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【金鷲党事件 二】 慰霊の島に潜む影 ~中篇~

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【金鷲党事件 二】 慰霊の島に潜む影 ~中篇~
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終章  そして金冠岳へ−−


「悪路殿。こちらが、由比景継殿。由比家の、次期当主となられるお方にござります」

 小男の執事の言葉に、両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)は深々と頭を垂れる。

「親方様、両ノ面悪路殿にございます」
「両ノ面悪路にございます。この度は、御目通り叶いました事、感謝の言葉もございません」
「そのような、堅苦しい挨拶は良い、面を上げよ」
「はっ」

 悪路は顔を上げると、まじまじと目の前の男を見た。
 年の頃は、40歳前後というところだろう、中肉中背の、よく整った顔立ちの男だ。
 ただ、鋭い目付きと、そして何より顔の右側に走る大きな刀傷が、男の印象を非常に剣呑なモノにしていた。
 見る者を、不安にさせずにはおかないような、そんな雰囲気をその身にまとっている。

「悪路よ。そなたたち客将たちの助力、この景継、常々感謝しておる」
「は。勿体無き、お言葉にござりまする」
「何か、私に聞きたいことあると聞いているが」

 上座に座った男は、尊大に言った。

「は……。景継様は、今の葦原藩の状況を、いかがお考えでいらっしゃいますか?」
「いかが……とは?」
「今、マホロバでは様々な勢力が覇権を争い、藩政は著しく乱れております。そして、遠くシャンバラの地にあるとは言え、明倫館もその動乱と無関係ではありませぬ」
「……続けよ」
「金鷲党は、これまで総奉行ハイナ・ウィルソンの追放をその目的の一つに掲げ、戦いを続けてまいりました。そして、此度景継様がお探しのモノも、そのための品と聞いております」

 床几に寄りかかったまま、退屈そうな顔で話を聞く景継。

「景継様。景継様は件の品が手に入りし後、如何なされるおつもりでございますか?」

 景継の態度に若干の不安を覚えながら、悪路はここを先途と語気を強めた。

「景継様!景継様には、マホロバの者たちと手を結ばれるお考えはございませぬか?葦原藩を倒すため、お力を貸しては頂けませぬか!」

 悪路の言葉が、虚ろに部屋に響く。

「……つまらぬ」
「は?」
「つまらぬな、悪路、お主の話は、まるでつまらぬ」

 景継は、あくびをかみ殺して言った。

「お主は、あのような刀を振るうことしか脳の無いような輩と手を組んで、一体どうしようというのだ?」

 余りに予想外の答えに、悪路は声も出ない。

「儂はな、悪路。あの『鏡』が手に入ったら、まずハイナ・ウィルソンを殺す」

 悪路は身を乗り出して、まるで、誰にも聞かれたくない秘密を打ち明けるように呟いた。
 悪路は動揺する心を必死に抑えながら、『鏡』という言葉を心に刻む。

「次に房姫も亡き者とし、明倫館を我が手に押さえる」
「は、はっ」
 
 悪路は、最早相槌を打つのがやっとだ。

「そしてその後は、我が軍勢を率いて、シャンバラ諸国全てを我が物とするのだ!」

 目をギラギラと輝かせて、妄想としか言えないような壮大な構想をブチ上げる景継。

「し、しかし景継様。一体どのようにして、ハイナ・ウィルソンを殺すのでございますか?」

 悪路は、全力で動揺を取り繕いながら、ようやくそれだけを尋ねた。

「なんだ、そのような事もわからんのか?」

 『仕方のないヤツだ』という顔で悪路を見る景継。
 悪路は、叫びだしたくなるのを必死に堪えて、景継の次の言葉を待つ。

「よいか、それはな−−」

「申し訳ありません、親方様。至急、お耳に入れたいことが」
「何事だ」

 小男の執事が、小走りで部屋に入ってくる。が、悪路の存在を慮ってか、口を開こうとしない。

「構わぬ、申せ」
「は……」
「よい」
「で、では……。実は、鏡を捜索中の人足たちが、『変な魚がいる』と騒いでおりまして……」
「魚?」
「はい。何やら、棒のような魚らしいのですが、それが何処からともなく入り込み、作業場をうろついておるそうで……」
「何をつまらぬコトを。そのような魚、さっさと始末してしまえ」
「お待ちください、景継様!」

 悪路の突然の声に、怪訝そうな顔をする景継。

「いかがなされました、悪路殿?」
「棒状の魚……スカイフィッシュ……。なるほど……」
「なんじゃ、悪路。はっきり申せ」
「お喜びください、景継様。お探しの鏡、見つかったようでございますよ」
「なんじゃと!」

