リアクション
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洞窟から出た一行に、愛美が突然謝ったのは、恐らく噂話の一件からだろう。
あれから――。一輪だけ摘んだ花に願いをかけた愛美だったが、特に何が起こる訳もなく、噂話は結局のところ噂でしかなかった。その結果は、愛美の中でもショックだったらしく、「折角付き合ってくれてごめんなさい」と言う言葉が、彼女の中で一杯になったからなのだろう。
「みんなに迷惑かけちゃったけど、今日はすっごく楽しかった! みんな、ありがとうね!」
何かを堪える様な、しかし、それでもどことなく晴れ晴れしたような表情でそんな事を言った愛美は、先に帰路に着く事となる。
「お疲れ様、また明日から頑張ろうね!」
愛美の言葉を複雑な気持ちで聞く一同は、しかし特に何か気の利いた事を言える訳でもなく、挨拶をして彼女の後姿を見送った。
「なんか、寂しそうでしたね。愛美ちゃん」
アニスは全員の心配を代弁する様に口を開く。
「まぁね、噂話だったらどうしよう。みんなに迷惑かけちゃうから。なんて、昨日のうちから言ってたし。無理ないって言えば無理ないよ」
ルクセンがアニスの言葉に続いたのは、恐らく自分だけが愛美の思っていた心配事を知っていると、理解していたから。故にその場にいる全員に対しての、愛美の弁護の役割を自負していたからなのだろう。
「まぁでも、楽しかったから良いんじゃない?もともとみんな、噂が本当だったらいいね、くらいだったんだしさ」
北都は特に何を思うでもなく、前提として今日は楽しかった、と言う感想を持ったうえで、そう答える。
「そうそう、まぁ私からするとさ、ちょっと愛美が可愛そうって、思ったくらいだよね。幸せになって欲しかったから手伝いに来たわけだしさ」
美羽も何処かすっきりしない、とでも言わんばかりの表情を浮かべながらにそう答える。
「ですよね。でもまぁ、今日一日の愛美ちゃんは少なくとも元気そうで、それを見ていて少し安心しましたから、結果としては悪くはなかった、と思えば……」
ベアトリーチェは今日を振り返り、愛美の事を振り返る。
「案外、これで満足、って思ってくれたら嬉しいですよね。同行した僕たちとしては」
苦笑ながらに綺人が言うと、隣に座りこんでいる瀬織が「そうですわね」と繋げた。
「疲れましたけど、やっぱりこういう事が思い出になって、だからこそ、「あぁ、あの時は楽しかったなぁ」なんて思い返すと、幸せを実感出来たりするのかも、知れませんね」
と締めくくった。
「俺としては、まぁ不思議の花ってのが実在して、それを小谷さんが持って帰れただけでよしとしてるんだけどね」
「私もばっちりデジカメでコウフクソウを取れましたし、エースもなんだかんだと盛り上がってましたから、彼女がそこまで悲観するほど、無駄な労力、なんて思ってないんですけどね」
エースとエオリアは別段何が不満、という事もなかったらしく、ほのぼのとした表情で一同を見渡している。
「私は何より、皆が無事でよかったと思っているよ。それだけで、充分幸せだと思っている」
しみじみと、今日一日を、何より命の大切さを実感しているとでも言いたげにユーリは語る。
「まぁ、待ち合わせの時のあのハラハラ感は暫く忘れられそうにないですけどね」
苦笑を浮かべるのは淳二。時間通りについていたはずの自分たちが、まさか全員から待たれていた、と言うあの感覚が、少し苦い経験、と言ったところだろう。しかしやはり、彼にしても骨折り損とは思っていない様子だ。
「に、しても……何で刹那さんは何も言わないの? みんなと仲良くお話すればよかったのに」
「ほんとだよ! 今日全然お話出来てない! 今度はちゃんとお話ししてね!」
なずなと結が交互に、隣でそっぽを向いている刹那に向けて言った。
「し、仕事だったから仕方がない。機会があれば話す事もあるだろうよ」
少し照れているのは、仲良くしようと言われて嫌な気分をする人間はどこにもいないからであり、それは彼女にも言い得てそうだからだ。刹那の返答を聞いた二人は、「絶対だよ!」とか「約束ね!」と言って、指切りをした。
「それにしても――!」
エヴァルトが、はっとして何かを思い出し、口を開く。まるで大事な何かを忘れていたかの様な表情に、一同は少しばかり焦った。
「そういえば先輩方はどこへ行ったんだ?」
「え、あの人ならとっとと帰ってしまったやん。見てへんかったん?」
泰輔が少し驚いた様に呟く。
「いや、見ていない。文句の一言でも言ってやろうと思ったが……逃げられたか」
「それはやめた方が良いのではないでしょうかね」
レイチェルが、やはり冷静に突っ込みを入れた。
「結局、得体の知れない二人でしたね。何を考えて、何であんな性格なのか。目的も謎だし……うーん」
和輝が難しい表情をして、そんな事を漏らす。と、「先輩は――」と、満夜が徐に口を開いた。
「ラナロックさんは、凄く優しい人でした。ウォウルさんもいろいろ考えているみたいな口調でしたし」
「うむ……それは我輩も感じたぞ。二人とも懐がでかくて、気味が悪く感じたのはおそらくそれが原因だろうよ」
満夜と共にミハエルが口を開いたが、どうやら別ルートだった面々は大層驚いた様で、二人の顔を見ながら「信じられない」と呟いていたとか、いないとか。
