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リアクション
「出遅れたけど、行き掛けの駄賃くらいは稼がないと、レオンに示しがつかないわね」
通路の角で隠れながら、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が言うと、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は頷いた。
この先にいるのは野盗。
その数は自分達よりも多いが、策は十分だ。
それじゃあ、と言い残し、セレンフィリティは野盗の前に姿を現した。
「ハァイ、ごめんなさい、迷っちゃって……助けてくれない?」
「――ッ!?」
野盗達は驚き、各々武器を構えたが、すぐに解かれた。
目の前に――好物が現れたからだ。
「ヘ、ヘヘ……助けてやってもいいが……それなりの礼は……前払い、後払いで欲しいよなぁ……」
1人の野盗がナイフをペチペチと叩きながらセレンフィリティの前に出て、舐めるように身体を見た。
「前払い? いいわよ?」
――ゴッ!
セレンフィリティの膝が、野盗の股間に直撃した。
「……あんた、息が臭いのよ。誰があんたらみたいな腐った奴を相手にするのよ」
あらぬ指を立てて、セレンフィリティは再び角に戻った。
野盗がその挑発に乗らないはずがない。
――ドンッ!
最初に飛び出した野盗が角を折れた瞬間、爆発――。
その煙の中から、シャープシューターによる一掃射撃が野党達を襲い、セレアナまでもが飛び出してきた。
「ハッ!」
「グエッ……」
槍の突進が野盗の身体をくの字に折った。
「気が短い奴は肝心なところで大損こくんだよ! 食っちまえ、セレアナ!」
一掃射撃で身動きのとれない野盗は、そのまま1人ずつ、セレアナの餌食となったのだ。
「や、はっは、遅れちまったよ」
セレンフィリティはセレアナと共に、救出されて今後を検討していたレオン達に合流した。
「遅ぇよ、ったく……」
レオンが呆れるのも無理はない。
セレンフィリティ達はレオン達先発隊と共に行動するはずだったのだから。
「あ、あの……その格好は……」
フィリップが思わず話に割って入った。
「ん? 水着? ビキニ?」
「なな、何て格好で……」
「やめなさいよ。フィリップ、私達は普通よ」
「普通……ですか?」
セレアナはフォローして気付いた。
自分も似たような格好ではないか、と。
「ほ、本当にどうしてそんな格好を」
「そ・れ・は、肌を常に外気に晒すことで、ありとあらゆる気配や殺気を察知することができるのよ。乙女の肌は鋭敏だから、感度を高めて――」
「単にあなたの趣味でしょ」
再び赤面するフィリップにレオンは咳払い1つで区切った。
「探索は続ける。今度こそついてきてくれるな?」
レオンの言葉に2人は頷き、調合書を目指しての進行が再び始まった。
――迷宮内・第四階層――
「ここにはまだ、多くの契約者はきていないようですね」
「そりゃあおまえ、オレらは相当潜ってきたからな。さすがに最下層も近いじゃねぇか?」
レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)とハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)は、探索に専念できるようモンスターを排除しながら、比較的早い部類で第四階層に到達していた。
「では、ここにセーフティーハウスを作りましょう。ここまでくるのに負傷した契約者や、休憩に当てたい方のために」
「ふーん、約束を守ってくれるたぁ、口うるさく言わなくて済んだぜ」
「無茶をしない、怪我をしない、結果も経過も大事にする」
「そうだ。無茶しない、怪我しない、結果もだけど経過も大事だ。そいじゃ、セーフティーハウスだかポイントだか作る前に、掃除をしないとなぁ」
通路の先、少し開けたY字の両方から、ゴーレムが2体、地響きさせながらやってきているのをハイラルは逃さなかった。
「オレが動きを止めといてやる。トドメはおまえにくれてやるよ」
「……了解しました」
レリウスは首元を少し緩め、龍鱗化で自らを強化し始めた。
「まあ、おまえらにハンデをくれてやってもいいが、せっかくだからタイマンでも張ってくれよ」
先にレリウス達がいる通路に差し掛かったゴーレムを無視し、ハイラルは後ろのゴーレムをサイコキネシスで抑えつけ、進行速度を鈍らせた。
十二分に互いの距離が離れたところで、氷術を地に走らせ、後続のゴーレムの足を氷漬けした。
「……ッ! ハアアアアアアッ!」
向かってくるゴーレムにレリウスが駆けた。
突き出される拳と拳が、ぶつかり合い、レリウスの方が少し弾き飛ばされたが、それでもゴーレムもよろけた。
「中々堅い勝負だねぇ」
見物を決め込んでいるハイラルは、そのタイマンを愉しんでいた。
「一撃で仕留められないならば……」
レリウスのランスバレストの突撃は重く、堅かった。
――ゴガッ!
――ゴォガッ!
二度のランスバレストで土手っ腹にヒビが入ると、三度目の攻撃には耐えきれず、ゴーレムは風穴をあけて倒れた。
「お見事。最後は一発で決めちまいな」
ハイラルの氷術で腹まで氷漬けにさけてのランスバレストは一撃で十分だった――。
――こちら、レリウス・アイゼンヴォルフ。第四階層にてセーフティーハウスを設置。負傷者がいる場合はこちらまで。
ダンッ――!
立てつけの悪くなった扉を開き、部屋の中を見渡しながらレン・オズワルド(れん・おずわるど)は舌打ちしたい気持ちを堪えながら吐き出すように言った。
「またハズレをひかされたか……」
「そうでしょう」
パートナーのメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)は当然とばかり、言った。
先ほどから彼女は銃型HC――主に契約者からの情報――とテクノコンピューター、ユビキタスを駆使して、迷宮の見取り図作成を試みていた。
「様々な契約者が探索や戦闘を繰り広げていますが、一致する点があまりに少なすぎます」
「どういうことだ……?」
「私達のような契約者が入ったことで、より、迷宮が広がったのかもしれません」
「通行止めの看板を飛び越えて……?」
「面白い表現です。ですが、その通りです。この迷宮は私達の想像以上に広く、持て余すほどの規模なのかもしれません。そこで、ある程度は道を塞いで、住民でさえ迷子になるのを防いでいた……」
レンはふむと頷いてしゃがみ、壁の埃を手で払った。
「しかもここにいた研究者は1人ではないように思います。いえ、本人は1人だったと思っていたかもしれませんが、現実にはあらゆる分野の研究者や、逃亡者が潜伏し、生活を送っていたと、迷宮内部に残された物品から想像できます。私達ほどなら迷子にはならないでしょう。ですが、数十の契約者でも手に余る規模……」
「やはり……少女か……」
「ええ、謎の少女が鍵を握っていると思われます。しかし、書も見つけられず、それこそ動き回る人を見つけるなど――?」
違う違う、とレンは壁を指先でコンコンと叩いた。
「全く……」
レンは立ち上がり、サングラスの位置を直しながら部屋を後にした。
「世界はどうしてもこうも、悲しい奴が多いんだ……」
壁には、こう書かれていた。
――お父さん、お母さん、お婆ちゃん、お爺ちゃん、アーちゃん、ウーくん。
――私は、ここにいるよ。
――友達もできたし、楽しいよ。
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