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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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■再襲撃、秘密結社オリュンポス!
 ――時は、赤く燃える夕日が黒船漂着地点を染める時間帯。その夕日を背に浴び、あの男が仁王立ちしていた。
「フハハハハハハ! 我が名は悪の秘密結社オリュンポス大幹部、ドクター・ハデス!! ここに眠るという黒い機動要塞を奪取するため、これより活動を開始する!」
 どこで機動要塞の話を聞いたのか、ハデスはいつもの部下であるヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)と、今回は参謀である天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)、そしてこれまたいつもの《親衛隊員》であるオリュンポス戦闘員を二名ほど引き連れていた。
「ククク、黒い機動要塞タルタロス号よ待っていろ、すぐに我らが手に入れてオリュンポスのために使ってやろう! ヴィゼルなどという得体の知れぬ男に使わせてなるものか!」
 いつものことながら、気合が入っているハデス。その隣ではじっと遺跡の扉を見つめる十六凪がいた。
(ヴィゼルという男……何か裏がありそうですね。一応、デメテールに探りを入れてもらってはいますが、どうなりますか……)
 ヴィゼルの行動に引っかかりを覚えた十六凪は(ハデスには一応内緒で)遺跡の中へデメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)に潜入してもらい、ヴィゼルの行動を監視してもらっている。『根回し』でヴィゼルの護衛として動いてもらっているのだが、ここまで出てきてないのは彼女が面倒くさがりというわけではなく、『隠れ身』でこっそり護衛しているからである。
「さあヘスティア、それに戦闘員たちよ! 今回は強行突破による電撃作戦でとっととタルタロス号を奪取する! ――作戦開始だっ!」
 カッ! とカットインが入りそうなほど気合を入れ、作戦開始を告げるハデス。同時に、十六凪が『情報攪乱』を使ってサポートを施していく。
「かしこまりましたご主人さm――じゃなかった、ハデス博士。まずは遺跡に対して強襲爆撃を行います!」
 ヘスティアの背にあるウェポンコンテナが展開、そこから《六連ミサイルポッド》3基でのミサイル一斉砲撃による『破壊工作』を繰り出していった!
 誤射することなく全弾遺跡に当たったのを確認すると、すぐさまミサイルポッドをパージして《ニルヴァーナライフル》を構えて射撃モードに。そして、ハデスたちは一斉に遺跡の扉を開けて強行作戦をこころみ――。
「なん……だと……」
 しかし扉を開けた先には、すでに北都、モーベット、マグナ、オルカ、そして祐輝の五人がすでに戦闘準備を整えて待ちかまえていた。さらに、騒ぎを聞いて手伝いに来た秘色などの契約者たちも集まり始める。その中には、ザカコに連れられたヴィゼルの姿も見える。
「――え、えーと……契約者の数が思った以上に多いではないか……ええい、こうなれば全員倒す! 構うな、やってしまえっ!! 機動要塞は我ら悪の秘密結社オリュンポスがいただくっ!」
 『優れた指揮官』たる知能でもこの状況を打ち破る策は思いつかなかったらしい。『士気高揚』で部下たちの士気を高めると、一気に勝負をつけるべく正面から戦いを挑んでいく。
「奴らの目的は機動要塞か……! ならぬ、絶対に死守するのだっ!」
 オリュンポスの狙いが機動要塞と知り、声を荒げ絶対死守を口にするヴィゼル。その様子をデメテールは『隠れ身』でこっそりと隠れながらスナック菓子をもぐもぐつまみつつ監視。ヴェルザ・リもヴィゼルの様子をじっと見つめていた。
 迫りくる戦闘員をマグナとオルカが容赦なく倒していく。しかし士気の上がった戦闘員はすぐ起き上がり、何度も立ち向かってくるものだからある意味では完全に拮抗状態となってしまっている。
 北都もモーベットの援護を受けながら、ヘスティアに一撃を加えようと『サイドワインダー』で攻撃を仕掛けていく。しかしそれはもう一人の戦闘員に身を挺されて防がれる。が、それは北都の『行動予測』で既に読んでいた。
「これでも喰らいぃっ!! 男女平等『雷霆の拳』!」
 北都との連携で祐輝が戦闘員の横をすり抜け、ヘスティアへ『羅刹の武術』と『歴戦の武術』を乗せた『雷霆の拳』をぶちかます。突然の攻撃に対応しきれず、ヘスティアは思いっきり殴られ飛ばされてしまった。
「く、さすがに今回はこれ以上の戦闘は無理か……全員、撤退せよ!」
「今回“も”、の間違いやろ?」
「うるさいっ!」
 やはり正面突破は難しいと判断したか、ハデスはオリュンポスメンバーへ撤退の指示を送る。そこへ祐輝のツッコミが入り、思わず声を荒げてしまった。
「だがこのまま撤退も癪に障る! せめてその機動要塞の武装を破壊させてもらおう!」
「えっと、あとは十六凪様からのご命令を遂行します……いたたた」
 すぐには撤退しないハデス。《機晶ロケットランチャー》を構えると、開いた入口から見える機動要塞の主砲を破壊しようと照準を定めていく。ヘスティアも何とか立ち上がると、《ニルヴァーナライフル》を同じところへ向けている。
「ぶ、武装を破壊されてはいかん! 何としてでも止めろっ!」
『了解ですよー。主砲はメイン動力なしじゃ動かないみたいなので、副砲を試射しますね』
『どこかで見たような人たちがきてるし、狙いはあの辺?』
『だ、大丈夫なのか……?』
 と、その時。機動要塞のほうからマイク音声が聞こえてきた。どうやら、火器管制室にいる吹雪とセイレム、そしてシステムの改造をおこなってたハイラルがしゃべっているらしい。
『じゃあ、あの“的”を吹き飛ばしちゃいます。――ファイアー!』
 ――瞬間、二つある副砲の圧縮式二連装エネルギーカノンのうちの一つから、圧縮された強力なエネルギーのうねりが放たれ、オリュンポスたちに襲いかかる!
「あっ!?」
 ほぼ同時に《ニルヴァーナライフル》を撃ったヘスティアであったが、その弾は戦闘員にヒット。ハデスの撃った《機晶ロケットランチャー》の弾は圧縮エネルギーの軌跡によって蒸発させられてしまった。


バゴォォォォォォン!!!


