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【●】歪な天使の群れ

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【●】歪な天使の群れ

リアクション

「くそ〜本当ならあたしが出撃する所だったのに訓練で機体が中破だなんて……嘆いていても仕方ねぇ煉、あたしの代わりに出撃するんだから格好良く活躍しろよな!」
「……ああ!」
 天使たちとの戦闘中にヴァーチャーを見つけ、駆けつけたシュヴェルトライテエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)がヤケになって言うと、桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)はしっかりと頷いて見せた。
 そのままヴァーチャーの射程へと飛び出していく。
 動きを予測して両手の剣を避け、ファヴニルで左手の剣を挟み込み武器破壊を狙う。
「チャンスだ! 左腕の剣もらっちまいな! ダメージ上昇も掛けて押し込むぜ!」
 エヴァが声を上げる。
 隙が出来たところでスルガアーマーと左右の腕の武装をパージすると、ダインスレイヴだけを手に持ち、必殺の剣である雲耀之太刀を放つ。
 しかしその攻撃は軽くはじかれてしまった。
「なんだと!?」
 驚きつつも煉は即座に離脱し距離を取った。
「とりあえず目立つヤツから潰しとけ、ちゅうてな」
「おぬし、何をしておる!? イコンではないのか!?」
 生身でヴァーチャーに近づく瀬山 裕輝(せやま・ひろき)にエクスが声をかける。
「イコン? 何やそれ? 食いもんやったっけ?」
「食えぬわ!!」
「あぁ、イコンねイコン。アレやろ、電荷を帯びた原子、または原子団の事で電離層などのプラズマ、電解質の水溶液とかがあるやつやな」
「それはイオンですね」
 見かねた唯斗が思わずツッコんだ。
「そうら、とっととかっかってこんかい!」
 特に気にせず裕輝はヴァーチャーに向かって啖呵を切る。
「自分、ヴァーチャー、やったか? ケジメ付けようやないかい」
 ヴァーチャーからの攻撃を避けながら肉弾戦に持ち込むが、ヴァーチャーはびくともしない。
「生身で突っ込むので何事かと思いましたが……普通に冷静なようですね」
 ヴァーチャーの挙動から次の攻撃を見切り、きっちりと避ける裕輝の姿を見て、十六凪は感心したように呟いた。
 続けざまに煉が攻撃を仕掛けていく。
 だが、ヴァーチャーは両手の剣で周囲をなぎ払うと、飛び上がり上空から剣を構えたまま急降下してくる。
「皆、気を付けよ!」
 エクスの声に、一同は咄嗟に距離を取る。
 何とか攻撃に繋げてはいけるものの、なかなか大きなダメージを与えることができない。
 各機焦りの色がにじみ始める中、十六凪の通信が各機に届く。
「そこの皆さん、私はオリュンポスの参謀の十六凪です。私に双剣の天使を倒す策があります。ご協力願えますか?」
「聞くぜ!」
 ブレイブヒーローズとして共に戦うシリウスが即座に返す。
 十六凪から概要を聞きながら、マグナは辛そうに顔をしかめる。
 今回は、よりにもよって相手が相手である。
 その上、なくした過去の断片的に思い出した一部、かつてニルヴァーナからの強大な敵に対して力を求めたもの達と共に戦った記憶が、ヴァーチャーへの攻撃を躊躇わせるのだ。
「俺に、やらせてほしい」
 うなるように呟かれた言葉に、ブレイブヒーローズの面々は了承の返答をすると、ヴァーチャーへ向かい飛び出していく。
 唯斗はエナジーバーストを起動する。機体を黄金のオーラの様にバリアが包みそのまま全速力で突撃していく。
「サビク、機動戦だ! 食らいついて掃射、遊撃を許すな!」
 シリウスが前に出ながらサビクに指示を飛ばす。
 サビクは敵の軌道に絡みつくように追撃しつつアサルトライフルで掃射を開始する。
 ヴァーチャーが向き直ると新式ビームサーベルのリーチを生かして距離を取りつつ、更に射撃を続ける。
「鬼神金剛拳!」
 唯斗がそこに合流すると、高速で突撃し相手の攻撃を弾きながら正拳突きを繰り出した。
 2機からの連携攻撃に、さすがのヴァーチャーも動きが制限されてくる。
(……ふん。醜い悲鳴だ。これ以上は聞くに堪えんな。ハーティオン、奴らを叩き潰して黙らせるぞ! ……べ、別に奴らに哀れみなどもっておらんぞ。ただ我は奴らの耳障りな悲鳴が着に食わんだけだ! ゴチャゴチャ言わずに敵に集中しろハーティオン! 来るぞ!)
 自分たちの手でしっかりと引導を渡してやる。
 それが、操られる天使達に哀れみを感じたドラゴランダーなりの優しさだった。
「オオオォっ! 龍帝咆哮! ドラゴンブラスタァァーッ!!!」
 コアの攻撃に重ねるように、シリウスも新たに攻撃を展開する。
「エネジーブレイクで勝負だ。息あわせていくぜ、サビク!」
『エナジーブレイクゥァァァーッ!』
 シリウスとサビクの声が重なる。
 鈿女は戦いから算出される天使の戦闘能力やスペックデータを収集、判定し随時情報を共有していく。
「マグナ。任せたぞ」
「いくよ、マグナ!」
「……覚悟を決めた、例え業だとしてもやらなければいけない」
 コアとリーシャの言葉に、マグナが覚悟を決める。
 どうであれ、ヴァーチャーはじめ天使たちは解放望んでいるのだ。
 それに、このままにしておいては被害がどんどん広がってしまう。
 そんなことは許容できるはずもなかった。 

