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リアクション
〜 CM 〜
「陽竜商会の冒険者向け超強力ボディソープ【バニシュメル】の18時間体臭ブロッキングパワぁぁぁぁぁああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
ボディーソープを手にいきなり叫びだしたのは、今回陽竜商会のCMに登場することになったルイ・フリード(るい・ふりーど)であった。
上半身裸で筋肉を見せつけながら、とてもいい笑顔で相棒を見る。
「だよな?」
結局一緒に出ることになったテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)は、恥ずかしながら答えた。
「がう(そのとおり)」
くちゅくちゅ……とルイの胸の筋肉が上下に震える。
18HOUR!
BLOCKER!
「パパパッパッパ、パパゥアッー!」
背後で画面が爆発した。
== 陽竜商会 ==
〜 episode6 超相棒 〜
―― 次の日 ―― 空京警察
過密都市空京。
この街では、さまざまな人たちがひしめき、その数だけドラマがある。
光の影に闇があり、欲望と嫉妬の影に犯罪がある。誰しもが、そんな社会の罠にどうしてはまらないと断言できようか。悪の道へと堕ちていく者が後を絶たないからこそ、警察は休む暇もない。
そして今日もまた、悪魔のささやきに導かれ邪悪な所業に手を染める者がいる。空京警察は、絶え間なく動き続けている。
―― 製薬会社本社施設 ――
空京警察の新米刑事、リアス(リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー))は、先輩のロンド刑事(スプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ))とともに、一足先に噂の製薬会社の本社施設にやってきていた。
危険な研究施設は空京から離れたドラクーン地方の森林地帯にあるが、本社は意外なことに小ぢんまりしたテナントビルで、ほとんど無人のまま放置された状態にも見えた。空京のはずれにある有刺鉄線で包囲され隔離されたその本社施設は、不気味な空気が漂っており誰も近寄りたがらない。そんな場所へ新米刑事のリアスがやってきたのは、さらわれたヒロインがここに監禁されているという情報を手に入れたからだ。空京警察の実力を見せつけ実績としてアピールするのにうってつけだった。
それはいいのだが。
「ところで、どうして聡君がついてきているわけ?」
リアトリスはつい我に帰って、一緒にやってきていた山葉 聡(やまは・さとし)に聞く。彼女が一緒に出演したかったのは親友である山葉涼司であったはずだ。だが、どこを探しても涼司の姿は見つからなかった。
「ふっ……、山葉聡だと? 誰のことだ、それは?」
聡は、どこかで見たことのある眼鏡をくいっと指で押し上げながらにやりと笑みを浮かべる。
「俺は山葉涼司だ」
「あのさ、ふざけないで欲しいんだけど」
額に山葉涼司と太い赤マジックで書かれた聡の姿を半眼で見やって、リアトリスはため息をつく。こんなことなら来るんじゃなかった、とテンションが下がりまくりだ。
「別にふざけてないだろ。登場するのは俺たちだけって、最初から言われていたじゃん。それ以外の人は誘っても出演してくれないって。……実際に、誘いの電話掛けてみたけど居留守使われたしな」
「だからって、ねぇ……」
そんなリアトリスに聡は元気出せよ、と言わんばかりに続ける。
「だいたいさリアトリス、涼司と何年付き合ってるんだ? 彼の“本体”を見誤るとは、お前らしくもない」
「何を言っているのか全然わからないんだけど」
「山葉涼司の本体はこっちだろ。この……眼鏡の方だろ。肉体なんか、ただの眼鏡掛けだ」
聡は、もう一度かけていた眼鏡をこれ見よがしに指で押し上げる。
「校長になったとたん、何を思ったか彼は本体を捨ててしまったようだがな。おかげであの通りの迷走状態(?)だぜ……」
「もういいよ、ばかばかしくて話してられないよ」
