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不思議な花は地下に咲く

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不思議な花は地下に咲く

リアクション

     ◆

一行に新たな同行者が増えた時、彼らの後ろには更なる同行者がいた。が、様子からするに愛美たちには気づかれたくはないようで、故に彼らはこっそりと、一行が止まる都度何処かに身を隠しながら、しかししっかりと彼らを追尾している。
 斎賀 昌毅(さいが・まさき)はどこか詰まらなそうに、隣で共に隠れているマイア・コロチナ(まいあ・ころちな)にぼやいた。
「なんだって俺がこんな事をしなきゃならねぇんだよ……つーか、本当にあってんのか? その噂話はよ」
「失礼しちゃいますね! ボクはちゃんと聞いてきたんですよ!? “コウフクソウを一番初めに見つけた人が幸せになれる(先着一名)”って言う噂話!」
 昌毅の言葉に向きになるマイアは、自分たちが隠れている事を忘れ、思わず大声で言った。
「のう、マイア……わし等はこっそり尾行をするんじゃろう? その様な大声を出しては不味いんじゃぁ、ないかのぉ」
 隣で興奮するマイアを諌める様に、カスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)が苦笑しながらに言った。
「あわわ!そうでした」
「それに、何で俺に説明するのに括弧とか口で言ってんだ? それ別に要らねぇだろ……」
「むぅ……」
 昌毅の言葉を聞いたマイアはむくれるが、どうやら二人は様子を伺っていた愛美たちが動いた事に気付き、移動を始める。
「置いてくぞ、マイア」
「あぁ!待ってくださいよ!」
 隠れていた場所から姿を現した三人は、しかしすぐさ愛美たちと離れる事になる。
「ほう、どうやら彼等、目的地に到着したようじゃの」
「やっぱり洞窟ありましたよ! マイアの聞いた噂話は本当だって、これで信じてくれますよね?」
「ふん。んな事より、だったらあいつらより先に行った方が良いんじゃねぇか?」
 昌毅が指さす方を見た二人。一行は洞窟の入り口前に集まって何やら話を始めていた。
「だったら今がチャンスじゃの」
「ですね」
「ちっ……んじゃ行くか」
 三人がこっそりと姿を現し、愛美たちに気付かれない道を探して洞窟内に潜入する。
どうやら話し合いに集中していたらしく、彼らの近くを通っても三人がばれる事はなかったようだ。
「よっしゃ!そしたらカスケード。前頼んだ」
「ぬお!? 何故そうなるんじゃ?」
「ボク達、変な罠とかあって、ひっかかったら危ないですし、此処はカスケードが頼りなんですよ」
 笑顔でそう言うマイアが言い終るや、カスケードに笑みがこぼれる。
「そ、そうじゃろ!? やっぱりわしも若い者には負けてられんしのぉ!」
 と、彼の懐目掛けて何かが飛んでくる。彼の腹部にぶつかったそれを三人が見ると、小さな石。本来ならばそんな軌道では飛ばない様な石が、まるで彼を狙うかの様に直線的に飛んできたのである。
「見るがいい! わしの自慢のこのボディを!」
 カスケードに飛んできた石は、明らかに人工的なトラップ。そしてこのトラップを見事に回避したカスケードが、気を良くしたのか自慢げにポーズを取る。
「ホント……頑丈だよな、お前」
「ふん! まだまだじゃよ」
 事実、小石であれ、あの速度で人体に当たればそれは致命傷だって成り得る。そこは魔鎧である彼の特性、故だろう。
「にしても、これは不味いですよね」
 急にマイアが真剣な面持ちになってそんな事を呟く。二人は思わず彼女の言葉を待ち、黙ったままに首を傾げた。
「いや……罠があるって事は、誰かがもしかするとボクたちよりも先に花を探しに言っている可能性だってあるって事ですよね」
「そうなるな」
「じゃろうな」
「これは大変です! 早く探さないと、ボクのお願い叶わないですよ!」
 言い終るや否や、マイアはカスケードをずんずんと押し、洞窟の奥へと消えて行く。
「ったく、元気すぎんのも考えモンだよな。ま、やるからにゃあ、俺も負けてらんねぇけどよ」
