、さすがにありませんでしたしね……)
 つばめとしては、マタタビの匂いのする香水を2人に振り、猫が殺到するカオスを演出しようと思っていたのだが、そもそもそのような香水が無ければ無意味である。ついでにいえば、猫は香水の類を嫌う性質があったりするのだが。
「うわ、これは動きにくい……。さっきと違って動きにくさが段違いだよ……」
「ちょっとずつ足を動かしていくしかなさそうですね。あ、こら、足にまとわりつかないの」
 だがこの場で全く影響を受けていなかった人間がいた。椎名真である。
「だったらさ、俺が少し先に行って待つから、その時にマタタビを投げてよこしてくれないかな? そうしたら俺の方に猫が集まって、他の人が動けるようになると思うんだけど」
 全員が目を見開いた。なるほど、その手があったか。
 だがそれをやるには少々人数が足りないので、真は先ほど分かれた美羽たちを呼び戻すことになった。

「よし、それじゃ誰かパスして」
 先行した真が両手を広げて構える。そこに弓子がマタタビを放り投げた。
「では私が行きますね。はい」
「よし。……おっと、思った通りだ。猫がこっちに来る」
 次に向かったのは美羽である。彼女はパスの相手に静香を指名した。
「よーし、次は私ね。静香、パス」
「はい、美羽さん!」
 残ったつばめがパスの相手を探す。
「えっと、それじゃ僕は誰に投げましょうか」
「だったらオレに投げてくれ。多少暴投してもキャッチしてやるからよ」
 キャッチを宣言したのは、リタイアからすぐに立ち直った総司だった。やることも一通り終えたので、今は完全真面目モードである。
「では、どうぞ」
「よしッ、『ナインライブス』、マタタビをキャッチしろ!」
 少々高く上がってしまったが、総司はフラワシを駆使してそれを捕まえた。
「じゃ、次は……ベアトリーチェさん、お願い」
「はい、了解です」
 真からベアトリーチェにマタタビがパスされ、その動きに合わせて猫がぞろぞろと向かっていく。
「いい感じね! それじゃ、弓子!」
「どうぞ!」
 美羽のマタタビは弓子の両手へとすっぽり収まる。
「次はオレか……。よし、静香さん、頼むぜ」
「はい! ……あっ」
 総司から投げられたマタタビを静香は受け取ろうとするが、コースが外れてしまいフォローに回ったつばめがそれを受け取る。
「悪い悪い、次はしっかりやるからよ。つばめさんよ、サンキューな」
「いえ、問題ありません」

 こうしてマタタビをリレーしつつ、合計12匹の猫を誘導して、時間をかけながら静香たちは空き部屋へと足を進めた。
 この時点で、部屋の猫は54匹となる……。