「じゃあ演技放棄して帰るか、リアトリス? せっかくみんなが見ているのに、カメラが回っているのに? 【空京警察】のPRを成功させるんじゃなかったのか?」
以外にも真剣なまなざしの聡に、リアトリスはやれやれと肩をすくめた。
「まあ、ないものねだりをしても仕方がない。こちらはそれ以上の演技を魅せればいいだけのことだ」
一方のロンド刑事の方は、かなり現実的で意欲を削がれた様子はなかった。以前は果たせなかった警察の役を今回は上手く演じる。それ以上のことは、またの機会に考えるとしようと言わんばかりに、すでに態勢を整えている。
リアトリスもすぐにリアス刑事に戻って表情を引き締めた。こうなったら、この映像を親友に贈ろう。帰ってTVを一緒に見よう……。
気を取り直して……。
「いくぞ……!」
正義感あふれる刑事役の涼司(聡)が、熱血にまかせて一網打尽だとばかりに本社施設の敷地内へと勢いよく踏み入れる。
その時だった。
ダダダダダダダンッッ! とビルの奥から無数の銃弾が飛んでくる。誰もいないはずだったのに、やはりここに何者かが潜んでいるのは間違いないらしい。
「な……!」
「馬鹿野郎!」
とっさに物陰に隠れたロンド刑事が、突進していった無謀な刑事に叫ぶ。てっきり蜂の巣になったかと思いきや、涼司(聡)も得意の体術を駆使し地面をごろごろ転がりながら、反対側の物陰に潜むのに成功した。
「そうはさせないよっ!」
反対側の木陰に隠れたリアスは銃を抜いて応戦する。もちろんロンドもだ。たちまちにして激しい銃撃戦が始まった。一気にシーンは緊迫する。
その時だった。
「助けてください!」
奥のほうで女の子の悲鳴が聞えた。
銃撃してくる黒スーツにサングラスの男たちの背後で、男たちに囲まれるように捕らえられていたのは富永 佐那(とみなが・さな)であった。頭に拳銃を突きつけられている。
「彼女が、さらわれたヒロインか……?」
「そうらしい。行くぞ」
ロンド刑事と涼司(聡)は目配せし合うと、彼女を救出しようと反撃をしながら隙をうかがう。二人の見事なコンビネーションは、サングラスの男たちを次々に倒していく。
だが、さらに敵側には助っ人が現れた。
「ハッハー! 脳漿ぶちまけて惨めに死にな!」
ビルの脇からごり押しで攻撃してきたのは、製薬会社に雇われた凄腕の女傭兵、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だった。ビキニの上から羽織ったロングコートをはためかせ、両手にマシンピストルを装備した二丁拳銃で攻撃してくる。ライトニングウェポンで弾丸を帯電させて破壊力を上げ、追加射撃で反応速度を極限まで高めて時に弾丸の雨を降らせるという、スキルをフルに活用して本気で殺すつもりの熱の入りようだ。
バサバサバサ……と鳩の群れが飛び立った。どこにいたのだろうか、どこから連れてきたのだろうか、気にしてはいけない。
セレンフィリティの放つ弾丸の嵐にじりじりと後退するリアスたち。刑事ドラマにふさわしいかなりいい銃撃戦だ。これは燃える。
刑事として拳銃は持っているものの飛び道具での攻撃を得意としない役柄の涼司(聡)はじれったそうに二人に言う。
「長期戦は不毛だ。一気に決着をつけるから援護してくれ」
「は〜い、任せるですぅ……。わーい、突撃突撃ぃ」
「なんだって……!?」
涼司(聡)は目を剥いた。返事をしたのはリアスでもロンド刑事でもなく、ピヨのぬいぐるみを身にまとったレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)だったからだ。
どういうわけか背景にブリザードが吹き荒れる。荒々しく力強い演出だが、どうなんだろう。
レティシアは、麗茶牧場のピヨをたくさん引き連れ、さきほどから画面を行ったり来たりしていたのだ。彼女の目指すは『ピヨ刑事(デカ)』。まったく関係のない刑事もので、視聴者を飽きさせない狙いのようだった。
あまり役に立ちそうになかったので(?)リアトリスたちはあえてその存在を見て見ぬふりをしていたのだが、まさかこんな重要な場面で絡んでくるとは……!
