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【●】歪な天使の群れ

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【●】歪な天使の群れ

リアクション


第三章

「とんでもない大きさですね……索敵の必要もありませんでしたか」
 マインドシーカーで出撃した久我 浩一(くが・こういち)は、その巨大な身体を引き摺りながら空京に向かう大天使の姿を見て呟いた。
「独特の形状ですね」
 天使たちが溶け合ったようにしか見えないそのグロテスクな姿に、希龍 千里(きりゅう・ちさと)は僅かに目を見開く。
 浩一は天使たちとの戦いに向かった菜織と連絡を取り合いながら、互いの配置と敵の位置や動き、戦闘能力などの情報交換を行う。
「ターゲット見つけました。分析を開始します」
 ゼノガイストヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が大天使の分析を開始する。
 同時に各機の配置や状況を確認し、情報を共有していく。
「分析結果は随時皆さんにご報告していきます。もし何か気になることがありましたら、照合しますので、データを飛ばしてみてください」
 浩一からの通信に、各機情報の確認体勢を取った。

 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)とは精神感応でタイムロスのない連携を取っていった。
「久々に面白そうな相手が出てきたと思ったら、なんだあのやたらでかくて一世代前のRPGのラスボスみたいな奴は!!」
「何と言うか……気持ち悪いですこの天使さん達。デザインもそうですが、何よりこのテレパシーとは違うなにか。気分が悪いって言う方が近いんですかね?」
 天使たちとの戦いをフレスヴェルグで繰り広げてていた斎賀 昌毅(さいが・まさき)マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)は、現れた巨大な天使に気づくと、牽制のバスターライフルをぶっ放す。
 その空域を仲間に任せると一気に大天使に向かって加速した。
「智緒、翔くん、アリサちゃん、行っくよー!」
「うん、任せて!」
 桐生 理知(きりゅう・りち)はお守りを握って目を瞑り、大切な景色を思い出し、この景色を守り抜くと心に誓う。
 そして目を開き前を見据えると、北月 智緒(きげつ・ちお)ヒポグリフで出撃した。
 翔とアリサとともに、遠距離からの攻撃を開始する。
 そんな中、突然周囲に怒声とも泣き声とも取れる、絶叫が響きわたった。
 その音は凄まじい勢いをもって進み、その先にあったものを破壊する。
「何なんだ、この嫌な感覚……悲しみ? 苦しみ?……くっ、こんな事……!」
「何か、凄くグロテスクって言うか……ねぇ、なす兄? ……なす兄? 泣いてる、の……?」
 要請を請けてディオミディア・プロトで出撃準備をしていた高峰 雫澄(たかみね・なすみ)水ノ瀬 ナギ(みずのせ・なぎ)は、その絶叫とモニターに映し出された大天使の姿に唖然とした。
「ナギと一緒に、ディオミディア・プロトで出る! 試作機で、欠点が多いのはわかってるけど……それでもこのまま放ってはおけない!」
「私たちは後方から支援します」
「新鋭機ですしね」
 雫澄の言葉にジークフリートから堂島 結(どうじま・ゆい)仁科 美桜(にしな・みおう)が答える。
「システム・ジークフリート、ね……」
 結がどこか不安そうに呟いた言葉に美桜もまた手元の機体へと目をやった。
「バランスは上がってるはずだから、機動力は安心していいかな」
「あとはどこまで耐えられるかだよね」
「やってみるしかないね」
「うん」
 二人は頷くと、ジークフリートを後衛位置へと移動させ、遠距離攻撃を開始した。

