リアクション
ギロンゾの元へ理子は向かった。
拘束されてから、動けないとは言え罵声1つ吐かない。ただ真っ直ぐに視線を宙に向けているだけだった。
「――随分と大人しいのね」
「お前らみてえなハチャメチャなのに囲まれちゃあ、勝ち目はねえからな。俺は自分の力を過信はしないって決めてんだ」
「……そう」
どこか晴れやかさすら見える口ぶりだった。理子はしゃがみこみ、正面からギロンゾの顔を見た。
「はやく皆が笑って暮らせるように――って、思ってはいるんだけどね。ごめん。あたし、あんた達ばっかりを責められないよね」
「理子様!」
「ランディ、あんた何回言えば……今は“理子っち”だってば。帰るまでがお忍びだよ」
「は、はあ……すいません」
立ち上がった理子は呼びに来たフェンリルを嗜めた。
何を言っているのかと眉を顰めていたギロンゾは、愕然と目を見開く。
「お前――まさか、本当に……」
理子は何も言わず困ったような泣き出しそうな、でもどこか自信に溢れた笑みを浮かべ――ギロンゾがハッと我に返った時には、その背中は随分はなれた場所を歩いていた。
***
「それにしても、結構溜め込んでたわねー、あいつら」
ライル達を見送り、皆と別れを惜しみつつ理子とフェンリルは閑散とした砦を後にした。
依頼に参加したシャンバラ教導団の面々がデータと照合し、届出が出ている品は回収、正規の持ち主へ返す事になったのだ。その中には美術品など、素人が下手に触らないほうが良いものもいくつかあった。知恵子やマリィが持ち出そうとした金品はしっかり外で待機していた隆光が確保していた。
契約者の面々からも概ね異論は無いようだった。報酬として盗品をもらっても……という事である。持ち主が分からないものやお金は分配した。報酬は雀の涙ほどになってしまったけれど。帝が「ちえこは孤児院に寄付しようと思っただけだ!」と暴露し、真っ赤になった知恵子に殴られていた。顔を見合わせた契約者達の行動は――ご想像に任せたい。
「ライルたちの笑顔も見られたし、良かったわよね」
「そうですね」
荒野の風を頬に受けながら、理子はランディと、それから自分自身へ問いかけた。
「そういえばランディ、あのゲドーって奴はどうしたの」
理子が蛮族側に拘束されたとき、フェンリルは真っ先に剣を引き抜こうとした。
ゲドーに足止めされていたのではなかったのか。
「……負けてきました」
「え? 負けたの?」
予想外の答えに理子は目を丸くした。
「嫌な予感がしたので、お前の勝ちで良いからと言って……そうしたら理子様は人質にされているし」
その場面を思い返して、フェンリルは胃を痛めたような顔をした。
「あはは、ごめんごめん」
「もう少し自覚を持って行動して頂かないとですね――」
「わかったわかった! 次からは気をつけるってば!」
「次って何ですか、次って。これっきりじゃ無いんですか!?」
「あら? あたし、そんなこと言ったかしら?」
「理子様!」
「あーあー聞こえない聞こえない」
長々と続きそうなお説教に、理子は耳をふさいだ。
強い風が吹き、誘われるように空を見上げる。足を踏み入れたばかりの時は広がる惨状に顔を曇らせてばかりだった。でもここから見る空だって青く深く、この荒れた地でも花を咲かせようと根を張る草花があるのだ。
まだ問題は山積している。
自分のやり方が本当に正しいのか、それはまだ分からない。だったら答えを探しに行けば良いのだ。自分の中でぐるぐる悩むなら行動するほうが性に合っている。
最後のライル達の笑顔を思い出し、理子は大きく伸びをした。
「さて、次の世直し行きますか!」
初めまして、とおると申します。
『【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!』いかがでしたでしょうか。
“お忍び”という事で今回はこのような感じに。ババーン!とベタな水戸黄門的展開のほうがスカッと気持ち良いのですが……こういうのもアリ、かなあと。
初めての執筆で不安もあったのですが、皆さんのリアクションがとても面白く、「ここでこう来るのか!」「なるほど!」と唸るものばかりで、リアクションを読んでいるだけでとても楽しかったです。楽しく執筆させて頂きました。
参加していただいた皆様に、少しでも楽しんでいただけたのならこれ以上の事はありません。
またお会いできる機会があったら嬉しいです。