「大丈夫だ、こっちはこんなものを用意してある!」
ロンド刑事はピヨ刑事に惑わされることなく冷静だった。機関銃を発射し、二人を援護する。
「止まるな、走れ!」
「止まるなです、走るのですぅ!」
振り返りそうになるドラゴンを勇気づけるようにロンドは叫ぶ。同じセリフを真似してレティシアも涼司(聡)と一緒に走っていく。レティシアは明らかにポーズをとっているのに弾丸に当たらないのはなぜだろうか。
ロンド刑事は、自身も物陰から物陰へと素早く移動しながら機関銃で応戦する。
「サンダークラップ!」
これはリアス。こちらも援護攻撃なのだが、セレンフィリティは美しく凄艶な肢体を躍らせながら横っ跳びで防ぎ二丁拳銃で反撃してきた。その動きに興味を持ったのか、レティシアも横っ跳びに転がり、画面から消える。
「ぐぁっ!?」
素早く接敵しようとしていたロンド刑事はのけぞった。ビルの奥に潜んでいたもう一人の女傭兵セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の放った「光術」が眼前で弾けたのだ。その隙をセレアナは見逃さない。スキル「軽身術」で機動力を高めていた彼女は一瞬でロンド刑事に接近し、「鳳凰の拳」「則天去私」「等活地獄」を立て続けに叩き込んでくる。
ぐっふぅ……、と口から血を吐き、ロンド刑事はゆっくりとその場に崩れ落ちる。
「先輩!」
リアスはなんとか助けようとするものの、そんな彼女に向けて手榴弾代わりに機晶爆弾を投げつけてくるセレンフィリティ。ドドドドドドッッ! とド派手な爆発が巻き起こる。爆風にあおられてリアスは吹っ飛んだ。
「ゲラゲラゲラゲラ、弱ぇぇぇぇぇぇっっ!」
オラオラ、踊れ踊れ! とばかりにセレンフィリティはこちらに突進してくる涼司(聡)を狙いマシンピストルを連射する。「スナイプ」と「カモフラージュ」で嫌らしくネチネチと攻めてドラゴンの前に立ちはだかり挑発を続ける。
憎らしいが強い。セレンフィリティとセレアナは見事な連携攻撃を繰り出してきた。彼女たちは、本気でバトルシーンを盛り上げるために対策を立ててきたのだ。ノリだけで挑む涼司(聡)が、太刀打ちできないのは当然のことであった。
「火術!」
ピヨ刑事が画面の向こうから戻ってきた。術の発動とともに、本来よりも大きな火炎が立ち込める。これも演出のひとつだ。セレンフィリティは火柱に包まれ煤けながらも悠然と煙の奥から歩み出てきた。このかっこよさ、もうどちらが主人公かわからない。
「殺気看破」で周囲を慎重に警戒していたセレアナは、予想していたとばかりにピヨ刑事を「遠当て」で攻撃する。
「ぴよっ!?」と声をあげて、レティシアは再び画面の外へと転がり出て行った。
だが、それが隙だった。先ほどの攻撃から起き上がっていたリアスは、銃を撃ちながら思い切って正面から突入し、黒服たちを倒す。捕らえられていた佐那の戒めを解き、助け出すことに成功した。
「怖かったでしょ? もう大丈夫だよ」
リアスは安心させるように佐那に微笑んで見せた。
「あ、ありがとうございます……」
佐那は目を潤ませた。そんな彼女を勇気付けるようにリアスは言う。
「走れる? 裏口から逃げるよ」
「え、でも、あの人たちは……?」
「先輩たちなら大丈夫。ああ見えて頼りになるんだから。すぐに復活して後で合流するよ」
リアスは信じている、とばかりにロンド刑事たちにちらりと視線をやった。ここは下手に加勢するよりもこのチャンスに人質を連れて逃げた方が安全なのはわかりきったことであった。怯えている様子の佐那の手を引いて、リアスは裏口へと向かおうとする。
「本当にありがとうございます。……こんなにあっさりと引っかかってくれて」
「……えっ!?」
邪悪な笑みを浮かべた佐那の反対側の手には拳銃が握られていた。リアスが驚いて振り返るより先に、引き金が引かれる。
パンッ! と銃声が響いて、リアスは心臓を撃ち抜かれていた。
「そ……んな……、あな、た……は?」
リアスは驚愕に目を見開きながら、ゆっくりと倒れた。
「り、リアス!」
「ゲハハハハハッッ、いいざまだな、空京刑事! 虫けらのように地べたを這いずり回り、ゴミのように死ね!」
「くっ……!」
セレンフィリティと涼司(聡)は、同時に拳銃を向けあい、対峙する。が、次の瞬間……。
ダダダダンンッッ! と容赦も躊躇もないセレンフィリティの二丁拳銃がドラゴンを撃ち抜いていた。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁっっ!」
べっとりと滲み出た血糊を手拭きとって確認しながら、涼司(聡)は倒れた。さらには、セレンフィリティはとどめとばかりにロンド刑事やリアスも弾丸でハチの巣にしておく。徹底した悪役ぶりであった。
「お疲れ様でした、セレンフィリティ。雇った甲斐がありました」
悪い笑みを浮かべたまま満足げに頷く佐那。その正体は、ロシアンマフィアのヴォール・フ・ザコーネ、ジナイーダ・バラーノワだったのだ。
カテゴラス製薬をかぎ回る小うるさい空京警察の捜査員たちを抹殺するために、人質のフリをしておびき出し、まんまと排除したというところであった。
「カテゴラス製薬には薬品関係の取引でお世話になっていましたからね。ドクターがいなくなった後、お留守番をしていたのですよ」
リアスたちもうかつであった。どうして製薬会社にマフィア風の黒服男たちがいたのか。銃撃戦に気をとられ、ボスがいることを忘れていたのだ。
かくして空京刑事は、残虐非道な敵の前にあえなく殉職を遂げたのであった。
YOU DEAD!
