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暗がりに響く嘆き声

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暗がりに響く嘆き声
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暗がりに響く嘆き声

 ザミエルの【機晶爆弾】が壁に穴を穿った。
 レンがニコを説得してくれたおかげで、難なく先に進める事になった。
 しかし、この先が本当の難関だろう。

 壁の中から現れた階段を下りていく。地下に続く階段。
 暫くすると、非常灯の点いている広い部屋に出た。ここは研究所とは別に電気が通っているようだ。
 部屋は中央に道。その両脇をズラリとカプセルが並ぶ。カプセルの中には人。
「夏野……これって」
「うん、実験台されていた強化人間たちじゃないかな」
 カルシェに夏野は頷いた。
「生きているの?」
 リーラの疑問。それにはニコが答えた。
「うんうん、ここにあるのは魂抜け殻。彼女を除いてね……」
 ニコが奥にある唯一正常に起動しているカプセルを指差す。
 カプセルにはこう明記してあった。
 
《被験体NO.00031》

 そのカプセルへ皆が近づくと、カプセルから被験体α、アリサの姿が現れた。
いや、それはアリサの創りだした幻影だ。カプセルは閉ざされ、彼女の体は中に横たわっている。
 先頭を切って、レンがアリサに話しかける。
「お前が、アリサ アレンスキーか?」
 確認のための問いだった。単純な問いだ。
 彼女はレンの問いに答えた。
「「あ? なにいってんだクソ野郎。 だれがアリサだって?」」
 口の悪い否定解答が皆の頭に直接帰ってきた。眉を顰め、レンはもう一度問う。
「お前は、アリサじゃないのか?」
「「アリサってのはここに寝ている、弱虫のことだろう? 体と頭を弄り捲られても、何も仕返しできない弱虫。ワタシをそんなのと一緒にすんじゃねぇよタコ! ワタシの名前はアリスだ」」
「アリス? アリサはロシア語でのアリスの読みじゃ」
 アレーティアの《博識》が意味を出す。
「「そうよぉ。ワタシはアリス。アリサから生まれたもう一人の人格であって、精神体で自由に闊歩する不思議の国のアリス! もっと、今歩けるのはこのクソ忌々しい研究所内だけだけど」」
 アリサの別人格アリスはそう言うと勝手に嘆息し、唾を吐いた。
「「まあ、テメーらがここに着た理由は知ってる。極東新大陸研究所の糞どもに言われてきたんだろう? ワタシの体を取ってこいってね」」
「なら話が早い。大人しく……」
「「誰が? 大人しく回収されるって言うと思う? 」」
 ザミエルの言葉を遮り、アリスは回収されるのを拒否した。
「「今はこの敷地ないだけしか動けないけど、いずれどこまででも自由になれるわ。そしたら弱虫の体とも用済み。勿論、また色々と実験されるのもクソ食らえだ!
 だから、――、死んで帰れよ」」