「まだ隠し玉を持っているかもしれない。まずは手の内を暴かせて貰う」
 真司は味方のイコンを援護しながら大天使の攻撃パターンの分析を開始した。
 ヴェルリアの周囲との連絡と併せて周辺の戦闘状況の把握に集中する。
 常に一定の距離を取りながら大天使の攻撃を予測・回避しつつ、右手のガトリングシールドや左手に装備した新式アサルトライフルで味方のイコンを援護しながら大天使の攻撃パターンを分析していく。
「とりあえず対処が必要なのはあの絶叫だな。いったん俺が気を引く。その隙に配置につけるか?」
「ああ、行ける!!」
「援護します!」
 雫澄と結の言葉を聞くなり、神条 和麻(しんじょう・かずま)アマテラスで攻撃体勢に入った。
 空から絶叫を避けつつ、大天使をスナイパーライフルで狙撃をし、大天使の注意を上空のアマテラスに向けさせようとする。
「エースと呼ばれるほど実力はないけど、伊達に天学に通ってねぇ!!」
 飛び回りながら仕掛けられる攻撃に、大天使の首がいくつもアマテラスのほうを向いた。
「おまえを縛っている鎖ごと………俺はすべてを貫く!!」
 そのまま新式ビームサーベルで攻撃に転じようとするが、単独での出撃のため、アマテラスの性能がほとんど発揮できない。
 動きが少し遅れたところに、大天使の口が大きく開く。
 飛行形態で戦線に合流した叶 白竜(よう・ぱいろん)世 羅儀(せい・らぎ)枳首蛇が、事前に確認したデータと現場で浩一から送られたデータを統合し、素早く状況を判断する。
 中長距離から大天使の口にけん制攻撃を仕掛けると、味方イコンに攻撃があたらないよう、側面に回り込んで歩行形態に変形し巨体を支える脚部分を狙って攻撃した。
 飛行形態の間は白竜が通信系とイコンの操縦を受け持ち、羅儀が銃撃を行う。
「……彼らを解放しなければ」
 羅儀はツインレーザーライフルで大天使の要所に打ち込むが、あまりいい気分ではない。
 白竜は銃撃を行いながら天使らの状態を観察する。
 意志の疎通は可能なのか、共通する動きや、彼らの中のどこか、あるいは外部に動きを統率する者がいないか。
 戦闘の合間に図ってみるが、どうにも反応は薄かった。
 天使たちは地面の中から現れた、という情報もある。
「……今パラミタの地の中で何が起こっているというのだろうか」
 原因を解明しない限り、また同じことが起こる可能性がある。
 しかし今はまず目前の敵を倒し、空京を守る必要があった。
 大天使の死角へと入り込み歩行形態にすると、銃撃の腕が上の白竜と羅儀が役割を交替した。
「天使の姿に似ているだけに悲惨だねえ……」
 羅儀が呟いたのとほぼ同時に白竜の放った攻撃でバランスを崩した大天使の大絶叫が響く。
 その隙を突いて、和麻たちと共に前線に飛び出した雫澄は、後衛の結たちとも連携し、大天使に向かって射出したワイヤークローを軸に戦いを展開していく。
 移動時の消費エネルギー軽減を狙う冷静さはありながらも、天使達の声、そして思いを強く受け取ってしまった雫澄は天使達を救いたい、という感情から、少々暴走気味に大型MVブレードを振り回し、突っ込んでいく。
「この悲しみを、苦しみを! これ以上、彼らに……!」
「無茶な動きをしすぎだよ! そんなに大型MVブレード使ったら……!」
 雫澄の機体が不自然に揺れる。
「どうした!?」
「激しい戦闘行為で急激なエネルギー使用が発生し、オーバーヒートを起こしてしまったのだと思います。……結! 大天使からエネルギー反応が!」
「仕掛けてくる!?」
 驚いた和麻の声に、美桜が機体の分析を行う。
 しかし、途中で大天使からのエネルギー反応を感知し、即座に結に報告する。
「うわわっ、やっぱりもう限界だよぉ!!」
 そんな中、ディオミディア・プロトがガタンと大きく揺れると、動きを止めた。
「……ッ!? 何だ、エネルギーが……!? しまった……! くっ、ナギだけでも……!」
 大天使の攻撃延長線上で機体のオーバーヒートを起こしてしまった雫澄はとっさにナギだけでも離脱させようと機体を必死に動かそうとする。
「残りのエネルギーを駆動系に回すから、直ぐに離脱しようよ!」
 ナギは絶対に離れまいと、エネルギーの系統を急ぎ繋ぎなおそうと操作を開始した。
「来るぞ!!」
「くっそぉぉぉおぉ! 動けぇぇぇぇぇっ!!」
「美桜ちゃん!」
 再び大きく口を開けた大天使の気を逸らそうと、和麻が飛び回りながら狙撃を行う。
 大天使の絶叫が響いた瞬間、結と美桜のジークフリートが絶叫の射程内に飛び出し、ディオミディア・プロトを庇う。
「……っつ!!」
「くぅっ……!」
「結ちゃん、美桜ちゃん!?」
 驚いたように雫澄が叫ぶ。
「いったん離れるぞ!!」
 衝撃で動きが取りにくくなったジークフリートを、和麻がアマテラスで引っ張り、大天使の射程から離脱する。
「ありがとう……!」
 ほぼ損傷を受けなかったディオミディア・プロトで、雫澄は冷静さを取り戻した。
「良かったです」
 雫澄の言葉に、結が嬉しそうに返す。
「結、基本系統は復旧完了したよ」
「すみません、私たち、後ろに下がりますね」
「ああ。後は任せて!」
「お願いします!」
 結と美桜が機体整備のため後ろに下がると、雫澄と和麻は息を合わせ、再び大天使へと向き合った。 

