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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース
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リアクション

 
 
 
 ■ コース紹介 ■ 雑貨屋『ヌーヴェル・プレズィール』 木霊の森〜
 
 
 
 上空
 
 
 
「では、最初の角を曲がってからの主な施設を紹介していくわね。まず最初にあるのが雑貨屋『ヌーヴェル・プレズィール』。日用品などの生活雑貨を中心に取り扱っているお店よ。その隣、大きな煙突のある木造の建物がアニムスの錬金工房。幅広いものを、錬金術で加工して作っているそうよ」
 上空では裕奈が実況を続けていた。実際にドラゴンが飛ぶ辺りをバルに飛んでもらいながらの説明だから、どんなところでレースが行われるかを伝えるにはもってこいだ。
「その次に見えてきたのは醸造所『醸す蔵』。ここで獣人の村の地酒が出来るみたいだから、楽しみにしてる人も多いんじゃないかしら。その向こうに続いている緑の地帯は、水霊の沢と木霊の森。どちらも自然がたっぷりと残っているわね」
 
 
 
 アニムスの錬金工房
 
 
 
「【アニムス錬金工房】へようこそ! ここでは森や高山、荒野で採れた物を錬金術で加工して販売しております。今回はレースにあわせて特別な物品も販売しておりますので、ぜひお買い求めになってください」
 店の前に設置されたテラスにいたウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が、どうぞとアレクスを招き入れた。
 テラスには日の光が明るく差し込んでいる。
「こんにちは。店長のアニムスですよ」
 今日は外で調合を行っているアニムス・ポルタ(あにむす・ぽるた)が、アレクスとウィングが近づいてくる気配に振り返った。
「こちらでは錬金術の体験ができます。体験出来るのは毎時間1人限定となりますが、見学は何人でもできますので、どうぞ見ていって下さいね」
「これが材料なのかにゃう?」
「はい。今回はタイガーアイという鉱石を触媒にして、森で採れる薬草を調合します。これならそんなに難しくないし、調合の過程で爆発することもないから、体験にはもってこいなんですよ」
 この錬金工房で爆発の煙があがることも稀ではないけれど、体験のときに爆発したら皆を驚かせてしまう。だからと、アニムスは今回は失敗の可能性の少ないものを選んでいた。目的は錬金術を教えることではなく、どんなものなのか興味をもってもらうことなのだから。
「もしよろしければ、こちらへのご協力もお願いします」
 アニムスの手伝いをしていたジーナ・竜胆(じーな・りんどう)が、取材に気づいて募金箱を示した。募金箱には、復興支援へのご協力をお願いします、と書かれていた。
「あちらでは、錬金術で作られた食べ物などもあります。一度食べてみてくださいね」
 ウィングがあちら、とさした所では『旅人の書』 シルスール(たびびとのしょ・しるすーる)が森で採れたものを加工した料理を作っていた。
「錬金術とは、卑金属を貴金属に変換することだけを指すんじゃないんだ。使えないものを使えるように、売れないものを売れるように加工する技術のこともボクはそう言ってるんだよ」
 シルスールは、身体には良いけれど渋すぎたり苦かったりするものを森で採取してきて、それを食べやすいように加工して販売していた。体験はできない代わり、目の前で調理して提供している。
「できたての、魚の薬草包み焼きはどうかな? 手でもって歩けるからレース観戦しながら食べられるよ」
「身体に良さそうなにおいがするにゃう。ここではいろんなことをやってるみたいだから、見学するのも良さそうにゃーう。以上、【アニムス錬金工房からお伝えしましたにゃう」
 
 
 
 醸造所『醸す蔵』
 
 
 
