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恐怖! 悪のグルメ組織あらわる

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恐怖! 悪のグルメ組織あらわる

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 早朝。
 街の賑やかさから遠く切り離された閑静な住宅街。
 そこからなおいっそう離れた場所に、ぽつりとそびえ立つコンクリート造りのビルがある。
 朝霧に包まれたこのビルこそが、悪のグルメ組織のアジトだった。
 霧の上には星が見えなくなるほどの暗闇が立ち込め、時折り、切り裂くような稲妻が轟音と共に落ちてくる。

「おーい、これぐらいにしとこうぜ」

 太鼓を持った戦闘員がバチを下げると、うるさいほどに鳴っていた轟音がぴたりと止まる。
 それを合図に、演劇用の照明を持った戦闘員と、魚を乗せた七輪を扇いでいた戦闘員が作業を止めて立ち上がった。

「今日も雰囲気ばっちりだったろ?」
「おうよ、トロスキー様もご満足していた様子だったぞ」

 七輪を持った戦闘員は魚をパックにしまいながら嬉しそうに頷いた。
 東の空に目を向けると、晴れてきた霧の向こうにぼんやりと光が浮かび上がる。

「ああ、いい朝日だ。今日も一日、良いことがありそうだな」



 ◇ 悪のグルメ組織、アジト壊滅の巻 ◇


 本部第一調理室。
 ビルの一階層をまるまる使用した広い空間に、一般家庭でよく見られるシステムキッチンが大量に並んでいた。
 室内の一角には大きめのテーブルが設置されてあり、そこへちょこんと座る二人の姿が見える。
 源 鉄心(みなもと・てっしん)の許可を貰い、悪のグルメ組織へやってきたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)ティー・ティー(てぃー・てぃー)だ。
 二人が座るテーブルの上には様々な料理が所狭しと並べられており、それを囲むように、フライパンやフライ返しを持っている白いトックブランシェ(コック帽)の戦闘員たちが並んでいる。誰もが皆、自信たっぷりの笑みを浮かべていた。

「誰かに食べてもらえる喜び!」
「「「喜び!」」」

 一際そびえ立つトックブランシェの戦闘員の掛け声に、周りが復唱する。
 そんな光景に何の疑問も抱いていないティーは、古今東西あらゆる名所の料理が並べられたテーブルを前に、目をキラキラと輝かせていた。
 隣に座るイコナも期待に満ちた眼差しをしているが、その視線は料理ではなく、何故かティーに向けられている。

「こ、これ本当に私が全部食べてよろしいのですか?」

 戦闘員の作った料理を毒見しようとやってきたティーとイコナ。
 本当は、園児たちが被害に遭ってしまう直前に行動しよう、と計画していた。
 だが、アジト集合時のキッチンで出来立てのアップルパイを見かけたティーが、

「あら、意外と美味しそう」

 と呟いた結果、急遽に第一料理班五十人の試食会が開かれることになったのだ。
 あっというまに準備が進み、いざ目の前に出てきたのは、食欲をそそる香ばしい匂いを漂わせた、とても見目麗しい料理の数々だった。

「イコナちゃんも食べたくなったら言ってくださいね。私、頑張って試食して、感想を伝えますから!」

 真面目なティーが真剣な表情をイコナに向ける。
 ティーが試食して味をイコナに伝え、それを分析して改善点を探すのが今回の作戦だ。

「わたくしはこんなに食べれませんもの、食べる方はティーに任せますわ。お腹が膨れると冷静な分析が難しくなりますしね」
「では遠慮なく、いただきます」

 パキン。
 用意された割り箸を手に、まずは手前の並べられているお寿司の皿に向かう。
 ターゲットは、小さく握られたシャリの上に、脂が乗った霜降りがどっしりと鎮座する大トロだ。
 箸で優しく掴まれた寿司は、少量の醤油によるデコレーションで飾られると、そのままティーの口へと運ばれていく。

「ごくり」

 隣から唾を飲む音が聞こえる。
 幸せそうな顔で一口、二口と咀嚼するティー。

「ぶほわああああああ」

 突然、口から炎を噴きだした。
 ティーの正面にいた板前風戦闘員が、爆炎に巻き込まれて黒焦げとなる。
 その様子に周りにいた他の戦闘員たちが慌てて散っていく。

「戦闘員九十八号がやられたぞ」
「退避……退避ーッ!」
「衛生兵! 衛生兵!」

 穏やかだった第一調理室は狂乱の地と化した。

「お、おそるべしですわ。一見、普通に美味しそうな大トロの寿司なのに、ここまでの破壊力があるとは……。ですが、ティー。料理はまだ107皿も残ってますのよ」