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第七章:店の名は……
 ヒトデ料理を意を決して食し、そのまま涙と共に『小料理るる』を去り、酒場へと戻ったセルシウスが、やっと元の自分のトーガを着て安堵の表情を見せる。
「やはり……私にはこれだな……む!? 何だ?」
と、顔を向けると、ステージ前に集まった客達がルカルカを前に抗議している。
「女将勝負はどうなってるんだよー!」
「早くしろよー、それが見たくて来たんだぞ!?」
 裏で仕事をしていたルカルカは、ステージに上がり客に釈明をする羽目になっていた。
「(何でルカルカがこんな目に……アコー、早く来なさいよねー)」
「しょうがないわね……ちょっと私が時間を稼いであげるわ」
「え?」
 ルカルカが見ると、カウボーイならぬカウガールのステージ衣装に身を包んだ出で立ちの胸が大きい金髪の少女が登場する。ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)である。
「ローザマリア……?」
「これで貸し、一つね?」
 ローザマリアがルカルカにウインクする。
「ええ、お願いするわ」
「任せて! どっちにしてもパートナーが女将の試練を受けに行ってしまったので手持無沙汰でポツーンだったから」
 ステージに置かれた椅子に腰かけ、優雅に足をくみながら膝の上にアコースティックギターを乗せて演奏するローザマリア。
 荒くれ者の集う酒場らしい、それでいて静かだが趣きのあるウェスタンチックな曲をギターで爪弾き、歌う。
「ほう……」
「これはなかなか……」
と、文句を言っていた連中が腰を下ろしていく。
 ライブというよりは流しの演奏になっている気もするが、そこは気にしない方向で歌うローザマリア。彼女自身に適度なお酒が入っており、歌ううちに雰囲気が陽気に上向いて来る。
「じゃあ、次の曲、行くわよ?」
と、今度は少し曲調を穏かにして、『幸せの歌』をカントリーソングに乗せて弾き語りを始める。
 勿論、乱闘も想定していたローザマリアである。
 事が起きれば、曲調、歌詞ともに陰鬱さを醸し出し20世紀の初めに発禁まで喰らい、自殺ソングとすら呼ばれた伝説のシャンソン『仄暗き週末』を恐れの歌に乗せて歌い上げるつもりであった。
 ステージで歌うローザマリアに、沈静化していく客達。
 彼女が歌い始めて3曲を過ぎた時だろうか、ステージから見える店の扉に、董卓とルカアコの姿が見える。
「(オッケー! 何とか繋いだわね)」
 ステージ側で見守るルカルカにウインクするローザマリア。
 ルカルカが苦笑して返す。
「(ううん、繋ぎ以上よ。盛り上げてくれてありがとう)」
 歌い終えたローザマリアは拍手と共にステージを降りていく。
「バンド活動もしてるから其方も宜しくね」と、言い残した彼女のインパクトはこの日の846プロにも負けていなかったと、セルシウスは感じていたのだった。


 そしていよいよ、物語はクライマックスへと向かう。
 そう、この蒼木屋シャンバラ国境店の店名となる女将勝負が幕を開けるのであった。