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【金鷲党事件 二】 慰霊の島に潜む影 ~中篇~

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【金鷲党事件 二】 慰霊の島に潜む影 ~中篇~
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第一章  作戦会議


 議論の結果、白姫岳に向かうメンバーは大きく分けて2つに分かれることになった。
 1つは地峡部から真っ直ぐ行ったところにある中央門を突破し、そこから要塞の内への侵入を目指すA(アルファ)チーム。
 もう1つは、要塞の南側の秘密の入口から、地下を目指すB(ブラボー)チームである。
 各チームには、陸路要塞へと向かうメンバーの他、空から要塞の上層へと向かうメンバーも割り振られた。陸上部隊の進軍を空から支援するためである。
 この他、個別に要塞へと向かうメンバーも何人かいた。

 作戦は明朝、日の出と共に始められることになった。なんとか昼までに要塞に辿り着き、要塞への攻撃は午後行う予定だ。
 夜間攻撃を主張する者もいたが、全員が全員夜間行動が可能な訳ではないので、結局攻撃は日中に行なわれることになった。


 一方の金冠岳方面だが、こちらも白姫岳方面と同じく日の出と共に出発し、その後は状況を見て判断することになった。事前に計画を立てるには、あまりに現地の情報が少な過ぎる。
 金冠岳に向かうのは、円華と御上の他に10人ほど。大半が円華たちと行動を共にするが、情報収集のために別行動を取る者も何人かいる。
 東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)も、そんなメンバーの一人だ。

「ゴメンね、キルティス。ホントは、御上先生と一緒に行きたかったんでしょ?」
「気にしなくていいですよ、そんなコト。情報を得るためには手分けした方がいいですし」
「そうだよ。僕や円華さんなら、討魔もなずなもいるから。心配いらないよ」

 済まなそうな秋日子を、キルティスと御上がフォローする。
 秋日子とキルティスは、今回はどうしても同行できないことを謝りたくて、御上の元を訪れていた。

 秋日子のパートナーであるキルティスと御上とは、浅からぬ縁がある。
 秋日子も、キルティスが御上の身を心配しているのは重々承知している。だが、自分たちにメッセージを託してくれた幽霊の事を考えると、どうしても情報収集を優先したかったのだった。

「あ!いたいた、先生!」

 そういいながら駆け寄ってきたのは、泉 椿(いずみ・つばき)だ。
 椿とキルティスは、共に『御上先生ファンクラブ』に所属する同好の士である。

「お!秋日子とキルティスもいたのか。ちょうどいいや、一緒に話を聞いてくれ」
「どうしたんだい。泉君?」

 いつになく神妙な様子の椿に、御上が訊ねる。

「先生、ゴメン。オレ、今回は先生と一緒には行けねぇよ」
「……月美君たちを、助けに行くんだね」

 御上の言葉に、俯いたまま首を縦に振る椿。椿は、辛そうに口を開いた。

「オレ、どうしてもダチを助けたいんだ。そりゃ、あゆみとミディとはまだそんなに仲良くないけど、でも、ほっとけないんだ!」
「わかった。僕のことなら心配いらないよ。必ず、2人を連れ帰ってくれ」
「有難う、先生!月美のことはあたしたちに任せてくれ!という訳だから、キルティス!先生のコトはお前に任せたぜ!」

「え!?」
「ち、ちょっと待って……」

「つばき〜!ナニしてるのよ!アンタがいないと、話が進まないじゃない!」

 キルティスと秋日子の言葉を、椿を呼ぶ声が遮る。

「わりぃ、すぐ行く!それじゃ先生!あゆみとミディは必ず無事に連れて帰るから!先生は安心して調査してくれよ!じゃ、キルティス!先生のコトよろしくな!ケガさせるんじゃねぇぞ!!」

 椿は、キルティスの背中を「パァン!」と叩くと、勢い良く駆け出していった。

「え、えと……」

 御上の方を振り返り、思い切り気まずそうな顔をするキルティス。

「ぼ、僕なら大丈夫だよ。何かあったら、すぐに助けを呼ぶから」

 微妙に引きつった笑いを浮かべながら、キルティスをフォローする御上。

「で、でも……」
「その時は、すぐに来てくれるんだろう、キルティス?」
「も、もちろんだよ、御上君!」

 勢い込んで、顔を真っ赤にして答えるキルティス。
 その様子が余程可笑しかったのか、御上は、笑いを必死にこらえている。

「な、何がそんなにオカシイんだよ!」
「い、いや……。僕は、良い友人を持ったと思ってね」
「ウソだ!絶対にウソだ!!」

 そう御上に詰め寄りながらも、キルティスは、顔のほてりを抑えることが出来なかった。



「あの、すみません。ミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)さん、ですよね?」
「うん、ミシェルはボクだけど……って、え!ま、円華さん!」
「はい。五十鈴宮円華です。今、ちょっとよろしいですか?」
「は、ハイ!大丈夫です!」

