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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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第9章(2)
 
 
「ぐっ!? うぁ……あぁぁぁ!!」
「大助!?」
 四谷 七乃(しや・ななの)の発する闇黒領域に支配された四谷 大助(しや・だいすけ)が突如苦しみだす。その姿にグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)が慌てて近寄ろうとするが、次の瞬間、彼は持て余した力を解放するように走り出し、目の前を阻んだゴーレムに拳を打ちつけて粉々に砕いた。
「な……大助なのか? この禍々しい気……嫌な予感が当たったのだよ」
 視界が開けた事で前衛の様子が分かるようになった白麻 戌子(しろま・いぬこ)がパートナーの豹変ぶりに驚く。対する大助は不気味な笑みを浮かべていた。本来はコートである七乃の姿は変質し、洗練された形にも関わらずボロボロの状態だ。大助自身も青緑色をしている炎形の模様を身体に浮かび上がらせ、さながら悪魔の様相を呈している。
「コンナ石コロジャ足リネェ……ナァワンコ。少シ相手シロヨ……今ナラ誰ガ相手ダロウト負ケル気がシネェ……!」
 ゆっくりとこちらに向かってくる大助。銃撃戦を得意とする戌子を庇う為、ティアン・メイ(てぃあん・めい)がその前に立ちはだかった。
「まさかこんな事になるなんて……でも、やらせる訳にはいかない。ここは私が! シュウ、援護を頼むわ!」
「分かりました。さて……二人掛かりで抑えられるかどうか……」
 内心では戸惑いを覚えながらも、暴走を防ぐ為に剣を振るうティアンと、冷静に戦況を分析する高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)。まずは玄秀がアシッドミストを放ち、大助を牽制する。
「はぁぁぁ!」
 続いてティアンが斬りかかる。彼女の戦い方は生真面目な性格らしく、教本に則ったオーソドックスな物だ。
 振り下ろし、斬り上げ。それらを忠実に行い更に突進しながらの突きを狙う。だが――
「……フン、コノ程度ジャナァ……満足出来ネェンダヨ!」
 だが、基本に忠実という事は読まれやすいという事だ。更に、彼女と大助の間には戦闘経験という絶対的な差がある。勿論戦い方次第でその差は埋められる事もあるが、残念ながら今回はそれを覆すまでには至らなかった。
「きゃっ!?」
 拳のカウンターを喰らったティアンが吹き飛び、壁に背中を打ち付けて倒れこむ。動かない所を見ると、どうやら気絶してしまったらしい。
「雑魚ガイキガルナ。オレノ邪魔ヲシタ事、後悔スルンダナ」
「――その前に、油断した事を後悔して貰おう」
 ティアンとの実力差に勝ち誇る大助の隙を突き、玄秀が空中に魔法陣を描く。一つの大きな丸と、それを囲む八つの丸。九曜と呼ばれるその紋様が光り、次第に雷が宿り始めた。
「落ちろ……九曜召雷陣!」
 円状に雷が落ち、大助の周囲を囲む。それだけには留まらず、先ほどのアシッドミストによって発生した水分を利用する形で電撃が彼の身体に襲い掛かった。
「グッ……!」
「大助! 七乃! もう止めるのだ!」
 更に戌子が奈落の鉄鎖で動きを押さえる。沈黙させる事は出来ていないが、これで僅かな間は暴れさせずに済むだろう。
 