 驚く景継に、悪路は、意味ありげに笑ってみせた。




「翔洋丸!」
「宅美殿か!」

 突然、夜闇を裂いて現れた中型飛空艇に、御上と景信は同時に叫んだ。
 その甲板には、急遽編成された増援部隊の面々が立ち、眼下の敵を見下ろしている。

「いいぞ、諸君!下の連中に思う存分お見舞いしてやれ!」
「了解ですわ、宅美のおじ様!積もり積もった『お留守番』の恨み、今こそお見舞いしてやりますわ!」
「おいおい。それって、八つ当りじゃ……」
「いいんですっ!」

 鬱憤を晴らすかのように【魔砲ステッキ】を撃ちまくるイコナ・ユア・クックブック。その隣で、閃崎静麻が次々と【機晶爆弾】を投げ落とす。


「『てれびげぇむ』を中断された怒り、とくと味わうでござるよ!」
「あたしだって、せっかく呪文書の写本手伝ってもらってたのに!」

 てんでに勝手なコトをいいながら、服部保長と神曲プルガトーリオが、《サイコキネシス》と《火術》《闇術》で攻撃する。
 敵のただ中を大木や石が飛び回り、呪文が雨あられと降り注ぐ。

「な、何だその、テレビゲームとか写本とかって……?」

 獅子神刹那が、キョトンとした顔で訊ねる。

「何って、情報提供のお礼」
「今日は朝まで『かくげぇ』三昧でござるよ」
「え!あの『一晩2人きり』って……」
「おやおや〜、刹那ってば何だと思ってたわけ〜。もしかして、何かエッチなコトでもしてるとか思ってたのかな〜?」
「な、なんですと!それは聞き捨てなりませぬな!そんな刹那殿がふしだらなコトを想像していたなどと!」
「う、うるせー!そ、そんなバカなコト言ってるヒマがあったら、ちゃっちゃと攻撃しろ!」
「慌てるトコロが、余計に怪しい……」
「で、ござるな」
「オマエら、いいかげんにしねぇとブッ飛ばすぞ!」



「形勢逆転、だね」
「グッ……」

 一瞬でひっくり返った戦況に、余裕の表情を浮かべる秋日子。
 ジャジラッドには、既に先程までの余裕は微塵もない。
 その背後では、上空からの攻撃に、侍たちが必死に身を隠している。

「仕方ない。今日のところは、引き上げるとするか」
「そんな!ジャジラッド殿!我々はまだ戦えます!」

 ジャジラッドの袖を掴み、必死に食い下がる若侍。

「阿呆か、お前は。既に奇襲の利を失い、敵に地の利を奪われ、しかも一人当りの戦闘力は比べるべくもない。これでどうしようってんだ」

 若侍は、血が出るほど唇を噛み締めている。

「ま、どうしてもやりたいってんなら止めはしねぇ。犬死でも何でも勝手にしな」
「い、犬死……」
「来い、サルガタナス!」

 その叫びと共に、ジャジラッドの手の甲に朱い契約の印が浮かび上がる。
 喚び声に答え、何処からともなくサルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)が姿を現す。

「お呼びでございますか」
「あぁ。今から撤退する。悪いが、後を頼む」
「かしこまりました」
「逃さないよ!」

 後を追おうとする秋日子の前に、両手におでん串を持った【DSペンギン】が立塞がる。

「ぺ、ペンギン……?」
「あなたのお相手は、その子たちですわ」
「な……!バカにしてるの!」
「いいえ、そういう訳では……。時間稼ぎなら、その子たちで十分かと思いまして」

 サルガタナスが、つまらなそうに言う。

「ナメてくれるね!」
「あら……ステキなお顔ですこと」

 睨みつける秋日子の顔を舐め回すような視線で見つめるサルガタナス。
 彼女は、このような挑戦的な視線の持ち主をいたぶることが、何よりも好きなのだ。

「でも……残念ですわ。今日は、お相手してあげられせんの。代わりに、この子をお付けして差し上げます」

 今まで何処にいたのか、ジャジラッドの乗ってきたレッサーワイバーンが、上空から飛来する。

「それじゃ、アナタ。また、いずれ。今度は『ゆっくりと』お会いしましょう」

 ねっとりとした口調でそう言い残すと、サルガタナスは、現れたときと同じように、忽然と姿を消した。



「行くよ、クロ!」
「了解だ、八重!」
「喰らえ!ひっさつ、『フェニックス・ブレイカー!!』」

 炎を纏った『紅嵐』を腰だめに構え、最大加速で突っ走るブラック・ゴーストから飛び出す永倉八重。
 まるで不死鳥の様に宙を駆け、一直線に三道六黒へと突っ込んでいく。
 その一撃を、六黒は避けようともしない。

