シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

古代兵器の作り方

リアクション公開中!

古代兵器の作り方

リアクション

     ◆

 場所は同じく空京内、清泉 北都(いずみ・ほくと)リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)もウォウルからの連絡を受けていた。
「駄目だ、様子が変だとは思うけど、電話が繋がらない」
「それは困りましたね……ウォウルさんがあんなメールを送ってくる筈、ないでしょうけど」
 彼ら二人も、ウォウルからのメールに首を傾げていた。比較的長いメール、漢字変換が出来ていない本文に、一斉送信されたようなニュアンスを含む発言等、彼らが首を傾げるには十分すぎるものである。
「連絡が取れないなら、返事を打っておいて兎に角行ってみるに限るんじゃないかなぁ………」
「そうですね。あの人の事です、何か企んでいるか、また何か厄介なことに巻き込まれているか………どちらにせよ、行って確認だけでもした方が良さそうですね」
「ショッピングモールって、確かこっちの方だったよね」
「えぇ、行ってみましょう」
 二人は早速ショッピングモールへと足を運ぶ。
「っと、そうだ。知ってるかい? 今日、この近くで何やら事件が起きたみたいだよ」
 ふと、北都は思い出したように呟く。リオンは首を横に振り、「いいえ?」と返事を返した。
「ウォウルさん、悪ふざけだったら教えてあげなきゃねぇ。ま、もしかしたら首を突っ込みたがるけど、流石にみんなを危険に晒すような事まではしないだろうし」
「そうですね。それにしても――今度はいったい何をなさっているんでしょうかね」
「さぁ?」
 と、リオンは暫く考えてから、北都に尋ねた。
「ところで、その事件とは、何が起こったんですか?」
「んー、詳しくはわからないんだよね。何でも、何処かのお店で非常ベルの誤作動がどうとかって、言ってたな。さっきリオンが店の中に居たとき、僕の横を歩いていた人たちが話してたんだ。だから細かいところまではわからないよ」
「そうでしたか」
 一応は内容を把握したリオンは、それで満足したのか会話を区切り、手にする紙袋を見やる。
「そんな事より北都………ちょっと買いすぎちゃいましたね。色々と」
「ま、まぁね………だって安かったんだもん」
「気持ちはわかりますけどね」
 普段通りの会話を交わしながら進む二人の前には、既にショッピングモールから脱出してきた団体の姿があり、故に二人はそこで会話を止めた。
「ねぇ………北都。これはもしかして――」
「うん。ウォウルさんのメール、思ってた以上に深刻だったりする、だろうね」
 自分たちのペースを維持していた二人は、そこで始めて足を早める。これは予想以上の出来事であり、同時にのんびりしていられない内容の物なのだろうと、と仮定して。





