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リアクション
7.大総統の館・5階ガーディアン
「ようこそ。大総統の館5階フロアへ」
 向日葵たちが辿り着くと、待ちわびたとばかりにキャノン ネネ(きゃのん・ねね)は彼らを出迎える。
 そしてネネの隣には、5階ガーディアンを受け持つ長原 淳二(ながはら・じゅんじ)。
 対ダークサイズがさらに警戒を余儀なくされているのは、二人の両脇にセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が立っていることである。
 二人とも羽織ったコートの下はビキニとブーツのみ。
 コートの前ははだけているのでもはや露出狂でしかない。
「このセクシーさ……『ヒョウガール・モモ』とは比較にならない……」
 観客もごくりと息をのむ。
 セレンフィリティは、肢体を隠そうともせず右手を腰に当てる。
「ふふふ。悪の組織の後半は、セクスィー女幹部がつきもの。あたしたちに悩殺されずに進めるかどうかは、イコールダイソウトウと戦う資格があるかどうかの試金石だと思ってもらうわ!」
 セレアナも、左手を腰に当て、セレンフィリティと対をなす。
 が、セレアナの表情はどうも堅く、セレンフィリティに無理やり付き合わされている雰囲気が漂っている。
「セレン……大丈夫? みんな引いてないかしら……」
「だめよセレアナ! こういうのは第一印象が大事なの! 5階ガーディアンを横取りするくらいの気持ちでいきなさい」
「だいたい謎の闇の悪の秘密の結社って……どうしてわざわざ悪の組織に入るのよ?」
「面白そうだから!」
「そう、よね……聞いた私がバカだったわ」
 予想通りのセレンフィリティの答えに、セレアナはため息を漏らす。
 そんな彼女らに挟まれる形になっている淳二。
 笑顔ながらも汗を一筋流し、
(あ、あーれー……? 何か俺、場違いみたいになってる……?)
 と、居心地が悪い。
 対ダークサイズも、彼女らを負かすため、戦わなければならない。
 モモに対して一方的な因縁(というより嫉妬に似た感情)のある向日葵が出る。
 永谷が向日葵を心配そうに、
「サンフラワーさん、大丈夫か? 連戦だぞ」
 と言うが、
「永谷くん、ここはあたしにやらせて。絶対に負けられない戦いがここにあるの」
 と、向日葵の中ではモモに対する複雑な気持ちがあるらしい。
 永谷は向日葵に加勢をつけようと、
「うーむ。セクシー幹部と戦闘をするには……」
 と、ゲブーを見るが、何か目がおかしくなっているゲブーをバーバーモヒカンが必死に抑えている。
「がるるるる……がるるるる……」
「だ、誰か兄貴を止めてくれよぉー! あいつらを見てから、兄貴がおかしいんだよぉーっ」
 どうも彼には刺激が強すぎたらしい。
「セクスィー女幹部だとっ!? 悪の組織の鉄板を網羅しているとはさすがダークサイズ!」
 ハデスも拳を握って、羨ましいやら悔しいやら褒め称えるやら。
「改造人間サクヤ……お前も女幹部なら、覚悟はいいな……?」
「だから改造人間じゃないと……え、何の覚悟ですか?」
「我がオリュンポスにもセクシー女幹部が必要だ。ダークサイズと対等に立つため、一肌脱いでくれ!」
「えーっ! ちょちょちょちょ、兄さん! 何脱がしてるんですかーっ!」
 ハデスは思いつめて表情で、咲耶をセクシーファッションに変えようとしている。
 肩をすくめて、フッとため息を吐きながら、一人の男が前に出る。
「仕方ありません。俺も手を貸しましょう」
「ようやくお出ましか、クロセルさん」
「どうも! お茶の間のヒーロー、クロセル・ラインツァートですっ!」
 クロセルはコハクのカメラを意識しながらポーズをとり、
「かつてある英雄が言いました。『全ての戦いを勇者(ヒーロー)のためにせよ!』と。ダイソウトウと決着をつけるため、ヒーローは力を温存しなければならないのですが、今回味方も少ないようですし、ダイソウトウに俺の力を見せつけて、ぎゃふんと言わせるためにも……」
「いいから早くいけっ」
 永谷がクロセルを蹴り出す。
 ネネは、扇子で口元を覆いながらも、その目元は少し残念そうな顔をしている。
「まあ、向日葵さん。わたくしと戦おうと言うのですか? あなたとは良いお友達と思っておりましたのに……」
 ネネはそう思っているが、いつも向日葵には曲解されているようで、
「ふ、ふん! あんたの引き立て役になんてならないんだからね!」
 と、息巻く。
 他にもナイスバディな人は大勢いるにもかかわらず、なぜか向日葵はネネと会うと自分の体格を気にし始めてしまう。
 追い打ちをかけるようにセレンフィリティが、向日葵をあおる。
「なるほどね。コントラストとして申し分ない対戦相手だわ」
「失敬なっ!」
「そんなお胸で勝てるのかしら? あたしたち『セクスィー☆ダイナマイツ』に!」
「ちょ、セレン? 今何て……」
「ネネとセレアナと三人で組んだら、このチーム名しかないでしょ?」
「ええ〜……」
 セレアナは、セレンフィリティにこの恥ずかしいチーム名を撤回させようとネネを見るが、
「おほほほ。嬉しいですわ。わたくしをチームに入れてくださるなんて。決めポーズはどのようなものがいいかしら?」
「……」
 セレアナはもはや、開いた口が塞がらない。
(お、俺はどうすれば……?)
