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古代兵器の作り方

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古代兵器の作り方

リアクション

     ◇

 心は時として痛みを生む。

 心は時として痛みが生じる。

 排他的な空間に      無闇に侵入するものを拒め。

 拒まなければ痛みが生まれ   望まなければ心は堕ちる。

  痛みを楽しめ――。





     ◆

 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、閉ざされた空間の中にいる。彼の目の前には防火シャッターが行く手を阻み、彼の進路を遮断していた。
「くそっ………此処もか。一体どうしたと言うんだ…」
 困惑の色を隠せずにいるエヴァルトは、しかし直ぐ様防火シャッターに背を向け再び別に脱出経路を探し始めた。
「さっきは確か、この辺で銃声のようなものを聞いたが………だとするとこの事態の鍵が何処かにあるはずだな」
 考えながらに歩みを進める彼は、一本の通路から開けたスペースに到着する。中央に噴水があるその広場は、本来ならば休日を過ごす大勢の人々で賑わい、彩られていたであろう。現に辺りには、つい先程まで人がいた気配を残している。飲みかけのペットボトルy紙コップ。何処かの店ではキャンペーンをやっていたのか、そのチラシ等が床や噴水の淵などに残されていた。どれも既に持ち主は不在。その光景を目の当たりにしたエヴァルトは大きくため息をついた。
「皆の休日をこうやって邪魔立てするとはな。なんとも野暮ったいことをするやつもいたもんだ。と、さて――ちょうどあそこに案内が…………っ!?
 広場の端、柱の近くに備え付けてあった見取り図の書かれている看板を見つけた彼は、更にあるものを見付ける。まるで子供の悪戯描きか前衛的なアーティストが描いた絵画の様な荒々しい、筆で殴り描いた様な真っ赤な何か。そしてエヴァルトは、それが何であるか、瞬時に理解する。否――理解してしまった。
「これは人の――あの柱に延びているが…………クラウン先輩?!」
 まるで何者かから隠れるようにして、ウォウルが柱に寄り掛かっていた。口や体からは、床に流れているそれが着き、鮮血に染まった手には携帯が握られていた。その姿を見た彼は、慌ててウォウルの元へと駆け寄って行く。
「大丈夫か!? 先輩!」
「う……お、おや? その声は――?」
「俺だ! エヴァルトだ! それより先輩、一体何があって――」
「お恥ずかしい、ながら………ラナが………ちょっと、おイタを、ね………ゴホッ、ゴホッ……!」
「ランドロックさんが!? 待ってろ、今外に」
 そこでエヴァルトの腕を掴むウォウルは、笑顔のままに首をゆっくり横に振った。既に血液が足りないのか、焦点は定まらず、瞳に光が灯っていない。
「僕は、良いですから。貴方は早く、お逃げなさい………」
「馬鹿を言うな! 怪我してるアンタを見捨ててなど行けるか!」
「ありがとう………。その気持ち、だけで………胸が一杯です、よ」
「…………そんな」
 既に負傷してから数分。体温は低下し、多量に出血をしている上に満足に呼吸できずにいる彼は、もう死に体と言って遜色のないものだった。
「俺が、俺がいながら…………」
 途端、エヴァルトの体から力が抜け、フラフラと鑪を踏む。
「俺がいながら……なんて様だ………」
 ぼそぼそと、口ごもりながらそう呟き出すエヴァルト。どうやらウォウルにはその声は聞こえていないらしい。
「そんな、いやだ。絶対に、嫌だ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だウソだウソだ、うぅ………………うわぁぁああああああああああああ!!!!」
 頭を抱え込みながら地面に倒れ込む彼の異変に、漸くウォウルが気付いたらしい。
「エヴァルト、君…………? エヴァルト!! ぐっ…………………」
 語尾は半ば叫ぶように、よろめき崩れるウォウルは前に倒れ混んだ。何とも嫌な、生々しい音が響きその後にウォウルが短い悲鳴を挙げる。何とか痛みに耐えながら、朦朧とする意識の中でエヴァルトの姿を探し、這いずり始める。
「エヴァ………ルト! 大丈夫、ですか…………!?」
 小さな痙攣を起こしていたエヴァルトの肩を抱き寄せるが、彼の震えは更に大きくなり、次第にその震えは完全に揺れへと変異する。本来、人間のそれが起こすことの出来ないほどの力によって、彼の体は地面から弾け跳び、肩を抱えていたウォウルの体を勢いよく遠ざけた。