     ◆

「お、珍しい人からメール来てんなぁ」
 黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)はそんなことを呟きながら、手にする携帯に目を落としていた。反対の手には、此処に来るまでに買った雑誌が握られている。
「そうなんですか? どちら様からなんです?」
「主殿、そんな事より、メールを見ているならその雑誌を貸してもらいたい。せめて今週の占いだけでも見たいのだが……」
 ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)は竜斗の言葉に返事しながら、今しがた全員で食べていた弁当の容器を手際よくバッグにしまっている。彼女の隣にいたミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)は若干顔を赤らめながらにそう言って竜斗から雑誌を受け取る。
「ねぇねぇ、ミリーナお姉ちゃん! ボクのも教えてっ!」
 リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)は、ミリーナにまとわりつきながらはしゃいでいた。
 四人が居るのは、空京からやや離れた大きな自然公園である。この日はピクニック、と称して四人でこの公園に遊びに来ていて、今は昼食後の食休み中だった。竜斗は寝転んだままに携帯に送られてきたメールをまじまじと読んでいた。
「んー? なんだ、こりゃ。よくわかんねぇメールだ。間違えかな………ははぁん、さては誰かに悪戯かぁ?」
「ウォウルさんならその……ありえますよね」
「あの人、剽軽だからな。んー、でも、このまま『間違えてるぜ』って送っても、なんか詰まらないよな」
 真剣に考え込み始める竜斗に苦笑を向けるユリナは、「普通に送れば良いのに」と思っていたりする。と、竜斗は何かひらめいた様子で体を起こした。
「うーむ、今日は余り良くない様だな、ルヴィ殿は」
「えぇ!? 何で!? ねぇ何で何でぇ!?」
「こ、こらぁ、袖を引っ張るなぁ! 服が伸びてしまうだろう!」
「教えてよー」
「わかったから、兎に角落ち着け。何々…『今日は折角の予定が水の泡に。諦めるところと意地になるところはよく見て! 素直に流され過ぎると後悔しそう』だそうだ。ラッキーカラーはオレンジ、ラッキーアイテムはフォーク、と」
「うー…………難しいよぉ、オレンジでフォークなんて…………」
 と、言いかけたところでリゼルヴィアは言葉を止める。苦笑を浮かべながらも竜斗と話しているユリナの手元を凝視しながら。
「良かったな、ルヴィ殿。お主のラッキーアイテムが見つかって」
「そ……そだね。ユリナおねーちゃん。そのフォーク、余ったやつだよね、貰って良い?」
「えっ………? あ、はい、これ………」
 いきなりの言葉に一瞬聞き返したユリナは、首を傾げて手にするフォークをリゼルヴィアに渡した。
「やった、これで安心だね! ありがとう」
 渡されたフォークを喜びながら握り締めるリゼルヴィアは、さっそく――とばかりに、途中でかって貰ったデザートをそのフォークで食べ始める。
「さて、私はどうかな…………何! 絶好調の様だ。主殿は――」
 黙々と雑誌を読み始めるミリーナを余所に、竜斗が三人にある提案を持ちかける。昼食後、これからの動き。
「あのな皆。最初は午後も此処にいようと思ったんだが、ちょっと予定を変更しようと思うんだ。良いかな」
「えっと………私は大丈夫です」
「ボクもーっ! 暇じゃないなら何でもバッチグーだよっ!」
「ミリーナは………それでも良いか? って、話聞いてるか?」
 ミリーナは雑誌を読んだまま、固まっている。
「おーい」
「ミリーナ……さん?」
「ミリーナお姉ちゃん、大丈夫?」
 三人から声をかけられ、漸く返事を返すミリーナ。何やら顔一杯に作り笑いを浮かべている。
「あ、ああ。私もその意見には賛成だ(聞いてなかったけど……)」
「うっし! そうと決まったらピクニックだっ! ついでにウォウルさんからかってやろうっと。ミリーナ、それ、読まないなら俺に貸してくれよ」
「あ、ああ。すまなかったな、主殿。折角読んでいたのに」
 相変わらず固い動きのまま、ミリーナは竜斗に雑誌を手渡す。
「ん? ま、良いけどさ。よし、出発はルヴィがデザート食い終わったら、でいいよな」
 言いながら、竜斗は受け取った雑誌を広げて再び横たわる。その様子を、何やら心配そうな面持ちで見つめるミリーナ。

「(主殿の今日の運勢――心配だ)」

 『今週のあなたはツイて無いかも。もっと周りを見渡してっ! みんなと一緒に協力したら、きっと乗り越えられそうな感じ。ただし、独りで突き進むと、痛い目みちゃうかもヨー?  ラッキーカラーは赤、ラッキーアイテムは辛いもの』

 彼女は気づいていない。彼女がみたこの結果――それは竜斗の物ではなく、彼の項目の隣に書いてあったものだと言うことに。自分が見間違えてるとは知らず、ミリーナは真剣に悩み続けている。





