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第3章、前! 『お母様に……会いたいです』の章


 蒼空学園に出かけていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が帰ってくる。
「ただいまっ。ようやく警察が動いてくれたよ」
「おかえりルカ。少し休むといい」
 ルカルカはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に勧められて、椅子に腰を下ろす。
「それであの人は誕生日パティ―に出てくれるって?」
 ルカルカは男性教諭が誕生日パーティーに出てくれるよう説得することをダリルに頼んでいたのだった。
「問題ない。俺が知恵の輪を外してやったら、あっさり承諾したよ」
「知恵の輪?」
「あぁ、知恵の輪が外せなくて夢中になっていたそうだ。だから手伝ってやったんだ。なのに俺が外してやったら、泣きながら怒ってきた。まったくわけがわからないな」
 呆れるダリルに対して、ルカルカは男性教諭の気持ちを考えて苦笑いを浮かべた。
 ダリルが数枚に渡る紙の束を取り出した。
「あの男について調べておいたが、ああ見えて≪ヴィ・デ・クル≫に家がある貴族の息子のようだな」
「へぇ、それは意外ね。あそこって飛空艇の整備工場があるわよね。実家に飛空艇とか所持しているのかしら?」
「ああ。かなり高性能なのが複数機あるらしい」
「それは良いことを聞いたわね。ねぇ、もっと詳しく聞かせてくれる?」
 ルカルカは男性教諭の話を聞きながら、今後の行動をダリルに相談した。

 
 ポミエラと一緒に近くの雑木林に向かった想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)は、ブーケいっぱいの可愛らしい花を集めた。
「これだけ摘めば十分だよね」
「ええ、後はポミエラちゃんに……って、いない!?」
「ええ!? 危ないから離れちゃダメだっていったのに!!」
 想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)に言われてポミエラが近くにいないことに気づいた夢悠は、アンネリーゼ・イェーガー(あんねりーぜ・いぇーがー)にも声をかけてポミエラを探すことにした。
 声をだしてポミエラを探す三人。
 すると、アンネリーゼは街道沿いでポミエラを見つけた。
 ポミエラは通りがかった商人と話していたようだった。
 商人はアンネリーゼを見ると、慌てて逃げるようにその場を立ち去った。
 アンネリーゼは不審に思いながらも、ポミエラに後ろから声をかける。、
「ポミエラさん、こんな所にいらっしゃたんですの?」
 ポミエラからの返事がない。
「ポミエラさん、どうかしたのですの?」
「お、お母様が……さらわれた」
 アンネリーゼが正面に回ってみたポミエラの顔は真っ青だった。
 ポミエラは先ほどの商人から、母親が山賊に誘拐されたという噂を聞いてしまったのだ。
 ポミエラが悲鳴をあげる。
 心配させないために、ポミエラを預けて母親を迎えに行った父親の想い、それが無駄になってしまった。
「ポミエラさん、落ち着いてください、ポミエラさん!」
「い、行かなきゃ……」
 ポミエラは落ち着かせようとするアンネリーゼの手を振り切り走り出す。
 アンネリーゼは必死に止めようとするが、ポミエラに突き飛ばされてしまった。
「お母様が、お母様が……!!」
「い、行っては駄目ですわ!」
「おいっ、どうしたんだ!」
「ポミエラさんがお母様の所へ――!」
 悲鳴を聞きつけた夢悠と瑠兎子が雑木林から現れる。
 夢悠はアンネリーゼを追い抜き、ポミエラに追いつくと華奢な彼女の手を掴んだ。
「おい、待つんだポミエ――」
「待てません! だって、だってお母様が、お母様が死んじゃうかもしれないのに……」
 夢悠の頭に激痛が走り、頭の中を叫び声が走る。
『お母さん、お父さん、なんで……なんでなんだよぉぉぉ!!』
 身体が体温を奪われたかのように震え始める。
「うっ、ポミエラ、キミは――」
「ユッチー!!」
 夢悠の手から力が抜け、逃げ出そうとするポミエラを瑠兎子が代わりに抱きとめた。
「ポミエラちゃん、落ち着いて! 大丈夫。大丈夫だから。みんなが今頃お母さんのことを助けてくれてるから、だから! 大丈夫だから!」
 瑠兎子の胸に埋もれたポミエラは少しずつ暴れなくなっていく。
 完全に落ち着いたのを待って瑠兎子が力を抜くと、それをスイッチになり
「うっ、うわああああああああん……」
 ポミエラは大泣きを始めた。
 通りかかる人々の視線が、ポミエラ達に向けられる。
 すると人混みをかき分けて学校に向かっていた笹野 朔夜(ささの・さくや)が近づいてきた。
「これはどうしたんですが?」
「お兄様、これは色々ありましたの」
 吹き飛ばされた時にできた汚れと、擦り傷の痛みから泣きそうになるポミエラ。
 その姿を見た朔夜が慌ててハンカチで汚れを落とす。
「とにかく、一端学校に帰りましょう」
「そうしましょう。ポミエラ、帰ろう。帰ってお母さんの帰りを待とう」