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取り憑かれしモノを救え―調査の章―

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取り憑かれしモノを救え―調査の章―
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●鍛冶屋

「この村に封印されている剣の所持者なんかの経緯調べて教えてくれないか」
 閃崎静麻(せんざき・しずま)は携帯電話を片手に村内を歩き回っていた。
 内部だけでは足りない情報も、外部から引っ張ってくることができたらという考えからだ。
 ただし、時間が余り無いため、専ら連絡を取るのは静麻と親しくしている間柄の人たちに限定されてしまっていたが。
 それでも、情報源として有用な情報が得られればそれでよかった。
「……君も何か調べ事か?」
「ん? ああ……剣の持ち主の変遷について調べている」
 唐突にかけられた声に驚きもせずに静麻は答えた。
 声の主――頑固爺そのものの容貌のお爺さんは、
「あれの持ち主は生涯に二人だけだ。後ろの奴らにも話を聞かせるが聞いていくか?」
 静麻に事実を突きつけ、そう問うた。
 そして静麻は少し考える仕草をすると、今ポケットに入れた携帯電話を取り出し、
「ああ、俺だ。さっきの話はやっぱり無しだ。すまない。でも、腕の立ちそうで此方まで来ることができそうな人に連絡をしておいてくれないか」
 頼むと、矢継ぎ早に告げ携帯電話を片付けた。
「すまない。話を聞かせてもらっても?」
「……入れ」
 裏口のような木製の戸を開き、お爺さんは静麻、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)カムイ・マギ(かむい・まぎ)を迎え入れた。
「ボロ屋だが……。まあ、話をする分には問題ないだろう」
 お爺さんは座布団の埃をはたきながら用意した。
「まあ座れ」
 そういって3人に腰を落ち着けさせる。
 室内は埃が積もり、誰がどう見ても長年使われていない家だった。
 土間と板張りの簡素な室内に、奥に追いやられた端の擦り切れた紙切れが数枚。
 本棚には幾ばくかの古い本が投げやられるように置かれていた。
「ふう、何から話したものか……」
 そう天井を見上げ、思い出すように目をつぶるお爺さん。
「あの、剣を鍛えたのが貴方、ということだったけど……」
 レキがそう聞く。
「ああ、そうだったな。まずは出自について話をしようか……と言ってもワシが一人前と認められて初めて鍛えた剣があれ、というだけなのだが」
「それにしてはとても美しい剣でしたよね」
「そうか……美しい、か……」
「何かおかしいことでも?」
 カムイの素直な感想。それにお爺さんは言葉を詰まらせていた。
「あれは、ワシがこの村一番の剣の使い手のためだけに鍛えた物だ。腕の立つ美人でな……」
「惚気……?」
 レキはあっけに取られたようにポツリともらした。
「違う違う。その子が戦うための一つの装飾と考えて作った剣なのだよ」
「それが、どうして今や呪われた剣の扱いを?」
 静麻の疑問はもっともだった。
「その子には弟がいた。いつも姉の後ろをついて回る弟だった――」
 お爺さんは、そのときのことを思い出すように、静かに話を始める。
 まるで最近起こった出来事のような臨場感と、物悲しさを含んだ話だった。
 お爺さんがいうには、

 姉の剣の腕は村一番で、村の自警団の一員だった。
 鍛冶屋のお爺さんがプレゼントした剣を愛用し、暴れれば誰も止められないといわれるまでだった。
 しかしある時、村を強大な魔獣が襲い始めた。
 犠牲者を出しながらも、何度も追い払うことはできていたが、戦力が足らなくなってきていた。
 そんな中、姉の弟が結界を作ろうと言い出す。
 しかし、結界の完成を待たずして、姉と魔獣は相打った。


「悲しみにくれた弟は、姉のことを忘れるように、結界の研究を続けていたよ」
「剣の怨念は弟、ということか? 二代しか持ち手がいない剣にそんな簡単に怨念が宿るわけが……」
 静麻は考え込む。ありえない話ではないが、そんな簡単に怨念が宿るなんて考えられない。
「いや、でもまて、一代目がその姉ならば、二代目は……?」
「弟だよ。研究に研究を重ね、剣の持ち手を守護するために結界を作り出した。亡き姉のために、と考えればここまでは美談だったが……」
「非人道的な行いをしたってことか」
「ああ」
 静麻が引き継いだ言葉にお爺さんは短く答える。
「地球に存在する妖刀の伝承と似たようなものでしょうか……」
「似ているが違うだろう。あれは偶然の産物から禁忌とされたもの。この剣は怨念が囁きかけ体を乗っ取るというものだ」
「そうですか。今の話を聞いて似ていると思ったのですが」
 カムイはおずおずと引き下がる。
「いや、ワシにも詳しいことは分からんよ。まあ、封印された経緯はそんなものだ……あやつの希望であの剣で首を刎ねられたのが唯一の幸せだろうと思っていたのだがな……」
「それは違うと思うな」
 お爺さんのぼやきに、レキは否定の言葉を投げる。
「これはボクの予想だよ? 多分その剣で首を刎ねられたことで弟さんは自分を怨念としたんじゃないかな?」
「真相はワシには分からない。だが、頼む……もう開放してやってくれんか……50年、50年ももう怨念として彷徨っているのだ」
 お爺さんは力なく頭を垂れる。
「仕方がないな」
「任せてよ!」
「剣の怨念を開放するためなら」
 三者三様でお爺さんの頼みを了承したのだった。