「「「「極東新大陸研究所と天御柱の犬どもが!」」」」

 アリスの幻影が吠える。
 ただ吠えるだけならいい。アリスの声が頭の中で何重にも響いてきた。

 特に、この研究所内に居る全ての《精神感応》所持者が強烈な精神的苦痛を味わった。

「なにこよ! これぇ……!」
 彩羽が両耳を塞いで、膝を折る。頭の中が声でグチャグチャになりそうな錯覚に苦しむ。
 隣では、ヴェルリアがもまた頭を抱えてのたうち回っている。リーラとアレーティアが暴れる彼女を止めようとする。
「「あれぇ? 意外とすくねぇな? 《精神感応》持ちがよ」」
 ガッカリだと幻影が肩を落とす。
「おまえ、ヴェルリアと彩羽に何した!?」
 真司が怒る。
「「なぁーに、ちょっとワタシの強すぎる《精神感応》で頭ん中を掻き回してやっただけだ。 どんな気分かはよくわかるよぉ。なんせ実験でワタシも何度となく堪能させられたからなぁ――。 ま、効かないのが多いのなら仕方ねぇ」」
 部屋中のカプセルが開く。冷凍され、そのまま死んだはずの被験者たちの体が、立ち上がる。その数50人余り。
 50の冷凍ゾンビが彼らを襲う。
 エヴァルトは《神速》で魁し、《龍の波動》で近づく第一波を蹴散らす。
 真司はヴェルリアたちを守るように、《サンダークラップ》と【混沌竜の匕首】で防御応戦する。リーラも【如意棒】を操り、必死に戦う。
 レンは《龍鱗化》で防御を固め、彼の抑えている敵をザミエルが《シャープシューター》で撃ち落とす。
 戦闘要員として来てはいない、光、夏野、カルシェもそれぞれの所持武器で戦う。
 精神攻撃から復活した彩羽も《サイコキネシス》を使って戦線をカバーする。何故か、ニコもアンデットを使役して応戦してくれた。
「キリがないよ!」
 リーガ呻く。
「……これはアリスの本体を狙うしかないか?」
 グロいのは嫌いなエヴァルトだが、状況としては四の五の言ってはいられない。
 先んじるエヴァルトをリオが止める。
「待て、俺たちは彼女を救うって決めただろう! その覚悟はどうした」
「でもどうするよ?」
 彩羽が訊く。訊いたところで、本体を叩く以外の得策がでるはずもない。

「のお。聞くが、《テレパシー》で本体のアドミン権限をの本人格に移行させはどうじゃ?」


 アレーティアが突拍子も無いことを言ので真司は聞き返した。
「アレーティア。それはどういう事だ?」
「ああいや、言い方が悪かったようじゃ。
 あの、アリスという人格はアリサ本体。つまり体の利用権限を持っているときだけに力を使えるのではないか? それに彼女はアリサの別人格。人格的なランクは本人格のアリサよりも下位に位置するはずじゃ。
 ……つまり、《テレパシー》を使って、アリサの人格を呼び覚ませばいいじゃないか?
 そうすれば、自ずとアリスは体の利用権利を奪われて、力を行使できなく成るのではないかと思うのじゃ」
「周りくどい言い方だ。つまり、本人格を叩き起こせば、この攻撃も収まるってことだな?」
 聞き返すザミエルにアレーティアは頷いた。
「やる価値はあるな……《テレパシー》《精神感応》をもっている奴は攻撃を中断。アレーティアの策を試ぜ! アリサに呼びかけ、彼女を目覚めさせるんだ! 他の面々はひたすらに防御を固めろ! 皆固まるんだ!」
 レオが号令を飛ばす。
 《テレパシー》《精神感応》を持つ、レオ、彩羽、真司、そして「私も……!」とヴェルリアが眠りアリサに向けて語りかける。
 他の皆は彼らを必死で攻撃から守る。
 この2つのスキルは当然、面識のない者同士では使うことはできない。だから、捜索時アリサへの呼びかけはできなかった。しかし、今なら出来る。アリサのいる場所。顔も声も知っている。それが別人格のアリスだとしても、彼女もまたアリスの一部だ。
 ――、変化が。起きる!
「「何! 何が!?」」
 アリスの幻影が薄らぐ。同時に彼女の意識はアリサの体へと引き戻される。
 どうやら、アレーティアの策は成功したようだ。アリサの人格が目覚め始めている。
 策を思いついた本人は『ジェギア』してて良かったのじゃとひっそり思っていた。
「「弱虫がワタシと入れ替わる?! 貴様ら! 何をしたぁ!!!」」
 薄れる意識の中アリスは最後の絶叫をした。
 それにレオは答えてやる。
「助けを求めていた『嘆き声』の主に呼びかけただけだ。『助けに来た。……俺達は味方だ』ってな」
「「「糞! くそ!! クソ!!! 今度ワタシが目覚めたら、オマエラを真っ先に殺しにいってやる!!!」」」
 呪詛を残すように、アリスの幻影は消えて言った。同時に、操られていた死体もその動きを止めた。

 任務は成功したのだ。