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パラミタ自由研究

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そのころ、シャンバラ教導団では……

 
 
「ふあぁーぁっ……うわっ!」
 すがすがしい朝の目覚めを迎えた……はずのレオン・ダンドリオン(れおん・たんどりおん)は、ベッドサイドに正座して一列にならんだ天海 護(あまみ・まもる)天海 北斗(あまみ・ほくと)天海 聖(あまみ・あきら)の姿を見てちょっとぎょっとした。
「北斗たちか、こんな所で何をして……」
「おはようございます、少尉!」
 驚いたレオン・ダンドリオンが訊ねようとするのを、天海三人衆がはきはきとした声で遮った。
「おっ、おはよう……ああ、そういやあ……」
 24時間密着取材とかを許したんだっけかとレオン・ダンドリオンは思い出した。恋人の天海北斗の頼みだからと軽い気持ちだったのだが、これは、大失敗だったのだろうか。なんでも、天海護が早く尉官に昇進したいので、自分の行動を記録して手本にするというレポートを作るという話だったのだが……。
「……」
 じっと自分たちを見つめているレオン・ダンドリオンに、天海護たちが顔を見合わせた。
「やっばり、目覚めたときに隣に北斗が寝ているというシチュエーションの方がよかったのでは?」
「僕もそう思ったよ」
「ええっ、そうだったんかなあ」
 なんだか、不穏当な会話を天海三人衆が交わす。
「着替えるから出てけ」
 短く、レオン・ダンドリオンが言った。
「もちろん、それも記録させていただきます」
「なんなら、北斗に着替え手伝わせるよ」
「ええっと……」
 少しも動じることなく天海三人衆が答える。
「でてけー」
 当然、問答無用でレオン・ダンドリオンは三人を追い出した。
「まったく、なんて朝だ」
 トレーニングウエアに着替えたレオン・ダンドリオンがほどなく現れた。
「オレじゃ、添い寝とか、着替えは嫌だったのか……?」
 ちょっと悲しそうに、待っていた天海北斗が言った。
「こいつらが邪魔なんだよ!」
 そうじゃないと、レオン・ダンドリオンが天海護と天海聖を両手で指さした。
「俺たちのことはお構いなく」
「ええ、そうですよね譲兄さん」
「構うわあ!」
 ニッコリ笑う天海護と天海聖をかき分けて、レオン・ダンドリオンが靴を履き始めた。
「どこへ行くんだい?」
「よーし、全員ついてこい。まあ、ついてこられたらだがな」
 言うなり、レオン・ダンドリオンが走りだした。朝の日課であるジョギングである。
 軽く教導団宿舎の周囲を回ってきた後、シャワーで汗を流す。
「背中流すぜ」
「お前、水はだめだっただろが」
 バスルームに一緒に入ろうとする天海北斗をレオン・ダンドリオンが外にポイした。
「やっぱり、オレじゃだめなのか……」
「こいつらがだめなの!」
 ちょっと涙目の天海北斗に、レオン・ダンドリオンが血走った目でこちらを見つめている天海護と天海聖を指さした。
 さて、なんとか天海三人衆の好奇の目を逃れると、レオン・ダンドリオンは夏期講習にでかけていった。シャンバラ教導団としての日々の戦闘訓練である。このへんは、程度は違うとはいえ、天海三人衆も普段やっていることなのでなんとかついていく。
 だが、続いてはちょっときつかった。士官専用の戦略講習である。一応、自由研究のテーマと言うことで聴講を許されるが、はっきり言って上のレベルの授業なので少しちんぷんかんぷんだ。
 どうやら、今日のテーマは、補給路の確保とそのネットワーク構成と守備部隊の動的配備という講義らしい。夏休みなので少しイレギュラーの講義らしいが、指揮官ともなると最低限この程度の作戦指揮は求められるということなのだろう。
 昼は、さすがにレーションということはなく、食堂で食べることになる。ここでも、士官はメニューが候補生とは違っている。それ以前に、専攻する学科によって、適正にカロリー計算された食事となっているところが実に教導団らしいところだ。もっとも、かなりメカ分が多い機晶姫の天海北斗と天海聖は食物を摂取できないので、形だけ御相伴であったが。
 午後は、せっかくだからということで、レオン・ダンドリオンが天海北斗の買い物につきあってくれた。その後を、天海護と天海聖が興味津々でこそこそっとついていく感じだ。まったく、これでは、気が休まることがない。
「なあ、これ明日も続くのか……」
「もちろん!」
 天海三人衆の元気一杯の返事に、レオン・ダンドリオンは深い溜め息をついた。
 
