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リアクション
〜 episode8 電撃・ドラゴン刑事・オブ・ザ・デッド 〜
―― 空京警察特務刑事課 ――
「ばっかもん!」
一方、空京警察の特務刑事課では、いつもごとく課長のどなり声が響いていた。
「ネオ・ドラゴン『ラブ刑事』がヤンデレ妹に刺されただと!? その間何をしていたのだ、お前は!」
正面の課長デスクで新たにやってきたエリートを相手に血相を変えて怒っているのは、ドラゴンの上司の課長役のカールハインツ・ベッケンバウワー(かーるはいんつ・べっけんばうわー)であった。
彼はもう見境がなくなっていた。とにかく怒鳴りたい気分であった。胃薬なんか、カップにいっぱい注いで一気飲みだ。
「何人雇っても、次から次へと殉職! もうどうすればいいんだ!」
ドラゴンの暴走により身に覚えのない説教まで食らってしまったマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)は、殉職したエリートの代わりにやってきた新しいエリート刑事であった。
「最善を尽くします。もうしばらくお待ちください」
課長の八つ当たりに、マイトは反駁しなかった。気持ちはわかる……。課長の気分が収まるのを待って、一礼をすると部屋を出る。
ライフワークで刑事ドラマをやっているマイトは、例えC級と言えども、この映画をきっちりとした『刑事ドラマ』で終わらせたかった。
大切なことは、派手なアクションよりも地道な捜査であった。
幸い(?)ドラゴンはいない。じっくりと取り組むことが出来る。
マイトは、事件の資料を何度も読み返し、現場に足を運ぶ。証言や証拠、そしてそこから導き出される解こそが、刑事の手に入れるべきものなのだ。派手なアクションが正義ではない。
「え、まさか……そんなばかな……?」
薄暗い資料室で、カテゴラス製薬の本社施設からの押収物を調べていたマイトは、一枚の写真を見つけて目を見はる。ドクターカテゴラスと思しき男と並んで映っている研究チームの写真。その中に非常に見覚えのある人物が映っていた。
「銃の名手のルカルカ(♂)が反撃も出来ずに射殺されたわけがわかった。相手は顔見知りだったんだ。それも……」
ゾンビや怪物に襲われて無差別に殺された一人ではない。ルカルカ(♂)は計画的に射殺されたのだ。エリートにこれ以上内情を探って欲しくなかった人物、そして、ルカルカ(♂)たちを、あの現場に行かせることが出来た人物。製薬会社と癒着し、指示を出していた人物……。考えてみれば……あの胃薬は、本当に胃薬か……? なにかの衝動や症状を抑える投与剤ではないのか……?
マイトはケータイを取り出すと、ドラゴンを呼ぶ。
「ドラゴン、戻って来い。犯人がわかった。事件の黒幕は……課長だ!」
そのマイトの背後で、課長のカールハインツが笑みを浮かべながら拳銃を向けていて……。
―― ドラクーン地方 ―― カテゴラス製薬研究施設
「断る。今いいところなんだ」
ドラゴンは非情だった。いや、熱血だった。敵を目の前にして、引き下がれるわけがない。ケータイを切って敵と対峙する。
ドラゴンを演じる高円寺海、彼は研究施設に侵入し創作を続けていた。謎を解き、敵を倒し、手がかりを見つける。そして、いよいよクライマックスシーンを迎えようとしていた。
「カテゴラス製薬研究施設へようこそ、ドラゴン」
出迎えてくれていたのは、身体にぴったりとフィットしたチャイナドレスを着た、セクシーな秘書の役の宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)であった。
「でも、残念ね。アポイントメントのない方をボスに会わせる訳にはいきませんわ」
このカテゴラス製薬の社長でもあり研究者でもあるDr.カテゴラスの傍に仕えていた彼女は、Dr.が行方不明になって以降、この研究所を守り続けてきていたのだ。
そして、さらわれ研究所内に閉じ込められていた雅羅を自由にできる女性でもあった。
その雅羅も、今は祥子と同じようにチャイナドレスを纏い銃を構えている。
「ふっ……、雅羅は返してもらうぜ」
もう一人、海の傍らには空京刑事としてあの世へと旅立ったはずの山葉聡がいた。どうやら、あの後手術が成功し、一命を取り留めたという設定らしい。もう他に戦えそうな役柄の参加者が残っていなかったから、とかそう言う理由で急遽出演したわけじゃない。
「覚悟しな、悪の製薬会社の女幹部。このダブル・ドラゴンの前に惨めな敗戦を遂げるといいぜ」
