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ザナドゥの方から来ました

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ザナドゥの方から来ました

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                              ☆


 そんな破壊工作が順調に進む中、『鉄』の通路の奥ではニケ・ファインタック(にけ・ふぁいんたっく)がパートナーであるメアリー・ノイジー(めありー・のいじー)に向かって叫んでいた。

「メアリーっ! ふらふらとどこに行ったかと思えば!!」
 ツァンダの街がザナドゥ時空に引きずり込まれた時からパートナーの様子がおかしいことを気にしていたニケだったが、何かに反応するようにメアリーが鉄の通路へと消えてしまったので、その後を追ってきたのだ。
 通路のトラップや機晶兵は金住 健勝やけみかる☆かなみんと、ライゼ・エンブたちが引き受けてくれたのでスムーズに入り込むことができた。

 だが、そのメアリーが辿り着いて来た場所が問題だった。

 そこは、地下通路の最奥に位置する、闘技場だった。
 周囲を高い壁で囲まれたその広場はまるで野球のスタジアムのような造りで、取り囲んだ壁の外側は観客席のような造りになっている。


「――!!」


 ニケが気配を感じると、その闘技場の奥から一体の機晶姫が姿を現した。
 全長4mほどのメタルボディをガシャリと音を立てて現れたのは、紛れもないこの通路のボス、『魔族6人衆』のひとり破壊の機晶姫 ウドであった。
「――」
 無言で、ニケとメアリーに向かって、右手に構えた機晶レールガンで狙いをつける。この闘技場に現れた者は、誰であろうとバトリングの相手なのだ。

「……ウド様……そう……私は……ウド様から最初に……作られた機晶姫……ウド様が破壊を望むのなら……私は……」
 どうやらメアリーはザナドゥ時空の影響で、『機晶姫のファーストモデル』という触れ込みのウドに感化されていたらしい。
 そのウドから最初に産み出された機晶姫であると勘違いしたメアリーは、ウドの右腕となるべく鉄の通路を抜けてきたのだ。

「ちょっとメアリー、何言ってるの!!
 勝手にいなくなったと思ったら、そんな勝手なことを!!」
 ニケは荷物からドライバーを取り出して、やおらメアリーの右頭部に突っ込んだ。
「……あ……か……ぺ……?」
 そのままがちゃがちゃと荒っぽく調整をするニケ。

 普段から暴走しやすいメアリーは、普段はニケによって低出力モードに調整されている。
「全く、ザナドゥ時空だかなんだか知らないけど、そんなもんに操られてないで、出力上げて振り切ってしまいなさい!」
 ニケはメアリーを高出力の通常モードに切り替えることで、ザナドゥ時空の影響できると解消できると踏んだのである。

 だが。

「――ぐはぁっ!!?」

 調整が終わった瞬間、ニケはメアリーから吹き飛ばされて地面に転がった。
 誰あろう、メアリーがニケを蹴り飛ばしたのだ。
「な……何を……」

 見ると、すっかり通常モードに切り替わったメアリーは、バトルアックスを構えて、ニケに向けた。
「……礼を言うわ……アタマの霧が晴れたようにいい気分よ……」
「メ、メアリー……」
 どうやら、高出力モードになってもザナドゥ時空を振り切ることはできなかったようだ。
 つまり、ニケは敵側に回ってしまったメアリーをわざわざ調整してしまったことになる。
 ぎり、と歯噛みをしながらも、ニケはメアリーに叫ぶ。
「ふざけないで!! メアリーは私の所有物……他の所へ行くなんて許さない!!」
 だが、その叫びも今のメアリーには届かない。
「はん……ふざけないではこっちの台詞……私がウド様を裏切るなんてありえないのよ……さあウド様……邪魔者は排除してしまいましょう!」

「メアリー!!」
 ニケの呼び声もむなしく、メアリーは手にしたハンドアックスでニケへと襲い掛かっていく。
「ハァーッハッハッハ!! 邪魔者は排除、この私が排除するのよ!! ウド様とこの俺がががガガアアアァァ!!!」


 その様子を、ウドの3つのスコープが静かに見つめていた。


                    ☆


 一方、トラップの破壊活動と数多の機晶兵との戦闘で通路を進行していく一行の後ろから、ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)と、東 朱鷺(あずま・とき)がそれぞれのパートナーと共に進行していた。

「……我の依頼で主に迷惑をかけてしまった……その分の働きはさせていただくとしよう」
 と、朱鷺のパートナーである魔鎧の第七式・シュバルツヴァルド(まーくずぃーべん・しゅばるつう゛ぁるど)は呟く。今は朱鷺の鎧として装着され、もう一人のパートナー、ルビー・フェルニアス(るびー・ふぇるにあす)がトラップを解除の護衛をしているところだ。
「……あれだけの破壊工作が行なわれているというのに、ここだけ妙に頑丈……おかしいと思わない?」
 ルビーは呟きながら、慎重にトラップを解除していく。

 ジークフリートとシュバルツヴァルドは同じコミュニティ『魔王軍』の仲間だ。今回、自称『魔王』を名乗るジークフリートが破壊の機晶姫 ウドに興味を示したので、シュバルツヴァルドの頼みで朱鷺とルビーが駆り出された、というわけだ。
「ふむ……急いては事を仕損じる……ここは慎重に当たろう。急ぐ必要はない」
 ジークフリートは、ルビーがトラップを解除する様子を観察し、自らも周囲の警戒にあたった。
 そのジークフリートに、朱鷺は語りかける。
「……いいのですか? 他の連中のあの様子ですと、辿り着く前にウドとやらも倒されてしまうかもしれませんよ?」
 朱鷺自身はジークフリートに特別な信頼を寄せているわけではない。ただ、パートナーであるシュバルツヴァルドが入れ込んでいる男に少しだけ興味が沸いただけなのだ。
「構わん。俺達が到着するまで持ち堪えられないならば、所詮はそれまでの相手だったということだ」

「……ふむ、面白いですね」
 ジークフリートの反応を見て、朱鷺は呟く。
「――何か?」
 その視線に、ジークフリートが視線を投げ返すが、朱鷺は通路の奥のほうへと視線を戻してしまった。
「いえ――何でも」

「さあ……解除できましたよ」
 ルビーがトラップを解除し、通路に隠されていた部屋が開放された。
「……これは……」
 中の様子を見たジークフリートと朱鷺が声を上げる。

 そこには、厳重なトラップに守られていた、鍵水晶のひとつ、『鉄水晶』が隠されていたのだ。

「なるほど……これがあればブラックタワーの扉が少し開くというわけだな。……面白い……貰って行こうではないか」
 思わぬ宝を手に入れたジークは軽く笑い、朱鷺とシュバルツヴァルド達と共に、通路の奥、闘技場の方へと向かうのだった。


 更なる戦いへと続く、暗闇の中を。