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冒険者の酒場ライフ

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冒険者の酒場ライフ

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「うるせぇヤツらだな。ま、酒場ってのは活気がなくちゃいけねぇ!」
 店内の喧騒に男気溢れるコメントを出し、おちょこに注いだ日本酒の冷やをグィッと美味しそうにあおるのはラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)である。
「よ、大将! 太っ腹だねぇ!!」
と、ラルクの前で声援を飛ばすのは朝霧 垂(あさぎり・しづり)
 おちょこを飲みきったラルクが、至福の顔で「プハーッ!」と言い隣を見やる。
「おい、垂。飲んでるか?」
「ああ、おまえが誘ってくれるまで、ずっとカウンターで一人飲んでいたんだ。マスターのお勧めから始まり、メニューに載っているアルコール系の飲み物を上から片っ端な」
「結構飲んでいるな……でも顔色一つ変わってないぞ? 強いのか?」
「それなりにな、おかげで今はいい気分だぜ」
 垂は酒場の開店と同時に来店し、閉店時間まで飲み続けるつもりであった。そうしていればマイペースで飲み続けていてもアルコール全品制覇は出来るんじゃないかと思っていたのだ。つまり、それくらい垂は酒に強かった。
「しかし、垂。酒場がオープンして、ここキマクあたりも便利になったよなぁー」
「全くだ。俺もたまの休日だ。教導団にいると普段は遊んだりする余裕が無いので、お金が貯まってしょうがないぜ」
「ちなみに、最初はビールだよな?」
「それ以外の選択肢はないだろう?」
 ラルクが満足そうに頷く。
「俺の大好物は日本酒だが、それでも最初はビールに限るよな! 冷えたヤツを喉に流しこみつつ、枝豆とかビーフジャーキーとかかじる。美味いよな!」
「ビールは冷えすぎても駄目なんだぜ?」
「そうなのか?」
「ああ、たまに安い店に行くと、コップまで冷やしてくるところがある。あれは駄目だ。ビールの味が一番生きる温度は……と、それより、こっちは大丈夫なのか?」
「ん? あぁ……俺達に勝負を仕掛けてきた本人が最初にヘバるってのは……」
 ラルクと垂が同時にテーブルの一角を見ると、大きなヤカンに手をかけたまま顔をテーブルに伏せて撃沈しているセーラー服姿の屋良 黎明華(やら・れめか)がいた。
「そう言えば、入店時もわざわざセーラー服で酒を頼んだから、店員に止められていたな……」
と、黎明華を見て垂が呟く。
「確か、黎明華が店員にありったけのウォッカを注文して、そこのヤカンにドボドボ入れたんだよな」
「それで……俺達に飲み勝負を挑んだのか……」
 
 ここで話はやや遡る。
「そなた、セーラー服姿だ。未成年にお酒は出せないぞ?」
 入店した黎明華の注文の応対に向かったアリサが渋い顔をする。
「ひゃっはぁ!! セーラー服着用だからって未成年じゃないから大酒のみも安心♪なのだー!!」
と、自身の身分証明書を提示する。
 アリサがそれを見て頷く。
「まぎらわしいぞ?」
「いいのだぁ! 今日はそんな気分で来たのだぁ!」
 黎明華が座ったのは、窓際の席であった。彼女はまず窓から見えるイコンを肴に、一献(イッコン)〜なのだ♪をする必要性があった。……と思われる。
 確かに。最新鋭の技術を集めて作成されたイコンと荒野が夕闇から黒一色へと向かう景色を眺めていると、人生の何かを深く考えそうなものだ。
 そんな考えがあったかどうか定かではないが、黎明華は今日は一人で静かに飲みに来ていたはずであった。
 ところが、杯を進めるうちに、酔いが回ってきた頃、突如「ひゃっはぁ〜」的な飲みっぷりで大暴れを始めたのだ。
 当然、セーラー服で一人酒を飲む黎明華は、店内でも異質の存在感を放っていた。それはカウンターでアルコール全メニュー制覇を目指し、一つ一つ味わいながら飲んでいた垂も知るところであった。
「夏……といえば、モヒートのカクテルなんて美味しそうだな」
と、今飲んでいたモスコミュールのグラスを空にしかかった垂が、それをオーダーしようとした時、カウンターにややへべれけになっている黎明華が現れた。
「こんばんはーなのだー!!」
「……ああ」
 垂が黎明華に小さく頭を下げる。
「キミ、飲んでるかーなのだー?」
「見りゃわかると思うけど……」
 垂のいるカウンターには空いたグラスが数多く並んでいる。垂の飲むペースに洗い物が追いついていない証拠であった。
「マスター、黎明華に例の裏メニューをお願いするのだー」
「裏メニュー?」
 アルコール全メニュー制覇を目論んでいた垂には、聞き捨てならない言葉であった。
「そうなのだー」
と、黎明華がヤカンを取り出す。
「それは?」
「ここにはウォッカがなみなみと入っているのだー。ここに……」
と、蓋を取り、マスターが差し出した秘密兵器のキマク印のミルクをどぼどぼ〜と入れていく。
「ミルクとウォッカだと……?」
 シェイカーすら使わないのか? と聞きたい垂。
「ふふふ……あとはヤカンをブンブンぶん回して、出来上がり〜なのだ!」
と、蓋を閉じたヤカンを大車輪の如く振り回した黎明華が、その口を直につけて、
「ゴキュゴキュゴキュッ……プァッハー!! おいひいのら〜〜〜♪」
「……マスター、俺もアレをグラス一杯貰おうか」
 しかし、マスターが首を横に振る。
「ん? どうしてだ?」
「ひゃっはぁ!! 今ので黎明華が店中のウォッカを全て使っちゃったから、もう無いのだー!!」
「……一杯くれよ」
 垂に、にぱーと笑った黎明華が頷き、
「じゃあ、黎明華と飲み比べをするのだー!! キミが勝ったら、この新キマク名物やられめかをあげるのだー!」
 そして、黎明華の挑戦はラルクにも同様に向かった。
 丁度、生ビールを十数杯空けて気の良くなったラルクもこれを受ける事にした。
 今から3時間程前の話である。