 予想外の人物の登場に、思わず身を固くするミシェル。

「そちらは、矢野 佑一(やの・ゆういち)さんですね?お二人ともご助力、本当に有難うございます」

 もう一度、深々と頭を下げる円華。

「そ、そんな、ご助力だなんて……」
「そうですよ。今回、こうしてお手伝いが出来て、ミシェルもとても喜んでるんです。なぁ、ミシェル」
「う、ウン……」

 ミシェルは、真っ赤になって頷いた。

「え……。そうなんですか?」
「はい。『蒼空タイムズ』に今回の事件の話が載ってから、ずっと気にしっぱなしで」
「ま、円華さんのコトは、『マドカ』とかで知ってて!慰霊碑を作るって、とってもステキなコトだって思ったから!『何か、出来るコトはないかな』って言ったら、佑一さんが、『じゃあ、行けば?』って言ってくれて!」

 一息にまくしたるミシェル。

「本当ですか!有難うございます!!」

 嬉しそうに、ミシェルの手を取る円華。

「そんな風に思ってくれる人が一人でもいるなんて……。私、すごい嬉しいです!」

 喜びのあまり、円華の目には涙が光っている。

「円華さん。僕とミシェルも出来る限りのことをします。何でも言ってください」
「絶対に、慰霊碑を建てようね、円華さん!」
「ハイ!」

 円華とミシェルは、互いの手を強く握り合った。



「またわたくしが、留守番なのですね……」
 パートナーである源 鉄心(みなもと・てっしん)の「キミは本部に残れ」という一言に、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)はがっくりと崩れ落ちた。顔に、縦線でも入りそうな勢いで落ち込んでいる。

「そ、そんなに気を落とすな、イコナ。本部を守るのだって、重要な任務だぞ」
「そんなコト言って、昨日だってそうだったじゃありませんの。いつもいつも、わたくしばかりがお留守番……」

 いつもはすぐ収まるのに、今回はまるで効果がない。どうやら、だいぶ不満が鬱積しているようだ。
 もう1人のパートナーであるティー・ティー(てぃー・てぃー)の方をすがるような目で見てみたが、『私は知りません』という顔をされてしまう。

「やれやれ……」

『これは、機嫌を直すのは大変だ』と内心ウンザリし始めた、その時。

「源君。今回、本部の警備に当たってくれるのは誰かね?」

 にこやかな笑みを浮かべながら、宅美が近づいて来た。『騎兵隊』の到来である。

「は、ハイ。今回は、このイコナが担当します」
「おぉ!コレはコレは。こんな妙齢のお嬢さんとご一緒できるとは、光栄ですな」

 ごくごく自然な動きで、イコナの手を取る宅美。

「宅美浩靖です。以後、お見知りおきを。貴女も、鉄心君と同じく教導団に?」
「え!えぇ……」
「そうですか。是非、貴女のようなお若い方の識見も伺ってみたいものです」
「し、識見だなんて、そんな……」

 突然話しかけられ、応対するのが精一杯のイコナ。
 
「いえいえ。そんな、ご謙遜なさらずとも結構です。何せ、源君のパートナーだ。さぞや貴重な経験を積まれたことでしょう。ささ、こちらに座って。今、何か飲み物をお持ちしましょう。口当たりの軽い物の方がよろしいですかな?」
「い、いえ!どうぞお構い無く……」

 『年長の紳士にかしずかれる』という経験のない状況に、イコナはすっかり飲まれてしまっている。
 宅美の動きには、全くソツがない。口にする言葉にしても、傍から聞いているとまさに『歯が浮く』類のセリフなのだが、貫禄と威厳のなせる技か、宅美の口から出ると、まるで嫌味に聞こえない。
 あれよあれよという間に、宅美とイコナは、楽しげに談笑を始めてしまった。

「す、スゴイですね……」
「あぁ……。老練だ」

 

 そして翌朝。

 金冠岳と銀冠岳、目的地に従い2列に別れた一行は、登る朝日に照らされて、並んで本部を出発した。
 隣り合う仲間を思い思いの方法で激励しながら、歩いて行く。目的地こそ違えど、互いの無事と成功を祈る気持ちは変わらない。
 やがて右と左に別れた一行は、東と西を目指して進んでいった。