「ここも食べ物を売ってるみたいにゃう。こんにちはにゃう」
 アレクスが入っていった【醸造所『醸す蔵』】では、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が『シャンバラの伝統』の、同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)が『シャンバラの現在』のコンパニオン衣装で来店する人々を迎えていた。
「こちらでは、ビアと馬乳酒、葡萄ジュースの試飲、醸造所の味噌を使った鹿肉のみそ焼きとチーズの試食をしています」
 祥子が試食品を載せた盆をカメラの前に差し出した。
 醸す蔵は今年できたばかりの施設だから、残念ながら初めてのワイン、ヌヴォーの解禁はまだまだ先の話だ。
 代わりに、ワイン醸造用の葡萄をそのまま搾ったジュースを提供している。ジュースの味は、それから作られることになるワインに期待するに十分なほど濃厚だ。
 試飲、試食をした人にもおおむね好評なようだったが、何度も試飲や試食だけを繰り返す人には、やんわりとお断り。
「すみません。こっちは試食や試飲だけで、販売はあちらになります」
 試食品をそっとその人から遠ざけると、祥子は静かな秘め事が販売しているコーナーへとその人を促した。
 試食品の量には限りがあるから、独り占めされると多くの人に試してもらうことが出来ない。それに出来れば、代金を払ってでも欲しいと思ってもらえる方が嬉しいというものだ。
「鹿肉のみそ焼きですわね、かしこまりました。こちらでお召し上がりですか? それともお持ち帰りになりますか?」
 イートイン用とテイクアウト用で分けてある為、どちらにするかを聞いた後、静かな秘め事は注文された商品を用意する。
 蔵の中には鹿肉と味噌の焼ける匂いが漂って、訪れる人の食欲を刺激する。
「お客さんの入りはどうなのにゃう?」
「お陰様で盛況よ。村の人に応援を頼んで正解だったかも」
 人手が足りないかも知れないからと、今日は村の獣人にも手伝いを頼んである。だから訪れる人の数が多くても醸す蔵にはあまり混乱は見られない。
「それは良かったにゃう。これからもがんばってにゃーう。以上、【醸造所『醸す蔵』】さんからお伝えしましたにゃう」
 中継のアレクスはまた別の施設を紹介する為に店を出て行った。
 