≪ご視聴ありがとうございました。空京刑事の次回作にご期待ください!≫
◆
==次回予告==
「ふふふふ……、涼司(聡)の空京刑事に勝ったくらいでいい気にならないことね、びきにん!」
「何者!? ……っていうか、“びきにん”って誰よ」
「ビキニばかり着てるから、勝手にあだ名をつけさせてもらったわ!」
勝利に酔うセレンフィリティたちの前に、突如現れた一人の美少女。
彼女は、ドラゴンたちが救い出すはずだったヒロイン小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。スカートがかなりきわどい短さの黒ゴスロリのツインテイル娘。これは登場しただけで視聴率が取れそうだった。
「彼は、刑事の中でも最弱! 勝ち誇るなら、この私を倒してからにすることね!」
「最弱だったのか……。俺……、色々と扱い悪すぎるだろ……」
がっくりとうなだれつつもぶつぶつと文句を垂れる聡を無視して、美羽は悪の女傭兵たちを退治すべく戦闘を開始する。
ヒロイン役を志望してはいたが、ただ助けられるだけのヒロインはつまらないと思っていた彼女は、『燃えよドラゴン』ならぬ『萌えよドラゴン』となり、戦うヒロインとして姿を現したのだ!
全能龍(体全体に取り込まれたドラゴン)
勇猛龍(目に取り込まれたドラゴン)
妖艶龍(胴部に取り込まれたドラゴン)
清純龍(脚に取り込まれたドラゴン)
無垢龍(腕に取り込まれたドラゴン)
これらの五体のドラゴンを装着した美羽は、ドラゴンの形をしたオーラをまといながらドラゴンの力と截拳道(ジークンドー)で戦いを挑む。
「ぶわははははっっ! こんなこともあろうかと、手下を用意してあったのだ! お前も臓腑を撒き散らして死ね!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁぁっっ!」
下っ端を大勢引連れて攻撃してくる悪の女傭兵たちに、美羽は派手なアクションで攻撃を繰り出す。
飛び蹴りにかかと落とし、エビ固めに宙返り……。敵の銃弾すらスピンでかわす。特に必殺技があるわけでもないのに、この美少女は最強だ。その戦闘技術が、ではない。
チラリやポロリよりも、清純でぎりぎりの鉄壁さが最強だった。
美羽は、どんなポーズを取ろうともスカートの中が見えそうで絶対に見えないのだ。
『鉄壁のスカート』装着により、見えそうで見えない魅惑のミニスカ、しかも衣装は可愛い黒ゴスロリ。それでいて美脚はしっかりと披露してくれるきわどい清純!
その暴虐なまでの強さに、ビキニ&レオタードの女傭兵は見るも無残に叩きのめされる。銃を乱射しまくるも、美羽のスカートふわり回し蹴りをくらって宙をきりもみしながら撃沈した。
「あたしを誰だと思ってんだ! お前らはみんなあたしに殺されるべきなんだー!!」
恋人ともども倒された女傭兵は、ついには発狂し、最後に残っていた爆弾を起爆させる。
「ふっ……、いつまでも一緒だ……」
セレアナはセレンフィリティと抱き合い、口づけする。
ドオオオオオオオンンッッ!
