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葦原明倫館流☆年末年始の過ごし方

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第5章  冬空に舞う羽根


「朝食ができたのネ〜!」

 校庭の、校舎からわりとすぐの位置に立つテントは、見学席となっている。
 盆を抱えて、ティファニー・ジーン(てぃふぁにー・じーん)が現れた。

「ティファニーちゃんはあっちからお願い。
 あたしはこっちから配るね〜」

 秋月 葵(あきづき・あおい)も、雑煮の入った椀を渡していく。
 すでに羽根つき勝負は始まっており、参加者達もある程度まで絞られていた。
 葵はというと、一回戦で負けてしまっていたり。

「あ、2人ともみ〜つけた!」

 最後のテントへ辿り着いたとき、発見したのはパートナー達。
 端に転がり、ぐったりとしていた。
 
「おぅ葵ではないか」
「まったくイヤになるのにゃー」

 フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)が、軽く手を挙げる。
 もう、立ち上がる元気もないらしい。
 隣でふて腐れる、イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)も同じく……ん。

「いい匂い、にゃー?」
「おっ、グリちゃんさすが!」
「相変わらず、鼻だけはいいのですね」
「なんだとにゃー!」
「我は思ったことを言っただけだ」
「ふふふ、グリちゃんも黒子ちゃんも仲いいよね〜♪」
「「よくない!」」
「はいはい。
 お雑煮、持ってきたからどうぞ・
 ちなみに、お餅は香ばしくなるよう焼いてあるからね〜♪
 配り終わったらまた来るから、一緒に食べよ♪」

 言い合うイングリットと『無銘祭祀書』に、ほっとする葵。
 残っていた椀を置くと、青の振り袖を揺らしながら家庭科室へと走っていった。

「ふむ……美味しそうだが、冷えはしないでしょうかって!」
「美味しいにゃー♪」
「言っているそばから……ホント、食い意地だけは張っているのな」
「にゃん!?
 さっきからいちいち五月蠅いにゃー!
 ロリ婆の古本、勝負にゃー!」
「ふん!
 軽く返り討ちにしてやる」
「トーナメントではあたらなかったけど、これから雪合戦の雪辱を晴らすにゃー」
「それを言うなら雪辱を果たすだ!
 バカ猫が……」
「けっ、パワードスーツの機動力があれば無敵にゃー!」
「とらスーツでいくら叫んだってなにも怖くないぞ」
「そっちだってチャイナドレスとかチャラチャラしたもの着てるくせににゃー!
 いくにゃ、フレイムタイガー!
 使い魔のネコどもには負けないにゃー!
 わいるどに吼えるにゃー」
「【降霊】か……なれば我は【サイコキネシス】で応戦する!
 これで羽根の軌道は思いのままだ!」
「お待たせ〜って、あれ?」

 熱くなった2人は、お雑煮のことなんて忘れて羽根つき勝負を再開。
 とんだ負けず嫌い達を眺めながら、葵はお雑煮を食すのである。

「アハハー羽根つきって楽しいー」
「俺の勝ちです!」

 トーナメントの両端で、順調に白星を重ねるのは。
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)と、セルマ・アリス(せるま・ありす)の2人だ。
 それぞれ【光術】と【風術】を駆使して、試合を有利に進めている。

「まだボクが勝っているみたいだね」
「勝負は最後まで分からないよ?」

 メモを取り出し、ペンを走らせる。
 見せ合えば、氷雨の方がセルマより高得点のようだ。
 なぜ得点勝負をしているかというと、話は昨日の昼に遡る。

「こんにちは氷雨さんー」
「2人とも、いらっしゃい!
 セルマ君、羽根つき行こう!」
「ってなんで振袖なんて用意してるの?
 そして急にどこへ行くの!!!?」
「リンちゃん、ボクらが帰ってくるまでお留守番よろしくー。
 あ、紫焔が居間で寝てるから起こしてねー」

 一緒に年を越そうと、氷雨の家を訪ねたセルマ達。
 だったのだが、速攻で連れ出されてしまう。

「セルマ君!
 ボクと勝負なのです!
 この羽根つきに別々で参加して、最終的に点数を多くとった方が勝ち。
 で、負けたら罰ゲーム!
 あとは大会のルールどおりに動く。
 どう?
 この勝負受ける?」
「まあ合宿するのはいいとして、なんで罰ゲームしなきゃいけないんだろう。
 ……こうなったら本気出す!」
「よし、それじゃあ、優勝とセルマ君への罰ゲームを賭けてがんばろうー!」
「かわりに、こっちが勝ったら氷雨さんにはバロさんストラップをつくってもらうけどいいかな?」
「オッケーだよ!」
「じゃあ受けて立つ!
 なにが悲しくて女装ばっかりやらされなきゃならないんだ!!
 俺は男だっていうのに!!
 今回こそは女装を回避してやる!!」

