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手の届く果て

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手の届く果て

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 ――迷宮内・第一階層――



「隠し扉……前方3メートル左壁。解除しますか?」
「そうだな……。後からくる奴のためにも、少しは手間を減らしておこう」
 ハインリヒはチラリと亜衣を見やった。
「何? 失敗したらよろしく〜って?」
「フッ、オレが失敗するとでも? 任せろ」
 ハインリヒは身体を壁にくっつけるようにして、手で壁をさすり続けた。
 一見自然に見える壁の凹凸だが、細かく探ればそれがスイッチになっている。
 ――ガゴッ!
 1つの凸を押すと、目の前の石壁がまるでドアのように、ゴゴッと音をたてて、一瞬にして下がった。
「アッ……」
「ふぅ。あたしの備えはいらなかったね」
 亜衣は失敗時のために、直ぐにでも防御を固められるよう態勢をとっていたのだが、
「失礼しました。お眠りなさい」
 麗子がヒプノシスを唱えると、隠し扉の向こうのゴブリン達は瞬く間にパタリ、パタリと伏していった。
「どうやら、愛くるしいゴブリンハウスのようでしたわね。救出優先で隠し扉は無視で、罠だけに絞りますわ」
「ああ、そうしようぜ……。オレは今、猛烈に後悔している」
「あたしはあんたと契約したことを後悔してるもんね」
「オイッ!?」
「ま、まあまあ、何事もなかったことですし、先へ進みましょう」
 フィリップの一言で一行は先へ歩を進めた。
「しかし……」
 歩き始めてすぐ、麗子がトラップの位置をハインリヒに伝え、何度目かわからぬ解除をさせた。
 が、これもなのだ。
 正確には、これは、なのだ。
「古い迷宮のせいなのか、作動するトラップと不発のトラップがあって、なんだかな……」
 だが、作動するトラップは全て、年期が入っていない。
 即ち、
「アンノウンか……」
 真新しいトラップを撒き散らす謎の存在――。
「ナンパはするなよ」
 頭を悩ませたところに降って湧いた亜衣の小言に、ハインリヒは肩を竦ませるのだった。



 式神を先行させていることもあり、進行はスムーズに進んでいた。
「こちらレオン様救出隊の島津。現在第一階層を左手から周り、階下へ下るところですわ」



 ――迷宮内・第二階層――



「ふむ、レオン少尉もまだまだ……だな。もっとも事前調査の時間もなかったとあれば仕方ないか」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は腰を落ち着けながら言った。
「で、どうするの? 助けに行くわけでしょ?」
 パートナーのエイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)も小休止と、地べたに座り訊ねた。
「特に危険……という感じでもなく、別動隊がそれなりの人数で救出に向かっていることだし、レオン少尉らの救出は、あくまで私達が先に辿り着けた場合、だろうな」
「それもそうだね」
「さて。件の書庫がどこにあるか、だが……」
「罠もちょこっと動けなくなるようなショボイのばっかりだったし、モンスターも野生っぽかったな。オレがちょっと撃ったら逃げて行ったし」
 エイミーは出会い頭のゴブリンのことを思い出していた。
 光条兵器のショットガンを一発お見舞いしたところ、後続のゴブリン達は脇目も振らず逃走していった。
 目的のために動いているならば、命果てるまで襲ってきそうなものだ。
「ならば、あくまでもこの迷宮は研究施設だろう。ならば書庫があるはずだ。私の知識、術で中身を覚えられる代物であればよいのだが……」
「……お、てめえの後ろに何か書いてないか?」
 ダークビジョンで目の利くエイミーは、クレアの後ろの壁を指差しながら言った。
 確かにそこには、砂埃で汚れた中に文字が書いてあった。
「……こっから先は、呪われるよ……か」
「………………」
「………………」
「何かあるな」
「ああ、あるな。こんな少女らしい丸文字で書かれちゃ、呪いより別の何かを疑ってしまう。トレジャーセンスで感知できたりはしないのか?」
 エイミーは首を振った。
「試したけど全然ッ! 反応がないわけじゃなくて、反応がありすぎてわからないっての。ここは相当デカくて、いろんな物があるんだな」
「仕方ない……」
 クレアは立ち上がり、壁の文字を指差しながら言った。
「もっと奥へ……。呪われに行くしかなかろう」
「そうね、行きますかッ」
 2人は再び、迷宮の奥深くへ歩み始めた。
 ――こっから先は、呪われちゃうよ!?