「こんにちは祥子、調子は良さそうだね」
 中継が終わるのを待って、樹月 刀真(きづき・とうま)は祥子に声をかけた。
「ええ、有り難いことに売り上げは上々よ。今は万博とドラゴンレースでの人だかりだけど、それがなくても賑わうようになって欲しいわね」
「それにはまず、美味いものを売ることが必須だな。どれ、我が味見してやろうぞ」
 玉藻 前(たまもの・まえ)は祥子の配っている試飲用の飲み物を味見すると、その中のいくつかを選ぶ。
「ん、この馬乳酒と……それから酒に慣れない者でも飲みやすいビアも貰っておこうか」
「確かに慣れないと馬乳酒の臭いと酸味はきついかも知れないわね。ビアはどれがいいかしら。飲みやすいというと、苦みを抑えたのがこれだけど……」
 そうして買う物を選ぶ玉藻の様子を、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は気になる様子で眺めた。
「玉ちゃん何か嬉しそう。そんなにここのお酒は美味しいのかな? 私も試しに飲んでみようかな」
 自分も買ってみようかと酒を選ぼうとする月夜を、刀真が玉藻に見つからないようにこっそりと止める。
「いや月夜、あの酒は俺たちと一緒に飲む用だよ。やれやれ、嬉しそうに選びやがって……」
「玉藻さんきっと刀真さんたちとお酒を飲めるのが嬉しくてたまらないんですね。私も楽しみです」
 封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)にも言われ、月夜はそうだったのかと改めて玉藻の様子を見た。
「そうか〜私たちと一緒に飲めるからあんなに嬉しそうなんだ。それなら私も凄く嬉しいけど何だか照れちゃうよ」
 月夜は酒を買うのはやめにした。皆で飲む為の酒を玉藻が選んでいるのならここは任せて、一緒に飲むのを楽しみにしていた方が良い。
「あまり楽しみにされると少しこそばゆい気がするな。飲むときは無理してでも最後までちゃんと付き合うか」
 刀真と月夜が酒を飲める年齢になるのを、玉藻は前から楽しみに待っていた。漸くその日が過ぎたのだ。
「よし、ではこれとこれを貰おう」
「ありがとう。購入は静かな秘め事の方でお願いね」
 何を買うのか決めた玉藻が静かな秘め事に酒を指定するのを見て、刀真が財布を取り出そうとするとその手を玉藻が止めた。
「払いは我がする、刀真お前が金を出す必要は無い」
「えっ、いいのか?」
「当然だ、我がおまえ達の為に買うのだから、金を出してもらっては意味がないだろう」
「……ありがとう、ご馳走になるよ」
 それが玉藻の好意ならばと刀真は有り難くその気持ちを受け取ることにした。
「へへっ、玉ちゃん♪」
 月夜は玉藻にすりすりと身を寄せる。
「何だ? 月夜……こらすり付くな。動きづらいよ」
 そう言いながらも玉藻は月夜の綺麗な黒髪を撫でて笑った。
「玉藻さんと一緒にお酒を飲むのは楽しいですよ。いえ……特に何かを話すわけではないんですよ? ただ、お互いお酒を飲んで、無くなったら注いでゆく……それを繰り返しているだけなんですけれど」
「一緒に酒をか……そういえば、玉藻は白花のこと嫌っていると思ってたけど、最近は随分態度が柔らかくなったよな?」
 刀真に聞かれ、白花は微笑んだ。自身が封印されていたことのある玉藻は、封印を司る白花を疎んじている様子をよく見せていた。それが最近は態度を軟化させている。
「はい。一緒にお酒を飲むようになってから、以前ほど嫌われていないように感じます」
「今までは封印の巫女しか飲む相手がいなかったからな。まあこれからはお前達と飲めるから飲むこともない、事もない」
 ふふ、と玉藻は口の端をつりあげた。
「飲んでいるときの、封印の巫女の妖艶な色気は我の好みだからな」
「お酒を飲んだ白花はそんなに色っぽくて妖しい魅力があるんだ……じゃあ一緒にお酒飲むときに確かめてみよう」
「えっと、玉藻さん? そんな色っぽいとか妖艶な魅力は無いと思うんですけど……月夜さんもそんなに見つめないで下さいよ〜」
「そうか、玉藻がそこまで言うのなら是非見てみたいな……白花、一緒に飲むときを楽しみにしているよ」
「もうっ、刀真さんまで! 知りません」
 頬を染めた白花は、ぷいっと顔を背けた。けれどふと、この間のプールでのことが脳裏をよぎる。
(刀真さん、月夜さんと一緒に抱きついたときに逃げちゃいましたけど……お酒を飲んで迫ったら手を出してくれるかな?)
 そんなことを考えつつ視線を戻せば、じっと刀真を見つめていた月夜がふとこちらに視線をもってきて、ばっちりと目が合う。
(月夜さんもしかして、同じ事考えてる……?)
 醸す蔵で酌み交わす酒がどんなものになるか……何も知らない刀真は、玉藻が購入した酒を嬉しそうに眺めているのだった――。
 
 
 
 【木霊の森】
 
 
 
「ここは自然がそのまま残っている【木霊の森】なのにゃーう。おーい、誰かいないのかにゃう? にゃーう?」
 森の奥にアレクスが呼びかけているところに、ユーミーを連れた佐野亮司が通りかかった。
「ここで中継してたのか。ちょうど良かった。ちょっと宣伝させてくれ」
「何の宣伝するにゃう?」
 首を傾げているアレクスからマイクを借りると、亮司はユーミーの惹く荷車を示した。
「ドラゴンレースの土産には、獣人の村特産品がオススメだ。現在、移動販売実施中だから、見かけたらぜひ声を掛けてくれ。ユーミーの牽く荷車が目印だ。人気のものから売れていくから、欲しい物は早めにな」
 実際、ここまで牽いてくる間にも荷車に積んだ商品は売れて減っている。
「お土産は早めに買うのが良さそうにゃーう」
 亮司からマイクを戻されたアレクスは、そう言って締めた。
 
 
 
