First Previous |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
Next Last
リアクション
天御柱学院の中庭、そこで桐生 理知(きりゅう・りち)がそわそわと落ち着きなく誰かを待っていた。
その仕草はまさに、恋する乙女そのものである。
理知の姿を見つけて近づいていく影が一つ、辻永 翔(つじなが・しょう)が普段通りのペースで歩いている。
「理知」
「ふえっ!? しょ、翔君!! こ、こんにちは!」
「あぁ、こんにちは。 待たせてすまない、それじゃあ食べるとするか」
「う、うん……」
知り合いのため、気軽に声を掛ける翔に対して理知は上ずった声を思わずあげてしまう。
しかし翔はまるで気にすることなく。理知が座っていたベンチに腰掛けて昼食を食べ始める。
遅れながら、理知も食べ始めるが若干翔と距離を縮めるように座っていた。
傍から見れば完全に翔に惚れこんでいる理知だが、当の翔にはそんな恥らいがまるでない。
どうやら彼女の片思いらしく、理知は自分の中で一人どうしたものかと考え込んでいた。
「(どうしよう、何か話さなくちゃ……。 そうだ、好き嫌いの話……でも翔君のお弁当凄いバランス良く献立がされている、これはさすがに……。 好きなタイプ……、いやいやそれはさすがに不味い。 まだ始まったばかりだよ!? ドン引き間違いなしだし! でもでもそれじゃあ〜……)」
「(何だ、理知の奴。 顔真っ赤にしながら考え事か? それとも何か激辛のおかずで悶えているのか?)」
自分の中で一杯一杯になっていく理知を翔は不審に思う。
だがそこは理知の問題と、心情を察して尋ねずに黙々と食事を取っていく翔。
理知は理知で、何を聞いたらいいのか分からないまま時間が刻々と過ぎていくのであった。
結局、理知は昼休み終了まで翔に話しかけることができず、一人涙を飲むことになるのであった。
蒼空学園食堂、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が昼食を持ってパートナー達を探していた。
きょろきょろと目を追っていくと、とある一角のテーブルにいる女子3人を見つけて近づく。
常闇 夜月(とこやみ・よづき)、鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)、医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)の3人に近づき、空いていた夜月の隣に座る。
3人は弁当持参の、可愛らしいおかずで構成されている。
貴仁の到着、そして彼が頼んだ食事を見て白羽は思い切り嫌な顔をした。
「貴仁、皆で食べるのにカレーうどんはないんじゃない?」
「むっ、良いではないですか。 食べたかったから食べたいんです。 それでは、頂きます」
「ってうわっ!? 言っているそばから汁を飛び散らすな!!」
「貴仁さま、お待ちください! あぁ、隣の席の方に……あぁ!? 後ろの席の方にも……あぁ!? どうして3メートル先の方にも飛び散って!!」
「ちょっと貴仁いい加減にしなさい……、げぇっ!? ワイシャツに染みが!?」
「うるさいのぉ、もう少し静かに食べることは出来んのか?」
食べ方が下手なようで、見事なまでにカレーうどんの汁を辺りに飛ばしまくる。
四方の近辺はゆうに及ばず、どう考えても飛ぶことのない距離まで飛んで、男子学生の頭に飛沫させてしまうのだった。
夜月は周りに謝罪することに追われ、白羽は注意をするが逆に自分の服にも被害が飛んできて腹を立てる。
そんな騒ぎを関係ないと言わんばかりに、じっと見つめる房内。
この日、貴仁には絶対にカレーうどんを食べさせてはいけないなと思う夜月と白羽だった。
「ごちそうさま、さて……」
「最後は、デザートじゃ」
「デザート?」
「そう、この……わ・ら・わ、じゃ!!」
「いい加減にしなさい」
「何だか騒がしいわね、何かあったのかしら?」
「全く、食事時に騒ぎを起こすなどマナー違反にも程がありますわ」
「騒ぎと言うより、暴動に近いんじゃないのかあれは」
貴仁達の動きを10メートル以上離れた位置で見ていたシズルにレティーシア、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の3人。
