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再建、デスティニーランド!

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再建、デスティニーランド!

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第二章

 開園と同時に並んでいた人たちがゲートをくぐり、思い思いにアトラクションやステージに向かって流れていく。
 セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)幸田 恋(こうだ・れん)とともにわくわくしながらゲートをくぐった。
「デスティニーランドに来るのも久しぶりですわね。以前行ったのは別の大陸の海沿いの都市にあったやつですが……。たしかカリフォ」
「セシル殿、それ以上いけない。あと多分そこデスティニーランドじゃないです!」
 よくわからないなりに、セシルの発言に危険な匂いを感じ取った恋は最大速度で突っ込んだ。
「それよりセシル殿、遊園地に来るのは実は初めてで……。新鮮な気分ですが、気になる乗り物が幾つもあって、どれから乗るか目移りしますね」
「そうですわね……とりあえず、軽いところから、メリーゴーランドにでも参りましょうか」
「はい」
 二人はメリーゴーランドを目指して歩きはじめた。
 歩きながら、アトラクション単体ではなく、ランド全体として創られている世界観に、恋は衝撃を受けた。
 
 初めて遊園地を訪れたビスタ・ウィプレス(びすた・うぃぷれす)は、紅護 理依(こうご・りい)とパンフレットを覗き込んでいた。
「色々な乗り物やショーがあるんですね、どこに行きましょうか」
「やっぱり遊園地といったらジェットコースターだよね」
「ジェットコースター? あ、理依様。私、これに乗ってみたいです」
「どれ? カラミティコースター?」
 怪訝そうな理依の言葉にビスタは不思議そうな顔をする。
「理依様もご存知ないアトラクションなんですか?」
「いや、普通のコースターじゃなくてなにかイベント仕様になってるみたいだね。ま、行ってみようか」
「はい、楽しみです」
 人の波に乗るようにふたりはランドの奥へ向かって歩きだした。

「大丈夫ですか? 良ければご案内しますよ」
 小さな子供を連れた女性が不安げに案内図の前に立っているのを見かけた未憂が優しく声をかける。
「ありがとうございます。この子を連れて乗れる乗り物がどれだか分からなくて……」
「小さいお子さんが楽しめるアトラクション……」
「みゆう、おっきなとけいがついてるあれが楽しそうだった」
 リンが開園前に見て回った中で、子供が喜びそうだったアトラクションを思い出す。
「そうね! ゆっくり進む乗り物にのって、色んな国の文化が可愛らしくアレンジされた広い屋内を回るアトラクションがあるんです」
「面白そうですね」
「ご案内しますね」
 子供のペースに合わせてゆっくりと歩く未憂。
「みゆうみゆうー。あとであれ食べよー」
 途中、甘いキャラメルがかかったポップコーンの売り場を通りすぎるときにリンが声を上げる。
「後でね。今は仕事中よ」
「うん」
 きょとんとする子供の隣で、女性が楽しそうに笑った。
「明るいキャストさんばっかりなんですね。来て良かった」
「ありがとうございます。あ、こちらです」
「本当にありがとう、ほら、ちゃんとお礼言って」
「おねーちゃんたち、ありがとうー」
 ぶんぶんと手を振る子供に手を振り返すと、未憂たちはふたたびゲート近くへと戻っていく。
「……あとであれ、のってみたい……」
「じ……時間があったら……ね」
 ジェットコースターを指差したプリムに未憂は引きつった笑顔で答える。
 正直、ジェットコースターは苦手なのだ。
 と、三人の耳に子供の泣き叫ぶ声が聞こえた。
「どうしたの? どこか痛いの?」
 未憂がかがんで優しくそうたずねるが、子供は首をぶんぶんと振ってなきじゃくるだけだ。
「今日は誰と一緒にきたの?」
 なんとなく状況を察して質問の仕方をかえると、今度は「お父さん」と繰り返しながら泣き始めた。
「リン、お願いできるかしら?」
「もちろん。よし、一緒におとーさん探しに行こうか」
 そう言ってリンが光る箒を取り出すと、子供はぴたりと泣き止み頷いた。
「みゆう、行って来るね」
「お願いね」
「よーし、いくよー」
 リンは子供を自分の前に座らせて落ちないように支えると、父親を探しに空に飛び上がった。
「……私も、いきます……」
「うん。じゃあ、迷子の子はプリムのほうに誘導するわ」
 未憂の言葉にプリムはこくんと頷いた。
 リンが保護者を探している間、一時的に子供を保護する部屋でプリムは迷子の子供たちの相手をすることになっていた。
 迷子保護用の部屋についたプリムは、心細い子供たちを落ち着かせるために幸せの歌を歌ったり持ってきたメロンパンやあんパン、お菓子などを分けて子守をはじめた。
 
