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リアクション
真っ先に中央エリアに駆け込んできたのは、芦原 郁乃(あはら・いくの)。まだ後続の姿は見えず、華麗に一番乗りだ。
しかし郁乃は、エリアの一番端、やや傾斜もついている、高台の外れを選んでシートを広げた。
お世辞にも居心地が良いとは言えそうもない位置だが、郁乃は満足そうににっこり笑って、シートの上によいしょ、と座り込む。
そうしている間に、ようやく後続の三人が中央エリアに到着した。
「やった、一番乗り!」
快哉の声を上げるのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)。エリアの端に小さくなっている郁乃の姿は目に入っていないようだ。
「油断は禁物であります!」
が、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)がすかさず緊張感のある声を上げる。
わかってるわよ、と答えたセレフィリティは、すでにちゃっかりシートを広げている大岡 永谷(おおおか・とと)の隣に自分の分のシートを広げ、すかさず座り込んだ。上に座るまでが場所取りだ。
が、当の吹雪本人はというと。
「こんな開けたところにいたら、狙撃されるじゃないですかっ!」
まだ緊迫感の冷めやらぬ顔で、シャベルを取り出し足下の地面を掘り返そうとし始める。
「お、おい、やめろって」
そこへすかさず、永谷が止めに入った。
「何故ですか、演習だからといって油断は――」
「今回の演習は、えーと、銃撃戦を想定してのものではないのがひとつ。あと、ここの公園の地祇さんは、地面を掘り返すなどの、植物を傷つける行為に対して非常に厳しい。去年なんか、それで何人もの退場者が出たらしい」
放り出されたいか? と永谷がまじめな顔で説くと、吹雪はむぅ、と難しい顔をして、ひとまずシャベルをしまい込んだ。
だがしかしどうも、遮蔽物のない空間が落ち着かないらしい。
「じゃあ、ちょっと土嚢を作って来……」
「ちょっと、どこを掘り返す気?」
そわそわと腰を浮かせる吹雪の背後に、いつの間にかさくらが立っていた。
「どのう、ってアレでしょ、土詰めた袋でしょ。その土はどこから調達するつもり?」
あ、額に青筋。
「え、いや、その、大丈夫そうなところから」
「そんなもん、あるわけないでしょ! あたしがどれだけ土の状態に気を配って手入れしてると思ってるの!」
「公園の外で」
「それなら別にいいけど、シートは放棄したと見なして回収するからねっ」
「……」
吹雪、沈黙。
ふんっ、と肩をいからせてどこかへと消えていくさくらを見送りながら、永谷が「ほらな」と呟いた。
さて、そうこうしている間にも、続々と場所取り係の面々が中央エリアに到着し、三人の周囲には次々とシートが広げられている。
演習組の元にはルカルカ・ルー(るかるか・るー)、クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の三人が合流し、ひとまずは六枚のシートの確保に成功した。一歩遅れて朝霧 垂(あさぎり・しづり)も到着、シートを広げる。
現時点で、中央エリアには八枚分のシートが広がっている。だいぶ足下にも余裕が無くなってきた。
敷けても、あとせいぜい一枚か二枚か。
と、そこへ飛び込んできたのは冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)だ。残り少なくなって来ている空席を素早く見つけると、軽やかな身のこなしでそこへと飛び込み、素早くシートを広げて座り込む。
それに遅れること一息、小暮と、併走していたセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)、アンタル・アタテュルク(あんたる・あたてゅるく)、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)と織田 信長(おだ・のぶなが)の五人がほぼ同時に飛び込んできた。
しかし、もうほとんどシートを広げられるスペースはない。小暮とセリオスの足が止まる。
桜葉達もまた、二枚分確保したい、という思いがあって一瞬足が止まる。
その僅かなスキに、アンタルが飛び出した。パートナーである郁乃の隣にしゅたっ、と跳ぶと、エリアの端の端、辛うじて開いていた僅かな地面にシートを広げ、悠々と座り込む。
