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リアクション
●第2章 見つけよう、作ろう
春の陽気に誘われて、花も綺麗だと聞き、三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)は1人、公園まで散歩に来ていた。
雑貨を扱う屋台が並ぶ通りにて、のぞみはふと足を止めた。
気になった視線の先には、可愛らしい青薔薇のブローチが、他の花のブローチに紛れて並んでいる。
(何か……絶対、手を出しちゃいけないと思う。絶対に)
他の花のブローチも可愛らしいのに、何故、それだけに目が留まったのかが分からず首を傾げながらも、本能的にそう感じ取ったのぞみは、その店先を覗きはするものの、手を出すことはしない。
一通り眺めた後、店先を離れたのぞみは、手を左胸元に当てた。
そこには、いつの間にか青薔薇の形をした痣が出来ている。
(これ、何なんだろう。気になるけど考えたくない)
その痣の意味を知ることを頭のどこかで拒否してしまう。
(でも、考えなきゃ駄目なのかなぁ……)
拒否してしまう思いを抑えて、いつかは痣の意味を知らなければならないのだろう。
(けど、もう少しだけ……)
考えることを先延ばしにしたいと願う。
のぞみは再び、雑貨の屋台へと足を向けた。
そんな様子ののぞみを離れたところから、彼女にばれないようにとこっそり彼女の姿を窺うロビン・ジジュ(ろびん・じじゅ)の姿があった。
幸いなことに、思い悩んでいる様子ののぞみは、彼のことに気付いていない。
雑貨の屋台を巡る彼女が、ふと足を止めた屋台までやってきたロビンは、店先に並べられたいろいろな花のブローチを前に悩んでいた。
「さて、どれだったんでしょうね」
この店先にて、足を止めたのは分かっているのだけれど、彼女が何に目を奪われていたのかまでは分からなかった。
気に入ったものがあるなら購入し、贈りたい。
そう思うのだが、どれが気に入ったのか分からないロビンは、どうしたものかと店先で困り果てていた。
「わあ、アディ、すごく綺麗!」
公園を訪れるなり、広がる景色に、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は声を上げた。
「そうですわね。綺麗ですわ」
彼女のパートナー、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)も頷いて、辺りを見回す。
花の展示はそこそこに、花模様や造花をあしらった雑貨を見て回ったり、花で出来た菓子を食べ歩いたり、と2人は花祭りを楽しんだ。
(今度のマジケットでやるコスプレは花妖精にしようかな?)
様々な花を目にして、さゆみがそんなことを思っていると不意に袖を引かれた。
振り返ると、袖を引いた主は、アデリーヌだ。
「あそこで花のアクセサリー作ってるけど……一緒にどう?」
作成コーナーを見つけた彼女が、そのコーナーを指差しながら訊ねてくる。
「もちろん」
面白そうだと、さゆみはアデリーヌの誘いに乗った。
さゆみはアデリーヌに似合いそうな花を探し、それを基にして、花冠を作る。
元々コスプレ衣装を作っているため、手際は良く、早々に花冠を作り上げ、余った花を使って髪飾りとしても使えるようなコサージュも作った。
一方、アデリーヌは、ネックレスを作ろうと、数あるペンダントトップの中から、さゆみに似合いそうな花を探した。
(昔に亡くした恋人も……花が好きだった。無邪気な子。さゆみのような……)
漸くさゆみに似合いそうな花のトップを見つけたアデリーヌは早速、ネックレスの金具へとトップの方の金具を取り付け始めた。
思い出した恋人のことに、心が張り裂けそうになるのを抑えながら、さゆみのことを思う。
彼女の無邪気さを愛しく想い、惹かれ、愛している自分が居ると、自覚はしている。
けれど、彼女を大切に思うからこそ、そのことを口に出来ずにいる。
(もう失いたくないの……大切なあなたを……)
言の葉に乗せることの出来ない思いをネックレスへと込めながら、1つ1つの行程を丁寧に作っていく。
互いの品が出来上がると、それらを同時に見せ合った。