「まあ、怖いお顔ね」
挑発する聡に、祥子もふっ、と微笑み、そして激突する。
祥子が繰り出すのは、演技でなく、グラップラーらしく地道に鍛錬を続ける八極拳を駆使してカンフーアクションにチャレンジだった。迫真の演技を魅せるため、攻撃は寸止めややらせではなく、本気で全部当てる。
そして、そんな祥子と呼応するように雅羅も海と聡に銃をバンバン撃ってくる。避けるのに精一杯だ。
「逃げているだけなの、ドラゴン? ……でも、もう少し頑張ってくれないと、私も張り合いがないじゃない」
即興でドラゴン役を演じるため、簡単なアクションの練習しかしていない海と聡。そのため、強敵相手の戦闘に有効なスキルも保有していない。
そんなダブルドラゴンを悪役らしくいたぶるように祥子は攻撃する。
ただ戦うのではなく、身体にぴったりフィットするチャイナドレスを活用し、揺れる胸、艶かしい太腿、連環腿など蹴り技の際に見えそうで見えない下着などをちらちらさせながら、ドラゴンを誘惑する。身体を摺り寄せ誘惑するかにみせかけて発剄付きの鉄山靠や、外門頂肘から崩拳のコンボという、それはそれはけしからん悪逆非道な攻撃の連続で、祥子はドラゴンに確実にダメージを与えていく。
「あら?ドラゴンといえば熱血漢として有名ですけど、ソッチの熱血で有名なのかしら?」
祥子は股間をちら見しながら挑発できるほど余裕があった。
「……おっといかん。ポケットに忍ばせてあった棍棒の位置がずれてしまったらしい」
「……幻覚だろう、祥子? オレはもうナンパはしないと決めてあるんだ。そんなことはおこりえない」
クールな口調ながらも、必死な表情で言いつくろう海と聡。
祥子はにやりと笑った。次の瞬間……。ぐにゅり! という嫌な音が響いた。悪逆非道な祥子は、海に金的を命中させたのだ。思わず目を背ける雅羅。
聡が慌てて内股になって急所を防御するのを尻目に、海は脂汗を流したまま倒れこみ、股間に手をあてうめき始める。
「ほらほら、助けに来なくていいの? あなたにも食らわせてあげるわ」
祥子は、聡の股間に視線をやりながら、海をぐりぐりと靴で踏みにじる。聡はもう一度殉職するのは勘弁だとばかりに間合いを取り、じりじりと後退していく。
「これは想定外にチキンで拍子抜けね……。もういいわ、死になさいドラゴン」
残念そうな苦笑を浮かべる祥子。ドラゴンたちの敗北の危機であった。
その時、もっとひどいことが起こった。
「……?」
後ろからトントンと肩を叩かれ、振り返る祥子。
その顔面に、突如現れた人物のパンチがクリーンヒットしていた。かなりの打撃力に、くっ……、とうめいて体勢を崩す祥子。
「そこまでにしておきなさい。私たちは、もうこれ以上悪事を働くべきではありません」
それは、研究所内に捕らえられていた裏切りの研究所員A、白星 切札(しらほし・きりふだ)だった。
実験の被検体となった切札には特殊な力が備わっていた。それは変身ヒーロー『インベイシオン』に変身できる力だった。そのパワーは圧倒的で、あっという間に祥子を叩き伏せてしまう。
「……あんまりなやられ方じゃない……」
がっくりな祥子。そのまますごすごと退場し、画面からフェードアウトする。
切札はまだ横たわったままの海を助け起こし、唖然と立ちつくす雅羅に向き直った。
「すまない。ひどい目にあわせてしまいました。我々の所業、詫びて許されるとは思っていませんが、せめて償わせていただけませんか……」
研究員Aの切札は製薬会社に勤める真面目な青年だった。Dr.カテゴラスの研究が人々の役に立つと信じ、研究を精力的に手伝い自分の体も被検体として差し出した。しかし、実際にやっていたのは怪しい実験だったのだ。研究を止めようとする切札はそのまま捕まってしまい、薬品漬けにされ拘束されていたのだった。
聡たちが探索の途中で偶然見つけたボタンをおしたのだが、それは切札が閉じ込められている部屋の解除装置だったのだ。ドラゴン二人組は特に何も考えていなかったので、その効果は知らなかったのだが、その後復活した切札が二人を追いかけてきた、と言う脚本らしかった。
「私は後悔しています。自分と、そしてドクターの犯した悪魔の所業に。人々の役に立つと信じていたが裏切られ、そして私もドクターを裏切りました。どれほど言葉を尽くそうと全ては言い訳で犯した過去は消えません。もう、私は戦うことでしかお返しできません。この施設の全ての敵を倒し、この施設を……破壊します」
「だめよ、あなた……死ぬつもりね……」