 と、ほったらかしにされて切なそうな顔の淳二。
 リアトリスの戦闘開始の合図と共に、さらに盛り上がる観客席。
「これは注目の戦いです! 『ヒョウガール・モモ』を健康美とするなら、『セクスィー☆ダイナマイツ』はまさに妖艶美!」
「向日葵とクロセルはどのように捨て台詞を言わせるのか、注目です」
「いやー、解説のクロスさん、この戦い、どう見ますか」
「そうですね。年頃の女性ですし、ケガに気をつけてほしいですね」
 説明台詞と言うより、完全に実況になっている終夏たち。
 開始と共に、すかさずブーメランをネネに投げる向日葵。
 ネネはしなやかな動きで、扇子を使ってブーメランをはじく。
「向日葵さん、そんな攻撃ではわたくしにダメージを与えることはできなくてよ?」
 悔しがる向日葵の隙を突いて、セレアナがライトニングランスを放つものの、向日葵はほとんど身体を動かさずにそれをかわす。
「私のスキルをこうも簡単にかわすなんて……」
 驚くセレアナだが、向日葵は自慢げに、
「へへーん! あんたたちの攻撃なんて、あたしのスリムなボディラインには掠りもしないわ。……ええ、ちっとも……悔しくなんてないんだからっ!」
 向日葵な言いながら涙目になっていき、
「ちょっと、誰よ! こんな台詞応募したの!」
「あ、それあたしだわ」
 と、菫が手を挙げる。
 一方、クロセルは、
「『セクスィー☆ダイナマイツ』のみなさん。こういう勝負はどうですか?」
きゅぴーん
 と、人差し指で天を指し、
「『ファンの集い』! さあ集まりなさい、一般人の皆さん! 俺がサインしてあげます!」
 ディーヴァのスキルで、どこからともなくクロセルのファンが集まってくる。
「クロセルさまああー!」
「はっはっは。さあ順番順番。俺は逃げたりしませんよ」
 クロセルの周りは黒山の人だかりとなり、彼はネネ達に叫ぶ。
「さあどうです! 何の罪もない一般人を傷つけることができますか?」
「くっ、一般人を盾に……」
「ヒーローのくせに何て卑怯な!」
 セレンフィリティとセレアナは悔しそうにするが、そんな二人の肩にネネが手を置く。
「あらあら。あのようなスキルごとき、わたくしたちの前ではむなしいだけですわ。そうではありませんこと?」
「どういうこと、ネネ?」
 セレアナは首をひねる。
 ネネはそんなセレアナに微笑みかける。
「わたくしたち『セクスィー☆ダイナマイツ』の必殺技をお忘れでなくて?」
「は……?」
 セレンフィリティが勝手に作ったチーム名だが、早くもチームになじんでいるネネ。
 ネネの言う必殺技というのも、彼女が適当に言っているようにしか見えないが、そこにはセレンフィリティが、はと気付き、
「ネネ! その手があったわね」
「え、ちょ、セレン、何言ってるの……?」
「セレアナ、今こそあたしたち三人そろわないと発動しない必殺の、『セクスィー☆テンプテーション』を使う時だわ!」
「ええ! 何それ、聞いたことない!」
 セレンフィリティとネネのノリに、完全に取り残されているセレアナ。
 そんな彼女を無理やり巻き込んで、3人はフォーメーションを組んで胸の谷間を強調したり、すらっとした脚をつつ、と撫でたりしながら、
「いくわよ!」
『セクスィーーーーーー! テーンプテーショーーーーーーーン!!!』
 セレンフィリティとネネはフロアを舞いながら、セレアナは顔を真っ赤にしながら、技名の言い終わりで三人そろってポーズを決める。
 直後、三人の後ろで、
どーんっ!
