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「あ? どうした? ほれ言ってみろよ愛とやらをよぉ!?」
 ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が伝道師に向かって小馬鹿にするように言う。
 偶々通りすがった彼に話しかけてみた所、逆に『お前は愛について語れるのか』という事を言って来たのだ。
「ふーむ、困りましたねー」
 ゲドーに聞こえないように伝道師が呟く。
「どうするの?」
「このような方は何を言っても納得しないでしょうからね。さて、どうしたものやら……む?」
 伝道師が目にしたのは、シメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)の陰に隠れるローゼ・シアメール(ろーぜ・しあめーる)の姿。
「話の途中で申し訳ありませんが、その娘さんは?」 
「ああ、私とゲドーの愛の結晶です。可愛いでしょう?」
「え、う、うんそうだよ! ねーママー!」
 ローゼがシメオンに飛びつく。
「ははは、ローゼは甘えん坊ですね」
 シメオンが笑いながらローゼを高く掲げる。
「ん? 何だ? まさか愛の伝道師サマともあろうお方が疑ってんじゃねぇだろうなぁ?」
 ゲドーが伝道師達を睨み付ける。
 勿論、ローゼがゲドーとシメオンの愛の結晶というのは真っ赤な嘘である。
 ローゼは何処かで聞いた伝道師の話をシメオンに話していたのだが、そこから巻き込まれるのを面倒に思った彼が適当に出まかせを言っているのであった。
「ふむ……」
「おいだからどうだってんだ? えぇ?」
 悪態をつくゲドーに、伝道師は一つ溜息を吐いた。
「いいでしょう……そうですねぇ、愛というのは……一つの例ですが、相手を思い、その気持ちを理解するような事もあります」
「ほぉ……なら伝道師サマも俺たちの事がわかるってのか?」
 そう言ってゲドーが何処ぞのタチの悪いチンピラのように伝道師を睨み付ける。

「ええ……貴方達が、その子が愛の結晶だと嘘を吐いているってこととかね」

「「「な!?」」」
 ゲドー達が驚きの表情を見せる。
「いや、普通解るよ……」
 げんなりとアゾートが呟く。
「うううううう嘘だからなんだってんだよ!? えぇ!?」
「嘘には二つあります。愛のある物、無い物。これは後者ですね……よって、愛無き貴方達を更生しましょうか!」
 そう言う伝道師の手には既にRPGがスタンバイ完了。
「その身に刻み込むといい!」
そして、発射。
「……下手に嘘で誤魔化さない方がいいんだね」
 しみじみとアゾートが呟いた。



「さーて、どんどん行きますか」
「はあ、どんどん行くんだね……」
 アゾートが溜息を吐く。
「あ、お疲れ様でーす」
「お疲れぇ」
「お疲れ様でっす!」
 道を歩く伝道師達に、すれ違いざまミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)フラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)アイ・ビルジアロッテ(あい・びるじあろって)が敬礼してきた。
「お疲れ様です」
 伝道師はそう言って軽く手を上げた。

「ってそれだけ!?」
「え? どうしたんですかアゾートさん?」
「いや今の流れおかしいでしょ!? スルーって何!?」
「いや、なんとなく」
「何となくじゃない! はいもう一回!」

 というわけでテイク2。

「まあ、そううまくいくとは思わなかったけどね」
 面倒くさそうにミリーが言う。
「すみませんねぇ、アゾートさんが我儘で」
「ボクのせい!?」
「別にいいよぉ、暇だしぃ」
 フラットがにやりと笑みを浮かべた。
「うにゅ、でもアイ、アイじゃない『あい』なんて知らないよぉ」
「まぁ、アイはアホの子だから仕方ないよ」
「そうよねぇ、アイはアホの子だからぁ」
 けたけたとミリーとフラットが笑う。
「んー、でもボクらもそんな大した物は無いんだけどね。満足してくれるかはわからないけど……まぁ戦う事かな」
「戦う事が好きなんですか?」
「まぁ国を動かすとか戦争だとか世界がどうのなんて重っ苦しいものじゃなくてさ、ほんっとーにどうでもいい、つまんない争いごとでひと暴れするのが好きなんだよね。オジサンと一緒だよんがふぁッ!?」
 ミリーの頬に、伝道師の裏拳が食い込んだ。
「だぁれがおじさんじゃい!」
「えええええええ!? ちょっとキミ何してんのぉー!?」
「ふふっ、ミリーかっこわるぅい……おじさんに失れぶっ!」
 伝道師のハイキックがフラットの側頭部を蹴りぬく。
「あははははー! おじさんすぐふぉッ!?」
 そのまま回し蹴りでアイを蹴り飛ばした。
「ちょ、ちょっと落ち着いて!」
「はっ!? 私は一体……」
 アゾートが止め、漸く伝道師が正気を取り戻す。
「はぁ、戻ったか……で、これはどうするの?」
 アゾートが見る。そこには血を流し気を失って転がっているミリーとフラット、アイが居た。
「……この方々達は私に『おじさん』と愛の無い言葉を言ってきたので更生しました、じゃダメですか?」
「いいと思う?」
 いいわけが無かった。
「よし、テイク3を頼む」
 ねぇよそんなの。