     ◆

 人は時として、想像以上の直感に助けられることがある。そしてそれは、この時のグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に対して当てはまる現象だった。ショッピングモールからさほど離れていない路地で、グラキエスは突然に走り始めた。まるで何かに取り憑かれたが如く、ある一点を目指して走り出している。
「あ、主! お待ちくださいっ!」
「全く、グラキエスはいったいどうしたと言うのだ……後を追う此方の身にもなって貰いたい………」
 彼の後を追うように二人――アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が走っている。
「………………(臭うな……。血、血の臭いだ……っ! こんな時間から何故こんなに血の臭いがする……………?)」
 何やら考え込むように走っている彼には、おそらく後続の二人の呼び掛けは聞こえていないだろう。故に一度たりとも足を止めず、一切において振り向くことはしない。彼はひたすら一点を目指して走っている。初めはグラキエスの行動を理解出来なかった二人ではあるが、暫くすれば、彼の放つ重苦しい空気を読み取れたらしく、呼び掛けをやめていた。アウレウスは呟く。隣を走るゴルガイスに対して。
「主は何を感じ取ったのか」
「それは我にはわからん。わからんが、某かがやつを突き動かし、駆り立てるのだろう。グラキエスとはそういう物、そうだろう?」
「…………………」
 肯定の意味を持って押し黙るアウレウス。おそらくゴルガイス自身もそれを理解したのか、以降二人に会話はなかった。と、今度は突然草むらにしゃがみ、その影から何かを見始めた。グラキエスが止まったために、漸く彼に追い付くことが出来た二人は、彼に倣って草むらへとしゃがみこむ。
「主。何を見ておられるのです」
「…………アウレウス、ゴルガイス。これから俺は彼処に入ろうと思う」
「………ショッピングモール? 此処まで警戒する必要は無いだろうに」
「………血だ。誰かの血の臭いがする。見てみろ。休みの日の昼間からシャッターが閉まってる。外には警備員もいるし、何やら人が逃げ出てきてる。中で何かが起こったに違いない」
 二人が彼の言葉にそちらへ向くと、成る程確かに大勢の客らしい人の群が我先に外へと出てきている。耳をすませば遠くの方で非常ベルが鳴り響き、悲鳴やらが聞こえた。
「主よ。自ら危険に飛び込む必要はないでしょう、それを――」
 と、アウレウスの言葉をゴルガイスが遮った。
「我々の正面にある扉はおそらく通用口だ。中に潜入するならば絶好の場所ではある。我々は何をすれば良いか、指示をくれ」
「…………警戒だ。血の臭いがするということは、中には怪我人がいる。あんなとこまで臭ったんだ、まず事故の線はない。と言うことは、加害者もいることになる、そうだろう?」
「そうなるな」
「そいつとの衝突は極力は避けたい。今は被害者を助ける。それから先は、それこそ先の話だ」
「主、行くのですか」
「……あぁ、行く。じっとしていては駄目な気がするんだ。これがなんだかは、悪いがが今の俺には説明出来んが」
 アウレウスは暫く考え込み、しかし真剣な眼差しで何かを見据えるグラキエスに根負けした、とばかりに息を吐き出した。
「俺の最優先は主、貴方だけです。他の人間など知ったことではない。良いですか、それは変わりませんよ」
「すまん、恩にきる」
 言い残し、グラキエスは草むらから飛び出した。周囲を見回す警備員が彼を見つけ、声をかけようとした時、警備員の前にゴルガイスが目の前に立ちはだかった。
「すまんな、此処を通してやってくれ。あれはあれで、懸命なのだよ」
 その横をすり抜けるようにして、一陣の赤い風が通り抜ける。「ありがとよ」と、言い残して。

「全く以て――不謹慎ではあるが嬉しく思う。どういった形であれ、誰かに関心を持ったのだ。貴公にもわかるだろう?」
 呆然とする警備員に呟くゴルガイスの声は、心なしか明るいそれだった。