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パーティーは大失敗で大成功?

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 ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)は仕事をこなすため、会場を駆けまわっていた。
 頼まれた飲み物を運び、使い終わった食器を廊下に置かれたトレーに置いて、すぐに会場に戻った。
「はわわっ、忙しい。忙しいです――キャ!?」
 ヘスティアが何もない所で転んでいた。
 皿を返しに言った後だったので手に何も持っていなかったのが幸いだった。
「いたた……」
「だ、大丈夫ですか!」
 ヘスティアがぶつけたおでこを摩っていると、あゆむが心配して走ってきた。
 そして――
「うわっ!?」
 あゆむも転んだ。
 ヘスティアは目の前で倒れたあゆむに手を貸して上体を起こさせると、ため息を吐いた。
「ヘスティア、何もない所で転んでしまいました……」
「あゆむもです……」
 ヘスティアとあゆむは見つめ合い、力強い握手を交わした。ドジっ娘機晶姫同士の共感であった。
「お二人ともサボってないで働いてください」
 床に座り込んでいたヘスティアとあゆむを、アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が覆いかぶさるように見つめて注意する。
 アイビスはメイド服の裾を翻して、凛とした足取りで仕事に戻っていく。
「出来る機晶姫って感じです」
「機晶メイド長ということですね!」
 ヘスティアとあゆむが憧れの目を向ける。アイビスは背筋がゾクッとしたような感じがした。
「ん? ヘスティアのやつは何をやっているのだろうか? 我らオリュンポスには重大な任務があるというのに……」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)はあゆむと仲良くしているヘスティアを不思議そうに見ていた。
 ハデス、ヘスティア、それに真っ黒焦げの料理を作った咲耶は、ミッツの父親からお見合いを成功させる依頼を受けた悪の秘密結社オリュンポスのメンバーだった。
 お見合いを失敗させたいあゆむ達とはいわば敵同士なのである。
 すると考え込んでいたハデスはピンきた。
「は、そういうことか! 確実に惚れ薬を飲ますためには面識のない我らより、顔見知りのあゆむを利用した方がいい。そういうことだな。さすが我が部下だ! フハハハ!」
 会場でいきなり高笑いをしだしたハデスを来賓達は関わらないように避けていた。
 ハデスはそんなことなど気にせず、用意しておいた「ハデス特製惚れ薬」を取り出すと、ヘスティアに隙を見てあゆむ経由でミッツに飲ませるように指示を出した。
「わかりました」
 ヘスティアは惚れ薬をポケットに入れて仕事に戻る。

 お盆に乗せた飲み物をヘスティアが来賓に渡していく。
「そこのメイドさん。私にもお一つ頂けるかしら?」
 ヘスティアは飲み物をルカルカ・ルー(るかるか・るー)に渡した。
 ドレスを身に纏ったルカルカは、女性達と洋服や宝石、旅行などの話で盛り上がった。
「あの男性が私のパートナーのダリル。趣味で教導本校で医者をやってますの」
 会場の壁際でダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がミッツ・レアナンドと再開を祝して乾杯をしていた。
 ルカルカは女性達との会話を充分楽しむと、他愛もない話をしているミッツとダリルのの元へやってきた。
「ねぇ、ちゃんと見ててくれた? 完璧だったでしょ。まさに上流階級の嗜みでしょう」
 ルカルカは自慢げに二カッと笑っていた。
 すると、ダリルが鼻で笑うようにして言った。
「誰が上流だって? ルカ、まさかそれは君のことか?」
「そう。そういう事にするの。ルカはこれでもロイヤルさんだし資産家よ。実家は地球のやんごとなき一族だし大丈夫だもんっ」
「なんだそのロイヤルさんって……。いいかよく見てろ。上流の振舞いとはこういうことを言うんだ」
 そう言ってダリルはルカルカ達から離れていくと、来賓の女性に話しかけた。
「こんにちは。お嬢さん、楽しんでいられますか?」
 優しい笑顔で女性の警戒を解きながら、会話を弾ませていくダリル。
 そして女性が自然と笑顔を見せると、ダリルは相手の細い手を持ち上げるようにして掴む。
「友人レアナンドの招きに応じて良かった。素敵な人に会えたのだから」
 女性の顔がポッと赤くなる。
 遠目から見ていたミッツとルカルカは感心する。
「なんだろうな。ダリルはよくあんなことがサラッといえる。しかも似合ってるし……」
「ミッツさん、もしかして妬ましく思ってたりする?」
「別に……」
 ミッツは壁に寄りかかって、心の中で呟く。
「後であいつの食事にわさび入れてやる」
「……ミッツさん、言葉に出てるよ」
 悪巧みを企むミッツにルカルカは苦笑いを浮かべていた。

「お二人も「佛跳牆」いかがですか?」
 ミッツとルカルカが話していると、真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)が皿に取り分けた「佛跳牆」を持ってきた。
 ミッツは真名美から皿を受け取ると、漂ってくる香りを肺いっぱいに吸い込んだ。
「さすがに無理言ってきただけはあるな。すごく美味しそうだよ」
「その節はどうもお世話になりました」
 真名美がぺこりと頭を下げる。
 皿を手に持ったルカルカは二人の会話について行けずに首を傾げる。
「何かあったの?」
 真名美が語る。
 最初は中華料理を出すことに反対されたが、真名美は懸命に交渉し、自分達の作った中華料理を並べられるスペースを獲得したこと。
 そして材料費などは【根切り】でできるだけコストを抑えつつ、来賓に満足してもらえるような料理を作り上げたのだと。
「へぇ。そんなことがあったんだ」
「瓶も貸して頂いたんだよ」
「そうなの? なんだか高そうな瓶だけど……」
 ルカルカは弥十郎が料理を振る舞っているテーブルに置かれた瓶を見つめる。
「あぁ、多分高いだろうな。でも親父の蔵の奥に使わず放置されてたやつだから、大丈夫、大丈夫」
「「……」」
 無邪気に笑うミッツに、ルカルカと真名美は「それは大切にしまってあったのではないか」と不安を感じた。
 ミッツはその蔵に≪三頭を持つ邪竜≫を封印したとされる≪機晶可変武器――覇動槍ウルスラグナ≫が封印されていることを話した。
 小さい時にそれをジェイナスと見つけたことがきっかけで、自身は研究者を目指し、ジェイナスは遺跡を回る冒険家になったのだと、ミッツは楽しそうに語っていた。