 一足遅れて昌毅も、そう一人ゴチてマイア、カスケードの後を追うように、洞窟の奥へと足を運んだ。
 暫く歩いた一行はしかし、そこで足を止める事になる。目の前には先客がいたのである。随分と熱心に、穴を掘っているレイチェルと、そしてそれを興味深そうに見つめている泰輔の姿。
「なぁ、そこで何してんだ?」
 昌毅が声をかけると、何ともわざとらしくビックリした、と言わんばかりのリアクションを見せる泰輔。
「お?兄さん等もお花探しですやろか?」
「そうですよ!ボクたち、噂のお花にお願いを叶えて貰う為に来ました。貴方たちもそうですか?」
 マイアに言葉を聞いた泰輔は、笑顔のままに首を横へ振る。そこに穴を掘っていたレイチェルも穴から上がってきて、二人並んだままに昌毅、マイア、カスケードを見据えた。
「ごめんな、だったら此処は通って欲しないねんな」
「ん? 意味がわかんねぇな」
「花を摘もうとする者は、此処より先は立ち去れ、と言う事です」
 昌毅の言葉にレイチェルが淡々と返事を返す。
「そちらの事情を開示してくれても、良いんじゃないかの。言い分は双方あるだろうよ」
 カスケードはあえて温和に話を進める道を選び、故に口調は穏やか。
「僕等の言い分はそのままや。噂の花を摘みに来た人たち等は、そのまま回れ右で帰って欲しい。そんだけや」
「何故ですか?」
 マイアが更に食い下がる。
「考えてもみぃよ、自分たちの願い事の為だけに、その花を摘む、言うんはちぃと自分勝手なんちゃうん?」
「我々が幸せになれば、他の命はどうなってもいいと、そんな事は言えないでしょう?」
 泰輔の言葉に続いてレイチェルもそう言う。
「確かにそれは可愛そうだがのう……」
 カスケードは同意するが、何処か含みのある言葉を述べ、しかし続きを述べるでもなく、全員の言葉を待った。
「俺はどっちでもいいんだよ。ただこいつ、マイアにせがまれたから仕方なく同行してるだけにすぎねぇ。お前らがダメってんなら、好きにしな」
「うぅー……」
 マイアが唸る。何を考えているのか、彼女は暫く唸っていた。しばらく一同が彼女の言葉を待っているが、どうやらなにがしかの決心をつけたのか、マイアが口を開く。
「わかりました。お願い事はまたの今度にしますよ」
 彼女の言葉を聞いた泰輔、レイチェルはほっと胸を撫で下ろす。
「なんや、随分話の分かる人たちで良かったわ、ホンマ。うんうん」
「それで――」
 割り込むようにして、昌毅が口を開く。
「お前らはじゃあ、何しに来てんだよ」
「主に――環境保護とお花見です」
 きっぱりと昌毅の言葉に返事を返すレイチェルは、今度は違う場所に罠を張っている。
「ほ……ほう。それは、良い心がけじゃな」
「にしても……仕事熱心、ですねぇ……」
 その即答振りに、思わず苦笑を浮かべるマイアとカスケード。質問をした昌毅は「ふぅん」と、詰まらなそうに返事を返した。
「あ、あの」
 と、マイアが口を開いた。
「摘みません。摘みませんから……見に行くって言うのは……」
 申し訳なさそうにそう続けた彼女に対し、泰輔は案外あっさりと返事を返す。
「ええんちゃうの?僕等は何も、“見るのもダメ”言うてる訳ではないし、其処まで偉う人間とも違うし。見たい人は見たいでええやん。かく言う僕等かて、これからその花見に行くんやし」
「そうですか、良かった」
 意を決したのだろう。マイアは胸を撫で下ろした。
「私の勘では、そろそろその花がある場所に到着するだろうと思いますので、共に行動しましょう」
 次の罠を張り終わったのか、レイチェルはぱんぱんと手を叩き、泰輔の隣に戻る。
「ほう、ならば五人で進むとするかの! こりゃあ楽しくなってきたわい。わしはカスケード。カスケード・チェルノボグじゃ」
「大久保泰助、まぁこっからの道中よろしゅうに」
「レイチェル・ロートランドです。あ、カスケードさん、そこ私が作った罠が――」
 レイチェルの静止も虚しく、カスケードが豪快に落とし穴に落下していく。
「大丈夫だよな、カスケード」
「ですよね、何せ頼りになる頑丈ボディですもんね」
「へぇ、そうなん! こりゃあ頼りになるなぁ!」
「……何でわしばっか……」
「すみません、警告が遅くなった様で」
 レイチェルの冷静な謝罪に、カスケードと彼女を除く三人が思わず笑った。