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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 『私、お母さんになりますー』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 『私、お母さんになりますー』

リアクション



「おーっほっほっほっほ!! つるぺたつるつるな魔法少女の時代は終わりよ!
 さあイケメン達よ、私の下に集まるがいい!!」

 空京の街に、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)の高笑いが木霊する。彼女もまた、姫子の生み出した靄によって変貌し、自らを『魔女リナリエーテ』だと本気で思い込んでいた。
「あぁ、スティーブ、アルフレッド……レレッツ、貴方は呼んでいないわ。貴方のせいでパラミタのセクシー系美女がどれほど苦渋を舐めさせられたか分かってるの?」
 ここにはいない人物に悪態を吐くリナリエーテ、ちなみに彼女の言うレレッツとは、魔法少女の真の生みの親とも、ただのロリコンとも噂されているレレッツ・キャットミーヤのことである。ただし最近は彼も思考が変わったようで、ツンデレ少女と癒し系お姉さんの二択ならどっちを選ぶか問われた時、後者を選んだらしいと噂になっているとかいないとか。両方共年齢的にストライクゾーンから外れていたからどうでもよかったという回答もまぁあるかもしれないが、そんなことはともかく。
「ふふ……レレッツ……気になりますねぇ。
 私もつるぺたですから、可愛いですよ? うふふふふ……」
 筋肉質なイケメンが自分を呼ぶ様にうっとりしながら、ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)が何やら危険なことを口走る。もしかしたらレレッツの嗜好が変化しているのも、彼のせいかもしれない。吸血鬼である彼が夜な夜な精神を幻惑している、そしてレレッツはそのうち「おっぱい!おっぱい!」とのたまうようになる――。

「悪しき気配を辿ってみれば……契約者が操られているとなれば、見逃せません!」
「さあみこと、あたしを身にまとって! 契約者を捕まえて、黒幕を聞き出すわよ!」
 そんなことを言っている間に、リナリエーテの存在を感知した姫宮 みこと(ひめみや・みこと)早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)の力を借り、魔法少女へ変身を果たす。
 フラッシュと共にみことと蘭丸の服が弾け、
 背後から蘭丸が寄り添い、
 しばしの抱擁の後、光が収束すると同時に蘭丸がみことの鎧として装着される。

「人々の不安を取り除くため、退魔少女バサラプリンセスみこと、ここに推参!」

 そして、みことに続いて松本 恵(まつもと・めぐむ)もやはり、魔法少女へ変身を果たす。

「魔法少女ガーディアン☆めぐむ、皆を守る為只今参上!」

 どことなくヒーローチックだがそれもそのはず、恵はヒーローを目指す魔法少女なのである。
(魔法少女がヒーローで良いのか確かめるためにも、覚悟してほしいんだよね!)
 みことと共に対峙する恵、二人の魔法少女を前にして、しかしリナリエーテは怖じる様子もない。
「ふふ、胸が小さいおちびちゃんたちはベッドですやすや寝てなさぁい」
 みことはその通りとして、恵は見た目はあるように見えるのだが、リナリエーテにすればどちらも貧相ということだろう。それに彼女には、強力な仲間? がいた。
「…………」
 リナリエーテの背後から、短刀を手にした毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が飛び出したかと思うと、みことと恵に言葉を発することなく斬りかかる。短刀には怪しげな液体が塗られており、少しでも傷つければたちまちその液体が身体に悪影響を及ぼす、と思われた。
「くぉらぁぁぁ! 貧乳つるぺたロリようじょは全部俺のもんだぁ!
 誰にもわたさねーぞぉ!」
 操られているというよりは酔っ払ってるようにしか見えない神野 永太(じんの・えいた)が、某マスターが聞いたら全力で殴りにかかりそうな言葉を発しながら襲い掛かる。酔っ払ってるようにしか見えない割に動きは素早く、みことと恵は苦戦を強いられる。
「あぁ、何もかもが空虚だわ……今の私に潤いを与えてくれるのは、そう……あなた達の脈々と流れる血よ!」
 さらにはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の二丁拳銃が火を吹き、魔法少女を血の海に沈めんとする。
 静かだった夜の街に、戦いの音楽が鳴り響く――。