「早く大助を止めないと。でも、どうすれば大人しく出来るのかしら……」
「あの男のブレスレットが怪しいんじゃないか?」
 グリムゲーテとエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の視線が三道 六黒(みどう・むくろ)の腕輪に向く。そこに、自身も『闇』の力で暴走した事のある榊 朝斗(さかき・あさと)が自分の意見を口にした。
「いや……多分それだけじゃ無いと思う」
「どういう事?」
「確かに切っ掛けはあのブレスレットだけど、その兆候は黒い石を破壊してる間から出てたよね。なら、奥の石も破壊してこの場に渦巻く魔力を消してやらないと、元に戻らない可能性があるよ」
「じゃああいつを何とかして、早く石を壊す必要があるわね」
「うん。だから……ここは僕に任せて」
 朝斗が前に出る。それは暗に、六黒を一人で相手する事を意味していた。当然ながらエヴァルトが心配する。
「大丈夫なのか?」
「グリムさんは大助さんの所に行って貰った方がいいし、エヴァルトさんには……あれをお願いしたいから」
 そう言って奥の守護石へ視線をやる。
「大丈夫。僕が――『僕達』が、抑えてみせます」
「……分かった。必ずその隙に突破して、あの石を破壊して見せよう」
「お願いね、二人共……全くあの馬鹿、皆に面倒をかけて……正気に戻ったらお説教だわ」
 グリムゲーテが大助の方へと走って行く。それに背を向けながら、朝斗は剣斧、ブレイブハートをかざした。
「行くよ……僕達の力、僕達の決意。それをあの人に見せる為に……」
 朝斗の黒髪の一部が銀色へと変化し、『僕』の中に『ボク』が加わる。これまでなら精神を支配され、髪が全て銀色へと変わる暴走状態となっていたのだが、今は力に逆らう事無く、それを受け入れて自身の力としていた。
「これは……今までのような力の抜ける感覚が無いですね。これなら私も戦えます……!」
 朝斗が暴走状態となった時に代償として強烈な脱力感に襲われる事があったルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)も、今は問題無く力を振るえている。彼女はそのまま羽皇 冴王(うおう・さおう)を抑え、朝斗やエヴァルトへの邪魔が出来ないようにしていた。
「チッ、小ざかしい女だなぁあんた!」
「褒め言葉と受け取っておきます……ここは、抜かせません!」
、そんなルシェンの陰の援護を受けながら、朝斗が六黒へと向かう。同時にブレイブハートが第一段階の斧型から変化し、第二段階の剣型へと姿を変えた。
「見事だ……以前と違い、力を使いこなしている。ならば、全力で迎え撃とう」
 六黒が懐から砂時計を取り出す。砂が落ちきるまでの間、素早く動ける効果のある道具だ。だが、それと同じ物を同時に朝斗も取り出した。
「速さで勝負なら……負けない!」
「むぅ……!」
 同じだけ加速した二人の剣は本来の形で激突し、鍔迫り合いを起こす。単純な力比べなら六黒の方が上なので、体勢は徐々に彼が押す形へと動いていった。
「さぁ、ここからどう出る。生半可な手ではわしを貫(ぬ)く事は出来んぞ」
 六黒の真の強さは単純な力強さでは無い。相手の出方に応じて様々な手を打ってくる事だ。今も、朝斗が前に出るなら噛み付きによる吸血、間合いを取ったらシールドの投げ付けで対応する気でいる。仮に武器の破壊を行おうにも、光の刃が大部分を占めるこの武器相手ならそれも難しいはずだ。
「貫く事が出来ないなら……すり抜ける!」
 朝斗にとって幸運だったのは、そういった六黒の強さを既に認めていた事、そして今回の目的が六黒を倒す事では無かった点と言えよう。朝斗が取った手段は先の手のどれでもなく、アクセルギアによる加速と、真空波による『ブレスレットの』破壊だった。
「エヴァルトさん!」
「任せろ!」
 更に鍔迫り合いに持ち込んだ事でエヴァルトが駆け抜ける隙が生まれる。プロミネンストリックで二人の頭上を突破したエヴァルトは、そのまま鬼神の如き力強さで武器を振り下ろした。
「うぉぉぉぉ!!」
 強烈な一撃により最後の守護石が破壊される。同時にこの場から闇黒の魔力が薄れていくのが分かった。
 
「おや、さすがと言うべきでしょうか。見事なチームワークです」
 守護石が破壊されたにも関わらず、両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)は涼しげな顔をしていた。そのままドライア・ヴァンドレッド(どらいあ・ばんどれっど)を起こし、六黒と冴王にも退却を促す。
「撤退ですか? 随分あっさりとした退き際ですね」
 六黒達との対峙は初めての玄秀が訝しげに見る。その視線すらも悪路は平然と受け止めていた。
「悪役は必要な時には潔く手を引く事も重要ですからね。今回で言うならば、私達の目的は守護石の破壊を防ぐ事。それを達せなかった以上、長居は無用という事ですよ」
「ぬしらの導き出した解、それも一つの道よ。ならばその道を進むべく、精々精進するが良い」
 目的の為に一人が盾となる。協力という形を成し遂げた者達を認め、六黒が去って行った。冴王とドライアの二人もそれに続く。
「ま、とりあえずは及第点くれてやるぜ」
「金魚のフンは撤回してやる。次覚えてやがれ!」
「それではごきげんよう。また、どこかでお会いしましょう」
 最後に悪路が静かに立ち去る。玄秀達はそれを追う事はせず、気絶したティアンと大助、そして七乃の下へと駆け寄った。
「今は落ち着いていますね。やはりあの石の魔力が原因だったのでしょうか?」
「どうだろうな……ともかく、三人を運ばねばなるまい。大助は俺が背負った方がいいだろうな」
「ならティアンさんは私が背負いましょう。玄秀さんだと大変だと思いますから」
 エヴァルトとルシェンが申し出る。ティアンは玄秀よりも長身なので、確かにルシェンの方が適役といえた。
「七乃は私に任せて。皆……大助と七乃が迷惑をかけたわ。ごめんなさい」
 グリムゲーテが皆に頭を下げる。幸い彼女や大助達を責める者は誰もいなかったが、今回の件、それ自体がグリムゲーテや戌子の心配事となるのに変わりは無いのだった――