「どうかな?」
花冠を見せた後、コサージュをアデリーヌの髪へと合わせながら、微笑むと、彼女の瞳に涙が浮かんでいた。
「ど、どうしたの?」
それに気付いたさゆみは、動揺を隠せず、声を上げる。
「いえ、その……嬉しくて……」
「もう、大袈裟なんだから、アディは」
アデリーヌの返答に、安堵を見せたさゆみは、合わせかけていたコサージュを彼女の髪へと付けた。
(忙しそうだかならな……)
想いを寄せる相手を誘うことが出来ず、1人、花祭りへと足を運んだのは、音井 博季(おとい・ひろき)だ。
共に過ごすことが出来ないのは残念だが、土産を用意して帰ろうと、早速、雑貨の屋台の並ぶ通りを訪れた。
(リンネさんの誕生日は7月26日だから……)
誕生花を探す者も多いのだろう。屋台のところどころに、それらを紹介するパネルが飾ってあり、その中から博季は日付を探し当て、花を確認した。
「ピンクのブーゲンビリアが花言葉的にもしっくり来るかな」
ぽつりと呟きつつ、花言葉を改めて確認する。
ピンクのブーゲンビリアの花言葉は『情熱、魅力いっぱい』だ。
「……こ、これ面と向かって言うの凄く恥ずかしいな」
贈るのはいいかもしれないけれど、花言葉を訊かれたときに答えるときを思うと躊躇ってしまう。
(あ、ハルシャギクも良い……。『常に快活、陽気』……これリンネさんにぴったり)
彼女のことを思い出して、思わず笑みが零れてしまう。
さらに視線を下に送ると『一目惚れ』という言葉もあることが書かれている。
「……これ、僕がリンネさんに対してお贈りするのにもぴったりじゃないか」
思い出したのは、彼女を初めて見かけたときのことだ。
その瞬間、博季は彼女のことを好きになっていた――まさに一目惚れだ。
(……来てよかった。リンネさんのことが、凄く、凄く大好きだって再確認できたから)
そう思いながら、雑貨の屋台の奥、作成コーナーにて、ハルシャギクを探すとそれを用いて花冠を作り始めた。
日は長い。作り上げたら他のものにも挑戦しようと思いながら、行程の1つ1つに思いを込めて、作業を進めるのであった。
七尾 正光(ななお・まさみつ)と腕を組み、嬉しそうな様子で公園までやって来たのはアリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)だ。
「おにーちゃん、あっちで何か作れるみたい!」
屋台の並ぶ通りを抜けて、作成コーナーの幟を見つけたアリアは、指差して声を上げた。
「そうみたいだな、行ってみるか」
正光は頷いて、コーナーへと足を向けた。
「花冠にブーケ、ネックレス……いろいろ作れるんだね」
「どれも子どもでも作れるように簡単なんだな」
それぞれの作成手順を見て、2人はネックレスを作ることを決めると、早速、ペンダントトップを選び始めた。
「ここはベーシックにチューリップで」
一通り眺めはするけれど、元より決めていたように正光は迷わず、チューリップ型のトップを手にした。
「私もチューリップで」
(ペアルックになるけど、その方がいいよね)
そう思いながらアリアも正光と同じチューリップ型のトップを手に取る。
トップとネックレスの鎖を手に作業机に向かうと、2人はそれぞれ金具を止め始めた。
手早く作業を済ませたアリアが隣の正光の様子を見ると、少しばかり不器用な彼はまだ作業中であった。
彼女の視線に気付いた正光は早く済ませようと作業を急ぐけれど、焦ると余計に手が滑ってしまう。
「ゆっくり作ってね」
「ああ、そうさせてもらう」
そう告げて微笑んで、見守る姿勢を見せるアリアの優しさに、正光は頷いて、自分のペースで作業を続けた。
「出来たぜ」
暫くして、出来上がったネックレスを手に、正光が声を上げる。
そして、そのネックレスをアリアの首へと掛けた。
「ありがとー、おにいちゃん」
嬉しさに、正光へと笑顔を向けた彼女は、自身の作成したネックレスを正光の首へと掛ける。
「いい思い出になるな」
掛けられたネックレスのトップに触れた後、正光はアリアへと笑顔を向けて、そう告げる。
「うん」
アリアも頷いて、一層、微笑んだ。
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