雅羅は、祥子に操られていた洗脳が解けたといった演技で、切札に駆け寄ってくる。ヒロインらしく純粋で真摯な表情で、切札を見つめた。
「あなたが、本当に後悔しているなら、生きて……これから先多くの人を助けるべきよ」
「……もちろんそのつもりです。私は逃げ隠れするつもりはありませんでしたよ」
「それにあなた……涙、流せるじゃない……」
雅羅は、切札の頬を指で軽く拭う。
その研究所員の後悔の涙は、キラリと光って消えていった。いい演出だった。
切札の演技にもかなり気合が入っている。家では切札の最愛の娘が映画を楽しみにしているのだ。切札が活躍するシーンを見たい。切札のいいところを印象に残しておきたい。そんな愛娘のための出演。研究所員Aという脇役だが、見せ場は作れそうだった。
雅羅は続ける。
「あなた、悪い人じゃないわ。だって……ドラゴンのことも助けてくれたし。だから、元気出して……」
ああ、そういえばヒロインってドラゴンの幼馴染設定だったっけ? 切札は思い出したが、そんなことはほとんど関係なかった。自分のシーンを見せるだけである。
切札は研究所員Aとして、ゆっくりと告白する。
「実は……、Dr.カテゴラスは生きています。私なら……案内できますよ……」
―― 研究所内・ドクターの研究室 ――
「……これで……よかったのだな……」
Dr.カテゴラスの白砂 司(しらすな・つかさ)は、試験管の中の薬品を見つめながら呟く。
ドクターの研究室には、実験機器や道具類がところ狭しと並べられ、実験体や水槽なども備えられている。そんな部屋で、司は実験を繰り返していた。
悪魔を作るための実験ではなく、状況を回復させる神秘の薬品を作り上げるために。
「出来上がりましたか……?」
そんな彼の様子を見に来たのは、部下の役のサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)であった。彼女は猫耳の獣人である。だからなんだ、と言ってはいけない。この猫耳が全ての悲劇を引き起こしたのだ。
獣人による獣人のための獣人の世界を作り上げようと、考えていたサクラコはDr.カテゴラスを裏から操り、おかしな薬品を製造させていたのだ。
ドクターは動物大好きモフモフ大好きが高じ世界獣人化計画をもくろんだ結果、バイオハザードを起こしてしまったのだ。まんまとサクラコの口車に乗った結果であった。
ちなみに本人の獣人化計画は成功しているようで、狼の尻尾がぱたぱたしているが、とても気にいているようだった。
だが、サクラコの誤算はドクターの実験の失敗により自分の大切な耳まで腐りゾンビみたいになってしまっていたのだ。哀れドクターも自分の研究室に篭城するハメになってしまった。生命の危機はもちろん、腐ったネコミミを目撃した精神的外傷を負っている。混乱しながらも、現在は篭城しつつ腐ったネコミミを回復させる神秘の薬品を作っているところだった。だが、そんな生活ももう終わりだ。
ワクチンが出来たのである。
「さて……とりあえずは一安心。これでもう一度仕切りなおせますね」
サクラコが言ったときだった。
「話は聞かせてもらった。シベリア送り……もとい、刑務所送りだ」
海と聡のドラゴンが、部屋に入ってくる。
「ドクター、あなたがおかしな考えさえ起こさなければ……」
切札の台詞に、ドクターはくっと呻く。
「どうする、抵抗するか? 最後に戦闘シーンがあったほうが盛り上がるんだが? 改造人間でも作ってくれてあったら大変嬉しいぞ」
海と聡は身構えながら言う。実際のところ、この結末では刺激に欠け白けること確実だった。
「いや、もうやめよう……。ワクチンを拡散させて、被害者を回復させれば人々は元に戻るだろう。後の処遇はきみたちに任せる。」
「そうか……」
ドクターは変人ではあるが悪人ではないらしかった。海も聡も、少し気落ちする。
ああ……終わった、色々な意味で……。
他の警官たちも、ようやくおっとり刀で駆けつけてくる。
あとは警察署での取調べや資料などの押収。調査はそれからのことだった。
ドクターは、サクラコとともに、空京警察の手によって連行されていった。
それを見送って聡は呟く。
「あっけないもんだな」
「普通の終わり方だが、まあこれで刑事ものとして格好はついただろう」
もちろん、そうは問屋がおろさなかった。本当の悪人、黒幕を忘れてはならない。
海のケータイがなった。うるさそうに受話器に出る海。
「……気を、つけろ……ドラゴン……。敵がそちら……に向か、った……黒幕は、課長……だ……」
マイトの声が聞こえてきた。先ほど途中で電話を切ってしまったため事情がわからなかったドラゴンは絶句する。
