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【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!

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【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
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リアクション

「何か揉めてるね……」
 黒い三角帽に黒マント、黒ゴスロリのミニスカ魔女へ仮装していた警備員の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、山車の近くで無言の激闘を繰り広げる美奈子となななに目をやる。
「ベアトリーチェ、コハク! 私、様子を見てくるね? あと、よろしく!」
 普段は目立たないものの、抜群のスタイルを持つため、今は見る人が思わず息をのむような、妖艶な美女の吸血鬼に仮装していたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と、獣耳と獣尻尾で、かわいい狼男姿に仮装したコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が美羽に頷く。
 三人は今までかぼちゃの馬車の後方で警備をしていた。見た目がマジで怖い大量のミイラ男を引き連れて……。このミイラ男達は、仮装が無くて困っていた警備員仲間の有志で作った軍団であり、既に誰が誰であるかも、果たして本当に人間であるのかもわからぬほど、リアルな動きと統制の取れた集団へと化していた。
「美羽さん、気をつけて下さい?」
 ベアトリーチェの声に美羽が振り返る。トレードマークの眼鏡を今日はコンタクトにしているためか、見慣れた顔にもやや違和感がある。
「違うでしょ? 今日はベアトリーチェは吸血鬼なんだよ? しかも……スタイル抜群の……」
「え? すいません。最後の方が聞きとれなかったんですけど?」
「もう! さっき約束したでしょ? 今日は口調も変えようよって」
「あ!」
 ベアトリーチェが小さく呟き、口元を歪める。
「お、オホホ……き、気をつけて行ってらっ……お、お逝きなさい……」
「そう! それよ!! じゃ、少しミイラさん達借りてくね?」
 美羽が満足そうに頷くと、二頭のティラノサウルスの方へと駆けていく。ミイラ男姿の警備員達もダッシュでそれに続く。
「……はぁ。恥ずかしいです。この衣装も肩が大きく出ていますし……」
 顔を両手で覆って赤面するベアトリーチェに、コハクが話しかける。
「僕は美羽なら大丈夫だと思うけど、さっきも変な男達を嬉々として大人しくさせてたぜ?」
「ええ……ですから心配なのです……私達も行ったほうが良い気がしませんか?」

「(うーん、流石に距離あるわよね……)」
 ミイラ男の軍団を引き連れ、ダッシュで山車の先頭へと駆ける美羽。
 観客席から、美羽の姿を見た一人の褐色の肌を持つ男が手を振る。
「美羽たぁぁーーん!!」
「ん? はぁい!」
 キキキキィィーッと片足をブレーキに止まった美羽が男に近づく。
「うおぉぉ!! こんな所で出会うとは!! 握手をお願いしたい!!」
「あ、うん。いいよ(……このおじさん、どこかで見た気が?)」
 美羽と握手する中年の髭を生やした男は、生粋の学園アイドル及び地下アイドル系マニアのラルであった。
「あなた……?」
 美羽と握手していたラルの表情が曇る。
 ラルの背後に立つ大人っぽい女性。氷の様な眼差しが鋭い。
「ゴ、ゴホン! ……うむ。たまにはこういうのもアリだろう?」
「いいえ。たまにでは有りません。貴方が寝言でこの前呟いた台詞を私は未だに覚えています」
「な……!?」
「あれは確か、あなたが私を置いてお仲間さん達と海水浴場へ行った日の晩でした」
 女性の声に怒りがこもるのを、美羽が感じる。
「何て言ったの?」
「確か……『美羽たん、どうかそのまま、ペッタンな君でいて……』と」
「……」
 笑顔のまま、美羽が握ったラルの手に力を込める。
「ぬぅあああぁぁー!?」
 ミイラ男の警備員の一人が美羽に話かける。
「美羽さん、任務に行きませんと……」
「そうだね! じゃあね! おじさん!!」
 美羽がそう言って走りだす。
 その背後では、「あんな子が欲しいのか?」と聞いたラルに女性のグーパンチが炸裂していたが、美羽の知るところではなかった。


