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女王陛下のお掃除大作戦!

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第五章


「お疲れ様、アイシャ」
アイシャの護衛を担当していた姫宮 和希(ひめみや・かずき)は、コンベンション会場にアイシャを送りながら笑いかけた。
既にみんなが集まってにぎやかな会場では、美味しそうな料理や飲み物が並び、皆互いに労い合っていました。
そんな会場も綺麗に磨き上げられ、照明や壁も心なしか明るく見えます。
同じく磨き上げられたステージでは、アルカネットが曲を奏で、雅人がダンスを披露しています。
それもこの『お疲れ様パーティ』に華を添えていました。
「席はこっちだぜ」
椅子を引いて座るように促したその席は、ジークリンデの隣でした。
アイシャは嬉しそうに頷いて、ありがとう、と弾んだ声で言いながらさっそく席に着きます。
「ジークリンデ様、お疲れさまでした」
「ええ、女王様もお疲れさまでした」
微笑と共に労い合った二人は、ぽつぽつと近況などを話し始めました。
お互い元気にやっていること、地球での生活は結構快適であることなどを話していると、やはりジークリンデは変わらず大事な人なのだと実感できる気がしました。
しばらく途中挨拶に来た人たちも交えて談笑していると、少々かたい面持ちのコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)が歩み寄ってきました。
傍で立ち止まったリナファに「お疲れさまでした」と微笑みかけますが、リナファは真剣な目のまま
「お聞きしたいことがあります」
と拳を握って口を開きました。
「最近のなさりようが理不尽に思えたので説明してもらいたいんです。私……」
リナファが訴えようとしますが、ロイヤルガードがそれに割り入ってきました。
「申し訳ないですが、そういったお話はまた今度にしていただけませんか?」
「でもっ」
「掃除のついでにお話を聞くのも失礼ですしね」
と制されて、リナファはぐっと口を噤みました。
折角の空気を壊してしまうのもどうかと思えば、日を改めるしかなさそうです。
渋々踵を返したリナファと入れ違いに、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が連れだってやってきました。
「二人とも、お疲れ様」
「お疲れさまでした」
「お掃除って結構大変だね〜」
「広いからなおさらよね」
「でも綺麗になってすっきりましたわ」
嬉しそうにそう告げるアイシャを見て、ルカルカも満足そうに頷きます。
「いつもとは違う掃除だったけど、アイシャと掃除出来て楽しかったよ」
「私もです」
「ねぇねぇ、アイシャ、ジークリンデ。この後一緒にお風呂入ろうよ〜」
「お風呂?」
「そっ、ジークリンデも汗かいたでしょ? 外掃除だったしね」
「ええ、そうね」
「だから〜みんなで一緒にお風呂入ってさっぱりしてから帰ろうかな、って」
「宮殿のお風呂って広いんでしょ?」
「お風呂……いいわね」
「お風呂と聞いて!」
アルメリア達が盛り上がっていると、何処から聞きつけたのか聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)キャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)が顔を出しました。
「あ、失礼致しました。お風呂、という単語が聞こえたもので」
「疲れた時のお風呂って格別ですものねぇ」
キャンティも笑顔で言いながら、ぴっとパンフレットを差し出します。
「私、シャンバラ大荒野で温泉宿を管理しております。是非、皆さんでお越しください」
「温泉、ですか」
「ええ、お忍びでも皆様と一緒でも大歓迎です。是非是非」
ぽかんとするアルメリア達に温泉の紹介をするだけした聖とキャンティは、それでは、と一礼して優雅にその場を去りました。
「うーん、温泉もいいけど……今日は、ね?」
「そうですね……今日くらいはみんなで汗を流しましょうか」
アイシャの許可に、ルカルカがぱっと顔を輝かせました。
「やったね! ありがとう!」

というわけで一同はさっそく宮殿のお風呂を借りることにしました。
流石に女王陛下の湯殿というだけあってシンプルながら凝った作りの浴室に、広い湯船に湛えられた温かいお湯。
さっそくご相伴に預かろうと、汗を流してゆっくりと湯船につかります。
全身を包む温かさにじんわりと疲れが取れ行くような気がします。
「お掃除の後の美味しいごはんにあったかいお風呂〜、幸せだよね〜」
「そうね〜」
ルカルカののほほんとした声にアルメリアが応えます。
隣ではセレンフィリティもセレアナとのんびりと羽を伸ばしています。
広いコンベンション会場を走り回っていたセレンフィリティはよほど疲れたのでしょう、心地いいぬくもりにうとうとと舟を漕いでいます。
溺れるよ、と咎めることもなくセレアナもぼうっとセレンフィリティを見つめます。
こてん、とセレンフィリティが肩に倒れてくると、ふっと笑ってセレアナもセレンフィリティに凭れかかりました。
「アイシャ、背中流してあげようか?」
スポンジを手にしたアイシャにアルメリアが声をかけます。
「ええ、それじゃあお願いしようかしら」
「任せて、しっかり洗ってあげるからね!」
アイシャからスポンジを受け取り、アルメリアはゆっくりと背中を洗ってあげます。
その後は交換してアイシャが洗って、それを見ていたみんなが楽しそうだと混ざって最後には洗いっこになりました。
最後の最後までにぎやかで和気あいあいとした雰囲気の中、ガールズトークがポンポンはずみます。
けれどあまり遅くまでいては迷惑になってしまうと、みんなはのぼせる前に上がることにしました。

そうこうしているうちにすっかり日が暮れ、賑やかな雰囲気を残したまま『お疲れ様パーティ』はお開きになりました。
手早く食器やテーブルを片付けた面々は、アイシャに暇を告げて次々帰途につきます。
ノーンはちゃっかりと料理をお包みにしてもらっていました。うちで待っている陽太たちに持ち帰るつもりのようです。
そんなみんなに今日のお掃除のお礼の言葉を一人ひとりにかけ、アイシャは見送りました。
そしてジークリンデにも、再度労いの言葉をかけます。
「今日は本当にお疲れさまでした」
「いえ、いい経験でした。話すのも楽しかった」
「……よかった」
ジークリンデの言葉に安堵したようにアイシャが笑います。
「よかったら、またいつでも来てください」
「機会があれば、また是非」
「ええ、お待ちしてます。……それじゃ、お気をつけて」
「ありがとうございます。それじゃあ、また」
ひらひらと手を振って宮殿を後にしたジークリンデを見送るアイシャの横顔は、穏やかな微笑み。
宮殿だけでなく心もすっきりした気がします。
宮殿を守ってくれる外壁、民の憩いの場である展望台、そして自分が一番よく使う公務室。
何処もみんなの手で綺麗になりました。
明日からはすっきりとした公務室で、綺麗にしてもらった机と椅子で気分よく公務が出来るでしょう。
アイシャは明日からもまた頑張ろうと伸びをして自室に戻るのでした。


担当マスターより

▼担当マスター

奏哉

▼マスターコメント

皆さんの掃除お疲れ様でした。
さまざまなお掃除スキルがあって、アクションを読みながらとても勉強になりました。
あまりにもたくさんの掃除方法があったので活かしきれなかったのが少しだけ申し訳ないです……。
ですが、おかげさまで宮殿もぴっかぴか、アイシャ女王も気持ち良くお仕事が出来ると思います。
今回も楽しい執筆でした。ありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。