「神剣合体せよ、カリバーン! あの目立つ双剣の天使を倒し、我らオリュンポスの力を見せるのだ!」
「了解した、ドクター・ハデス! 空京の平和は、この聖剣勇者カリバーンが守ってみせる!」
 カリバーンはドクター・ハデスの合図で神剣形態に変形すると、マグナの手の中へ収まる。
「周囲に雑魚共の影はない。良いタイミングだ」
「マグナ、カリバーン、頼むぜ? こちらで気を引く。22時方向から攻撃を」
 エクスが周辺状況を割り出し各機に共有すると、唯斗がリーシャに通信を入れ、そのままヴァーチャーの目の前へ飛び出した。
「はあああああああああああああっ!!!」
 救うために戦うことを決めたマグナは、カリバーンを片手に、押さえ込まれたヴァーチャーへと向かって切り込んでいく。
「やった!?」
 リーシャの声が響く。
 強烈な一撃を加えたと誰もが思った瞬間、まるであざ笑うかのようにヴァーチャーがひらりと舞い上がった。
「くっ……てめぇ、何者だ!!」
 シリウスが叫ぶ。

『んー、そうだねぇ……』
 上空からヴァーチャーがのんびりと言葉を発する。

『それじゃあ、君たちの腕に敬意を表して……僕はユリン。王様の友達だよ、今のところはね』

「そうかよ……っ!!」
 返答を聞と同時に、シリウスがサビクに目配せで合図する。
「逃がさないよっ!」
 上空のユリンに向かって、サビクがアサルトライフルを射出した。
『ひどいなぁ、君の質問に答えてあげたのに……』
「ごちゃごちゃうるせえっ!」
『わあっ!』
 サビクの攻撃をひらりとかわしたユリンに、動きを読んでいた煉が突撃する。
『あはははっ……! やっぱり君たち面白いね!』
 ユリンが嬉しそうに飛び回る。
 ただこちらの攻撃を避けるだけで、仕掛けてこないユリンに、苛立ちは募る一方だった。

「周囲に雑魚共が集まりつつあるぞ」
「仕方がないですね。まずはそちらを片しますか」
「私も向かおう」
「何か危険だ! 用心しろ!」
 近づいてきた天使の群れに方向を変えようとした唯斗とコアだったが、エクスの声に機体の動きを止める。
 直後、進行方向に凄まじいエネルギー波が降り注いだ。
『今は僕と遊んでるんじゃないか。余所見しないでよね』 
「遊んでいる、だと……?」
 コアが怒りを押し殺した声を漏らした。
『そうだよ。せーっかくこれからが面白いってとこなのに』
「なんなんや、こいつ。めっちゃ腹立つわ」
「同感。煉、ぶっ潰してやろうぜ!」
 裕輝の言葉にエヴァが勢いよく同意する。
「来るぞ!」
 そんな中、接近してくる天使の群れを感知したエクスが注意を促す。
「戦力分散するか!?」
 ビームシールドを展開しながら、シリウスが唯斗に通信を飛ばした。 
『ああ、そっか。あいつらが邪魔しちゃったんだね。ごめんごめん』
 そんな様子を見たユリンは、ぽん、と手を打つと、突然天使たちの群れに向かう。
「なんだ!?」
 驚く間もなく、ものの数瞬でそこにいた天使たちを斬り捨てた。
「はーっ、最強のクソなんはよーわかったわ」
 裕輝が思わず鼻で笑う。
「やっている内容は最低だが……凄まじい攻撃力だな」
 エクスが呟いた。
『これでゆっくり遊べるね』
「終わらせねばならぬ……彼らを、解放するためにも!!」
 マグナが怒りをこめ、ユリンへの攻撃を展開する。
『あはははっ。面白い、好きだ、愛してる! もっとみんなで一緒に遊ぼう!!』
 何も無かったかのようにふらりと戻ってきたユリンの言葉に、唯斗たちは一斉に武器を構えた。