「それじゃあ、ステージはある意味大成功だったわけだね」
「そうそう、ルシェンったらノリノリでねー。朝斗と私の出番まで奪ってもう大変。
 でもこれでルシェンも豊美ちゃんから認定を受けた、立派な魔法少女。私たちも頑張って事件を解決して、魔法少女に認定されましょ!」
「あぁ、そうだな。……いけない、魔法少女名を考えていなかった。名乗る時はいいとしても、認定を受ける時はちゃんとしたのにしたいし……」
 既に準備は万全といった様子の佐那が、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)と共に夜の街をパトロールしていた所に、平穏な街には相応しくない音が聞こえてくる。
「っと、悪のお出ましね! それじゃ行きましょっか☆」
 佐那がいち早く現場へと向かい、ローズはシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)に現場近くの高所へ連れて行くよう指示する。
「はぁ? なんでいちいちそんなこと」
「ヒーローは高所から参上するものと決まっているのだ」
「いやいや、それおかしいだろ。魔法少女がどんなもんか知らねぇけど、それは違うような気がするぞ」
「いいから黙って連れていくのだ。それにシン、君は私の使い魔という設定だ。もっと可愛らしく頼む」
「可愛らしく、ってそんな事出来るわけねぇだろ、ったく……」
 悪態を吐きつつ、それでも律儀にローズを乗せ、シンが現場へと向かう――。

 操られた契約者相手に、みことと恵は善戦するものの数の差が徐々に影響を及ぼしつつあった。
「元が契約者だけあって、一筋縄では行きませんね……!」
「そんな、魔法少女がヒーローじゃいけないっていうの?」
 壁際に追い込まれる二人、周りに漂う気配から、下手に動けば蜂の巣もしくは暗殺の憂き目に遭うことは確実のように思われる。
「へっへっへ……ようじょ二人、お持ち帰りだぜぇ〜」
 なんとも邪悪な目付きの永太が、ゆっくりと二人に歩み寄る。もはや口調まで変わっている辺り、やはり操られているのかもしれない。