 ――ほぼ狙った位置通り、オリュンポスたちの“後ろ”に着弾したエネルギーカノン。しかしその威力はかなりのもので、すぐ近くにいたハデスたち一行はその爆風で天高く吹き飛ばされてしまった。その様子を見ながら、吹雪は火器管制室の中から敬礼をしていた。
「おのれ、おぼえてろよぉーーーっ……!!」
 お決まりの言葉を口にしながら、ハデスたちは空高く飛ばされていく……。

 空へ吹っ飛ばされ、星となったハデスたち。その着地先は、それほど離れていない枯れ木の近くだった。
「大丈夫ですか、ハデス君?」
 なぜか無傷の十六凪がハデスとヘスティア、戦闘員たちを起こし上げていく。それほど怪我はないようだが、何とか無事のようだ。
「う、うむ……しかし今回はしてやられたな……」
「ハデス君、実はあの場にデメテールを潜入させていたのですが、目的は達したので『召喚』で呼び戻してもらえるとありがたいのですが」
「何、それは本当かっ!?」
 十六凪からのデメテール潜入のことを聞き、すぐに『召喚』を使ってデメーテルを呼び寄せるハデス。……デメテールが呼び寄せられると、ちょうどスナック菓子をポリポリ食べてるところだった。
「……あ、もしかして任務終わり?」
「はい。それで、どうでしたか?」
 ……どうやら、別件でデメテールを潜入させていたらしい。それに気づいたハデスは、あえて口を挟まずにデメテールの話を聞きいる。
「えーとね、なんか機動要塞を破壊されるのを恐れてた感じだったかな。それ以外はいたって普通だったよ?」
「ふむ、そうですか……」
「ね、任務終ったからしばらく本気出さなくていいよね? 帰ったらスナック菓子もっともらえるんだよね!?」
 デメテールからの報告に、口に手を当てて考え込む十六凪。デメテールの言葉に耳を貸さぬままある程度考えると、すぐにハデスへ視線を向けた。
「……ハデス君。あれを奪うのなら、日を改めましょう。おそらくヴィゼルという男、遅かれ早かれあの機動要塞を動かすつもりです」
「そうか……あの武装を見るに、抑えるためにはかなりの戦力を有しそうだ。――いいだろう。我らは一度本部に戻り、作戦の練り直しを行う! 最終的に勝利するのは我ら、悪の秘密結社オリュンポスだ! フハハハハハ!」
 転んでもただでは起きない男、ドクター・ハデス。枯れ木荒野の真ん中で、彼の高笑いが響くのであった……。
 

 ――すっかり夜の帳が下りた、黒船漂着地点。全体の修繕がほぼ終わり、依頼も完了という形となって、出入り口へ集まっていた。
「それにしても、デートはうまくいってたようでよかったわ」
 ルカルカは高峰 雫澄(たかみね・なすみ)からのミリアリアとクルスのデート内容を聞いてほっこりしている様子。しかし同時に、向こうで起こったある程度の流れを聞いて、複雑な気持ちを抱いていた。
(でも……モニカは空京警察に逮捕された。何も知らないクルスにとって、目の前で起こった自分を巡ることにショックを受けてる、とも言ってたから……クルスが機動要塞の動力パーツだなんてこと、今は言えそうにないわね……)
 すぐに連絡しても、クルスにとって悲しい出来事の連続になってしまう。クルスには楽しい思い出で今日を終わらせてほしい気持ちもあってか、クルスの正体のことは連絡できなかったようだ。
「うむ、今日は本当に助かった。明日からはわしの所の技術者たちでどうにかしてみるよ。少ないが謝礼を出しておこう」
 そう言って、修繕に参加した契約者たちへ謝礼の入った封筒を手渡していく。……その厚みは、尋常では考えられないほどである。
「こ、これは凄いのだよ……!」
「あ、ああそうだな……!」
 昌毅と那由他もその中身に思わず驚くほかなかった。
「わしは迎えが来るからもう少しこの遺跡にいる。今日は本当にご苦労だった。また何か頼むことがあるだろうが、その時はよろしく頼むぞ」
 ヴィゼルはそう言葉を締めると、ひとまず解散の流れとなる。様々な思いが渦巻くものの、確証を得るまでは泳がしておく……。そう多数決で決まったため、一時解散の形となった。

「――よかったのか、すぐに破壊しないで? ほとんど黒なんだし、俺たちだけでも機動要塞の武装くらいは壊しといたほうがよかったんじゃねぇのか?」
 セリスが玉藻へそう尋ねる。ヴェルザ・リも黙ったままだが、ほぼセリスと同意見のようだ。
「……あの者たちが言うように、まだ確証を得たわけではないからのぉ。正しき運用を本当にするかどうか、あの場ではわからなかった以上、全てを見極めてからでも遅くはない、と思うのじゃよ」
 慎重、といえばそれまでじゃがな……と付け加える玉藻。そしてその視線は、遺跡へと踵を返すヴィゼルへ向けていた。
 果たして玉藻の願いは届くのか。それは、ヴィゼル本人にしか知る由はない……。