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「あの、どうかしたのか?」
「ああ、いえ。もう少し待っていてください……さて、どうした物やら」
 伝道師は悩んでいた。
 道を歩いている最中、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が同行したい、と言ってきたのだ。理由はやはり『愛を知りたい』という事である。
 
 ちなみに何故かコアは【咲耶の手作りチョコ】を持っていた。チョコを持っている者が襲われる、というどっから出たかわからないようなデマをコアが信じた為用意したらしいのだが、思わずその禍々しさに足を止めたのだから効果はあったのだと思われる。

「どうするの、連れて行くの?」
「いや、それは難しいですね。大人の事情って奴で……どうしましょうか? 『悪いがこのパーティは2人までなんだ』とか言って誤魔化しますか?」
「そんなんで騙される……ような気もするのよねハーティオンは」
 呆れたようにラブ・リトル(らぶ・りとる)が言う。彼女が会話に混じっているのは、『ついていくのは疲れそうだし正直面倒なのでどうにかして説得してもらいたい』からである。
「じゃあ愛について語れば?」
「そこなんですが、どうやらもうそろそろ誰かさんが限界を迎えたようでして。『もう愛なんて語れねーよ』と閉店モードです」
「ならなんでこんな話にしたのよ」
 それは今全くもって謎である。勢いとは恐ろしい。
「さーてどうした物か……」
 3人が腕を組み、唸る。
「フハハ……ハァ……ハァ……」
 その時、ドクター・ハデス(どくたー・はです)が息を切らせながら走ってきた。必死の形相で、何かに怯えているようにも見える。
「ハデス? どうしたのだそんなに慌てて?」
「おぉ! 頼む! か、匿ってくれないか!」
 コアを目にしたハデスが縋るようにして言った。
「匿うって、どうかしたの?」
「訳は聞いてくれるな! は、早くしないと……」
「ふむ、ならばこれを使ってください」
 そう言うと伝道師が青くて大きなポリバケツを取り出した。
「……何でこんな物持ってるのよ」
「それは更生した方を「わかった、それ以上は聞かないでおいた方がいい気がする」」
「おおありがたい! 早速入らせてもらおうか!」
 そう言うと何の疑いもなく、ハデスはバケツの中へと身を隠した。
「ハァ……ハァ……全く、何処行ったんだろう? こういう時だけ逃げ足早いんだから!」
 直後、駆け付けてきたのは高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)である。
「今度はあんた? どうかしたの咲耶ー?」
「あ、いいところに! 今兄さん見かけませんでした?」
「どうかしたの?」
「いえ、兄さんの為にチョコ作ったのに何故か逃げられちゃって……せっかく徹夜して作ったのに!」
 そういう咲耶の手には、何やら蠢いているわ瘴気を発しているわ呻き声のような物まで聞こえてきそうな代物が存在していた。SAN値が削れるどころか直葬レベルの物だ。これをチョコと呼ぶなら今後チョコの定義について考えなくてはならない。
「相変わらず凄い代物ねー……」
 顔を強張らせつつ、ラブが呟く。
「……これで相変わらずってレベルなの?」
 同じく、アゾートが顔を強張らせる。
「成程、あの方の持っている代物はこの人の物でしたか……」
 コアが持っていた【咲耶の手作りチョコ】の出所に関して伝道師が一人頷いた。
「けど、徹夜してまでとは兄思いなのですねぇ」
「へ? べ、別に……兄さんだからあげるだけであって別にそれ以上の事は……」
「「ふーん」」
 咲耶の言葉に伝道師とラブがニヤニヤ笑う。伝道師の表情わからないって? 考えるな、感じろ。
「そ、そんな事より兄さん見なかった!?」
 誤魔化すように咲耶が声を上げる。
「彼ならこちらへ」
 伝道師はポリバケツの蓋を開けた。
「そんなあっさりと!?」
「ええ、理由が理由なので匿う必要ないかと」
「う、裏切りおったな!?」
「そんなところで……さあ兄さん、食べてもらいますからね?」
「いや、それは食ったら死ぬ! 死ぬから!」
「何を言っているんですか! 世の中身内からチョコ貰う所か、身内の恋人のチョコを作らされる羽目になった者だっているんですよ!?」
「誰の話よそれ」
 さて、誰の話だろうか。
「身内からそこまで思われるのを無下にするなどもったいないお化けが出ようってもんです! さあ、お逝きなさい!」
「死ぬこと前提!?」
 アゾートのツッコミなど無視し、ハデスの口に無理矢理チョコ(?)をねじ込む。
「……ぬ……? これは意外tぐあああああああああああああ!」
 一瞬間を開け、悲鳴を上げてハデスが倒れた。
「さて、そこの巨大な方。今起きた愛の一幕、御覧になりましたか?」
「今のが、愛……?」
「ええ、この危険物しか思えない物を悲しませない為、自らの命を張って食した……これぞ、兄妹の愛という物です」
「そう、なのか?」
「ええ、そうです」
「……あのさー、さっきから何か動かなくなってるんだけどー?」
「あ、液状化までしてきた」
「え!? なんで!? ちょ、に、兄さん!?」
 愛の一幕の末、一つの命が消えようとしていた。ハデスは犠牲となったのだ。