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第六章:敵の敵は味方!?
 夜の月をバックに闇夜を飛ぶ、巨大な注射器に載った人間のシルエット。
 レティ・インジェクターに仁王立ちで乗り、蒼木屋から少し離れたところまで偵察に出ていたのは、警備員のルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)である。
「酒場を安定的に運営するためには、貴方達のような影の存在が必要不可欠なのよ」
 仕事前、ルカルカに言われた言葉をルーシェリアは忠実に守っていた。
 振り返ると、蒼木屋の見せから漏れる灯りがまた一段と強くなった気がした。
「みんな、楽しくお酒を飲んでるみたいですねぇ。うんうん、良かったですぅ」
 ルーシェリアの金のポニーテールが揺れる。
 その時、荒野を歩く二体のゴブリンを見つけたため、ルーシェリアの表情が一変する。
「それにしてもぉ……今日はゴブリンやオークがよく出る日ですねぇ」
 深緑の槍を手に持ち、上から滑空するかの如く、降下していく。
「ヤァッ!!」
 火術で牽制をかけた後、槍でなぎ払うルーシェリア。普段、のほほんとした彼女からは想像出来ない機敏さと身のこなしである。
「ゴブリンさん達ぃ、どうしてそうやってお店を襲うんですかぁ!!」
「チガウ!! チガウ!!」
「へ?」
 ルーシェリアが槍をピタリと止める。
 ゴブリンがルーシェリアに首を振る。
「ミセ? チガウ、オラタチ、ニゲテキタベサ」
「アイツ、スンゴクアバレンボウ」
「……あいつぅ?」
―――ズズゥゥゥーーンッ! ズズゥゥーーン!!
 荒野に足音が響く。
「あいつって誰ですぅ?」
「マンモス」
パラミタマンモス
「……え」
 月に照らされていたルーシェリアの顔が影になる。
 恐る恐る振り向くと、立派な牙を持つパラミタマンモスがルーシェリア達を見下ろしていた。
「パォォオオオォォーーンッ!!!」
「これは……また大物ですねぇ」
「アイツ、オレタチガシッポフンヅケタ」
「ダカラオコッテルベ」
「……なるほどぉ」
と、ルーシェリアが素早く光術を使う。
 照明弾のように、周囲が一瞬昼の景色を取り戻す。
「あなた達は、早く逃げるですぅ!!」
「オマエハ?」
「ここで足止めするですぅ!」
と、ルーシェリアが槍を構える。
「シヌベ?」
「いいえぇ、今ので、仲間が駆けつけてくれますからぁ」
 ゴブリンに笑いかけたルーシェリアが、俄然戦闘モードに入ったパラミタマンモスに向き直る。
「そう簡単にはやらせないですぅ!!」
 ルーシェリアはゴブリン達を逃がすため、孤独な戦いに身を投じるのであった。


 ルーシェリアが放った光術の照明弾は、蒼木屋にいる長原 淳二(ながはら・じゅんじ)如月 芽衣(きさらぎ・めい)に届いていた。
「合図?」
 店内の手洗いから蒼木屋の駐車場の一角に設けられた警備員用のイコンハンガーへと戻った淳二に、疾風迅雷のコクピットに既に乗り込んでいた芽衣が叫ぶ。
「せや! ルーシェリアさんの合図や!」
「巨獣が出たのか……ゴブリン程度なら、ルーシェリアなら問題ないだろうし」
「もう、淳二!! 分析は後にしぃや!!」
「わかってるよ! ……でも猛達は?」
「さっき、一狩り行くって言うて出ていったやろ?」
「あー、そっか。了解」
 淳二がクェイルのコクピットへと急ぐ。
 既に芽衣がイコンの起動準備をスタンバイしていたため、淳二が乗り込み、操縦桿を握ると同時に、イコンの疾風迅雷が荒野へと発進する。
 暫く飛ばした後、淳二がふと、ある事に気付く。
「そういや、芽衣。武装って……」
「は?……ああぁぁ!! 慌ててたから、忘れてもぅたぁぁぁ!!」
「……ま、力押しで何とかなるかな。運が良けりゃ……」