と、女傭兵は愛し合ったまま爆発した。
その突風にさらされて激しくなびきながらも、当然の如く美羽のスカートの中は見えない。
「勝利っ!」
美羽は、元気にポーズを決める。
かくして見えない少女の活躍により、一つの事件は解決するのであった。
次回――『本編では見えるのか!?』
「絶対に見てよね! スカートの中じゃなくて、次回作を! 乞うご期待!」
◆
「ふふ……、この私がそんな簡単にやられるわけないでしょう」
一方、ヴォール・フ・ザコーネ、ジナイーダ・バラーノワの佐那は製薬会社の施設の地下に隠してあったイコンのザーヴィスチに乗り込んでいた。
「施設ごとつぶしてあげます」
「いつでも準備はできてるぜ」
パートナーの加藤 清正(かとう・きよまさ)と共にイコンを操縦し、ぱんつ見えない萌えよドラゴンを抹殺すべく出動する。
だが佐那と清正の命運もそこまでだった。
すぐ隣の格納庫から、もう一機見たことのないイコンが姿を現す。
「え?」
と思わず目を丸くする佐那。
眩いばかりの後光に照らされながら登場したのは、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)とそのパートナーサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)の操るイコン、オルタナティヴ13/Gであった。
カスタマイズは一切なく機体性能はベーシックで百合園では格納庫の肥しと化している不憫な子だったが、ここでは輝いていた。
撮影用に、とザビクが各所を改変してある。
変形パターンも折りたたみ式だから、ちょっと中身を似た感じに塗装してバインダー部分に羽でもつければいい感じに飛行形態になっていた。本来水中用だからちょいと動きは鈍いけど、迫力だけなら十分であった。
今回のために飛行装備もかっぱらってきた、ザビクのオリジナルカスタマイズだった。
これは……カッコイイ! 変形合体するのである。シリーズ化したら、超合金ロボが発売されそうであった。
はっきり言おう。ガチで喧嘩したらザーヴィスチの方が強い。
だが、その登場シーンと格好の良さで佐那たちは最初から敗れていた。背後に玩具メーカーのスポンサーの影がちらつきそうなスタイルのイコンに、勝てようはずがない! ロシアンマフィアより日本のおもちゃ屋のほうが強いのである。
「さあ、後は任せた」
とシリウス。
オルタナティヴ13/Gは基地(のセット)から悠然と出撃して変形、決めポーズ。そしてセットとイコンの化粧が吹っ飛ばない程度で軽く飛行した後、いつもよりゆっくり目に走行変形、潜水形態から、人型の巨大ロボへと姿を変えた。
もちろん、変身の間に攻撃するほど佐那は悪役としてヤボではない。
ようやく対峙した二機は、激突する!
古王国の剣士にして九校合同イコン大会優勝のザビクの腕前が炸裂し、オルタナティヴ13/Gの斬龍刀が、ザーヴィスチを真っ二つに断ち斬った。
「無念! ですが、私を倒したくらいでいい気にならないことです! 本当のラスボスは……あの、男……」
佐那が敵の名前を吐こうとする前に、イコンは爆発する。
「ふっ、勝った!」
オルタナティヴ13/Gは勝利のポーズをとる。
かくして醜いアヒルの子のように華麗にデビューしたオルタナティヴ13/Gの活躍により、一つの事件は解決するのであった。
次回――『スーパー・イコン対戦!』
「次回も……絶対に見てくれよな!」
◆
〜 episode6 making 〜
「次回作でも見えないわよ! っていうか、次回作なんてないし!」
画面が切り替わって、美羽ははっきりと付け加えた。
「これで視聴率が伸びるといいね」
ワイヤーアクションやバトル演出を手伝っていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)はシーンを撮り終えた美羽を出迎える。
「さすが三反田監督。お色気シーンを撮らせれば抜群だね。美羽……ほんとこの映像、魅惑的ですごく素敵だよ。……ヤバイ、僕絶対録画するな、これ……」
映像を再生確認しながら、コハクはゴクリと唾を飲み込む。
「それ以外にさして興味はないしな」
監督はドヤ顔で答えてから、ほかの出演者たちにもお疲れ様と声をかける。
「いくらなんでも酷すぎるだろう。エロなしじゃ、あの扱いか……」
血糊をタオルで拭きながらスプリングロンドが不満げに言った。
「そんなことないわ。あの銃撃戦、十分迫力あったもの。C級映画にしては、十分に気合入ってるんじゃないかしら」
背景の演出効果を担当していたミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)はまだ画面の外で遊んでいるレティシアにちらりと視線をやる。
「ピヨもアピールできたし、反響が楽しみね」
「で、結局どっちの次回予告が実現しそうなんだ……?」
シリウスの質問に答えられる者は誰もいなかった……。
〜 CM 〜
―― ロッカールーム ――
「がう、がうがうがう!(冒険者向け超強力ボディソープ【バニシュメル】が18時間も体臭を防げるわけないよ!)」
「何!? そいつは嘘だぜ!」
ボディーソープを手にしたルイは反対の手でテラーを殴り飛ばす(演出をする)。
「こいつは超パワフルな消臭ボディウォッシュだああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
くちゅくちゅ……とルイの胸の筋肉が上下に震える。
18HOUR!
BLOCKER!
「パパパッパッパ、パパゥアッー!」
背後で画面が爆発した。
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