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パラミタ自由研究

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パラミタ自由研究

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    ★    ★    ★
 
「うーん、ここはいったい……。はっ、なんで縛られている!?」
 目を覚ました鬼頭 翔(きとう・かける)が、身体をガタガタとゆすって脱出しようとした。だが、椅子に座る形で、縄によって全身が芋虫のように徹底的に縛りあげられている。少し暴れた程度では、多少椅子がガタガタと音をたてるだけであった。大ピンチである。それにしてもいったい誰が……。
「うっ、なんだこの臭いは……」
 落ち着いて周囲を見回してみると、にこやかに会話しながら何かを煮詰めている鳴神 裁(なるかみ・さい)カミーユ・ゴールド(かみーゆ・ごーるど)の姿があった。
「おっ、目を覚ましたようですわ。お帰りなさい……」
 カミーユ・ゴールドが、鬼頭翔の後頭部をなでなでした。ハート型に刈り込まれた鬼頭翔の後頭部には、バーコード模様の契約の印が走っている。
「お帰りなさいじゃない、いったい何をした!」
「今度は大丈夫だから……多分」
 説明しろと叫ぶ鬼頭翔に、カミーユ・ゴールドが言う。
てゃあっ
 何やら、鍋の前で鳴神裁が気合いを入れていた。不思議なことに、何もない空中からぼたぼたと謎の青い液体が滴り落ちて下の鍋に溜まっていった。見た目、激しくホラーである。
 実際には、蒼汁のフラワシから絞り出された粘液なのであるが……現実は時としてよりホラーだったりするのかもしれない。鬼頭翔にフラワシが見えないのは幸せだっただろう。それはもう……。
「今度の健康食品はきっと大丈夫だよー。パラ実養蜂場の三郎さん印のロイヤルゼリーだから。きっと美味しい青汁ができるから」
 自慢げに煮詰めていく鳴神裁であったが、青汁と呼称したその液体は、どう見ても青くなくなってきている。どちらかというとどす黒い黄色だ。
いいねいいね、燃えてきた
 まるで魔女の大釜のように鍋をかき回す鳴神裁は絶好調である。
「ちょっと待て、今まで、それを俺に飲ませていたのか!?」
 あらためて真実に気づいた鬼頭翔が叫んだ。
「だって、そこの人が、実験台をお探しなら、このハートバーコードをどうぞって言うんだもん。ねえ、君、強そうだねー。大丈夫だよ、いい夢見せて、あ・げ・る♪」
「覚めない夢なんか見たくねー!!」
 叫ぶ鬼頭翔の口に、鳴神裁とカミーユ・ゴールドが自称青汁をドボドボと流し込んだ。
 
「ここはいったい……」
 どこまでも続くお花畑に鬼頭翔は立っていた。
 あてどなく歩いて行くと、少し先に川が見えた。
「ああ、あっちは綺麗だな……」
 誘われるように、鬼頭翔は川に近づいていった。なんだか、こっちにはもう戻りたくない……。
「待ってください。これを食べてくださいませんか?」
 ふいに、鬼頭翔に声をかけてきた少女がいた。カチューシャをつけた赤い髪を左右で細く縛り、本をかかえた碧眼の少女だ。
 なぜか、少女の手の中で、本がカレーに変化した。
「むこうに渡る前に、わたくしのカレーを食べていただけませんか」
「カレーか。謎青汁よりどんなにいいことか。ゴールする前に、食べてみたいかもなあ」
 ちょっと興味を引かれて、鬼頭翔は立ち止まった。
「だったら、わたくしと一緒に行きましょう。でも、決して振り返ってはいけませんよ」
「ああ」
 誘われるままに、少女と手を繋いで、元来た道を戻っていく。
 ずるっ、どろっ、ごにゃーぽ……。
 ふいに、背後から不気味な音が聞こえてきた。
「振り返ってはだめです。振り返らないで」
「あ、ああ……」
 ずるっ、どろっ、ごにゃーぽ……。
 でも、凄く気になる。
 誘惑に耐えきれず、ついに鬼頭翔は振り返ってしまった。
「ああっ、だめだと言いましたのに……」
 急に世界が暗くなって、少女の姿があっという間に遠ざかっていってしまった。
「つ・か・ま・え・た♪」
 振り返った鬼頭翔に、カミーユ・ゴールドがだきついてきた。
「さあ、戻りましょう、エンドレスワルツのステージへ……」
 
「ぶふぁあ!!」
「あっ、蘇生いたしましたわ」
 全身から悪い汗を滴り落としながら、鬼頭翔が現世に戻ってきた。
「次、もうできてるよー。ごにゃーぽ、いっくよー
 嬉しそうに、新たな鍋をかかえた鳴神裁が言った。
 
    ★    ★    ★
 
「どうです、二人共、ちゃんとレポートはできましたか? ん? なんです、この匂いは」
 ティー・ティーたちの様子を見に来た源 鉄心(みなもと・てっしん)が、部屋にたちこめるカレー臭にちょっと戸惑った顔をした。
「確か、レポートを書いていたはずでは……。どうして料理教室になっているんです」
「えーっと、イコナちゃんの本文を再現してたらこうなりましたー」
 悪びれることもなく、ティー・ティーが答えた。
「それで、当人はどうしているんです?」
「えっと……」
 源鉄心に聞かれて、思い出したようにティー・ティーが捜すと、イコナ・ユア・クックブックは部屋の隅で眠りこけていた。
「ああ、すみません。なぜか、お花畑でカレーな夢を……」
「この臭いで悪夢を……」
 かわいそうにと源鉄心が言う。
「ちょっと、ちゃんと食べてから評価してください」
 食べもしないでその台詞は酷いとティー・ティーが非難する。だが、ユア・クックブックの解析レポートという初期の目的はどこに行ってしまったのだろう。
「うん……。味は悪くないですね。とりあえずは、及第点は出すということにしますか」
 チキンカレーを食べながら、源鉄心が言った。