「システムオールグリーン。エンド、チェック完了です。ツヴァイは機動力を重視した分、装甲は薄いですからね。動きに遅延がないよう、整備員の皆さんも熱心にやってくれましたよ」
 ほんの一瞬、シュヴァルツ・zweiで何かを願うように瞳を閉じたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)の言葉に静かに目を開く。
「グラキエス様、天使達に同情なされましたか? それとも、望みを叶えて貰える天使達が羨ましいですか?」
「エルデネスト!」
「ふふ……。キース、そう怒らないで下さい。悪気はありませんよ」
 グラキエスの内心を読み取り言ったエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)にロアはきつい眼差しを投げた。
 だが、当のエルデネストはどこ吹く風だ。
 グラキエス本人もあまり気にした風はない。
 グラキエスは、自分が死ねば狂った魔力の苦痛からも、キース達の命の危険からも解放されるのに、と、心の奥で思っており、天使たちの望みに共感していた。
 エルデネストに感づかれていることはわかっていたが、キースには悟られたくなかった。
「さあグラキエス様、準備は完了しました。いつでも行けますよ」
「大天使の攻撃以外にも、他の天使の妨害の可能性もある。キース、レーダー頼む。エルデネスト、ワープを最大限使って戦うぞ」
「かしこまりました」
「……エンド、私は君が大切です。だから、怪我しないで下さいね」
 グラキエスの心の奥底の願い。自分には見せまいとしている想い。
 それを分かった上で、キースはあえて指摘することはせず、共に生きる事を望む自分の思いを伝えた。
「移動手段を潰して大天使の動きを完全に止め、次に攻撃手段を潰そう」
 機動力で大天使を翻弄し、移動に使用されている腕を潰しにかかる。
 二刀流でまず片側、次に反対側と、二方向の切り口で脆くした上でレーザーバルカンを放った。

「良い作戦ですね。皆さん、絶叫に注意しながら、まずはシュヴァルツ・zweiを援護しつつ動きを止めましょう。こちらも、腕への攻撃と絶叫への対応を、適宜判断して動きます」
 戦況の調整を行っていた浩一の声で、皆が一斉に大天使の動きを止めにかかる。
 浩一は、各イコン機の位置をしっかりと確認し、その人達に攻撃を行おうとしている口や腕を優先的にスマートガンで攻撃していく。
 威力よりは行動の阻害を優先した、他メンバーのために隙を作る陽動射撃に徹する。
 総員で大天使に向かう作戦に切り替えたため、手薄になる位置は随時菜織や翔に伝達し対処して貰うことで天使達の突破を防ぐ。