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狙われた少年

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狙われた少年

リアクション

   十五

 レン・オズワルドとザミエル・カスパールに守られ、ヒナタは自分たちの住まいである長屋に辿り着いた。
 長屋の入り口でセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)棗 絃弥(なつめ・げんや)マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)が待っていた。
 レンはヒナタを四人から庇うように立った。ザミエルは機晶スナイパーライフルを取り出し、いつでも撃てるよう構える。
「怪しい者じゃないわ。教導団のシャーレットよ」
とセレンは名乗った。それは軍服で分かったが、その下にビキニの水着らしきものが見え、レンはますます疑わしげな目で彼女を見た。
「俺は明倫館の棗だ。あんたが当麻の母親かい? 俺はいっちーに頼まれて来たんだ」
「いっちー?」
とセレアナ。
「明倫館の丹羽匡壱だ。聞いたことあるだろ?」
「いっちーって言うんだ……」
「自分は蒼空学園のウォーバーグだ。あなたを保護に来た」
 レンは四人をじっと眺めていたが、やがて、
「……いいだろう。彼女は家に用事があるらしい。俺たち二人で守るから、おまえたちはその周りを警護してくれ」
「ちょっとあんた、あたしたちが信じられないってわけ?」
 セレンがムッとしたのを、
「仕方がないわ、セレン。彼には私たちを信頼する要素がどこにもないんだから」
とセレアナが宥めた。
 フッ、とレンは小さく笑った。
「そちらのお嬢さんは、よく分かっているようだ」
「褒めてくださってありがとう。でもお嬢さんじゃないわ。セレアナよ」
 レンとセレアナが妙に気が合っているようなので、セレンはますます面白くない。
「家に用事って、何があるんだ?」
と、絃弥。
「どうしても取ってこなければならない物があるんです」
 ヒナタは青ざめたままの顔で答えた。「どうしても」
「そこまで言うなら仕方ないが、早くしようぜ。で、とっとと当麻のところへ行こうぜ」
 当麻の名が出た途端、ハッとヒナタは顔を上げた。不安を隠しきれぬ様子である。
「当麻は大丈夫だ。仲間が守っている。だけど、子供と親が長く離れるのは感心しないな」
 絃弥には、親のない子の気持ちがよく分かった。当麻をそんな立場にさせたくない。何が何でも。そう、思っていた。ヒナタが嫌がるようなら、無理矢理にでも連れて行くつもりだった。
「あそこです」
と、ヒナタが長屋の一室を指差して駆け出した。レンとセレン、絃弥がついていく。
「先程からちょっと気になっているんだが」
 ぽつりとマクスウェルが言った。
「なぜ、この長屋に誰もいないんだ?」
「何だって?」
 ザミエルは片眉を上げた。
「自分がここに着いたのは三十分前だった。セレアナは?」
「それよりちょっと前よ。家を訪ねたけど誰もいなくて、どうしようと思っている内にあなたと棗が来たから、話をして、それで」
「少し待っていようとなって、あんたたちが来た」
と、マクスはザミエルを見た。ザミエルはまずい、と呟いた。それに対するセレアナの反応は速かった。
「セレン!!」


 ヒナタは我が家へ入ると、真っ直ぐ台所から大きめの壺を取り出した。蓋を開けると、ぷんと臭う。どうやら糠床らしい。その中へヒナタが無造作に手を突っ込むのを見て、うえ、とセレンは顔を歪めた。絃弥はうんうん、と頷いている。
「おふくろの味だな」
 ところがその糠床からヒナタが取り出したのは、細長い油紙の包みだった。
「それは何だ?」
とレンが尋ねた。
 ヒナタは手についた糠を払い落としながら、油紙を剥ぎ取った。中から現れたのは、豪華な刺繍の施された刀袋だった。大きさからして、短刀だろう。
 ヒナタはホッとした。――と、短刀に紐のような物が巻きつき、その手から奪い去った。
「ああ!」
 紐――鞭が戻った先には、九十九 雷火がいた。
「雷火殿!」
「久しいな、ヒナタ殿」
「それを返してください!」
「九十九さん、それは――」
 傍らにいた幸祐が戸惑いつつ尋ねた。
「甲斐家の守り刀だ。此度の騒動の火種と言ってもよい。これさえ手に入れれば――」
「そいつを返せ」
「赫奕たるカーマイン」を雷火に突きつけ、レンは言い放った。
「断る」
 雷火はきっぱりと告げた。
「だったら力ずくで!」
 セレンがアサルトカービンの引き金を引いた。雷火と幸祐は裏から飛び出した。一軒の庭は猫の額ほどだが、五軒分が塀もなくぶち抜きなのでそれなりに広い。ただ一箇所細長い松の木があって、そのせいで狭く見える。
 そこに、伏見 明子が待っていた。――否、パートナーの水蛭子 無縁(ひるこ・むえん)に憑依され、両手に「妖刀金色夜叉」を握り、魔鎧「伍式」を装着した姿に明子の面影はない。
「誰だ」
「何者かと問われれば、それがし、無縁の辻斬りに候。諏訪家家中、九十九雷火殿とお見受けする。何、アシハラの名家の手際というのを一度見てみたくての。一手、御指南願いたい」
 にたぁりと明子(中身は無縁)は笑う。
 雷火と幸祐の後をレンとセレンが追ってきた。絃弥はヒナタの体を抱え、表へ飛び出す。
「守り刀を!」
と叫ぶヒナタに、「今は自分のことだけ考えろ!」と絃弥は怒鳴った。
 更にセレアナ、マクスウェルが庭の両側に回って、雷火と幸祐は逃げ場を失った。