 既にかぼちゃの馬車はダンスホールを展開したまま、再度の移動を始めていた。
 しかし、美奈子となななの戦いは続く。
「写りたい」なななと、「撮りたくない」美奈子の戦いである。そこにミイラ男達を連れた美羽やっとの事で追いつく。
「そこの電波な二人!!」
「「誰のこと?」」
 一斉に返ってくる答えに美羽がコケかける。ついでに美奈子は「一応……基準はクリアしてます」と美羽もデジカメに押さえていた。
「山車の近くで暴れたら駄目でしょ? いや……暴れていないんだっけ? まぁ、いいや! ミイラ男さん達! ちょっと怖がらせてあげて!!」
「!?」
 二人を取り押さえようと、ミイラ男達が近づく。
「なななを邪魔する悪い人達ね!」
 サッとファイティングポーズをとるななな。
「お嬢様から頂いた写真撮影の邪魔はさせません(男という不浄な生命体を少しでも減らすチャンスですね)」
 美奈子も応える。
「ふふふ……そこの地味子。目的が一致したようね?」
「ええ……今だけは」
「あなたも生まれる星が同じなら、なななと友達になれたかもしれないわよ!」
「女性だけの星を希望します」
「……何か、私の方が悪人みたいだけど、警備員だし、実力行使するわ!」
 美羽の号令により、ミイラ男達が跳びかかる。
 そもそも美羽は、この怖いミイラ男の集団に取り押さえてもらって、捕まえた人をビビらせて大人しくさせる予定であったが、なななと美奈子は余計にファイトを燃やし抵抗する。
「「「うおおおおぉぉぉ!! お姫様の次は戦隊モノだぜぇぇぇ!!」」」
 さながら、ヒーロー対怪人の図式に、美羽の思惑とは違って盛り上がってしまう。
「フッフッフ!! これだけの戦力でなななに勝つつもりだったの!! 一億年と二千年早いわ……」

―――ゴツンッ!

「あの……ご、ごめんなさい」
 勝負を決めたのは、追いついたベアトリーチェが式神の術で式神にしたカボチャ(ジャック・オー・ランタン)の頭突き攻撃であった。
「はぁはぁ……」
 警戒なフットワークで美羽を翻弄し続け、時折撮影した美奈子だが、デジカメのバッテリーの残量と傍でダウンしたなななを見て、素早く姿を翻していく。
「あ……、待って!!」
「機会があればまたお会いするでしょう」
「何て底知れないスタミナ……あれだけの力を持つ人が百合園にいるなんて……」
 美羽が去っていく美奈子を見つめる。
「大丈夫?」
 頭に大きなタンコブを作った自称宇宙刑事を見つめるコハク。
「す、すいません。なななさん。でも、こうするしか……」
 必死に謝るベアトリーチェに、美羽が鋭く突っ込む。
「ベアトリーチェ! 今日の口調は?」
「お……オーッホホホ! よ、良いザマね!」
「よしっ!」
「……いいんだ」
 ベアトリーチェに美羽が笑顔で親指を立てるのをコハクがジト目で見る。
「とりあえずさ、観覧席に連れていって、おとなしくパレードを見物して貰おうよ!」
 美羽の提案に、二人が頷く。
「あ、私、パンプキンパイやパンプキンプリンといった、手作りお菓子をいっぱい持ってきたんで……」
 そう言いかけたベアトリーチェを再び美羽が見ている。
「う……ウフフフ……わ、私の手作りお菓子を一杯召し上がらせて、け、血糖値を上げた血を頂いてあげるわ!」
「うん! じゃ、行こう?」
 美羽とコハクがなななを両側から支え、観客席へと向かう。
 騒動を沈静化させ、846プログッズを抱えた男達に握手を求められている美羽を見ながら、後方から二人に付いていくベアトリーチェが悩ましい溜息をつく。
「(お菓子でも食べながら、おとなしくしていて貰いたいだけなのですけど……はぁ、ハロウィンて大変ですね)
 尚、なななが実は美羽達と同じ警備員だったという事は、この後、空から降りてきたルカアコにより判明するまで美羽のあずかり知らぬところであった。