 その頃入り口ゲート付近では、獅子神 玲(ししがみ・あきら)がきょろきょろと辺りを見回していた。
 一週間前に飛騨 直斗(ひだ・なおと)に誘われ約束のゲート前に来たものの、直斗がちゃんと来るか少し不安だった。
「お待たせしました! 玲さん、今日は楽しみましょう!」
 想像を絶する方向音痴を自負している直斗は、この日のために一週間前玲のOKを取り付けると同時にランドに向かっていたのだった。その甲斐あって、なんとか約束の時間にゲートに辿り着くことができた。
 二人は仲良くゲートをくぐりランドの中へと足を踏み入れる。
「こんばんわー、プーちゃんだよ。パラミタスクープハンター、今回はリニューアルオープンしたデスティニーランドにやってきています。」
 ゲートのすぐ脇では、デジタルビデオカメラを自分のほうに向け、うさぎの プーチン(うさぎの・ぷーちん)がパラミタスクープハンター用の映像を収録していた。
 収録中もどんどん来場客がランド内に入ってくるため、とても賑やかだ。
「それじゃあ早速、リニューアルしたデスティニーランドを回ってみようと思います!」
 葛葉 杏(くずのは・あん)は家で留守番だ。プーチンは番組用のネタを押さえるため、一人意気揚々とランド内へ突入していくのだった。
 