    ★    ★    ★
 
「危ないじゃん、邪魔だよ邪魔!」
「どっちがですか。レイナの方がよっぽど邪魔です」
 レイナ・アルフィー(れいな・あるふぃー)と、パワードスーツを着たレイヴ・リンクス(れいう゛・りんくす)は、お互いに何やら大きな銃を持って教導団寮の前で言い合いをしていた。
「こら、何を騒いでいる」
 騒ぎを聞きつけて、寮の風紀を取り仕切る寮監のジェイス・銀霞がやってきた。
「すいません。レイナがとっても邪魔くさい銃を作ってしまったので、ぶつかりそうだったんです」
「何言ってんのよ、レイヴのガラクタの方がよっぽど邪魔くさいじゃん。だいたい、パワードスーツ着ないと運べない銃って何よ、すでに銃じゃないじゃん。ただの大砲よ」
 一応謝るそぶりを見せつつも、二人共口撃の手を緩めない。
「なんの話だ?」
 ちょっと困惑気味にジェイス・銀霞があらためて訊ねた。
「夏休みの自由研究で改造銃を作ったんです。題して、「ぼく・わたしのつくったさいきょうのじゅう」です。で、どっちが高性能かという……」
「ほう、少し面白そうだな。どれ、コンセプトを説明してみろ。まずは少尉からだ」
 ちょっと興味を持ったジェイス・銀霞が、レイヴ・リンクスに言った。
「はい。僕のコンセプトは火力と制圧力です。ベースはスナイパーライフルにしました。まず、火力を強化するために、12.7mm弾を使用、50口径に変えてあります。給弾方式はオートマチックを採用し、装弾数は100。補助兵器としてアンダーバレルにリボルバー型のグレネードランチャーを装備しました。欠点として全体重量が増してしまったため、運用はパワードスーツ装着者を基本としています」
「ふむ。火力としては申し分ないが、やはりイコンに対しては足りないな。かといって、対人では強力すぎる。オーバーキルは格好いいと思う者もいるかもしれないが、効率を考えるとはっきり言って無駄だ。その弾薬は実に高いぞ。その仕様だと、本来なら1km以上先の目標に対して使いたいところだが、そうするとグレネードは意味がないな。だいたい、砲身の冷却が考えられていないし、スコープもそれに適した物がつけられているわけでもない。火力が高い分、マズルフラッシュの対策も不十分だ。アウトレンジから敵を接近させる前に叩くというのがスナイパーの鉄則だが、このままではスナイパーライフルとしては不完全だな。その意味では、パワードスーツ用の対物ライフルとして使用する方が望ましいだろう。次」
「こっちのコンセプトは精度と射程だよ。銃弾は通常の7.62mmを使用、命中精度を高めるために超ロングバレルにしたんだよ。安定性を高めるためにアンカーつきのバイポットを装備。基本はグランドに固定して使用。スコープは精密射撃用に大口径スコープに暗視機能・熱探知機能を付加して、レーダー測量で弾道計算ができるようにしてあるんだよ」
「ふむ、理論的にはバレルが長い方が安定して初速も出るが、はっきり言うとさっきのライフルと全長は大差ないな。問題は、銃弾の大きさから命中精度のわりには環境に左右されやすいと言うことか。運用面から言えば、こちらの方がスナイパーライフルらしいとも言えるが……」
「でしょでしょ」
 ジェイス・銀霞の評に、レイナ・アルフィーが身を乗り出す。
「基本的に、射程だけを言ったら、前者だ。だが、有効射程を考えたら、その運用方式から言って後者だろう。ただ、相当の技術は必要とするがな。だが、相手によっては、後者ではこのパラミタでは威力が足りない可能性が充分にある。その意味では、前者の火力は魅力的だ」
「あのー、いったいどっちがいいって言ってるんでしょうか」
 なんだかどっちつかずだと、レイヴ・リンクスが聞き返した。
「私の考えた最強の銃としては、どちらも失格だな」
「ええーっ」
 ジェイス・銀霞の答えに、二人が顔を顰めた。
「まず、最強の銃なんて物は、その考え自体が古くさいと言うことだな。状況に最適の銃というものは存在するが、オールマイティに最強の銃などという物は存在しないと言うことだ。有り体に言ってしまえば、屋内の乱戦状態であればハンドガンやデリンジャーなどの方がよほど現実的だな。180度回頭もできないような武器では屋内で移動する部隊の役にはたたん。スナイパーライフルとしては、前者の性能は魅力的だが、パワードスーツとはいえ手持ちでは有効射程はたかがしれている。むしろ、前者を素体として、後者の補助装置を付加した上でより完全なスナイパーライフルを目指すか、前者をパワードスーツ専用にアセンブリして近中距離用に絞り込むかだな」
「最初からそのつもりでした」
 火力で押すということは連射も計算していたので、端から長距離用ではないとレイヴ・リンクスが反論する。
「本当にそうか? 重くなったためにパワードスーツ用にしたと言っていたではないか。つまり、最初からパワードスーツ用に作ったのではないと言うことだ。本来なら定点設置用の兵器を、パワードスーツによって携行兵器に転用するのであれば、それなりの工夫がいると言うことだな。二つとも兵器としてはさほど遜色はない。要は運用方法を考えてあるかどうかと言うことだ。そのへんの報告書を纏めれば自由研究としては充分に及第だろう」
 要は、どの局面であれば最大威力を発揮できるかということである。それこそが最強の銃の条件でもある。また、それを把握してこその最強の射手だということだ。
「銃を使っても、銃に使われてはいけないってことかな」
「じゃあ、それで作り直して再戦だよ。とりあえず、今回はワタシの勝ちということで」
「どうしてそうなるんです!」
 うやむやに勝ったことにしようとするレイナ・アルフィーに、レイヴ・リンクスがそれはずるいと叫んだ。