 行楽の秋だからと、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はパートナーを誘って木霊の森に来ていた。
 案内役を夏侯 淵(かこう・えん)に頼み、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)の作った弁当持参のハイキングだ。
「わーい、ハイキング。オイラお弁当が楽しみだよっ」
 エオリアが弁当を作る間、おにぎりが色々欲しい、おかずも色々入れて、唐揚げも忘れないで、とリクエストし詰めだったクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は、歩き始める前からもう弁当が楽しみでならない。
「食欲の秋ですから、少し多めに作ってきました。お弁当の時間までにお腹をすかせておいて下さいね」
「オイラのお腹はいつだって、お弁当をぺろっと平らげられるくらい余裕があるよっ」
「それは頼もしいですね」
 元気いっぱいのクマラに、エオリアは微笑んだ。
「自然との調和を意図したから、手は最低限にしか加えていない。天然のマイナスイオンをたっぷり浴びていってくれ。そしたら弁当も一層おいしく食べられるぜ」
 淵が示す通り、森に手が加えられているのは、一休み用のベンチ、丸木の橋、手すり等程度のものだけだ。踏み入る人もほとんどいない森だから、自然は村が開発される前のままの状態で残っている。
「豊かな自然は良いものだね。でも私は頭脳労働派だから、ハードな行程は勘弁してくれたまえ」
 その為に荷物は少なくしてきたけれど、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は杖より重い物は持たない主義。自然の中を歩くのは心地よいけれど、あまり険しい道を歩くのは得手ではない。
「行楽の秋、運動の秋。あれこれ言わずにメシエも付き合え」
「けれどエース、せっかくの森なのだから周囲を観察する余裕のある行程が良いとは思わないかい?」
 2人のやり取りを聞いて、淵は任せておけと歩き出した。
「そこそこ運動になって、色んなもんが見える道を案内してやるよ」
 
「これは白山菊、こっちのは山路野菊かな。彼岸花も綺麗だよね」
 道や動物の痕跡を案内するのは淵だけれど、植物の説明をするのはエースだ。
「森の色々なサイクルは何百年とかで少しずつ動く部分もあるんだろうな……そう思うと凄いね」
 エースは野の花を愛で、色づきかけている柿の実に目を細める。
「植物だけでなく、沢山動物がいるのを観察するのも楽しいものだね。自然の営みは人の世ほどめまぐるしく変わらないので落ち着くよ……といっても、古王国時代から考えると見なくなった動物もいるな……」
 メシエは森の動物を写真に収めながら感慨にふけった。今こうして見ている動物の中にも、やがてはいなくなってしまう種類もいるのだろうか。
「しっ……」
 淵は指を当て皆を静かにさせると、そっと頭上を指さした。
 綺麗な色の鳥が羽づくろいをしている。普段は見かけない鳥のくつろいだ様子に、エオリアは目を細めてそれを見上げた。
 
 森の開けたところでエオリアの作ってきた弁当を食べると、クマラは30分で戻るといって出掛けていった。
 けれど、待てど暮らせど帰ってこない。
「また遊びに熱中しているのかな」
 何かあったら大変だからと、エースは皆に手伝ってもらってクマラを探すことにした。
「森で何か事故があっては村の運営にも傷が付くし……お家に帰るまでが遠足だからな」
「クマラが時間通りに帰ってこない場合の事前対処を講じていませんでした……万が一を常に考えなきゃいけないんですね」
 ショックを受けているエオリアを、すぐ見つけるからと励ますと、淵はルカルカたちにも連絡を取ってクマラ捜索にかかった。
 隣にある水霊の沢と繋がってはいるが、敷地は他の施設と同程度だから、それほど広くはない。とはいえ、木が茂っているから捜しにくい場所だ。
 知らせを受け、レースの監視から離れてカルキノスとルカルカも駆けつけた。
「遊んで時間を忘れてるならいいけど、怪我でもしてたら大変だよね。早く探さなきゃ」
 捜索に出ようとしたルカルカを淵が止める。
「こっちはいいから、ルカはゴール地点に行け。役場関係者がゴールにいないとトラブルを怪しまれるかもしれん」
 ルカルカをゴールに向かわせると、カルキノスは空から、淵は地上から捜索する。
 そして発見したびしょ濡れのクマラを淵は応急的に魔法で回復すると、ダリルに医者として診療所に行ってくれるように連絡して、クマラを運んだ。
 幸いクマラには大した怪我はなく、一番の被害は携帯電話が濡れてダメになってしまったことぐらいで済んだ。
「動物追いかけてたら、すっかり時間を忘れちゃった☆てへ」
 全然懲りずに笑うクマラに、エースはやれやれと息をついたのだった。