 と爆発が起こる。
 ジュレールがカレンに、
「おぬしがやりたかったのは、こういうことか?」
「そうそう!」
 などとしゃべっている。
『うおおお! ネネさまセレンさまセレアナさまーっ!』
 男性中心の観覧客が、3人の周りに集まってくる。
「うおおお! おっぱいさまーっ」
「ぴ、ピンクモヒカン兄貴―っ!」
 と、なぜかゲブーも技にかかっている。
 調子に乗ってネネの胸を触ろうとするゲブーだが、ネネは容赦なく蹴り飛ばし、
「おいたはいけませんわ」
「あ、ありがとうございますぅ……」
 どうやら『セクスィー☆テンプテーション』とは、3人の魅力で周囲の一般人を魅了するものらしい。
 こんな技があっていいのかと、むしろ動揺するセレアナをよそに、セレンフィリティは腰に手を当てる。
「あーっはっはっは! クロセルとやら! あんたもヒーローとして一般人を攻撃できるかしら?」
「な、なんということでしょう。俺に似た能力を持っていたとは……」
 ごくりと息をのみ、一歩下がるクロセル。
 それを見たセレンフィリティとネネは、
『あらあらどうしたの? それがあなたの本気なら、あなたは死ぬしかないわ!』
 と、さらにクロセルを追いこむ。
 クロセルは、もはや詮方なしと、
「さあ、ファンのみなさん! 俺のためにあの人たちをやっつけちゃってください!」
 と、ファンを戦闘員のように攻撃をしかけさせる。
 対するセレンフィリティは、
「行きなさい、下僕ども!」
 と、魅了した観客をけしかける。
 一転して、一般人同士の乱闘騒ぎになる5階フロア。
「どうなってんの、これ……」
 独りほったらかしにされている向日葵だが、逆にチャンスとみて、人ごみにまぎれてネネに攻撃を仕掛けに行く。
「おーっと待った……これもビジネスなんでね。先に行かせるわけにはいかねぇな……」
 向日葵の前に太郎がゆらりと現れて、行く手を遮る。
「こちとら生活がかかってるんでね。悪いがおまえを倒して、活躍手当てを申請しなきゃならねぇ」
 太郎は勝手にボーナスを作って、マシンピストルを構える。
 ソルジャー相手とあって、向日葵もうかつに進めない。
 そんな太郎の後ろに、テンプテーションにかかったゲブーが、
「おおおおおーっぱーいちゃーん……」
 と、太郎越しに向日葵を見る。
 完全におかしくなった目を見て、向日葵は、
(ひーっ)
 と震えだす。
 そこに、太郎の隣にネネが現れ、
『震えているのかしら? 仔猫ちゃん。もう少し手応えがあると思っていたのだけれど、残念でございますわ』
 と、扇子を口元に当てながら、きっちり台詞を言いに来る。
「むかーっ! あんたにだけは言われたくないわ!」
 と、向日葵は怒りにまかせてブーメランを投げる。
 そしてネネはひらりとかわし、ブーメランはゲブーの鼻に直撃。
「うぎゃー!」
 ゲブーの返り血が、ネネの二の腕の肌に付着する。
 それを見てネネは、はっとなり、
「このわたくしの美しい肌に傷をつけるなんて……」
「いや、傷ついたのは俺様なんだが……」
 と、ゲブーは鼻を抑えるが、ネネは無視。
「……いずれ、この責任は取っていただきますわ。またお会いしましょう。ごきげんよう!」
 と、ネネは深紅の薔薇をヒュンと投げつけ、飛び去っていく。
「うんうん。なかなかいいんじゃねえか? かっこいい気がするねぇ」
 太郎は去っていくネネを見ながら、自分の台詞に満足げである。
「あらあら、すっかり汚れてしまいましたわ」
 ネネはセレンフィリティのことをすっかり忘れ、血を落とすために温泉に向かってしまう。
「あ、あれ? 俺達何やってんだ……?」
「何でケンカしてんだよ……」
 ネネが去ったことによって、『セクスィー☆テンプテーション』の呪縛から逃れた観客たち。
 セレンフィリティは、
「ええー! ちょ、ネネったら! 勝手にどっか行かないでよー!」
 クロセルは、
(助かったー)
 と思いながら、
「所詮、付け焼刃の技だったようですね! さあどうです!? 今やあなたがたは裸の王様! まだ俺と戦いますか?」
 と、ここぞとばかりにセレンフィリティたちを追いつめる。
 セレンフィリティは、
「いかに言葉を飾ろうとも、今日のところはあたしの負けよ。けれど、これで我らダークサイズを追いつめたなどと思いあがるのは笑止千万! 後がないのはそっちよ。覚悟なさい!……ていうか何であたし独りで言ってんのよ!」
 と、すでにいないネネに文句を言う。
 諸々含めて恥ずかしくなってしまったセレアナも、
「敵もたいがい許せないけれど、もっと許せないのは負けた私自身よ! 私はお前の中の私を斃すために、必ず戻ってくる! その時がお前の命日よ!!」
 と、やけ気味に捨て台詞を残して、逃げていく。
「ふう。『セクスィー☆ダイナマイツ』……恐ろしい敵でしゅつ」
 と、クロセルもたまにはヒーローらしくつぶやいみるのだが、慣れない台詞で微妙に噛んでしまったため、誰かに聞かれていなかったかキョロキョロするしまつであった。
 
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