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我々は猫である!

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第一章 集合
 封鎖された空京の町中は猫の鳴き声に包まれていた。声には甲高いものから野太いものまで様々な種があり、それらほとんどが人間の声帯によるものだとわかる。
 その声が集まる場がある。
 町の大通りから道二本ばかりはずれた路地裏にある広場だ。
 建造物で囲まれた晴天の日の光も数本の線としか届かぬ、陰で満ちた空間。本来ならば街の人々の小さな集会場として使われる場所。そこに幾つかの人影があった。
 みかん箱で作ったおたち台に上がるサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)と、その傍に控え座る白砂 司(しらすな・つかさ)だ。台に立った彼女は拳を直情に振り上げ、
「今こそ、猫の猫による猫のための自治を手に入れるべきなのです!」
 声を張り、周囲に飛ばしていく。彼女の大声を耳に入れるのはマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)。しかし両者は寝転がったり、日向でなごんでいたりで聞いている素振りすらない。
 特にナナ・マキャフリーは日光の気持ちよさが効いてマジ寝しているため、寝息すら立てている。
「……おいサクラコ。誰一人として興味を持っていないぞ……にゃ」
「見れば分かりますよ! というかなんで私に従っておきながら呼び捨て続行なんですか!?」
「癖だ。気にするな……にゃん」
「猫なで声を出さないでくださいよ。後付けくさいですし……」
 はあ、もう長年の癖みたいなものなんですかね、とサクラコが諦めのつぶやきを放っている。そんな時だった。
 彼女らがいる空間に爆発が起きたのは。
 
 
「ぎゃあ、なんですかコレ!」
 爆発の起点は広場の中央。
 ただ、その爆裂には火炎は無かった。殺傷用の破片なども飛んでこないし、破裂による衝撃も少ない。
 精々広場に強風を撒き散らした位だ。だからこそ、その空間に起きた異常を白砂は即座に感知した。
「この匂いは……香水か……にゃ?」
 空間内に強い香りが充満したのだ。
 同時、その香りを突っ切って向かってくる気配を彼は感じ取った。
「やはりいましたね、司さん!!」
 ややテンション高めの藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)だ。
 彼女は手に香水ビンを巻き付けた爆弾を持ちながら
「さあ司さん。こんなところにいては危険です。いや、もう危険になってしまったのですね。つまりはサクラコさん達が元凶ですね。では仕方ありません。わたしの力で救って挙げなければなりませんね。ええ、吸いつくしてあげなければなりませんね色々。それこそが友人としての私の使命!」
「――どうしましょう。私たちとは比べものにならないほどテンション上がって狂っている人がいるんですけど」
「俺に聞くな――にゃん。まあ、とりあえず、邪魔ものは噛みついて追い払うか引き込むが吉だ――にゃん」
「だから後付け臭いですって、語尾」
 はあ、とサクラコが呆れるが、そんな事お構いなしに藤原は気勢を上げる。
「さあさあ、どうしたのですか司さん。私はここですよ、さっさとかかってきたらどうです?」
 自信たっぷりに誘ってくる彼女に白砂は腰を上げ、
「仕方ない――にゃ。ここは一発上下関係というものを教えねばならない――にゃ」
「ふふ、今の司さんに出来ますか? この香水の中、超感覚を持つ者にとっては地獄の筈ですよ――」
 藤原が言うと、しかし白砂は笑みで返した。そして、口を開き、
「悪いが、猫化した時から全てのスキルが使えなくなってる――にゃ。つまり、超感覚なんて無いも同じなんだ――にゃ!」
 言い終えるが否や、白砂が突進した。
 目指す先は藤原一点。
 香水による作戦を潰されたからか、眼を見開き驚いている。
 いい気味だ、と呟きつつ、白砂は動く。猫の如き速度で接近し、
「その柔らかそうな頬に噛みついてやる――にゃ」
 大口を開けて飛びかかった。が、
「あら、御免なさい。コレ、忘れてましたわ」
 藤原は懐から出したしびれ粉を、白砂の顔面に叩きつけた。
 空気に舞うような軽い粉は、呼吸するだけで取りこまれる。ましてや、口に直接入ったらどうなるか。
「ぎゃ…………!」
 一声だけ上げて、白砂はその場に落された。
 
 
 白眼になって気絶している白砂を藤原は見降ろし、
「ふふ、今楽にしてあげますからね」
 今にも垂涎しそうな笑みで視認した後、顔を上げサクラコを見て、
「それとも……サクラコさんが先ですか?」
 歯を見せた笑顔で対象を定めようとした。
 だが、それを邪魔する者があった。
 それは彼女の背後でゆらりと立ち上がったペトリファイアーで
「おねーさん、おねーさん。後ろ後ろ」
「へ?」
「……がぶー、なんてね」
 彼はおもむろに、露出していた腕を噛んだ。
「「あ」」
 と、呆然の声をサクラコと藤原が上げる。
 そしてその数秒後
「――――にゃーあ」
 ウイルスは伝染し、藤原は猫人となった。