これで、中央エリアは完璧にシートで埋め尽くされた格好だ。
「くっ……今年も、今年もなのかっ……!」
去年の雪辱を果たそうと意気込んでいた忍と信長の二人は、悔しさを表情に滲ませる。
「おっとー、流石にもういっぱいかー」
そこへ顔を出したのは黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)とリゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)のふたりだ。二人とも、超感覚を発動して居る為にふさっとした獣耳が顔を出している。さらにその後ろには、久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)の姿も見える。
しかし、既に中央エリアは満席状態。グスタフはひとまず、演習組の元へ向かったが、竜斗達には行き先がない。
だが、はじめから「中央が取れたらいいなぁ」くらいの意気込みだったようで、それほど落胆の色は見せていない。
「うー、残念っ」
「仕方ない、北エリアにでも行こう」
自信があった様子のリゼルヴィアは悔しそうにして居たけれど、竜斗に促されれば素直に従う。
その様子を見た忍もまた、軽く肩を竦めると信長を促して開いているエリアを探す為に移動を開始した。
「小暮くーん!」
さて、行き場無く立ち尽くす小暮に、セレアナがシートの上から手を振った。立ち上がると場所の放棄と見なされてしまうので、座ったまま。
小暮とセリオスは招かれるまま、シートの間をかき分ける様にしてセレアナの元へと向かう。
「出遅れた見たいね」
「自分は頭脳労働担当なんで」
隣で茶化すセレンフィリティに、眼鏡をぐっと押し上げて答える。
「ごめんなさいね、この後……えっと、そう、行かなきゃ行けないところがあるから、場所はお願いするわ」
「あたしのもお願いね」
そう言って立ち上がる二人と入れ替わりに、小暮とセリオスの二人が座って、ひとまず演習組の場所取りは終了だ。
「いち、にぃ……なんとか七枚か。ぎりぎりだな」
見知った顔が押さえたシートの枚数を確認して、小暮はやれやれとため息を吐く。これから合流するメンバーの数を考えれば、「占拠」という命令は達成出来なかったものの、座る場所には困らないはずだ。が。
「おいおい、俺のシートを数に入れるなよ?」
小暮のつぶやきを聞いていた朝霧 垂(あさぎり・しづり)が、突然そんなことを言い出した。
「今日の俺は休日だからな。演習に協力した訳じゃねえぞ」
「な……?!」
うそーん、とでも言いたそうに、小暮は目を見開く。
そうすると、確保できたシートは六枚。余裕はないが、お互い少しずつ融通すれば、なんとかなるだろう。
「占拠率60パーセント……か」
演習、成功扱いしてくれるかな、とちょっぴり不安になる小暮であった。
さて、場所を取れたは良いが、弁当などの物資を持ってくる班が合流するまでにはまだ一、二時間ほどある。早起きからのダッシュに疲れた者はごろりと横になってみたり、そうでない者はなんとなく雑談などに興じている。
しかし、暇を潰すには結構な時間である。ちょっとくらい飲み物の買い出しに、とか、トイレに、とか。少しの間席を外したい瞬間というのは訪れるのだが、なにぶん立ち上がるとシートを放棄したと見なされるルールなので、そうもいかない。
「もしよろしければ、私のパートナーが代わりますので」
そう言い出す吹雪の隣には、合流したパートナーのコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)と鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)の姿が見える。
「買い出しなどもあれば言ってください」
コルセアがそう言うと、ちらほらと手が上がる。飲み物などのリクエストを受けて、コルセアはぱたぱたと丘を降りていった。
一方の二十二号は、その長身を生かして数枚のシートに跨がって寝転び、複数枚のシートを一時的に確保しようとしていたのだが、昨年それで場外退去処分にされた人物の噂を聞き、やめておくことにする。
またさくらに目を付けられるのは得策ではない。
今現在、彼らの任務は、全員の合流までこの場所を死守する事なのだから。
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