 『ドスゥ!!』という確かな手応えと共に、六黒を貫く紅嵐。
 だが、八重の渾身の一撃を喰らい、その身を炎に焼かれても尚、六黒は悠然と笑みを湛えていた。

「う、ウソ……。そんな……」

 ショックの余り、刀の柄に手をかけたまま動けない八重。

「クックックックッ……。所詮、復讐などという他者に依存した力なぞ、この程度のモノよ……」

 腹に刺さった刀をまるで意に介さず、六黒は『ガシィ!』と八重の両腕を掴む。
 不意に、六黒の鎧に、凶悪な笑みを浮かべた顔が浮かび上がった。
 魔鎧と化した葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)の目が赤く光り、八重の瞳を捕える。
 その途端、柄を握りしめた八重の腕が、足が、端から灰色に染まり、感覚が無くなっていく。

「い……、イヤァッ!」

 《ペトリファイ》によって、石に変えられていく八重。
 必死にもがくが、両腕を六黒に抑えられ、身体を離すことが出来ない。
  
「我と共に永劫の眠りにつくがよい。安らかなる闇と共に……」

 狂骨は、大きく裂けた口を更に大きく開き、嘲りの笑いを浮かべる。
 既に八重の身体は、首まで石と化してしまっていた。

「い、いや……。こんな……と、父様……」

 恐怖に引きつった八重の顔を、凄惨な笑みを浮かべながら見つめる六黒。

「八重っ!!」
「グワァッ!」

 八重を掴んでいるため、動けない六黒の脇腹目がけ、ブラック・ゴーストが全速力で突っ込んだ!

「クロっ!」

 さしもの六黒もこれには耐え切れず、大きく横に吹き飛ばされる。
 六黒の手が離れた八重の身体は、一瞬で元に戻った。

「クロぉっ!!」
 
 激突時の衝撃で弾き飛ばされたブラック・ゴーストに、駆け寄る八重。
 そのボディは、大きく歪み、激しいへこみが幾つも出来てしまっている。

「グ、グウッ……」

 口元から血を流しながら、立ち上がる六黒。脇腹に刺さった紅嵐を抜き、投げ捨てる。



「申し訳ありませんが、そこまでですよ。六黒」

 突然の声に、頭上を振り仰ぐ六黒。
 そこには、手綱を付けられたレッサーワイバーンが、羽ばたいていた。
 その鞍にいるのは、両ノ面 悪路だ。

「……もうしばらく待っていろ。すぐに片が付く」
「そうはまいりません。『親方様』が火急の要件にて、あなたをお呼びなのです。見つかったのですよ、『例のモノ』が」
「……なんだと?」
「見つかったのは良いのですが、巨石の山に埋れていまして……。並大抵の人間の手には、負えないのです。折角、あの方の機嫌がよくなったのです。もう少し、ご機嫌を取っておきませんと」
「……分かった」

 六黒は踵を返すと、八重には一瞥もくれること無く、ワイバーンの背に跳び乗った。

「この勝負、しばし預けて置く。親の仇が討ちたければ、金冠岳まで来い。もっとも、その腕ではわしの首は取れんがな」
 
 悔しさに身を震わせる八重を尻目に、ワイバーンは、重たそうに上昇していく。

「そうそう、五十鈴宮円華にも伝えてください。『面白いモノを見せて差し上げますから、是非金冠岳までいらしてください』と」

 口元を【ハイ扇子】で隠したまま、楽しそうに笑う悪路。
 ワイバーンはゆっくりと羽ばたくと、闇の彼方へと飛び去っていった。

担当マスターより

▼担当マスター

神明寺一総

▼マスターコメント

 みなさん、こん〇〇わ。神明寺です。
 この度は、自分の不注意から起こった負傷が元でリアクションが1週間程遅れてしまい、大変ご迷惑をお掛け致しました。
 また、『出来るだけ早く』ということでしたが、結局このタイミングになってしまいました。
 この場を借りて、お詫び申し上げます。

 申し訳ありませんでした。(謝)

 という訳で、後編……と見せかけて中編です(笑)
 元々、二部構成で収まるかどうか自信がなかったので、敢えて(第1回/全2回)とやらずに、『〜前編〜』とだけするという策を弄したのですが、見事(?)『軍師の技』が決まったようです(笑)

 中継ぎ……というにはモリモリな内容だったと思うのですが、皆さんはどう読まれましたでしょうか。
 是非、いつものように掲示板でご感想をお聞かせください。


 さて、お話の方はというと、怪しげな(笑)黒幕も登場し、『ほぼ』謎も出尽くして、次回いよいよ後編、完結編です。

 果たして、あゆみとミディアは無事仲間たちと再会を果たすことが出来るのか!
 円華は、景継の企みを阻止し、亡き父の遺品を手にすることが出来るのか!
 そして、景継の妄想は、一体何処まで実現可能なのか!(爆)

 今回ご参加頂いた方は、是非次回後編もご参加ください。
 せっかく色々苦労して(ヒドイ目にも遭って)、散々ヤキモキしたのに、ハッピーエンドを見ないのは勿体無いですよ?イヤ、マジで(笑)

 という訳で、完結編でまた皆さんにお会い出来るコトを、楽しみにしております。
 



 平成辛卯 夏文月


 神明寺 一総