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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース
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リアクション

 
 
 
 ■ レース ■ 雑貨屋『ヌーヴェル・プレズィール』 〜 木霊の森
 
 
 
「そろそろトップグループのドラゴンが来るそうです」
 そろそろ先頭ドラゴンがやってくるとの報を受け、ジーナは急いでアニムス錬金工房にいる皆に知らせた。
 錬金術体験を行っていたアニムスは急いで器具を手で支え、シルスールは料理中の鍋に埃が入らないように蓋をする。
「吹き飛ばされないように注意して下さいね」
 ドラゴンがクラッシュでもしてきたら大変だ。不測の事態が起きたときの為、ウィングは店先でスタンバイしてドラゴンたちを待ちかまえた。
 
 
 コーナーを曲がりきってすぐに加速を使って、先頭集団に切り込んできたのはエミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)の乗るフォレスト・ドラゴンだ。
 ぐんと出た勢いで、トップへと躍り出る。
「ティフォン学長よりはやーい!」
 風音に負けまいと、エミリーが楽しげに声を張り上げた。
 それまでトップだったるるは、追い抜かれた瞬間ぱっと顔を上げたが、またすぐにドラゴンの操縦に集中した。
 
「なかなか理想のコースは飛べないね……」
 サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)はあらかじめ理想のコースを割り出していたが、多数のドラゴンが飛行している為、なかなか思うに任せない。
「姉貴、僕たちもぐーんと行かないんスか?」
 レースに気が逸っているアレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)が、フォレスト・ドラゴンを操縦しながら振り返らずに聞いてくる。
「兄貴は猪突猛進しかないんだから……」
 任せておいたらドラゴンが可哀想だからと参加するのを決めたのは正解だった、と思いつつも、サンドラはアレックスの言葉を受けて指示を出す。中央に向かっての渦巻き型コース。終盤ほど直線速度が出しにくくなるので、なるべく早い段階で加速しておくのが得策だろう。
「そうね。兄貴、めいっぱい加速して!」
「やった。さあ、行くっスよ!」
 作戦はすべて姉に任せてあるから、アレックスは何も考えずに思い切ってドラゴンを加速させた。他のドラゴンを追い抜いてゆく爽快感に、思わずアレックスの口から歓声が漏れた。
 
 超感覚で高めた耳に入ってきた音に気づくと、遠野 歌菜(とおの・かな)はドラゴンの手綱を取る月崎 羽純(つきざき・はすみ)に伝える。
「左後方から迫ってくるドラゴン有り! 加速してるみたいだからここは一旦右に避けておいた方がいいかな」
「了解、っと……」
 急激に方向を変えないように留意しながら、羽純は進路をずらし、追い上げてきたアレックスらのフォレスト・ドラゴンを通した。ドラゴンの巨体があと少し振れたら接触しそうなぎりぎりを通っていく。無事にそれをやり過ごすと、羽純の口から思わず詰めていた息が漏れた。
「ぶつからずにすんで良かった。折角のレース、怪我無く完走したいよね♪」
 歌菜はバランスを崩さないように気を付けながら身を乗り出すと、飲み物を手渡した。
「ん? 歌菜、有難う」
「羽純くんにはレースに集中してもらわないとねっ。羽純くんの走り、期待してるよ」
 歌菜は羽純が飲み終わったペットボトルをしまい込むと、再びドラゴンにしっかりと掴まった。ナビゲートは歌菜、操縦は羽純。どちらも自分の分担に専念し、相手の分担は信じて従う。
「月崎羽純、遠野歌菜夫妻、さすがに息ぴったりね! これがまさしく、愛の力ということね」
 すかさず解説するディミーアにあわせ、カメラに羽純と歌菜が大写しになった。
「うわ、なんか恥ずかしいよ〜」
 真っ赤になって歌菜は顔を伏せる。羽純も驚いたがすぐににやりと不敵に笑う。
「そう言われたらやるしかないな」
「え? わわっ」
 フォレスト・ドラゴンを加速させると、羽純はさっき追い抜かれたアレックスを追い越し、その後もぐんぐんと羽純はスピードをあげてコースを駆けていくのだった。
 