女子二人は相も変わらず食堂のランチを注文、エヴァルトは手作りの弁当を持って食事していた。
「ところで、そのお弁当。 あなたが作ったの?」
「あぁ、妹分に料理を教わってな。 試しに拵えてみた」
「中々見栄えは良いですわね、ですが味がしっかりとしていなければ意味はありませんわよ?」
「あなたが言う? それを」
「失礼な!! 今回はちゃんと成功したから持っていこうとしたのにあなたが……!!」
「だからまともに成功するまでまだ時間はかかるって。 お願いだからまずは基本的なことを勉強してから……」
「不要ですわ、私に出来ぬことなどありませんの事よ!」
弁当の話題をシズルはエヴァルトに振る。
彼の作った弁当は作り慣れていないのか、若干形こそは歪なもののレティーシアの作る者よりかはまともだとシズルは思う。
当のレティーシアは自分の事は棚に上げておいて、エヴァルトの弁当に辛口コメントを放つ。
当然シズルが黙っていることはなく、そっと苦言を漏らすがレティーシアは自身のことについては認めたくないようで、反論するばかりだった。
「まぁまぁ、味については未知数なのだろう? 見た目が悪いだけで、ひょっとしたら味は最高かもしれないぞ?」
「そうですわ! 今は見た目が悪くても、味については問題ないですわ!!」
「じゃあ今日作ろうとしていた卵焼きに大量の味噌を練り込んでいたのはなぜ?」
「甘味の中に塩気を練り込むことで、味にキレができると聞きましたの。 ですから、ここは個性を出して……」
「とりあえず、今のレティーシアの料理は味、見た目共に兵器決定ね」
今朝作った卵焼きの無残さを思い出すシズル。
さすがにそれを聞いたエヴァルトも苦笑を浮かべるしかなかった。
レティーシアはシズルに対して猛攻の勢いで攻撃するのだった。
「あ、やっと見つけた。 クロちゃん〜」
良家のお嬢様に対する呼びかけとは思えない声がレティーシアの耳に聞こえる。
見れば手を力一杯振りながら小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が彼女たちに駆け寄った。
「何ですの美羽さん? それから、あまりその呼び方を大声で……」
「ちょっと来て、用事があるの」
「え? お、お待ちなさい! 手を引っ張らないでください!!」
「良いから来て来て、昼休み終わっちゃうから!」
突然現れた美羽に言葉を交わす暇もなく、レティーシアは彼女に連れて行かれてしまう。
しばし呆然としていた二人だが、まぁ何ともないだろうと勝手に決め込んで食事を再開するのであった。
食堂の外、とある一角では何故か生徒たちが声をざわざわと立てている。
見るとそこには強大なオブジェ、もといデーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)と合身戦車 ローランダー(がっしんせんしゃ・ろーらんだー)がじっと待機していた。
「しかし、食堂というものは大混雑しているのだな。 足の踏み場さえ惜しいぞ」
「全くであります。 これでは自分は身動きとれないのであります」
巨大な体をしている二人にはこの混雑からすれば障害そのものになるだろう。
しかし彼らはこの日、届け物をするために訪れていたのだ。
パートナーのエヴァルトが何とも見事に作った弁当を忘れるという奇跡を起こしたので二人は届けに来たのだ。
無事届けられたところまでは良い、しかし彼の傍にいようとすれば間違いなく迷惑がかかること間違いなしである。
ドラゴニュートと戦車型機晶姫、どう考えても他の生徒たちからすれば困るどころの問題ではなかった。
「無事に席に座れたのであろうか? ああ見えて抜けているところがあるからな」
「大丈夫であります、いざという時は自分の体をテーブル代わりにすればいいであります。 利用しなくても、傍にいればマスコット替わり、何とも利便性に優れているでありませんか!!」
ローランダーの天然発言に否定どころか、突っ込みさえ入れないデーゲンはそれもありかと考えていた。
こんな混雑した場所で戦車を置いておけばマスコット替わりに早変わり、というのはないということに気づかない二人であった。
First Previous |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
Next Last