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冒険者の酒場ライフ

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冒険者の酒場ライフ

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 場所は変わってここは店内。
「店員さん〜!」
 秋月 葵(あきづき・あおい)の声に、荒れる店内をかいくぐるようにやって来るくらら。
「はい! ご注文でしょうか?」
「私、ミルく、モゴッ!?……ぅぐぐぅ……」
 フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)が葵の口を咄嗟に手で塞ぐ。
「主よ、冒険者の酒場でミルクはダメじゃ……お約束でゴロツキに絡まれるからな。無駄な争いは御免じゃ」
と、諭すように言う。

「えっと……」
 困惑の表情を見せるくららに、フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』が赤い瞳を向ける。
「うむ。何でもない。そなたも下がっていいぞ?」
「は……はい、失礼しましたー」
と、下がるくらら。
「もう! 黒子ちゃんはお酒飲めるからいいけど、あたしは駄目なんだからね!」
と、目の前にある黒い液体が満タンに入った自分のグラスを見つめる葵。
 そもそも葵は、無銘祭祀書がお酒を飲ませろと五月蝿いので、気になっていた蒼木屋へ行く事にしたのである。
「主も飲めばよかろう。と、いうより、先程まであんなものを色々と飲んでいたから……酒ではモノ足りんかもしれんな」
と、顔色一つ変えずにひたすら飲み続ける無銘祭祀書。

 先ほどまで、つまりドリンクバーが壊れる前までは、無銘祭祀書が酒を飲む傍ら、葵はドリンクバーでの危険なミックスを色々楽しんでいた。
「相変わらず、主は冒険的な飲み物を試しておるな……」
と、酒のグラスを空にした無銘祭祀書。
 だが、葵へドリンクバーを楽しむがいい、と指示をしたのは彼女自身であった。
「主は、お子ちゃまだからな……うむ、そこのドリンクバーで好きなドリンクを飲めばよかろう」
と、無銘祭祀書がドリンクバーを指さす。
「えっ、ドリンクバー?……たしか自分の好きなように混ぜて飲み物を創るシステムだっけ? あと最低でも二種類は混ぜないとダメって聞いたことあるような?」
と言いつつ、既に葵の足はドリンクバーへと向いていた。
 そこで通りかかった店員を呼び止める。
「なんとなくキャラが被っている、そこの店員。注文良いか?」
「なんだ?」
 呼び止められたのはアリサである。
「うむ、黄金の蜂蜜酒(クトゥルー神話系のアイテム)を一杯貰おうか」
 ドリンクを手に席に戻ってきた葵が、その無謀な注文にすかさずつっ込む。
「そんな危ないお酒置いてないよ!」
「いや……」
 二人を前にアリサが口を開く。
「確か……店の倉庫に一つ……」
「ん?」
「しかし、アレは既にボトルキープされておる。すまないな」
 アリサの言葉に葵が胸をなで下ろす。
「無いのか?……うーむ、仕方ない……じゃあ、この店で一番強い酒を頼む」
「わかった」
と、アリサを見送った無銘祭祀書が葵の持ってきたグラスを見つめる。
「それで、主よ……そなたの持つその禍々しい色の飲み物は何だ?」
「これ? へへへ、美味しそうでしょ?」
 葵は、これまでも意欲的なドリンクバーのミックスを楽しんでいた。
 例えば、ホットコーヒーとメロンソーダを混ぜた苦さと甘さ、熱さと冷たさの最先端、ゲル状の何かが浮かんだコーヒーメロンソーダとか、千種みすみが絶賛したという空前絶後の甘さを誇るレシピ不明のハチミツフルーツティー等々……。
そして今回の新作は……。
「今度は何を混ぜたのだ?」
「コーヒーとコーラとオレンジジュース!! あ、コーヒーはアイスの方だよ?」
「……ホットで死にかけた教訓は生きているようだな」
 葵が限りなく黒に近いその液体をストローですする。
 笑顔のまま、葵は頷く。
「どうだ?」
「うん、不味い!」
「……もう一杯か?」
「ううん! 絶対ダメ!!」
 果敢なる葵の挑戦を一口で退けた黒い液体であった。

「これ以上飲みたくないので現実逃避しちゃおう〜!」
と、突然葵が席を立つ。
「主よ、どこへ行く?」
 無銘祭祀書が葵を見る。
「うん、黒子。ほら、ステージもあるし〜あたしが上がって歌っちゃおうかなって」
「……この状態でか?」
 店内は相変わらずミルク旋風が吹き荒れ、殺伐とした空気である。
「だからじゃない? じゃ、ちょっと行ってくるね〜!!」
 無銘祭祀書が止める間もなく、葵がステージへ駆け出す。

「みんなー私の歌を聴け〜♪」
 ステージに上がった葵が、用意していたマイマイクに機晶シンセサイザー、光精の指輪で光の演出してライブ開始する。
 元々、地面に着きそうなツインテールに、大きな蒼いリボン、フリル一杯の改造制服を着た、嫌でも目立つ葵に、客の注目が集まる。
 そして、スキルの【激励】とか【幸せの歌】も織り込んだ葵の歌に、次第に暴れていた客の一部が盛り上がりだす。
「「「うおおおおぉぉぉーー!!」」」
「まぁ……主の歌で一杯やる、というのも乙なものか」
 無銘祭祀書は楽しそうに歌う葵を、グラスを傾けつつ眺めるのであった。