「がぁああああぁあぁぁあああああっぁぁぁぁああっ!!!!!!!!!」

 最早人の発する声ではない、一種咆哮の様なものを轟かせ、倒れていたエヴァルトは自らの足で立ち上がった。
「ぐっ………………ゴホッ、ゴフッ!!! エ………エヴァルト君…………!?」
 吹き飛ばされた勢いで更に口から真っ赤な塊を吐き出しながら、既に自らの意思から離れてしまった四肢に力を込めようとするウォウル。
「ぁぁああああっ! やっとだぁ、やっと出てこれたゼェぇぇぇ!! 随分と面倒な体だが、あるだけまだ良いとしてやるか…………ん?」
 豹変した顔つきのエヴァルトは、そこで地面に横たわるウォウルの姿を見付けた。
「死に損ないかぁ………ふん、興味ねぇなぁ。なんだお前、何パートナーに半殺しにされてんだよ。だらしがねぇなぁ」
「……………………………………」
「ま、どうでもいいかぁ。お前の命なんざよぉ! それより安心しな、お前のパートナーは他の誰に会うより先に、俺が殺してやるよぉ! ギャッハッハッ! なんだか面白ぇやつみてぇだしよ、しっかりぶっ殺してやる!」
「…………………」
「良いかぁ!? 俺が殺るまでお前、死ぬんじゃねぇぞ? パートナーロストで弱くなられたら詰まんねーからよ。俺が暴れたら、後は勝手に死んで良いぜ。じゃあな、また会うことはねぇだろうがよ」
「…………………………………」
 そう言い残すと、エヴァルトらしきものはその場を後にする。高笑いを残しながらゆっくりと、悠然と去っていくのだ。
「………………奈落人…………ですかね。あれは…………ゴホッ、いただけないです、よ…………」
 ウォウルの見立て通り、エヴァルトは奈落人に体を奪われていた。殺戮本能 エス(さつりくほんのう・えす)と言う名の奈落人。悪意と殺意と狂気を纏ったそれは、エヴァルトを呑み込み、封じ、暴れだすのだろう。残されたウォウルはエヴァルトに謝罪の念を抱き、その場で意識を失った。