「そこまでだ!」

 その時、上空より凛と響く声が届く。月光を背に受ける人物に、永太が呼びかける。
「だ、誰だお前は!」
「名乗る名などない! 謎の魔法少女ろざりぃぬがあなたの目を覚ます!」
「思いっきり名乗ってんじゃねぇか――いってぇ!」
 ツッコミを入れたシンの尻に渾身の蹴りを見舞ったろざりぃぬが高所より飛び降り、華麗に着地を決める。
「ようじょでない女は人にあらず! 俺の邪魔をするというなら、消えてもらう!」
 カッコイイような気がしてその実とても酷い事を口にしながら、永太が襲い掛かる。冷静に行動を見極め、そして大振りの攻撃をかわした後にろざりぃぬが放った技は――。
「マジカル☆サミング!」
「ぎゃあ! 目が、目が〜!」
 ――目潰しであった。マジカルと付けばなんでも魔法少女の技になると思ったら大間違いなんだからね!
「今だ! この一撃で、決める! マジカル☆バズソー!」
 膝を着いた永太の、左側頭部にろざりぃぬの鋭いミドルキックが叩き込まれ、顔をひしゃげさせながら永太が地面を転がる。本人にとっては魔法=プロレス技らしい。
「ぐうっ、い、今のはなかなか効いたぞ――ぐはっ!」
 起き上がろうとした永太の背中を、これまた高所から飛び降りた佐那が踏みつける。
「魔法少女マジカルレイヤー海音☆シャナ、推参っ☆ シャナっシャナにしてやんよ〜☆」
 気付かずかわざとか、魔法少女な名乗りを挙げながらぐりぐり、と永太の背中を踏みつける。
「ああっ、もっと踏んで……じゃなくて! こ、この程度で俺が諦めるとでも――」
 突然背中の圧力が解放されたと思いきや、強制的に起こされた永太は両側から伸びてきた腕に抱え込まれるようにして両腕を取られる。背中に当たる柔らかな感触にちょっとだけ心揺らいだ所で、駆け込んできたろざりぃぬのドロップキックをモロに食らってのけぞる。その永太をしっかりと掴んだままのシャナが反動を利用したブレーンバスターでリングならぬ地面に沈めた。
「おい、見ろよ八重! あいつら魔法少女って名乗ってんのに、プロレス技で戦ってんぞ!? どういうことだよ、プロレスラーじゃねぇのか?」
「そ、そうね……ま、まあ私も近距離では剣術だし、色んな魔法少女がいてもいいんじゃないかな?」
 騒ぎを聞いて駆けつけてきた結城 奈津(ゆうき・なつ)の指摘に、永倉 八重(ながくら・やえ)が苦し紛れに答える。
「あぁ、獲物が増えたわ……魔法少女はみんな、みーんな、あたしが血の海に沈めてあげる!」
 その二人を標的に定めたセレンフィリティの発言が、奈津をヒートアップさせる。
「おい、今何て言いやがった!? このあたしが魔法少女だってぇ!?
 何を勘違いしてるか知らねぇが! あたしは! プロレスラーだ!
 師匠を纏えば一瞬でリングコスチューム姿に変身できたり、
 弱きを助け悪をくじいたり、
 己の正義を貫くために戦ったり、
 見ている皆を魅せる闘いをしたりファンを大事にしたりあまつさえリングネームという二つ名を持っていたり、
 どっからどう見てもプロレスラーだろがっ!?」
 自分がプロレスラーであることを全身で主張する奈津に対し、『師匠』であるミスター バロン(みすたー・ばろん)はさもおかしげに笑っていた。
「……く、くくくっ。なるほど、確かに言う通り、見方を変えれば奈津も立派な魔法少女ではないか!」
「し、師匠!? 師匠までそんなこと……」
 がっくりとうなだれる奈津の肩を叩き、バロンが宣言する。
「よし、奈津よ。あまり気乗りしなかったが、気が変わった。
 さあ、俺を纏え! せいぜい魔法少女らしく戦ってみせろ!」
「……あぁ、分かったよ、魔法少女だかなんだか知らねぇが、戦ってやらぁ!
 八重、あたしらプロレスラータッグの強さを見せてやろうぜっ!」
「え、えっと、いつの間に私までプロレスラーにされてるわけ?
 ……まぁいいわ、とにかく変身ね! ブレイズアップ! メタモルフォーゼ!
 瞬間、八重の全身が魔力の輝きに包まれ、生じた灼熱の炎が彼女を紅の魔法少女『ダブルド・ルビー』へと変身させる。一方奈津はバロンを纏い、『バーニングドラゴン』へと『変身』していた。
紅の魔法少女、参上!
 過去に憑かれし者よ! 過去は囚われるものじゃない、懐かしむものだって教えてあげるわ!」
 セレンフィリティの銃撃が、八重の生み出した炎の嵐によって蒸発させられる。その間に足に履いた靴の跳躍力で、奈津が懐へ飛び込もうとする。
「バカね、自ら飛び込んでくるなんて!」
 蜂の巣にせんと、セレンフィリティが銃撃を見舞う。
「へっ、蚊が刺した程度だぜ!」
