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ザナドゥの方から来ました

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ザナドゥの方から来ました

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                              ☆


 天城 一輝(あまぎ・いっき)は思った。
「これは……ヤバいかも知れないな」
 と。

 今、一輝はパートナーのコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)と共に『混沌』の通路に侵入していた。
 幸い、この通路のボスであるバーサーカー ギギは緋柱 透乃たちがしてくれている。
 一輝の目的はギギでも鍵水晶でもない。
 いち早く混沌の通路に入っていくのを見た、春の精霊スプリング・スプリングだ。

「どうも、ザナドゥ時空の影響で自分を悪魔の手先だと思い込んでいたらしいからな……」
 傍らのコレットも、一輝の言葉に頷いてみせる。
「うん、ウィンターちゃんも悪ふざけでお巡りさんに捕まったとき、季節の精霊の資格を剥奪されそうになってたしね……」
 普段は脳天気に見える彼女らだが、実は色々と厳しいところもあるらしいということを知っている一輝は、今回の件でスプリングが他人に迷惑をかけることで何らかの罰則を受けるのではないか、と心配したのだ。
「確かにザナドゥ時空の影響だから……スプリング本人に罪はないのかもしれないけど……」
 何事もなければそれに越したことはないけれど、と一輝は混沌の通路のトラップにエアーガンで印をつけて回っていた。

「――よっと」
 エアーガンから発射された赤いペイント弾が通路の壁に印を付ける。
 とりあえずこれにより、自分達が罠にかかる心配はかなり減少する。
 問題は、スプリングが今どこにいるかだが。

 だが、スプリングを探すこと自体はさほど困難なことではなかった。
 なぜなら、いくらザナドゥ時空に侵されているとは言え、基本的にはスプリングには戦闘能力がない。
 そして今、ここのボスであるところのギギは透乃たちと対戦中だ。

「おそらく、その戦場は無意識的に避けるはず――どういう戦い方をしているのかは知らないが、あっちはかなり派手にやってるみたいだから……こっちはそれを避けて、通路の罠に注意していけばいい。
 俺達の目的はあくまでスプリング……罠を解除する時間がもったいないからな」
 この通路にはギギ以外のモンスターがいないとういうことも幸いだった。そのおかげで、ゆっくりと罠を感知していける。

「!! 一輝、あれ!!」
 コレットが指差した先を見ると、そこはドーム状に少しだけ広くなっている空間があり、そこにはスプリング・スプリングがいた。


「ふふふ……待っていたピョン、人間ども!! この春の悪魔、スプリング・スプリングが相手でピョン!!」


 頭からウサギ耳をひょっこりと生やした春の精霊は、もはや自分が何を口走っているかも判らない状態のようだ。
 無意識的な行動と口から出る言葉が必ずしも一致するとは限らない。自分の顕在意識的にはスプリングは悪魔の手先になったつもりなのだ。
 だが、自分に誰かと戦うだけの能力がないことは判っているので、あえて誰かに戦闘を仕掛けることはしない。

 スプリングにしては珍しい黒っぽい派手な衣装に身を包み、コレットよりちょっとだけ高い程度の身長でえへんと胸を張り、スプリングは一輝とコレットを迎えた。

「……ここにいたのか、スプリング……今は自分が何をしているかわからないかと思うが……一緒にここを出よう」
 一輝は、とりあえずスプリングに語りかける。
「ふん……一輝、何を言っているでピョン!! この通路に入ったが最後、お前らがここを出ることは……あ、お前何してるでピョン!!」

「あっ!!」
 一輝が話しかけている間に、コレットが『子守歌』でスプリングを眠らせてしまう作戦だったのだが、気付かれてしまったようだ。

「ええい、多勢に無勢でピョン!!」
 一目散に逃げ出すスプリング。逃げ出した先は一輝たちが通ってきた通路だ。
「あ、危ない――!!」
 咄嗟に一輝はエアーガンを構えた。
 慌てたスプリングが逃げ出した先には、先ほど一輝が付けておいた赤い印がある。そこには、刃のトラップがあるはずなのだ。このままだと、スプリングがそのトラップに突っ込んでしまう。


「――ごめん!!」


                    ☆


「こっち――だね」
 霧島 春美(きりしま・はるみ)は超感覚のウサギ耳を出して、混沌の通路を進んでいた。
 こちらも目的は同じ、まずはスプリング・スプリングの確保。
 どうやら別のところですでにギギとの戦闘が始まっているようだけれど、そこは彼女にとってさほど重要ではない。

「うん、ボクも感じるよ……あっちだね……ところで、トラップのあるところに点々と赤い印がついてるねー。
 誰かがつけてくれていたのかな?」
 パートナーのディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)も自前のウサ耳を駆使して、物音を探っていた。前方から誰かの話し声が聞こえる。

「あ――春美!!」
 ディオネアが叫ぶと、春美にもその状況が見て取れた。
 目的の人物であるスプリングが頭から血を流して倒れ、その傍らにスプリングを介抱するように一人の金髪の少女がいる。そして、その近くに銃を持った男が一人。


「スプリングちゃんに、何をするの!!」


 春美の行動は早かった。
 全力で前方にダッシュし、スプリングと少女を守るように男の前に立ちはだかる。
「――え? 何――」
 その男が何かを言おうとしたが、それを待つことはない。即座に春美の両手から歴戦の魔術が放たれ、その男を吹き飛ばしてしまった!!

「おわあああぁぁぁっ!!?」

 突然放たれた魔術に驚きながら、その男――天城 一輝は広間の端まで魔法のダメージを負って飛ばされてしまう。

「あ、一輝ーーーっ!?」
 スプリングを開放していた少女――コレット・パームラズも叫ぶ。
「大丈夫だよっ、悪党は春美に任せておけばやっつけてくれるからっ☆」
 近くにやって来たディオネアはコレットに話しかけ、笑顔を見せつつ、スプリングの様子を見る。
「あれ? これって……」
 スプリングの様子に違和感を感じ取ったディオネア。その疑問を解消するべく、コレットは春美の背中に叫んだ。

「待って待って待ってー!! トドメ刺さないで!! スプリングちゃんは気を失ってるだけ!! これペイント弾!!
 トラップに引っかかりそうになったところを助けただけなの!!」

「――へ?」
 春美は、その言葉に振り向き、一輝へのトドメを思いとどまる。
 突然、洞窟の壁に叩きつけられた一輝は、逆さになりながら、それでも呟いた。


「……事実確認をしてから攻撃してほしいもんだ……まあ……それだけスプリングのことを大事に思っている友達がいる、ということかも知れないが……せめてもうちょっと……」
 その呟きに、バツが悪そうな笑顔を浮かべ、春美は謝罪しながらも一輝の手を取る。
「あ、あはは。ゴメンねー、てっきりスプリングちゃんと女の子が襲われてると思ったものだから……」

「やれやれ……」
 立ち上がりながら、一輝は自分の指から指輪を一つ外し、気を失っているスプリングの指にはめてやった。
「――それは?」
 ディオネアの問いかけに、一輝は答える。
「デスプルーフリングだ。ナラカの瘴気にも耐えられるこの指輪なら、ザナドゥ時空の影響を軽減できるかも知れない。
 スプリングを起して、こんなところからはさっさと脱出しよう」
 だが、春美はその一輝に対して、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「あら――ただ脱出するより……もっといい考えがあるんだけど、な」
 と。