 その場に鳳明がやって来たのは、エヴァルトがエスに乗っ取られ、ウォウルの元から姿を消した、一足違いのタイミングである。
「あれって……………ウォウルさん? えっ? 何、これ…………」
 彼女の見た光景はそれはそれは常軌を逸したそれだった。飛び散っている鮮血と、血溜まりの中には突っ伏したままのウォウルらしき人影。顔は鳳明からは見えないが、背格好からしてそうであることは間違えない。
「うそ………だよね? 何でこんな事になってるの? 何で………?」
 恐る恐る、彼女は血溜まりへと足を踏み入れる。転がっているウォウルを抱き、仰向けにあっていた彼の体を反転させた。
「ねぇ……………ちょっと、手が込みすぎだよ? ねぇ………」
 鳳明は笑っていた。それは苦笑でも、愉快さからくる笑みでもない。現実を直視できないときにのみ現れる類いの、一種の防衛規制。現実を現実として認識し、認知するまでのタイムラグにして、せめてもの足掻き。
「ウォウルさん!!!!」
「――……今度は貴方、ですか」
「ウォウルさん!! しっかりしてよっ!」
「大丈夫、ですよ………それ………より、エヴァルト、君が…………」
「彼がどうしたのっ!?」
「ラナ、だけで……………なく、彼も…………自我、を」
「わ、分かんないよぉっ………」
 先程以上に緩慢な、既に意識を失いかけているウォウル言葉に、うっすら涙を溜めながら、彼女はウォウルの体を擦る。傷に響かないように慎重に、しかし懸命に体温の低下を抑える為に。
「ラナと、エヴァルト………君を、止めて、あげて………ください」
「ウォウルさんはどうするのさっ!?」
「すみませんね、お手数………かけてしまって」
「ちゃんと話し聞きなさいよっ! もうっ!!」
「僕は、平気………………です、から」
 その姿に、鳳明は決意を固める。このまま自分がウォウルの近くに居ても、同じことしか彼は言わないだろう。故に彼女は、賭けに出た。
「………わかったよ。わかったから、約束して! 私は二人を止めるから。絶対に止めるから。だからウォウルさんは死んじゃ駄目だっ!」
 クスクスと、力なく笑う。
「良いねっ! 絶対に、だからね! もうすぐ皆来るから、それまで頑張ってね!!!」
 自分の来ていた上着を彼にかけると、鳳明は目一杯袖で涙を拭い、走り出す。宛などはない。そんなもの、持ち得ていない。それでも、彼女は足を進めた。ウォウルの願いを叶えるために。
「――しの出来る事……」
 一言、呟く。
「――が、私の出来る事」
 二度、呟く。
「これが、私の出来る事!!」
 三度目は、怒号。