 しかし奈津の、鍛え上げた超人的肉体の前に無数の弾丸も、確かにダメージは与えているものの動きを止めることは出来ない。『受け』が出来てこそのプロレスラーであるなら、奈津は今まさにプロレスラーであった。
「このまま一気に決め――」
 自分も近距離戦に移行せんと太刀を抜いた所で、八重は飛び込んでくる人影が繰り出す短刀をすんでの所でかわす。虚ろな目を浮かべ、まさに操られているとばかりに大佐が体勢を立て直し、八重に斬りかかる。距離が迫れば、短刀と太刀では短刀の方に分がある。徐々に押し込まれていく八重、トドメを差すべく踏み込もうとした大佐を、横合いからブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)が体当たりで吹き飛ばす。
「八重、乗れ! 一旦距離を取るんだ」
 ゴーストの指示に従い、八重が跨り一旦戦場を離れる。
「あの人、どうなったの?」
「衝撃はあったはずだが、致命傷を与えたとも思えない。油断するな、相手がどこから狙っているか分からんぞ」
 ゴーストの勧めに従い、八重は周囲の悪意を感知すべく意識を集中させる。
「……見つけた!」
 発見した悪意の場所へ二人が向かうと、既に大佐と新たにやって来た者たちとの戦闘が開始されていた。
「マスター、敵です。指示を――」
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
 行動指針を尋ねるべく問うたフィオナ・グリーン(ふぃおな・ぐりーん)だが、もはや別世界にトンでしまったようにしか見えない戎 芽衣子(えびす・めいこ)を見、真っ当な指示は受けられないと判断する。……もっとも、芽衣子がそのようになってしまった理由には、『芽衣子の命令によりフィオナが魔法少女を務めている』ことが挙げられるのだが。
「……しかし、魔法少女とはかくも、激しい戦いをこなすものなのですね。
 本来ならば追従すべきなのでしょうが、私では力不足の様子。ならば――」
 加速ブースターを点火させ、高速移動からの弾幕援護を行おうとしたフィオナだが、背後から発される芽衣子の強烈なプレッシャーを感じ取る(何故感じ取れたのか理解不能だが、とにかくそう表現するしかなかった)。
『魔法少女は、決め台詞を言わなくちゃいけないんだぜ!』
「……。決め台詞、ですか。ふむ」
 何故ここまで芽衣子が拘るのか、そもそも何故自分に魔法少女をさせるのかが理解不能だったが、命令なので従う。
「鋼鉄乙女らでぃかる・ふぃおな――始まります」
 その名乗りが正しいものなのかはさておき、名乗りを上げたフィオナがブースターとミサイルポッドによる撹乱攻撃を見舞う。攻撃力および速度は大佐の方が上だが、純然たる一対一の戦いではなかったこともあり、押されつつもフィオナは食らいついていく。
「これほど激しい戦いをするなんて……魔法少女さんのお仕事って、大変なのですね」
「私が耳にした限りでは、もっと華やかなイメージがあったように思いますが……。確かに、衣装などは特徴的であるように思いますが」
 そんな魔法少女たちの戦いぶりを、白雪 椿(しらゆき・つばき)がさも初めて知ったかのような口ぶりで言い、ヴィクトリア・ウルフ(う゛ぃくとりあ・うるふ)がそれに応える。
「お洋服、ふふ、可愛いです。ウルフさんもなってみては? きっとお似合いに――」
「それはムリです椿様」
 提案を光速の速さで却下され、椿がしょぼん、とうなだれる。こんな所が可愛くもあり、そしてこうまでも大切に思うのだと心に呟いて、ヴィクトリアが言葉を紡ぐ。
「椿様、ここに来た目的をお忘れではありませんね?」
 ヴィクトリアとしては、椿が無闇に突っ込んで怪我をするような事態は避けたい。とはいえ、このままただ戦闘を傍観しているだけというのも、少しは主君らしくあってほしいと思えばそういうわけにもいかない。
「そうでした……! 街の皆さんが、安心して暮らせるようにしないとです……」
 そんなヴィクトリアの思いを含んだ言葉を受け、椿が表情を引き締めて戦う意思を見せる。辺りは暗闇、敵は足を止めずスピーディーに立ち回ることで優位を得ようとしているのであれば、その姿を照らしてやる、あるいはその足を止めることが出来ればいいはず。頭の中でそれらを組み上げた椿は、手にした杖に魔法の力を込め、光の玉として放つ。
(上手く行ってください……!)
 椿の願いが通じたか、弾けた光の玉がもたらす光に、大佐の動きが一瞬だけ止まる。いかな鍛えられた契約者であっても、強烈な光に照らされると反射的に目を覆ってしまうものだ。
「そこですか……!」
 好機を逃すまいと、フィオナが装填された最後のミサイルを放つ。着弾したミサイルがもたらす爆風に、大佐と思しき影が包み込まれる――。