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リアクション
■悪餓鬼たちの巣窟 〜ネムレル鉱採掘〜
――ヒラニプラ近郊にある坑道。ここは以前は様々な鉱石を採掘できたのだが、今ではすっかりゴブリンの巣窟となってしまい、鉱員の姿もぱったり見られなくなってしまった。
この坑道で取れるという鉱石の一つ『ネムレル鉱』。それを求め、採掘班に志願した契約者たちやそのパートナーたちであったが、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が『博識』やシャンバラ電機のノートパソコンを使って調べたところ、一塊分のネムレル鉱を手に入れる場合、一度の採掘量が少ないため複数箇所を回ったほうがいい、という結果が。そのため、班で二手に分かれて行動することとなった。
「なるべく戦わないよう、迅速行動っと……」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は銃型HC弐式の体温判別式生命体探知機能やハイドシーカー、さらには『殺気看破』『ディテクトデビル』を駆使して、重度の警戒を行ないながら坑道を進む。そのすぐ近くでは遠野 歌菜(とおの・かな)とパートナーの月崎 羽純(つきざき・はすみ)、そしてルカルカのパートナーであるダリルが一緒である。
「ったく……歌菜の奴、自らゴブリンの囮になるとか……言い出したら聞かないとはいえ、少し心配だな……」
「大丈夫! 私と羽純くんならなんとかなるよ! ダリルさんたちも鉱石のほう、お願いしますね!」
羽純の心配もどこへやら。歌菜は元気よく答えると、ルカルカたちとの役割分担を再確認する。
「鉱石を見つけたらこっちで採掘するから、ゴブリンのほうは任せた。――それにしても、覚醒魔法薬に魔法効果解除薬か……」
「うん、歌菜たちも無理しないでね。……ダリル、その顔は使いたがってるでしょ?」
ダリルは薬学に精通しているためか、薬剤のことになるとつい色々と考えてしまうらしい。ルカルカに頬を突付かれると、「あくまでも学術的、純粋な興味からだ」と返し、小さく咳払いをした。
――と、その時。ルカルカのHCに体温反応が検知される。どうやら、採掘ポイントのすぐ近くにゴブリンの一団がくだらない下品な話で盛り上がっているようだ。その数、八匹ほど。
「……いた! 歌菜、お願いっ!」
「任せてっ! 魔法少女アイドル・マジカル☆カナの特別バトルステージ……始まるよ!」
ルカルカの合図に合わせ、それぞれ行動を起こす。歌菜は『リリカルソング♪』を使い、歌を歌い始めるとゴブリンは何事かと歌菜の近くへ集まり始めた。光精の指輪も使って、演出も派手に攻めていく。
「ナンダナンダ、コンナ所デ人間ノらいぶカ?」
「ナカナカノベッピンジャネーカ。襲ッチマウカ?」
ゴブリンの下品な言葉に思わずこめかみがぴくりと反応する羽純。だが、まだ我慢の範疇である。
ともあれ、歌菜――否、魔法少女アイドル・マジカル☆カナの即席ミニライブがスタート。モンスターとはいえ、おっさん方向にある程度の知識を持つゴブリンはすぐに食いつき始め、その隙を狙ってルカルカとダリルはベルフラマントを身に纏い、採掘ポイントへ素早く移動。すぐさま採掘を開始する。
「オイ人間! 歌ハモウイイカラ、脱ゲ! モット俺タチヲ楽シマセロ!」
「イイヤ、脱グノヲ待タズニ脱ガソウゼ! 色々シチマオウゼ!」
……この間、わずかワンフレーズ終了直前である。あくまでも自己の本能に従うゴブリンたちは、歌菜たちの身ぐるみを剥ごうと(もっとも、それ以外の目的もありそうだが)襲いかかってきた!
「歌はちゃんと――聴きなさーいっ!!」
襲われようとしているのに反撃しない道理はない。歌菜はゴブリンたちへ容赦なく『ブリザード』を使い、ゴブリンたちの足元を凍らせる。大地を踏み込んで飛びかかろうとしたゴブリンたちであるが、その大地がツルツルに凍っていれば……。
「フギャッ!」
「グギィッ!?」
……派手に転倒してしまうのも自然の道理である。後ずさりしようとしたゴブリンには『風術』を使ってその退路を封じる。
そうやって動きを封じていくのに合わせ、羽純が『ヒプノシス』を使いゴブリンを眠らせる。こういったものの耐性はまるでないのか、ゴブリンはすぐに寝てしまった。
「オイ! コッチニモ人間ガイタゾ! トッチメテ脱ガシテ色々シテヤレ!」
残っていた残り四匹のゴブリンが、ルカルカたちのほうに気づいたようだ。すぐさまターゲットをルカルカたちに定め、襲いかかろうとする。だが……。
「ダリルッ!」
「邪魔を……するなっ!」
ルカルカの『ブリザード』でゴブリンたちを冷やし、ダリルが『放電実験』で一網打尽にしていく。氷になっているとはいえ、体温ですぐ水になったところへ電撃が走れば、いつも以上の大きなダメージになるだろう。
「水の上からの電撃のお味はいかが?」
……その問いに答えられるゴブリンは今はいなかった。
――少しして。ゴブリンたちは正座させられ、歌菜の説教を長々と聞かされていた。
「人の物を追いはぎするのは悪いこと! また追いはぎするようなら、もっときついお仕置きするからねっ!」
「オ仕置キ……コノ人間、思ッテタヨリえちぃカモシレナイゾ」
「ダナ、オ仕置キダナンテオォえちぃえちぃ」
瞬間、羽純の鋭い視線がゴブリンたちに突き刺さり、ぐりぐりと抉る。その手には二槍が牙を剥いていた。
「――面倒だから、絶対に追いはぎするな。むしろ……ここで息の根を止めとくか?」
「もう、羽純くん! 怖がらせちゃだめでしょ!」
ドスの利いた羽純の言葉に、ゴブリンたちは戦慄を覚える。歌菜は今にも行動に移さんばかりの羽純を止めていた。
「……とにかく、もう追いはぎをしないって言うならこのチョコをあげる。約束、守れる?」
あまり長居するのもあれなので、そろそろ解放しようと歌菜はそんな提案を。このチョコはルカルカが持ってきていた詩歌の手作りチョコセットであり、ネムレル鉱を運搬する際にチョコセットの空き箱を使ったため中身を歌菜に渡していたのだ。
ルカルカとダリルの二人はネムレル鉱を必要量採掘した後に、すぐにイルミンスールへ届けようと、三倍速の速さを持つ空飛ぶ箒シュヴァルベに乗って先行して帰還の路についているところである。もちろん、歌菜たちはもちろんのこと他の採掘班メンバーに連絡済だ。
「ワ、ワカッタ。ソノちょこデ手ヲ打タセテクダサイ」
羽純の視線にびくつきながら、ゴブリンたちはチョコセットを受け取っていく。と、その時……。
ドーーーーンッ!!
「な、何っ!?」
爆音が鳴り響くと共に、坑道が小さく揺れる。思わぬ出来事に驚く歌菜たち。揺れはすぐに収まったが……今の混乱に乗じて、ゴブリンたちは坑道の奥へとっとと逃げてしまったようだ。
謎の爆音と揺れ。何が起こったのかわからないまま、歌菜たちは合流場所である坑道入口まで戻ることにしたのだった……。