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手の届く果て

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手の届く果て

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 通路を歩きながら、清泉 北都(いずみ・ほくと)は銃型HCでフィリップに連絡をとってみた。
 レオン達を救出したことは既に伝わっていたから、何か新しい情報はないかということでだ。
「清泉 北都です。書庫について何か新しい情報は手に入りましたか?」
「ごめんなさい。レオンさん達は書庫についてはまだ何も掴んでいませんでした」
「そうですかぁ」
「なあ、フィリップ」
 パートナーの白銀 昶(しろがね・あきら)がそこに割って入った。
「以前、森にある遺跡を見付けた際に、昔から獣人に伝わる歌がヒントになった事があるんだ。何かそういう伝承は聞いてないか?」
「歌や伝承、ですか……。ごめんなさい、やはりそういう情報は何一つ……」
「時間もなければ情報もないと来たか。大量人員で手当たり次第探るしかなさそうだな」
「すみません、すみません」
 そこでフィリップとの交信は終わり、北都達は再び懐中電灯を照らし歩き始めた。
「あんまりフィリップさんを困らせちゃダメだよぉ?」
「は? オレが!? 別に困らせちゃいねぇよ。なあ、北都」
「んん?」
「手掛かりも何もない。ここは敢えて、獣人のオレの勘に賭けてみないか?」
「ん……そうだねぇ。熱病に冒されたのも獣人だし……ここは同じ種族に賭けてみるのも……いいかぁ」
「よし!」
 昶は鼻をクンクンと鳴らし、目を閉じて歩き始めた。
 T字に差し掛かり、昶が右に折れようとしたところで、その動きを止め、壁に寄り掛かった。
 そこから北都が覗きこんでみると、ゴブリンが施錠させた扉の前でウロウロと歩いていた。
 いかにも――。
「いくらゴブリンとは言え、手間取りたくないねぇ」
 そう言うと北都は、反対側の通路にある何かのガラクタをサイコキネシスで浮かすと、そのまま遠くに放り投げた。
 ――カラカラカラカラッ!
 乾いた音が木霊すると、それに気付いたゴブリンが、一斉にその音に向かって駆けだした。
「へへ、楽勝」
 隙を見て施錠された扉の前に行き、昶はピッキングであっさりと開錠に成功し、ゆっくりと木の扉を開いた。
 そこには――見る者から見れば麗しい――ゴブリンクィーンの姿があった。
 ――ウフン♪
 と、聞こえそうなウィンクのあと、静かに2人は扉を締め、一生開かれない開かずの間になるように施錠を試みて走り出した。



 ――カランカランカランッ!



「ふ……ようやく、ここまで来たぜ……」
 顔を拭いながら鍵屋 璃音(かぎや・あきと)は、第二階層に突入できたことを内心ホッとしていた。
「廃墟同然となっているのに、魔法もトラップも未だ発動するなんて……。随分と警戒していたんだねぇ……」
 パートナーの忍冬 湖(すいかずら・うみ)も一息といったところで、腰を落ち着けた。
 トラップ解除の術を持っていなかったおかげで、罠と見るや気合で避けるか、無理そうならば遠回りを繰り返し、疲労度は相当なものだ。
「獣人達が心配です。急いで書庫を……調合書を見つけなければ!」
「その通りだ。野盗に先を越されたら、目も当てられないぜ」
 道中、共に歩んできた一ノ宮 総司(いちのみや・そうじ)土方 歳三(ひじかた・としぞう)は、まだまだといった感じで2人を煽るが、いつゴールを迎えるかわからない探索に休憩は必須というもの、という顔で反応した。
 所謂、ちょっとタンマ――。

 ――カランカランカラカラッ!

「ん……この音は何だ?」
 歳三が道の向こうに目を凝らす。
 平坦であり、登り坂でも下り坂でもない道の先から、
 ――カラン、カラン……ッ!
 棍棒が転がってきた。
「なんだこりゃ?」
 璃音はそれを手に取り、振ってみるが、何の変哲もない棍棒である。
「ただの棍棒じゃないか、さっさと捨てなッ!」
 手で顔を扇ぎながら、湖が言う。
「何でしょう? ゴブリンの棍棒でも転がってきたのでしょうか?」
「誰かに吹き飛ばされたか! ハッハ、さすがゴブリンッ!」
 ――ダダダダッ!
 それは確かにゴブリンの棍棒。
 ちょっとした落とし物で、ちょっと注意を引きつけるために転がされてきたもの――。
 そして、聞こえる足音はもちろん、
「ゴ、ゴブリンの群れだッ!」
 歳三が叫ぶや否や、4人は走り出した――!
「オイイイイッ、ちょっと戦ってこいいッ!」
「モンスターも野盗もトラップも、出会っちまったら、潰していくしかない。璃音の邪魔する奴は許さない! そんな覚悟で来たけれど、あれは数が多すぎじゃん! 総司! 行きなッ!」
「湖姐ぇ御冗談をッ! あのゴブリン達の猪突猛進ぶりを見たでしょう!? あそこまでの狂気を纏ったゴブリンなんて見たことないですよ! 歳兄ぃ、何か案は!?」
「――ッ! それだッ! その棍棒を狙ってるんだッ! 今すぐ投げろォッ!」
 そうか、と璃音は手にした棍棒を大きく放り投げた。
 道の先へ――。
 進んでいる方向へ――。
 逃げる方向へ――。
 ダダダダダッ!
 運があったのは、道中に部屋があったことだろう。
 4人がそこへ駆けこむと、ゴブリン達はそこへは続かず、棍棒を追って行った。
 ふう、と4人が息をついた目の前には、野盗が2人――。
 その手には騒ぎを聞いて身構えたのであろう――既にナイフと、書物を一冊、その手に持っていた。
「……疲れに疲れて……最悪な探索となりそうだったが、ここにきて運がいい……。そいつだな」
 璃音は野盗の持つ書を指差すと、あからさまに隠すような素振りを見せた。
「その調合書は、あなたたちが持つべきものじゃない! 渡して貰うぞ!」
 総司が手を伸ばすが、
「ハァッ!? 何言ってやがる……ッ、テメェらにゃ関係ぇねぇブツだ! ヤラれたくなかったら失せなッ!」
「そうは……行かないッ!」
 4人は一斉に飛びかかった。
 まず書物を持っていない野盗は湖が斬りかかった。
 袈裟斬りの3連はナイフで防がれ、逆に野盗が攻勢に回り、斬り掛かってくるが、鍔迫り合いのような形で防いだ。
 その隙に背後に回った璃音がヌンチャクを野盗の首に回し、そのまま背負い投げのような形で投げ飛ばし、勝負を決めた。
 もう1人、書物を持っている方の野盗は、脱出を図ろうとするが歳三に唯一の出入口を防がれ、槍の乱れ突きに逃げ惑うように背を向ける。
 すると、迫ってきた総司の一撃をナイフで受け止めるが、その面打ちは力なく持たれたナイフを弾き飛ばし、そのまま脳天を打った。
「調合書ッ!」
 宙に舞った調合書を手に取った総司だが、それを見るなり顔を真っ赤に染めて、地面に叩きつけた。
 ――野盗は男だけで、いろいろと大変なのである。



 ――カランカランカランッ!