 
「空から村を見るのも良いよね〜♪」
 無理に飛ばすことなく真ん中辺りのポジションを維持しながら、秋月葵は村を見下ろした。みるみるうちに流れてゆく風景が、葵のツインテールを靡かせる風が、気持ちよくてたまらない。
「アルちゃん見てごらん、手を振ってるよ……ってそんな余裕ないか、アハハ」
 出発してからずっと、アルは目をぎゅっと瞑り、悲鳴を挙げていた。
「夏なのに凍えそうなくらい寒いですぅ……」
 葵のフォレスト・ドラゴンは氷龍だからアルは防寒具にくるまれ、落ちないようにしっかりと固定されている。けれど、それでも落ちそうに思うのか、アルはぎゅっと全身に力をこめてドラゴンにはりついていた。
「アルちゃん、そんなに力んでると後半スパートをかけるまでに疲れちゃうよ」
「スパートも何もいりません〜。地面が恋しいですぅ……キャー」
 アルは防寒具に顔を埋めるようにして、また悲鳴を挙げた。
 
「メリッサ、『醸す蔵』を過ぎた辺りから少し高度をあげて下さいね。水霊の沢や木霊の森は木が茂っていますから、うっかりひっかけたら怪我をしてしまいます」
 メリッサのハンズフリー携帯から、ロザリンドの声が聞こえてくる。事前に取ったコースのデータをパソコンで見ながら、メリッサにそれを教えてくれているのだ。
「かもすぞー?」
「知り合いの宇都宮さんが作った醸造所なのですが、見えますか?」
 メリッサはワイバーンのレイズから身を乗り出すようにして付近の様子を確かめた。
「んー、あ、チーズとか匂う所ー? あっ、店先に立ってるのがそうかなー? 手を振ってみようー」
 レースを見ているらしき祥子に手を振ると、メリッサはロザリンドの指示通り、ドラゴンの高度を少しあげた。
 
 
 優勝目指して激戦を繰り広げている選手がいれば、気分よく空のレースを楽しんでいる選手もいて。
 獣人の村上空をびゅんびゅん飛んでゆくドラゴンを見上げる観客も、勝ち負けを予想したり、ドラゴンの操縦者に手を振って応援したりと、思い思いにレースを満喫する。
「おっと、ここで前に出てきたのはナークト・キネレウス。彼は復興のために契約を結んだ、村の獣人ね。村を知り尽くした彼がどんな走りを見せてくれるのか、これは目が離せないわ」
 ディミーアがさしたのは、この村出身のナークト・キネレウス(なーくと・きねれうす)とそのパートナー、フィッツ・ビンゲン(ふぃっつ・びんげん)の乗るフォレスト・ドラゴンだった。ナークトが村のドラゴンには慣れているというので、それを借りて村のドラゴンのすばらしさを披露しようということになり、こうしてレースに参加している。
 村のことに詳しいナークトに操縦を任せ、フィッツは精一杯協力する態勢だ。
 この村出身の選手ということで、ナークトにはひときわ村人からの声援が多い。地元の期待を背負っての出走だから、ドラゴンを操縦するナークトの腕にも力が入る。
 
 
 晴れ渡った空に照る太陽。
 水霊の沢と木霊の森の緑にドラゴンの影が落ちる。
 
「あれ? 朝野未沙『ヤクト』が急降下、何かトラブルでもあったのかな?」
 スモークディスチャージャーから煙を吐いて、ヤクトが水霊の沢へと急降下していくのを見て、エクスは首を傾げたが今は先頭集団の実況中。第2集団以下の実況をしているディミーアに気を付けていてくれるように連絡し、エクスはそのまま先頭集団について行った。
 木々を避けながら降下していった未沙は、沢にヤクトの頭を突っ込ませ、水を飲ませた。ヤクトの喉をうるおすと、再び急上昇してコースへと戻ったが、その頃には順位はかなり落ちていた。このタイムロスはかなり痛い。
「良かった、戻ってきたようね」
 ディミーアには未沙が何をしていたのかは見えなかったが、無事にコースに戻ってきたことにほっと胸をなで下ろした。
 競うのが巨体のドラゴンだから、レースも無傷でとはいかないけれど、それでも怪我人もトラブルも少ないに越したことはない。
「みんな、ちゃんとゴール出来るといいわね」
 レースの勝敗も大事だろうが、万博に華を添える催し物なのだからやはり楽しんでもらいたい。
 ディミーアは胸をなで下ろすと、別の場所へと移動した。