「……不本意だが……、行け、ドラゴン……俺たちの、コンビの力……見せてや、れ……」
電話はプツリと切れた。それとほぼ同時に。
ドオオオオン! と地鳴りがし、研究室は壁後と吹っ飛んだ。もうもうと立ちこめる爆煙の向こうから薄黒い光が漏れ出してくる。
「残念だよ、全く残念だ……」
上空から声がした。
新風 燕馬(にいかぜ・えんま)が操縦するイコン、ライゼンデ・コメートの【S−01飛行形態】から、新風 颯馬(にいかぜ・そうま)が悠然と降下してくる。
パートナーのフィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)がS−01の外部スピーカーにつないだマイクで『驚きの歌』をBGM代わりに歌い始める。
驚きの登場シーンのアピールだった。
機体から垂らされたワイヤーロープで身体を固定し、コロージョン・グレネードとグレネードがあちこちに投下されて土煙が巻き起こる。一応セットを壊さないように気をつけて入るらしいが、かなり力の入った演出だった。
颯馬は地に足がついた所でおもむろに両手を広げ、ニイィィッッと邪悪な笑みを浮かべた。
フィーアのBGMが『恐れの歌』に変化する。視聴者の恐怖を煽るのに充分だ。颯馬は『威圧』と『高級スーツ』を活用して大物感をアピールした。
「よくぞここまで来たものだ。よくぞ真相までたどり着いた。だが、もうゲームも終わりだ。そう、この事件の黒幕は私だ……くくく……」
突然の意外なラスボス出現により、ドラゴンに緊張が走る。
「貴様等は私の楽しみを全て奪ってしまった。これは許されざる行為と言えよう。しからばこれより、貴様等の罪に私自らが処罰を与える」
演出提案、メイクを引き受けたローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)の渾身の演出仕様だった。土ぼこりが舞うとはいえ、糸くずとかを取り除いておくのは必須よね、と一張羅に気を配り、ヒゲと眉を整えて……洗顔させた後、冷たいタオルで顔冷やしてから化粧水、そんでもってアレしてコレして……。ガンホルスターで脇が少し膨らんでるシチュにもこって、「――うん、渋いオジサマの完成ね!」とローザが送り出したのが、今の颯馬の姿だった。
「課長……老けたな〜……」
「そこ突っ込むところ違うから!」
ヒソヒソと囁きあう海と聡。
颯馬は宣言した。
「死 ぬ が よ い」
最後の敵、最後のシーン。
最後の戦闘の始まりだった。
◆
==次回予告==
キャロリーヌはかつてボスに拾われ育てられたトカゲ。
正真正銘女の子。首からぶら下げてる看板で筆談出来るようなんですが、普段は
「私は淫乱なメス豚です」
と掲げてるところがチャームポイント。
ボスからしてみればほんの気まぐれだったかも知れないけれどキャロからしてみれば命の恩人、そしてその想いはいつしか種族を超えた禁断の愛へ……。
しかしドラごニュートならまだしも言葉を発することすら出来ないただのトカゲ、そのまま秘めた気持ちで終わるはずの歯車が狂ったのはボスが巨大化という技術を生み出してしまったその瞬間。
これを使うのは死を覚悟した時だと本能的に感じ取り、その時は自分が身代わりになるのだと決意。自らも巨大化して最終決戦の場に登場、ボスへの致命傷を身を呈して防ぎます。
ボスの腕の中、首にぶら下げた看板に書いた文字
「たとえ地獄に落ちるとも、あなたと添い遂げられるなら本望です……」
思いのたけを伝え静かに息を引き取る……わけもなく、妄想な上に放送が危ういレベルのピンクな走馬灯が走ったり潤んだ瞳の熱視線(ビームアイ)を暴発させたりここぞとばかりに抱き着いて道連れにする(下手したらクローでぶっすりと止めをさす)んじゃないかという勢いのドジっ子ちゃんです。
オチはもちろんテヘペロッで!
次回。蒼空歌劇団所属所属リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)とそのパートナー禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)が、全世界の恋人たちに贈る、ロマンティックラブストーリー。
次回――『あなたのハートにきゅんきゅんきゅんっ! おたのしみにっ!』
リカインがニッコリ微笑む。
「ひ ど す ぎ る だ ろ !」
総突込みだった……。
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