 久しぶりの休暇を使いランドへやってきたラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は、ソフィア・エルスティール(そふぃあ・えるすてぃーる)とゲートをくぐると、様々な装飾の施されたランド内を見回した。
「さーて、来たのはいいが生憎俺はこの手の遊びは全くわかんねぇんだよな」
 そもそもラルクは「遊ぶ」という行為をやっと覚え始めたばかりなのだ。当然、遊園地に来た思い出などなかった。
「そんな訳でソフィア、任せた。俺はどーもこういう遊ぶって知識はないんでな」
「それではパパ! ジェットコースターとメリーゴーランドにまず乗りたいです」
 ソフィアも遊園地は初めてだったが、この日のために雑誌や本でリサーチを行っていた。
「よし。まずはメリーゴーランドに行くか」
「はい! 楽しみです!」
 嬉しそうに頷くソフィアを見て、なるほど遊園地も悪くないとラルクは思う。
 幸いメリーゴーランドはそんなに並んでおらず、すぐに順番が回ってきた。
 安全のため、ラルクとソフィアは同じ馬に二人で乗ることにした。ソフィアを前に座らせると、落ちないように後ろから支える。
 楽しげな音楽とともに、ゆっくりとメリーゴーランドが回り始めた。
 メリーゴーランドを囲むようにカメラを構えた親たちが、子供が乗る馬が目の前を通りすぎるたびに笑顔でフラッシュをたく。
 1周目は、異様に研ぎ澄まされた雰囲気を持つラルクとメリーゴーランドの違和感に周囲にざわっとした空気が漂ったが、その前で楽しそうに笑うソフィアの姿を見ると途端に和やかな空気へと変わっていく。
 そんなふんわりとした空気をみた平賀 源内(ひらが・げんない)は首をかしげた。
 遊園地といえば絶叫マシーンのはず。
 こんなに地味な動きのアトラクションがあって良いはずがない。
「どうせならドーンとパワーアップさせたいのう!」
 そわそわと身体を揺らす源内の様子にノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)は呆れたように尋ねる。
「……源内。お前さん何を企んでるんだい……」
「これじゃいかん。わしが何とかしてやらんとのう」
 源内はそう言うとメリーゴーランドの整備室へもぐりこんでいく。
「面倒な事にならきゃいいんだがねぇ……」
 ため息を吐きながら、少し離れたところで源内とメリーゴーランドの様子を見つめるノア。
 源内がいくつかの基盤やスイッチをいじると、メリーゴーランドのほうから叫び声が聴こえてきた。
「よしよし。成功したようじゃのう」
 満足げに一人ごちると、様子を見ようとメリーゴーランドのほうへ戻る。
 メリーゴーランドの周囲は大混乱になっていた。突然凄まじいスピードで馬が動き始め、乗っている子供たちも周囲で見守っていた親やキャストたちも大パニックに陥る。
 ゆったりと腕を組んで待ちかまえていたノアはうっすらと笑みを浮かべると源内に問いかける。
「今この場で氷付けになるのと修理するの、どっちがいいかは選ばせてやろうじゃあないか」
「い、いや、これはじゃのう、遊園地としての……」
「それが答えかい?」
「そーゆーわけではないんじゃが……」
「さっさと修理してきな!」
「し、仕方がないのう……」
 後ずさりしながらそう言うと、源内はとぼとぼと整備室へと戻っていく。
 一方ラルクはソフィアをしっかりと支えると、馬に乗っている子供たちに向かって大声で叫んだ。
「いいか、目の前の棒にしっかり捕まれ! 少し前屈みになるんだ。目は伏せるな、しっかり前を見てろ! そうすりゃ絶対落ちねぇから!」
 先ほどまでは違和感の強かったラルクだが、暴走を始めたメリーゴーランドを乗りこなすラルクは妙に様になっていた。
 それを聞いた子供たちは一斉に言われたとおりの姿勢を取る。すると、泣きそうだった子供たちから、歓声が上がり始めた。
 柔軟性の高い子供たちからすれば、バランスさえ取れてしまえば多少スリルの上がったメリーゴーランドは、それはそれでかなり楽しいものだったのだ。
「ぎゃあああああああああああ!!」
 カボチャの馬車に乗っていた直斗だけが掴まる棒がなかったため、馬車の壁に張り付いていた。
「メリーゴーランドもすっごく盛り上がってますよー。ちょっと速い気がするけど!」
 そんな様子をプーチンがレポートする。
 メリーゴーランドが止まると、同じスリルを共に味わった子供たちは誰からともなく集まると、興奮した様子でひとしきりお互いを讃えあうと、ラルクに手を振って心配する親たちの元へと戻っていく。
「みんな楽しかったって言ってました。びっくりしましたけど、私もすっごく楽しかったです」
 ラルクの元に戻ったソフィアの言葉にラルクはほっとした。
「大丈夫? 直くん!!」
 一方の玲は慌てて馬車へと駆け寄るのだった。
「セシル殿、メリーゴーランドとは、なかなか激しい乗り物なのですね」
「いえ……恋さん、今のはちょっと違ったんだと思いますわ」
「そうなんですか?」
 完全にメリーゴーランドを勘違いしてしまった恋にセシルはどう説明したものかと悩む。
「まったく、こういう時ばっかり成功させるってのはどういうことだい」
「なんだか傷つくのう……」
 源内はしょんぼりとメリーゴーランドに乗ると、楽しげな音楽に合わせゆっくりと回転を始めた。
「大人が一人で乗っても楽しめるみたいですよ!」
 その様子も、逃さずプーチンはビデオに収めた。
「あら、ちょうど良かったですわ。恋さん、これが本来のメリーゴーランドですわよ」
「なるほど。ありがとうございます」
 源内ひとりだけが白馬に乗って回っている姿を見た二人は言い様のない切なさを感じ、そそくさと次のアトラクションへ向かった。
「まったく、騒ぎを起こしちまった詫びはしないとねぇ」
 そうつぶやくと、ノアはゆったりとした足取りでメリーゴーランドを後にする。
「ああ! ノア! 置いていくっちゅーのはひどいきに!!」
 源内の情けない叫び声が木霊し、子供たちの笑い声が響いた。