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亡き城主のための叙事詩 前編

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亡き城主のための叙事詩 前編

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「心中、しましょうか……!」

 魔術師の従士はそう言うと同時に、炎術を発動。小さな炎は種火となり、雷術により霧が分解され水素が充満した戦場に、爆発を起こす。

 瞬間、大地がゆるがすほどの爆発音が孤島に轟いた。

 魔術師の従士の戦場を覆いつくすほど未曾有の爆発は、彼女自身にも直撃し吹っ飛び、地面へとバウンドした。
 しかし、彼女は咄嗟に反対の手で氷の壁を作っていたおかげで生きながらえることに成功。

「けほ、けほ。……どうにか死なずにすみましたか。けれど、あの人たちは生きていることはないでしょう」

 彼女はふらりと立ち上がり、焼け焦げた箇所を押さえ、先ほどまで契約者たちが集まっていたほうに目をむけた。
 あいにく延々と燃え盛る炎と黒い煙によって、姿を確認することは出来ない。

(だがあの爆発です。下手をすれば消し炭すら残っていなでしょう)

 魔術師の従士はそう思い、踵を返そうとした。
 その時。

「………………た……!」

 聞こえるはずがない声が、魔術師の従士の耳に届いた。

(嘘……!?)

 彼女は驚き、目を見開いて、契約者たちがいた方向をもう一度振り向いた。
 強い風が吹きすさび、煙を流して、魔術師の従士の視界を明らかにする。

「まもり、きった……!」

 詩穂は立っていた。
 他の者を守るかのように自らの身体を盾にして、詩穂は倒れることなく立っていた。

(……彼女の体を包むのはファイアプロテクトの光。まさか彼女は、こんな場合も想定して策を張っていたのか!?)

 詩穂はそこで力尽き、ゆっくりと前に倒れた。
 その代わり現れたのは、彼女の背後に立ち禁じられた言葉と白色の魔法陣を強く光り輝かせる涼介だ。
 魔術師の従士は危険を感じあわてて青の魔法陣を描く。だが、それよりも早く。

「神の審判……!」

 涼介がかざした手と共に光が現れる。空より生まれた聖なる光の柱は魔術師の従士に降りかかる。
 彼女はは頭上に氷の盾を作り、どうにかにかこれを受け止めた。

「……ぐ……つぅッ!」

 神々しく光り輝く光りの裁きは、とんでもない圧力で、彼女を攻める。
 氷の盾に亀裂が走る音がする。骨が軋む音がする。魔術師の従士は唇を噛み締め、耐え続ける。
 
「今だ、行け……!」

 涼介の言葉と共に爆発の影響が比較的軽微なクレアとエレノアが飛び出した。
 魔術師は光を受けきると、すぐさま青の魔法陣を展開。生み出した魔法陣は二つだけだけども、無数のつららを精製。
 先ほどまで契約者たちを苦しめていた氷の弾幕が二人に飛来する。それは二人には十分な量。爆発のダメージが少ないとはいえ、満身創痍には違いないはず。
 だが、しかし、二人はそれすらも恐れずに――風よりも早く疾走する。

「「はぁぁーッ!」」

 二人は声を重ね、数多の氷の弾丸を傷一つ負うことなく打ち落とす。その様子に魔術師の従士の目が再び見開けられた。

(……そんなわけないでしょう。だって、この数。満身創痍な身体のはず。なのに、なんで、そんな目で見ずとも飛来してくる方向が分かるみたいに……!?)

 魔術師の従士の目に涼介の背後で両手を握り合わせ祈る佳奈子の姿が映る。
 二人を祝福するイナンナの加護。与える奇跡は迫り来る危険への反応。生まれた加護は二人の道行きを祝福するかのように、活路を見出していく。
 クレアは賢騎士の剣に雷を帯びさせ、エレノアは翼の剣に炎を纏い、二人のヴァルキリーは魔術師の従士にバーストダッシュで迫る。

「――あなたに救いを……」
「――少しだけ、眠ってて頂戴!」

 交差した雷と炎の剣閃は、十字の軌跡を描き、魔術師の従士の身体を切り裂いた。

 ――――――――――

 魔術師の従士が次に目覚めとき、周りの炎は鎮火され、戦場に静けさを取り戻したときだった。

「あれ? わたくしは……痛ッ!」
「やっと目が覚めたか……結構重傷だったからな。あまり無理に起きないほうがいいよ」

 身体を起こそうとした魔術師の従士を、涼介が優しく寝かせる。
 
「わたくしは……そうですか。負けましたのね」

 魔術師の従士は自分の傷に包帯が巻かれていることに気づき、涼介に問いかけた。

「……でも。何故、わたくしを助けたのですか。
 わたくしは貴方様たちを殺そうとしましたのよ?」

 涼介は包帯や消毒薬の入った救急箱を閉め、その問いに答えた。

「殺してしまった話を聞けないからな。それに」
「それに……?」
「無駄に命を散らす必要は無い。目に見えるものは救う。それが涼介・フォレストの魔道士として矜持なんだ」
「……貴方様は存外優しいのですね」
「どうとでもいえ。甘ちゃんだと呼ばれたって構わない」

 涼介にそう言われ、魔術師の従士は大人しく横たわり、静かに目を閉じた。
 自分が負けたことと城主を生き返らせるという願いを妨害されたのだと言うのに、どこか心が安らぐのを感じて。

「……もしかしたら、クレア様が言っていたように。わたくしたちはどこか助けを求めていたのかもしれませんね」

 そう、小さく呟いた。