 かくして、新年早々の女装をかけて、得点勝負が行われているのだ。
 さて、氷雨とセルマが全力投球の裏側で、置いてきぼりのパートナー達はというと。

「……あ、リンちゃんおはよう。
 それとあけましておめでとう」
「えと……あけましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いします!!!」
「ふわぁ、ってあれ?
 氷雨君とセルちゃんは?」
「なにやら一緒に出ていってしまいました。
 急いでいたようですが……」
「じゃあ、2人でお留守番か……リンちゃん。
 ちょっとココ座って」
「お隣ですか?
 それではお邪魔して……」
「折角だし、のんびり待とうか」
「ってまた膝枕ですか!?
 ああ、もう私がこれ苦手なの知っててやってるんですか?
 わざとですかわざとなんですか!?」
「違うよ。
 僕が一番落ち着けるからだよ」
「あうう、私は落ち着きません……」
「まぁリンちゃんばっかりにしてもらうのも悪いよね……そうだ。
 どうぞ」
「あれ?
 今度は紫焔さんの膝に?」
「うん」
「重く、ありませんか?」
「大丈夫、僕、リンちゃんより体力あるし。
 それに……リンちゃんと一緒にいられて、リンちゃんの体温を感じられるなら、どっちでもいいしね」
「たっ体温って……」
「ん?」
「わ、私も、なんだか紫焔さんといられればなんでもいい気がしてきました……」
(それでいいと本気で思うのはまだ無理だけど……せめて、いまだけは……)

 こちらのリア充さん達は、膝枕をしたりされたりラブラブなご様子。
 敦賀 紫焔(つるが・しえん)の笑顔に、言葉に、そして一緒にいるという事実に。
 始終、リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)は頬を赤らめていた。

「さぁて次は……あなたね」
「負けないもんね!」

 貼り出されたトーナメント表を眺める、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
 続く対戦相手は、イリア・ヘラー(いりあ・へらー)のようだ。

「精一杯がんばるのじゃよ!」
「まっかせて〜」

 ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)の応援を受けて、イリアはVサイン。
 マホロバ、ひいては日本の文化に興味を持ってはいるのだが、今回ルファンは見学組だ。

「羽根つきって、意外に瞬発力やら反射神経やら動態視力やらが必要とされるのね。
 そのうえいま着ている振袖が、結構動きを阻害してくる。
 これはなかなかどうしてシビアだわ」

 コートに入ったセレンフィリティは、まるで敵と対峙しているかのような表情を見せる。
 最初は簡単だと思っていたのだが、勝負事には熱が入る性分。

「さぁ、試合開始といこうよ!」
「ふふふ、あなたもあたしを燃えさせてくれるのかしら!?」

 初めての体験をとおして発見したのは、羽根つきがれっきとしたスポーツであるということだった。
 双方とも、自分の勝利を信じて羽子板を構える。

「ほぉ、羽根つきとはあのようにするのじゃな……」

 とは、隣のコートを眺めるルファンの台詞。
 実はイリア、これまでの対戦では試合の最初で【子守歌】を歌っていたのだ。
 相手が眠っているあいだに終わってしまっていたため、今回も同じかと思っていたのだが。

「うわっ、効かないのっ!?」
「そんな……簡単にっ、眠って、たまるかっ!」

 シャンバラ教導団で鍛えあげた精神力は、やはり並大抵ではないようだ。
 イリアの驚いた声が、ルファンにも届く。

「あの者、なかなかやるのう……」
「次はこちらからいくぞっ!」
「くっそ〜けど諦めないもんっ!」

 セレンフィリティは【サイコキネシス】を使用登録済みだが、まだまだ温存。
 初心者同士、イリアとの互角な戦いを楽しみたかった。

「どっちもすごいのネ!」
「おや、そなたはティファニー殿じゃな。
 わしは蒼空学園のルファン・グルーガと申す。
「あけましておめでとうございますヨ」
「これはこれは、あけましておめでとうございます」
「ミー達がつくったお雑煮、食べてくれたカ?」
「うむ、とても美味しかったのう。
 あれは日本の文化であるか?
 それともマホロバ独自のものかのう?」
「お雑煮は日本のモノのようダヨ。
 まぁ味付けや具材は、日本のなかでもいろいろとあるみたいだケド」
「そうですか、へぇ〜」
「だっダーリンっ!?
 イリアは無視ですかぁ〜!?」

