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狙われた少年

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狙われた少年

リアクション

   十三

「悪いけど、この「さざれ石の短刀」で、死んでもらりゃ――しらかんらぁ(舌噛んだ)……」
 刺した生物を医師に変える恐るべき短刀を持つのは、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)だ。
 持っている武器は恐ろしいが、本人はそれほどでもない。
「それなら手前も持っておりますが」
 同じ短刀を狐樹廊に出され、ミーナはげっ、となる。
「やめませんか。おそらく貴殿では、手前たちには勝てませぬよ」
「そ、そうはいかないんだもん!」
「あなた、何か理由があるわけ?」
 リカインに声をかけられ、ミーナは「はうわっ!」と奇声を発した。
「と、とても美しい人です……。で、でも、ミーナは負けません! ミーナが好きなのは可愛い女の子だからです!」
「……この子、何言ってるか分かる?」
 狐樹廊はさあ? と首を傾げた。
「いきますよ!」
 ミーナは【破邪の刃】を使った。聖なる光がリカインと狐樹廊を撃つ。
 狐樹廊は咄嗟に光のヴェールでリカイン共々身を守ったが、勢いには勝てず、木の幹に叩きつけられてしまった。
「いったぁ……! もう! 怒ったわよ!」
 リカインは高らかに歌い出した。それは言葉にならぬ音であった。高く、ひたすら高く、十六キロヘルツはあるだろう。
「アダダダダ!」
 ミーナは耳を押さえてのた打ち回った。ミーナの傍の忍者たちも動けなくなっている。
「狐樹廊! 今よ!」
 リカインが振り返ると、狐樹廊もまた耳を押さえてしゃがみ込んでいた。
「……しっかりしなさい! ほら!」
 リカインの【激励】により、半ば無理矢理に立ち上がった狐樹廊は、「焔のフラワシ」を召喚した。
「アチチ! アチチ!」
 尻に火がついて、ミーナはその場をぐるぐる走り回った。忍者たちは炎を避けるべく、下がっていく。
「降参しなさい。そうしたら、消してあげましょう」
「で、出来ない! ミーナは、ミーナはボインになるんだから!」
「……は?」
 狐樹廊とリカインは顔を見合わせた。この少女は何を言っているのだ?
「『ハイパーボインDX』を何がなんでも買うの! ボインになるの! これはそのバイトなの!」
「……私、さっきの【咆哮】で頭か耳をやられたかしら?」
「手前も同じようです」
「あのねえ」
 リカインは走り回り続けるミーナに言った。
「それ、この前ネットニュースで見たけど、インチキよ」
「えええ!?」
「そんなの使っても、胸なんか、大きくならないから!」
 ミーナは呆然と立ち尽くした。その間に火は尻から背中へ移動し――、
「アッツイ!!」
 遂に逃げ出したミーナは、葦原明倫館の池へ尻からダイブして助かった。めでたしめでたし。


 エヴァルトは戸惑っていた。忍者集団の中から現れた辿楼院 刹那は、どう見ても少女どころか女の子という年齢で、女性に優しくをモットーとしているエヴァルトには困る相手であった。何と言っても、触れることすらしたくない。
 だが――、
「敵となれば止むを得ないな」
 バンダナを締め直し、爪先で地面を叩きながらレガースが外れないことを確認すると、右の拳を前に半身を開いた。
「フン、ガキがいっぱしに悪党ぶりおって。わしが教育的指導というやつをしてやろう」
 顎鬚を撫でながら義仲は笑った。が、傍らの老女がするすると前に出たのを見て、青ざめた。
「おまえは後ろにおれ!」
 刹那と対照的な鞆絵は、齢六十六のおばあちゃん。普段は蒼空学園で非常勤の用務員をしている。しかし、【ヒロイックアサルト】を使用した途端、見る見る内に若返っていく。背も伸び、肉付きも良くなり、白髪は波打つ緑の黒髪へと変貌する。
 薙刀を構えたその姿は、紛れもなくかつての巴御前――義仲が愛したかの女性であった。
 エヴァルトはその変貌に驚き、義仲は一瞬呆気に取られた後、にやりと笑った。
「ふ、ふふ。それでこそ、我が最高の“ぱーとなー”というやつよ」
 義仲は思わず笑みを零した。
 刹那はその間、じっと三人を観察していた。そして突如、【鬼眼】を使用した。エヴァルトたちは硬直した。【先制攻撃】で素早くリターニングダガーを投げる。エヴァルトはそれを【後の先】で回避した。ダガーはぐるりと弧を描き、刹那の手元へ戻っていった。
 鞆絵が薙刀を手に、刹那に切りかかる。だが刹那は【隠れ身】で姿を素早く消した。
 そして忍者たちが鞆絵に襲い掛かる。【ナラカの闘技】を使った義仲が忍者を蹴散らすと、ダガーがどこからともなく飛んできた。
 エヴァルトがそれを蹴り返し、【アルティマ・トゥーレ】を使おうとした瞬間、また別の忍者が彼の背後に回り、それを鞆絵が押し返した。
 三人は背中合わせに固まった。
「いかん。あの小娘、なかなかやるぞ」
「己は姿を消して、次から次へ攻撃を繰り出すとは……」
「それならそれで、戦う方法はある」
 エヴァルトは簡単に作戦を囁いた。面白い、と義仲は笑い、鞆絵も頷いた。
 三度ダガーが飛んできた。エヴァルトは【龍鱗化】で強化した両の拳を合わせ、それで叩き返した。
 戻っていくダガーを鞆絵が追う。忍者が襲ってくるのを、義仲が前に出て【ガードライン】を使用し、庇った。鞆絵は一切、後ろを振り返らなかった。そして、ダガーが消えた 方向へ向け、【火術】を放った。
 一直線に向かう炎は、木を一本燃え上がらせた。
 その火が消えるには長い時間を要した。
 そして――刹那と忍者たちの姿は、その間に消えていたのだった。