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手の届く果て

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手の届く果て

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「――ッ!」
 先頭を歩くうちの1人、ケーニッヒが仲間の進軍を止めた。
 少し広くなった通路の向こう――既に式神が通った暗がりの道から、ボコボコと地面が隆起してきた。
「臭う……臭うぜ……。死者の国から遙々ようこそ……ってことだ」
 殺気看破も相まって、目前に地から這い出るスケルトンと対峙することができた。
 僥倖――。
 何も知らず進んで脚でも掴まれた日には、たまったものではない。
「起きてもらったところ悪いけど……手間かけるわけにもいかないのだよッ」
 ケーニッヒは軽身功で壁、天井を自在にかけて今にも蘇りかけるスケルトンの群れの上を通過して、後ろをとると、生まれたてで立ち上がったスケルトンに間髪いれず足払いで転倒させると、拳を頭部に叩きつけた。
 神速で素早さもあげたその動きはまさに電光石火の如く――。
 次々に手際よく仕留め、道を切り開いた。
 それでもなお、無限かと思うほどに、スケルトンは湧きあがる。
「今のうちだッ!」
 ケーニッヒの言葉に、皆が駆けだした。
 その間も這い出るスケルトンを一体一体、出ては叩き出ては叩きを繰り返し続けた。
「――ッ!」
 式神に集中していた麻衣の足が、半身だけ飛び出たスケルトンに掴まれた。
 ここで術を途切れさせては、先へ進ませた式神と自分が途絶えてしまうことになる。
 それだけはできない。
 否、しなくてよい。
 なぜなら、麻衣には護衛を宣言した者がいるのだから。
「ウオオオオッ!」
 アンゲロの打ち下ろしの一撃が、スケルトンの頭部を吹き飛ばした。
「その手を離せってんだッ!」
 脚裏で踏みつけてポッキリと折り、麻衣を解放する。
「早く行けッ! もたもたしてるとまた足止めを食らうぞ」
 そうしているうちにも、スケルトンは次々に麻衣に向かって手を伸ばす。
 式神の術にでも反応しているようだった。
 しかし、二度と麻衣に触れることは叶わなかった。
 アンゲロは護衛としての任を全うし、ケーニッヒも加わって撃破されていったからだ。
 結果的に殿を務める形になったケーニッヒとアングロが先へ進ませた一同の元に合流した時には、スケルトン達は静かに、地の底へ潜っていった。

 そこから少し歩くと続いて現れた迷宮内部は、まるで迷路――それも程よく区画された場所の十字路の一角で、先頭を歩いていたゴットリープが足を止めて後方に掌を見せた。
 その動作1つでこの先で相見えるであろう何かを全て感じ取り、各々が態勢を取った。
(出逢わないよう祈って身を潜めるべき……? それとも先手必勝……? 相手はこちらに気付いている……?)
 ホークアイで見通しがよくなり、情報においての先手はとれたのだろうが、それが逆にゴットリープの慎重さも相まって悩ましくした。
 しかし――後ろの味方はなんと頼もしいことか。
 相手は野盗だ。
 かすかに聞こえる話し声は、決して迷宮の保護などと言った類ではない。
 ――出ますッ!
 ゴットリープは角を折れ、野盗の群れの前に現れた。
「……ッ、誰だァッ!?」
「バッキャロォ、ドケ、オラッ!」
 こんなところで出くわすのは、同業者か邪魔者か幽霊と決まっている。
 自分達が先乗りしていると信じている野盗だから、同業者の線――ましてや幽霊なんてもっての他――などあるはずがなく、残るのはトラブルしかない。
 野盗の1人が仲間を押しのけ、自慢のナイフ投擲を見せた。
 1本、2本、3本――!
 向かってくるナイフにゴットリープは光条兵器であるサーベルを生み出し、突いた。
 ――キンッ!
 点と点とのぶつかり合い――その三番勝負を完璧に制し、サーベルを振るい、構えた。
「ヤロウッ!」
 ヒップホルスターからその野盗は銃を抜き構えるが、大きく踏み出したゴットリープの突きに銃は弾き飛ばされ、鋭利な先端を喉元に突きつけられた。
 ――格が違ぇッ!
 ――一斉にやっちまえェッ!
 連携が取れない野盗が二分した。

 駆けた――。
 ――後ろを振り向くなァッ!
 駆けた――。
 ――冗談じゃねぇッ!
 逃げ続ける野盗は、折れて、折れて、折れて、辿り着いた。
 レオン救出隊の後方レナ・ブランド(れな・ぶらんど)の前に――。
「な、何でテメェらが先回りしてやがんだよぉッ!?」
「……何を言いたいのかよくわからないわ……」
 パーティの最後尾を守り、警戒、、奇襲を仕掛けられたりするのを防ごうとしていたレナだが、まさか逃げた賊が尻に噛みつくとは思わず、ただただ呆れた。
 しかし、それほどまでに迷宮の内部は山の天気ほどに様相が変わっていた。
 一ブロック先が同じ作りとは限らない、全てが繋がっているわけでもない、そんな迷宮なのだ。
 だが、パニックに陥りかけている野盗には、もはやそんな判断をする容量も残されておらず、あるのはただただ――道を切り開けという開き直り。
 その道の先が破滅と案内されていようがおかまいなしだ。
「おとなしく逃げるというなら、その道を曲がって……」
 レナはそう救済の道のりを指差すのだが、聞く耳などもはやない。
「ウワアアアアア、ドケエエエエエッ!」
「ふーッ。憐れ過ぎるわ」
 ナイフで斬りかかる野盗をサーベルでいなしながら、次々と相手にしていく。
 その愚直なまでの突撃にレナは防御――後衛としての壁で手一杯だが、生憎こちらも1人ではない。
「ハッ!」
「アンギャアアアッ!?」
 クレーメックのカタクリズムで腕が絞られた野盗の手から、武器が落ちた。
 その隙に一気に距離を詰め、相手の手首を掴み反撃を阻止し、肘打ちをお見舞いした。
 ノビた仲間を見て、彼らもようやく熱した頭が冷めた。
 大の字の仲間を引き摺るようにその場を後にしていったのだ。

「ハッ、ハッ――!」
 くるりと弧を描くような手首の動きでサーベルを操り、ゴットリープは最後の野盗の武器を払い落した。
「……お、おうけえ……オッケー……オレ達の負けだ。大人しく退散する……退散する……」
 最後の野盗は尻を擦りながら後退し、掌を向けて降参を示した。
「……ン?」
 その違和感――微妙な服の裾の膨らみに気づいた時には、目の前が真っ白な煙に覆われた。
 煙幕だ。
 だが、深追いする必要もないほどに、その差を野盗は感じただろう。
 ゴットリープは静かに光条兵器を収めた。
「まだまだレオン様の元へは辿り着けませんわ。先は長いですから」
 ヴァルナはヒールと激励で既にレナに、そしてゴットリープに更なる活力を与えた。
 例え疲労が少なかろうと、受けるに値するダメージを追っていなくとも、それは精神的に落ち着けるものだった。
「先を急ぎましょう」
 フィリップの言葉に皆が頷き、再び行進が開始された。



 式神が階下へ続く階段を見つけた。
「こちらレオン様救出隊の島津。現在第二階層から第三階層へ向かいますわ」
 いよいよ、レオン達がいる階へ到着する。