「何か考えているのはわかりましたけど、それでも私はやはり苦手ですね、彼」
リオンは苦笑しながら北都の方を向く。北都もそれには激しく賛同したようで、苦笑ながらに何度も頷いていた。
「それは私も一緒! 確かにちょっと凄いかな? なんて思うとこもあったけど、もう勘弁ね。あんまり会いたくないかも」
「それは言い過ぎですよ、セルファ。あの先輩だって、考えがあっての事でしょうし」
セルファが嫌そうな顔をしながら言うのに対し、真人がそれを諌める形となったのは、今日一日の図で定着していた。
「それで……」と口を開いたのは、マイアである。
「ウォウルさんから伝言があったんですが、どうしますか?」
彼女の言葉に、思わず一同が沈黙した。
「伝言って、言うのは……?」
「『みんな、お疲れ様だったね。実はみんなには話があったんだけど、愛美ちゃんがいると気が引ける話だったから、これは愛美ちゃんが帰ってから言うように』と言われて」
続きを待つ一同。すると今度はレイチェルが続きを口にした。
「『実は今回の話、数人にはもう話したんだけど、実はこの噂の真相を、僕は知ってたんだよ。当然、コウフクソウが持つ不思議な魔法の内容もね』と、彼はこう言っていました」
「その次は僕が言おか?『コウフクソウの効力は、“花粉症が収まる”と言うものでね、だからそれほど神秘的な効果、それこそ“幸せになる”なんて効果はないんだよ。幸せあは人それぞれ尺度があるからね』やって。よし、次は昌毅君、あとパスや」
「ええ! 俺かよ!……ったく。なんだけ?『ただ全員で、その花を探しに行き、一緒に頑張って友情やらを再確認できるから幸福になるって言う噂がある』とか、なんとか言ってたな」
伝言を聞く一同は、コウフクソウの効力を聞き、はじめは唖然とした。が、なかなか言い得て、それは今日と言う一日が楽しかった事を肯定するに足りる言葉だ。故に、コウフクソウが持つ効果は、しっかりと発揮されているのだろう。
「兎に角、じゃ。あのウォウルとやらはそれを見越して君たちにコウフクソウを探させたんじゃな。自分たちも一緒に、さも“知らない”とでも言うようにして」
カスケードがそう纏め、一同が暫く考える時間が生まれた。誰も何も言わず、ただただそれぞれが何かを考えながら、しかし、全員笑顔を浮かべて。
「結局、あたしたちは先輩にまんまと担ぎ込まれたって、そういう事だったの」
思わず肩を落とす未沙だが、その表情はやはり、どことなく明るい。
「ホント、面倒作ってくれるのに、憎めない先輩ですよね。どこかしら」
和輝がまた、からからと笑う。
「私、ちゃっかり聞かせて貰いましたけどね。みなさんが奮闘している時ですが」
綾瀬がそんな事を言うと、周り全員が唖然とする。どうやらこの伝言、愛美たちと共に皆が花を見つけてから、聞かされ、頼まれた事らしい。当然それより先、もっと時間をさかのぼれば、その話を知る者はいない筈である。が、彼女は疑問を持っていた。彼女だけが、一連の流れに疑問を持ち、個人的にウォウルへ質問を投げかけていた。
「なんで教えてくれないんですか?」
やや困惑気味にスノーが尋ねるが、「聞かれていないから、ですわね」と笑う綾瀬を、ウォウルと同じくらい食えない存在だと、この場の全員が思ったのは、言うまでもない。
「ところでさ……」
と、レキが話を途中で区切った。どうやら隣にいるカムイも、なにやら異変を感じたらしい。苦笑浮かべ、レキの言葉のあとに一同の顔を見回す。
「確かに納得はしたんだけど、ちょっと面白い事が起こってるんだよね」
レキが指をさす方に目をやった一同。集団から少し離れたところ、洞窟の入り口の近くにある、やや大きな木陰の下で――。
「リディアさんとフィオレッラさん……疲れちゃったんですね、多分。寝ちゃってます」
本当に仲がよさそうな様子で、二人並んで気に寄りかかり、互いに寄り合ってすやすやと、まるで先程の探検が嘘だと思えてくるような穏やかな寝顔で、眠りへついていた。
「ほんと、幸せって、人それぞれ違うよね。うんうん」
レキがただ、そんな事をぽつりとつぶやいていたが、果たして誰が聞こえているのか、いないのか――。
この度は、シナリオ『不思議な花は地下に咲く』にご参加いただき、誠にありがとうござます。
この蒼空のフロンティアで、シナリオを書かせていただいて本作が二本目のシナリオとなり、皆様のご参加により何とか形にする事が出来ました。
二作目と言う事ですが、前回ご参加くださった方も数名ご参加いただき、「やった」と、心の中でガッツポーズでした、はい。
ただ、今回はシナリオの原案から私自身が組み上げたものですので、物足りない点などあったかもしれません。期待に添えない形でしたら、申し訳ないです。
少しだけ、戦闘描写に力を入れてみた今回ですが、まだまだだとは自覚しています。はい。
これから徐々に、自分の得意なジャンルと、皆様が読んでいて心躍る様なシナリオ、またリアクションを書いていくよう尽力いたしますのでまた、機会がありましたら
是非ともご参加の程、お待ちしております。
不思議な花は地下に咲く。 いかがだったでしょうか。もしこれを機に、私のシナリオにご参加いただけたら、また、三度いらしてくださったら、当方非常に喜びます。
まだまだ拙いとは思いますが、何卒よろしくお願いいたします。 ではまた、御機嫌よう。