  怒りに似た何かは、彼女に力を与える――。





     ◆

 響き渡っているのは、何とも下品な笑い声と――銃声。

 未散に向けて放たれる弾丸は、狂気はあれど殺意のないものである。故に、正確性においては皆無と言って遜色ない。
「羊ガァ十三匹ィィッッ!!! 羊がジュウよン匹ぃッ!!!! アッハッハッハッハっはっはぁあ!!!」
「イチイチ耳につく笑い方しやがって………!!!」
 小切れの良い射出音と物体が空を切る音の中、未散は家具と家具、物と物の間を飛び越え、飛び込み、飛び交っている。物陰に隠れた彼女は、手にする暗器を確認した。攻撃にはまだまだ尽きぬ個数であるが、此処まで攻撃の悉くを無効化されては、不毛とも思える行為に感じ始めている。
「ちっくしょう! 悔しいけどやるなぁ、アイツ! 今の状態であれなら、元に戻ったらどうなるんだよ、楽しみすぎて笑えやしねぇなっっっと!」
 一ヶ所に留まれるのは僅かに数十秒。以降は遮蔽物の原型が崩壊し始めるために遮蔽物としての意味を成さなくなる。この時の彼女も隠れていた食器棚から次の遮蔽物へと飛び退いた。
「また無駄弾を撒き散らしおって…………ウルッせぇぇぇぇえええなぁああ!」
「まーた喋ってるよ、一人で。に、してもだ。アイツが素の時が強いか弱いかはこの際置いといて、だ。うぅぅ………どうすっかな、これから」
 牽制、とばかりに再び炎を纏わせた苦無を数本投擲し、移動し隠れる未散。かれこれ十分程度このやり取りが繰り返されている。それは先程同様に弾丸で撃ち落とされるか、若しくは跳ね上げられるか、どちらにしても彼女が標的としているラナロックには到達しない。
「あれだもんなぁ………不意討ちするにゃあ………此処は持ってこいなんだけどなぁ、攻撃が予想出来ないから迂闊に近寄れねーし………だぁー! もう! しゃらくせぇなぁ!!」
 言いながら、更に移動。逃げ込んだ先で再びアメノウズメを呼び出す。
「これが此処での最後の手か。悔しいけど、今は詰みだ……」
 ぼんやりと現れたアメノウズメが、未散の攻撃命令を待っている。
「これからもいっちょ苦無投げるから、それと同時にアイツの視界の外に移動だ。私とアメノウズメ、苦無の三方向ってんでどうだろ」
 それを聞き、未散と似るそれは無言のままに頷いた。
「よっしゃ、んじゃあ行ってみようぜ!」
 未散は両の手に再び苦無を構えると、三度炎を纏わせる。そして遮蔽物から瞬間的に飛び出ると、それを投擲して再び物陰に戻っていく。
「何度も何度モナンドモ何ドモオンナジでいい加減二飽キチャッタぁあぁアアぁっはッッハハハハァ!!!!」
 金属音、爆発音、銃の動作音が再び響き、苦無が地面を穿った。と――
「知ってるよ、だからもう一工夫、ってこった」
 遮蔽物から顔を出した方向とは反対側から姿を現した未散と、完全に未散の動きと対称的に動くアメノウズメがラナロックの視界に入り込んだ。
「あああああぁぁぁぁぁっぁあぁ?」
「へっへっ! 殺しゃしねぇから安心しな」
 未散のその言葉を合図に、アメノウズメと彼女は同時に攻撃を仕掛けた。苦無を手に、速さを生かした突攻撃。即ち――突き。
「馬鹿がっ! こいつぁ俺の獲物なんだよぉ」
 勝ちを確信した未散は、しかしその言葉に首を傾げた。突きの体勢のまま、全く体を穿った感覚がないのだ。手応えがない。
ラナロックと未散の間にいる、エスに体を乗っ取られたエヴァルトが彼女の渾身の突きを止めいていた。
「何だよ応援か!? 聞いてねぇよ、聞いてねぇよ!!!」
 言葉とは裏腹に、彼女のその後の行動は迅速。数歩で互いのレンジのギリギリまで離れ、再びその姿を消す。
「有り得ねぇ、味方だったら共闘も考えたけど、あれは有り得ねぇ! くっそ!」
 『次の一撃が最後の一撃』。その決定が故に、引き際は早い。これは彼女の求める戦いではないわけで、その辺りを未散はしっかりと知っていた。
「一旦撤退だな。うっし、作戦会議だ」
 その言葉と共に、未散は気配毎、その場から完全に消失した。戦略的撤退――を選択した。
 と、エヴァルトの頭にごりごりとした感触が伝わる。故に彼は瞬間的に身を翻した。案の定。何を言うでもなくラナロックはつまらなそう引き金を引き続ける。
「おいおい! 助けてくれた恩人にするにゃ無礼だろうがよぉ、へっへ、ま、端っからバトる気満々なんだけどよぉ?」
「誰ガ助けテクレナンザぁあ頼んダよコノヤロゥ…………」
 言いながらも、彼女はひたすらエヴァルトに向けて銃弾を撃ち込んでいた。
「お前は俺がやるんだ、文句は言わ――」
「うゥルッセェぇぇぇぇンだヨォオぉおおぉおぉぉ!!! クソ、クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソぉぉ! アアあああぁあウザッテェぇんだよ、ドイツモコイツモバカにしやがってオチョクッテンノカくそがああぁもウナンダよ何だよなんダよ!!!!」
「けっ! 話しにもなりゃしねぇかよ、ホント、面白ぇ奴だなぁ…………」
「ダカラ言っタンだよオフクロヨォクソクソくソ!!! アイツのすいーとぱいくっタノハオレジャアねぇンダヨチゲーヨだからあのおとコはやめろッテ言ったンダくそ人のコトオチョクッテットおッめぇクッチマウゾくそがぁあアアあ!!!!」
「………あ? 何いってんだコイツ。気持ちわりぃな」
 完全に箍が外れる。エヴァルトを標的としているわけでもない銃弾が辺りをかすめ、穿ち、破壊する。
「ま、どうでも良いかぁ。お前強ぇんだろ? 早いとこ死合おうや、そのわけわかんねぇ頭粉々にしてやるよぉ!!」
 エヴァルトはラナロックめがけて真空波を撃ち向ける。