 パートナーからの『ダーリン』発言は、完全に流して。
 やってきたティファニーと、ルファンは日本文化談議を始める。

「余っている道具を借りてきたぜ!
 俺達も羽根つきをしようか」
「わ〜い!
 面白そう!
 やろうやろう!」
「いいですね!
 やりましょう!」
「……羽根つき、久しぶりね。
 遊びだからって手加減しないわ、覚悟してね」

 両手をいっぱいにして戻ってきた、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)
 羽子板を4枚と、羽根は1つだけ。
 冠 誼美(かんむり・よしみ)紅守 友見(くれす・ともみ)枸橘 茨(からたち・いばら)も、誘いに乗ってきた。

「俺は友見と組む。
 漢らしくいくぜ!」
「私は健闘さんと同じ組ですか、よろしくお願いします!」
「じゃあ私、茨お姉ちゃんと組む!」
「用心棒の私が合宿……こんな待遇でいいのかしら、恐縮するわ。
 まあ、折角だし、ゆっくり遊ぼうじゃない。
 ね、誼美ちゃん!」

 2組に分かれると、向かい合ってスタンバイ。

「えっとえっと、こうやって羽根つきを上に投げて、羽子板で羽根を前につくんだね!
 簡単だね、バドミントンみたい!」
「よし、相手は女の子だからって、手加減しないぜ!
 特に茨は要注意だ。
 あいつ、用心棒だから、運動能力も侮れないはず」

 誼美組も勇刃組も、事前準備はばっちりである。
 周囲の安全もよくよく確認して、4人の羽根つき勝負は始まった。

「歴戦の必殺術で格好よく決めてやるぜ!
 くらえ!
 スパイラルスマッシュ!」
「あ、健闘さん、格好よく決めましたね!」
「羽根を高速回転させてこっちが反撃できないようにする……なるほどね。
 でも、まだ詰めが甘かったようね」
「え、羽根?
 そうだ、私も羽根があるから、飛べる!」
「いまよ、誼美ちゃん。
 高空からのスマッシュで反撃よ!」
「誰よりも高く飛んで……えい!
 やった!」
「なんだ、あのコンボは!?」
「誼美ちゃんと茨さんも、なかなか凄いですね……私もがんばらないと!」
「2人とも、なかなかやるじゃないか!
 だがこっちも負けるわけにはいかねえ!
 友見、反撃だ!」
「う〜ん、この方角、この風向きだと、羽根が落ちる場所は……ここです!」
「って、ええ!?
 と、友見さん、凄い!」
「ちょっと、友見さん!?
 なんて見事な反撃!」
「おお、よくやったな。
 俺もびっくりするほどの腕前だ!」
「あ……わ、私、やりました〜!」

 心ゆくまで楽しんだら、勇刃が昨日のうちにつくりおきしていた蕎麦をいただくことに。

「う〜ん、我ながらいいできだ。
 年始めの蕎麦もいいなぁ、うまい。
 こんな自分に感動だぜ!」
「皆さん、お疲れ様でした!
 餅をつくって参りましたので、よかったら召し上がってください!
 醤油ソースとワサビソースがありますが、お好きな味でどうぞ!」
「おいしそうなそばと餅だね!
 いただきま〜す!
 うん、味も美味しい!
 さすがお兄ちゃんと友見さん、いい腕前だね!」
「年越しそば……ラーメンほど美味しくないけど、まあ、いただくわ。
 餅も頂戴ね、友見さん……もぐもぐ……いい味ね。
 特に焼き餅の醤油ソース、最高よ」

 お正月早々しっかり運動をして、美味しいものも食べて。
 大満足の4人である。

「あたしが優勝ね」
「くそ〜残念だっ……けどやった〜!」
「うぐぐぐー悔しいー。
 まぁ、でも勝負は勝負。
 罰ゲームでもなんでも来いー」

 決着がついたのは、太陽も傾くおやつの時間。
 優勝は、ずば抜けた身体能力を見せつけたセレンフィリティ。
 負けはしたものの喜ぶセルマは、氷雨からバロさんストラップをつくる約束をこぎつけたのである。